112 / 137
4章 ダンジョンアポカリプス
104 話【神の右手】
しおりを挟む
夢現ダンジョンで最後に手に入れた、卵が孵化して、出てきたのは。
ほんのり光るふわふわしたひよこのような生き物だった。
ふわりふわりと宙に浮いて、「あっご主人。こににちは」と言う。
ふわふわのひよこが喋った。喋るんだ。
「わえは精霊ですぴ。どぞよろしく」
ふよりふよりと舌足らずな喋りで、つぶらな瞳を向けて僕に言う。
「ええと、よろしくね。僕は真瀬敬命。君は?」
「わえ、お名前ないです。けーめー様がつけてくださいぴ」
ふよりふよりと浮く光るひよこ精霊に名付け。
名前をつけるのは、難しい。
両手を掬う形で差し出すと、光るひよこはそこにすぽりと収まりくる。見た目通りのふわふわもこもこだ。血の通う温かさもある。
緊張した空気は既にどこかへ行ってしまった。
「名前……名前……名付けは重要かな、と思うのでちょっと考えさせてね」
「はいですぴ」
ふわふわもこもこのひよこは僕の手の中で毛づくろいを始める。
「ええと、仮にひよこと呼ぶが、お前さんはどういう生き物で何ができるんだ?」
武藤さんもほんのり戸惑っている。
「わえは精霊ですぴ。運命固有スキル『神の右手』そのものですぴよ」
「えっ神の右手って」
「存在するすべてのスキルに対する剥奪権と剥奪したスキルの保存、別の人に付け替えることが可能ですぴ。でもわえには使えないですぴょ」
僕の片手に納まるサイズのひよこが、まさかの探していた神の手の名を持つ運命固有スキルだとは。
「わえは異星の神から分かたれた力でしかないので。その力の行使の実行はできないのですぴ。分かれた時に魔素とかなんやかんやを吸収してダンジョンでお昼寝してました」
ふかふかのひよこが続ける。
「わえの力はおっきくて危険なので、わえの力を与える人はけーめー様自身が、今まで出会った人の中から選定をして欲しいですぴ」
「それは……責任重大だね……」
「わえの最も心地よき魂の人ですぴ。大丈夫ですぴ。よろしくですぴ。わえはおやすむです」
そういうと、光るひよこは僕の手の中で眠ってしまった。喋ると疲れるのだろうか。手の中の温かさに戸惑う。
「ええと、どうしますか……?」
すべてのスキルに対する、剥奪と移譲。存在するすべてということは、そこには運命固有スキルも含まれる。
運命固有スキルに対するカウンターを僕たちは、不完全な形とはいえ手に入れたことになる。
「ダンジョンにこのひよこみたいに精霊化した運命固有スキルがある可能性も高くないか。このひよこは神の右手と言った。ならば左手も存在するだろう。星格、この現象に説明はつくか?」
「んー……ダンジョンは魔法を使うたびに自動で生成されるバグのようなものだから、実は僕にもダンジョンのすべてがわかっているわけじゃないんだ。宝箱の中身もランダム。開けるまで確定はしない。最も可能性が高いものが大抵は入っているけれど、このひよこのように僕も見落とすくらいの低確率のものもある。卵は孵るまで、その中の生物が何かわからないし」
「神様ですよね、腕が1本とは限らないのでは?」
「……確かに。この星の神仏、腕が2対以上あったりもするが、異星の神もそうなのかどうなのか」
有坂さんの問いかけに、武藤さんが唸る。僕でも知っている多腕の神仏、有名どころでいえば、シヴァや千手観音菩薩。
「今までの周回で、人類が卵を得たこともなかった。完全に僕にとっても未知だ。情報はないに等しい」
「星格はダンジョンの管理者、ですよね。なのにわからないことがあるんですか?」
「ダンジョンはバグみたいなものだ。出来たものをあとから条件や状態を付加していじるのが関の山で、存在をなかったことにはできないし、宝箱の中身も僕が選定しているわけじゃない。完全なランダム。条件をいじるのだって、死した君たち神性を持つ人間の魂を消費しなければならない。僕は不完全な神のようなものであって、神そのものではないから知識にも実行力にも限界はある」
僕は話を聞きながら、考える。
今まで出会ってきた人の中で、この強い、重い力を扱える人。
でもそれは、その人にこの重い責任を負わせる、ということでもある。
だけど、誰かがやらなければならない。
異星の神から、その神性の力とも言える運命固有スキルを引き剥がし、無力化すること。
そして、徳川さんにも同様に。
剥奪したそれを、保持するのも、移譲するのも、きっとそれは大きな負担となる。
僕の運命固有スキル調停者と違い、それは絶対に、誰かがやらなければいけないことだ。
それを課することになる。
誰を選ぶか。深く考え込む僕の手の中の温もり。
そんなのは、決まっている。
「運命固有スキルの剥奪、保持、移譲――もし可能であるなら、僕が、やります」
誰かに、背負わせるには重過ぎるそれは、僕が手にしてしまったならば、僕がやればいい。
重すぎるものを、もう、僕の仲間はみんな、背負っている。
みんなと一緒なら、背負える。
僕が間違えようとした時に、彼らなら、彼女なら、止めてくれる。
間違っていることを教えてくれる。
支えあえる。
「確かに僕は言った。君たちは、何にでもなれる、と。だけど、人の肉体を持ったままの、それは――」
星格が、驚愕に目を見開いた。
僕の手のひらの上の光るひよこが、溶けはじめ、それは僕の手の中に消えてしまった。
それと、同時に、地鳴りが響いた。
ほんのり光るふわふわしたひよこのような生き物だった。
ふわりふわりと宙に浮いて、「あっご主人。こににちは」と言う。
ふわふわのひよこが喋った。喋るんだ。
「わえは精霊ですぴ。どぞよろしく」
ふよりふよりと舌足らずな喋りで、つぶらな瞳を向けて僕に言う。
「ええと、よろしくね。僕は真瀬敬命。君は?」
「わえ、お名前ないです。けーめー様がつけてくださいぴ」
ふよりふよりと浮く光るひよこ精霊に名付け。
名前をつけるのは、難しい。
両手を掬う形で差し出すと、光るひよこはそこにすぽりと収まりくる。見た目通りのふわふわもこもこだ。血の通う温かさもある。
緊張した空気は既にどこかへ行ってしまった。
「名前……名前……名付けは重要かな、と思うのでちょっと考えさせてね」
「はいですぴ」
ふわふわもこもこのひよこは僕の手の中で毛づくろいを始める。
「ええと、仮にひよこと呼ぶが、お前さんはどういう生き物で何ができるんだ?」
武藤さんもほんのり戸惑っている。
「わえは精霊ですぴ。運命固有スキル『神の右手』そのものですぴよ」
「えっ神の右手って」
「存在するすべてのスキルに対する剥奪権と剥奪したスキルの保存、別の人に付け替えることが可能ですぴ。でもわえには使えないですぴょ」
僕の片手に納まるサイズのひよこが、まさかの探していた神の手の名を持つ運命固有スキルだとは。
「わえは異星の神から分かたれた力でしかないので。その力の行使の実行はできないのですぴ。分かれた時に魔素とかなんやかんやを吸収してダンジョンでお昼寝してました」
ふかふかのひよこが続ける。
「わえの力はおっきくて危険なので、わえの力を与える人はけーめー様自身が、今まで出会った人の中から選定をして欲しいですぴ」
「それは……責任重大だね……」
「わえの最も心地よき魂の人ですぴ。大丈夫ですぴ。よろしくですぴ。わえはおやすむです」
そういうと、光るひよこは僕の手の中で眠ってしまった。喋ると疲れるのだろうか。手の中の温かさに戸惑う。
「ええと、どうしますか……?」
すべてのスキルに対する、剥奪と移譲。存在するすべてということは、そこには運命固有スキルも含まれる。
運命固有スキルに対するカウンターを僕たちは、不完全な形とはいえ手に入れたことになる。
「ダンジョンにこのひよこみたいに精霊化した運命固有スキルがある可能性も高くないか。このひよこは神の右手と言った。ならば左手も存在するだろう。星格、この現象に説明はつくか?」
「んー……ダンジョンは魔法を使うたびに自動で生成されるバグのようなものだから、実は僕にもダンジョンのすべてがわかっているわけじゃないんだ。宝箱の中身もランダム。開けるまで確定はしない。最も可能性が高いものが大抵は入っているけれど、このひよこのように僕も見落とすくらいの低確率のものもある。卵は孵るまで、その中の生物が何かわからないし」
「神様ですよね、腕が1本とは限らないのでは?」
「……確かに。この星の神仏、腕が2対以上あったりもするが、異星の神もそうなのかどうなのか」
有坂さんの問いかけに、武藤さんが唸る。僕でも知っている多腕の神仏、有名どころでいえば、シヴァや千手観音菩薩。
「今までの周回で、人類が卵を得たこともなかった。完全に僕にとっても未知だ。情報はないに等しい」
「星格はダンジョンの管理者、ですよね。なのにわからないことがあるんですか?」
「ダンジョンはバグみたいなものだ。出来たものをあとから条件や状態を付加していじるのが関の山で、存在をなかったことにはできないし、宝箱の中身も僕が選定しているわけじゃない。完全なランダム。条件をいじるのだって、死した君たち神性を持つ人間の魂を消費しなければならない。僕は不完全な神のようなものであって、神そのものではないから知識にも実行力にも限界はある」
僕は話を聞きながら、考える。
今まで出会ってきた人の中で、この強い、重い力を扱える人。
でもそれは、その人にこの重い責任を負わせる、ということでもある。
だけど、誰かがやらなければならない。
異星の神から、その神性の力とも言える運命固有スキルを引き剥がし、無力化すること。
そして、徳川さんにも同様に。
剥奪したそれを、保持するのも、移譲するのも、きっとそれは大きな負担となる。
僕の運命固有スキル調停者と違い、それは絶対に、誰かがやらなければいけないことだ。
それを課することになる。
誰を選ぶか。深く考え込む僕の手の中の温もり。
そんなのは、決まっている。
「運命固有スキルの剥奪、保持、移譲――もし可能であるなら、僕が、やります」
誰かに、背負わせるには重過ぎるそれは、僕が手にしてしまったならば、僕がやればいい。
重すぎるものを、もう、僕の仲間はみんな、背負っている。
みんなと一緒なら、背負える。
僕が間違えようとした時に、彼らなら、彼女なら、止めてくれる。
間違っていることを教えてくれる。
支えあえる。
「確かに僕は言った。君たちは、何にでもなれる、と。だけど、人の肉体を持ったままの、それは――」
星格が、驚愕に目を見開いた。
僕の手のひらの上の光るひよこが、溶けはじめ、それは僕の手の中に消えてしまった。
それと、同時に、地鳴りが響いた。
12
あなたにおすすめの小説
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る
伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。
それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。
兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。
何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる