68 / 137
2章 アポカリプスサウンド
63話【調停者】
しおりを挟む
「レッドゲートが全部破壊できた周回はなかったんですね……」
都心だけでも相当な数のレッドゲートがある。
それが、全世界にあるのであれば、48時間で全て破壊しきるということ自体が難しい。
そういえば、レッドゲートが潰しきれなかった際の病院等の運用の話も原国さんはしていた。
それを思い出すと同時に、ふと思う。
緊急臨時内閣、そしてダンジョン発生による超法規的措置、国家緊急権、ダンジョン災害特別法……それらの全てがとんとん拍子に進んでいること自体が本来なら考えられないことだ。
ダンジョンゲートが以前からあったとは言え、それは見えない人が大半だったと原国さんは言った。
警察内に、ダンジョンを捜査する課が設立されたこと自体、元々はありえないことだったのではないか。
原国さんがどんな方法をとったのかは、わからない。
僕が見てきた外の景色は、見た目はそれほど昨日と変わらなかった。
もし、原国さんが多数の対策を講じていなければ、元々の流れだと、もっと酷い混乱と殺戮が起きていたのではないだろうか。
原国さんは今日この日のために必要なことを繰り返し積み上げてきたのではないか。
そんな推察をすると背筋が凍った。
何度も何度も死に、昔の自分に戻り、この日のための備えを何度も繰り返す。
とても常人には耐えられないそれを、この人は粛々と行ってきたのだ。
「全破壊ではありませんが、モンスターがゲートから地上に出てこないことは、5度ほどはありました。今回はその5度に必ずあった条件がクリアされていません」
「その条件ってのは?」
「君たちのうちの誰かが夢現ダンジョンで死亡、蘇生が不可能な状態になっていたことです。その場合、レッドゲート自体が出現しなくなる」
「……なるほど、つまりレッドゲートが出た場合は、地上にモンスターが溢れ出ることが避けようがないってことか」
僕たちのうちの誰かが夢現ダンジョンで死ぬことで、モンスターの発生元凶が消えるのは何故だろう……?
ダンジョンに対しての何かを、僕らの魂の何かがする、ということだろうか。
僕や武藤さんはトラック事故の関係者だけど、有坂さんは違う。運命固有スキルによるもの?
だとしたら夢現ダンジョンで運命固有スキルを持った者は、誰も死んでいない、ということになる。
僕たちの誰か。その条件付けがわからない。
「僕たちの運命固有スキルで、現状何ができますか?」
通り過ぎた条件について考えるより、今できることは何かを考えた方がいいかもしれない。
モンスターが溢れるまで、もう36時間もなく、時間もやれることも限られている。
何をすべきか、何を知るべきか、何を考えるべきか。
超人的なスキルがあるとは言え、僕らの体は1つしかないのだからできることは限られている。
「まずは、真瀬くんの職業共有者をレベル最大にし、職業のクラスアップを行ってください。そして、有坂さんには反魂のスキルを取得してもらいます」
原国さんはいうと、大量のスキルポイントコインをワゴンに載せ、テーブルに運んでくる。
原国さんの言う5回。レッドゲートが無くとも、モンスターが地上に現れずとも、人類は全て死に絶える結末を迎える。
それはスキルによるものなのではないだろうか。法外の力を得た人類が、人類を滅ぼした自滅の道だったのではないだろうか。
そんな力を、僕たちは手にしていて良いものなのだろうか。
「今回初めて、血の蘇生術を有坂さんが得たことでかなりの人の運命が変わり、世界の運命も変わった。もしかしたらレッドゲートを潰しきることが、初めてできるかもしれないのです」
原国さんが言う。確かに固有スキルの名の通り、この人は不撓不屈なのだ。希望を何度死んでも、諦めない。
僕たちはスキルポイントコインを手に取る。
これだけの量のコインは、きっと誰かが懸命にレッドゲートダンジョンの中で得たもので、そして託されたもの。
人々の、命そのもの。
迷いがないわけじゃない。
だけど
有坂さんと顔をあわせ、頷き合うと、僕らは目の前の命を使って、スキルの獲得と、職業クラスアップをした。
僕のクラスアップ職業は、運命固有スキルにあったのと同じ、調停者。
共有者の職業スキルはそのままに、『暴力行為の一切が不能』となる効果を持つ。範囲は職業レベルに依存し、『調停の天秤』という能力が発動する。
調停の天秤の能力は対話による紛争の解決。
天秤が水平、等値になれば解決とし、紛争が終結する。
調停不成立になった場合、天秤が傾いた陣営の、主な要因となった人物が全て死亡する。
調停、とはいうが、これは裁きなのではないだろうか。
ルールによる封じ込め。会話による解決。紛争が解決するとはどういうことだろうか。
遺恨は、残らないのだろうか?
僕のスキルという形をとった、書き変わってしまった世界でのルールによる裁判そして死刑執行、そんな連想をした。
範囲も、見ればレベルが最大に近づくほどに広大になり、人数も数千数万と跳ね上がっていく。
これは、抑止力に使うべきだ。
実際に使用することなく、紛争を起こさないための抑止として。
「真瀬くんには、もうひとつお願いがあります」
スキルを確認する僕に原国さんが言う。
その顔に我欲はなく、少しの悲哀が浮かび、
そして
「君には、不老不死のスキルを、君自身に使用して欲しいのです」
その言葉は、どこか祈りに似ていた。
都心だけでも相当な数のレッドゲートがある。
それが、全世界にあるのであれば、48時間で全て破壊しきるということ自体が難しい。
そういえば、レッドゲートが潰しきれなかった際の病院等の運用の話も原国さんはしていた。
それを思い出すと同時に、ふと思う。
緊急臨時内閣、そしてダンジョン発生による超法規的措置、国家緊急権、ダンジョン災害特別法……それらの全てがとんとん拍子に進んでいること自体が本来なら考えられないことだ。
ダンジョンゲートが以前からあったとは言え、それは見えない人が大半だったと原国さんは言った。
警察内に、ダンジョンを捜査する課が設立されたこと自体、元々はありえないことだったのではないか。
原国さんがどんな方法をとったのかは、わからない。
僕が見てきた外の景色は、見た目はそれほど昨日と変わらなかった。
もし、原国さんが多数の対策を講じていなければ、元々の流れだと、もっと酷い混乱と殺戮が起きていたのではないだろうか。
原国さんは今日この日のために必要なことを繰り返し積み上げてきたのではないか。
そんな推察をすると背筋が凍った。
何度も何度も死に、昔の自分に戻り、この日のための備えを何度も繰り返す。
とても常人には耐えられないそれを、この人は粛々と行ってきたのだ。
「全破壊ではありませんが、モンスターがゲートから地上に出てこないことは、5度ほどはありました。今回はその5度に必ずあった条件がクリアされていません」
「その条件ってのは?」
「君たちのうちの誰かが夢現ダンジョンで死亡、蘇生が不可能な状態になっていたことです。その場合、レッドゲート自体が出現しなくなる」
「……なるほど、つまりレッドゲートが出た場合は、地上にモンスターが溢れ出ることが避けようがないってことか」
僕たちのうちの誰かが夢現ダンジョンで死ぬことで、モンスターの発生元凶が消えるのは何故だろう……?
ダンジョンに対しての何かを、僕らの魂の何かがする、ということだろうか。
僕や武藤さんはトラック事故の関係者だけど、有坂さんは違う。運命固有スキルによるもの?
だとしたら夢現ダンジョンで運命固有スキルを持った者は、誰も死んでいない、ということになる。
僕たちの誰か。その条件付けがわからない。
「僕たちの運命固有スキルで、現状何ができますか?」
通り過ぎた条件について考えるより、今できることは何かを考えた方がいいかもしれない。
モンスターが溢れるまで、もう36時間もなく、時間もやれることも限られている。
何をすべきか、何を知るべきか、何を考えるべきか。
超人的なスキルがあるとは言え、僕らの体は1つしかないのだからできることは限られている。
「まずは、真瀬くんの職業共有者をレベル最大にし、職業のクラスアップを行ってください。そして、有坂さんには反魂のスキルを取得してもらいます」
原国さんはいうと、大量のスキルポイントコインをワゴンに載せ、テーブルに運んでくる。
原国さんの言う5回。レッドゲートが無くとも、モンスターが地上に現れずとも、人類は全て死に絶える結末を迎える。
それはスキルによるものなのではないだろうか。法外の力を得た人類が、人類を滅ぼした自滅の道だったのではないだろうか。
そんな力を、僕たちは手にしていて良いものなのだろうか。
「今回初めて、血の蘇生術を有坂さんが得たことでかなりの人の運命が変わり、世界の運命も変わった。もしかしたらレッドゲートを潰しきることが、初めてできるかもしれないのです」
原国さんが言う。確かに固有スキルの名の通り、この人は不撓不屈なのだ。希望を何度死んでも、諦めない。
僕たちはスキルポイントコインを手に取る。
これだけの量のコインは、きっと誰かが懸命にレッドゲートダンジョンの中で得たもので、そして託されたもの。
人々の、命そのもの。
迷いがないわけじゃない。
だけど
有坂さんと顔をあわせ、頷き合うと、僕らは目の前の命を使って、スキルの獲得と、職業クラスアップをした。
僕のクラスアップ職業は、運命固有スキルにあったのと同じ、調停者。
共有者の職業スキルはそのままに、『暴力行為の一切が不能』となる効果を持つ。範囲は職業レベルに依存し、『調停の天秤』という能力が発動する。
調停の天秤の能力は対話による紛争の解決。
天秤が水平、等値になれば解決とし、紛争が終結する。
調停不成立になった場合、天秤が傾いた陣営の、主な要因となった人物が全て死亡する。
調停、とはいうが、これは裁きなのではないだろうか。
ルールによる封じ込め。会話による解決。紛争が解決するとはどういうことだろうか。
遺恨は、残らないのだろうか?
僕のスキルという形をとった、書き変わってしまった世界でのルールによる裁判そして死刑執行、そんな連想をした。
範囲も、見ればレベルが最大に近づくほどに広大になり、人数も数千数万と跳ね上がっていく。
これは、抑止力に使うべきだ。
実際に使用することなく、紛争を起こさないための抑止として。
「真瀬くんには、もうひとつお願いがあります」
スキルを確認する僕に原国さんが言う。
その顔に我欲はなく、少しの悲哀が浮かび、
そして
「君には、不老不死のスキルを、君自身に使用して欲しいのです」
その言葉は、どこか祈りに似ていた。
27
あなたにおすすめの小説
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る
伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。
それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。
兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。
何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる