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4章 ダンジョンアポカリプス
106話【根岸怜治の振り返り/根岸怜治視点】
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夢現ダンジョンから目覚めて、もう3日目だ。
警視庁の中で寝起きするなんてのは、想像したこともなかった。
両親との和解も。
俺たちと悪友である明人を迎えに来たのは、地下5階で動けなくなっていた集団にいた警察官だった。
彼の顔を見て、やっぱり夢ではなかったんだと強いショックを受けた。俺も、明人も。
人殺しに、なってしまった。
俺たちは、被害者ではなく、加害者になった。
親や大人と上手くやれないことが俺たちを苦しめた。俺たちは被害者だと思っていたし、そう思いたかった。
だけど、俺たちのやってきた反抗が、親たちから見れば加害だったことに、ようやく気付いた時には遅かった。
混乱する親と共に、俺たちは説明を受けた。
夢の中のこと、ダンジョンのこと。ダンジョンが今までも出現していて、警察が対応していたこと。
説明を受ける中で、アナウンスが聞こえた。
ダンジョンで聞いた、説明の、レベルアップの、あの声。
現実に、夢が浸食するような感覚。
説明を聞き終わり、弁当が配られた。それをみんな無言で食べた。
俺たちの持つスキルは、他人から奪った力。
スキルだけじゃない、レベルもだ。
しばらく経つと、スキルを封じる腕輪を付けられた。俺も明人も抵抗はしなかった。俺たちは簒奪者で、人殺しだ。牢に入れられてないことが不思議ですらあった。
俺の母親も明人の母親も、泣いていた。息子はどうなるのか、と説明する刑事に縋りもした。
父はスマホで誰かとずっとやりとりをしていた。こんな時まで、向き合う事をしないのかとキレそうになった。
けれど、親父がやりとりしていたのは、弁護士だった。
同じ部屋に俺たちはいて、家と違って、別の部屋へ行くことはできない。
その会話は、前例のない現状で、俺を助けようとしているものだった。
いつもそうだったんだ。俺が、見てないところ、見えないところで、必死で守ろうとしてた。
俺が、手を伸ばせば、向き合おうとすれば、欲しい答えはあったのに。
そんな親父を見て無言で泣く俺の背を母が撫でた。息子の、殺人者の、背。
親父は僅かに驚いた顔をしていた。
明人の家は、だいぶ前に父親が浮気をして、離婚をした。親の身勝手で、環境が変わって、明人は更にやさぐれた。
俺は明人と遊ぶのが好きだった。俺たちは兄弟みたいなものだと、そう思って生きてきた。
「誰の所為でこんなことになってると思ってんだよ」、は明人の口癖みたいなものだった。
泣く母親に、今回も言い放つ。
「自分の、俺たちの所為だろ。明人、もうやめようこんなのは」
もう俺たちは、出会った時の無力な小学生じゃない。家を出て、働くこともできる。あとわずかな時間で、成人して大人として扱われる。
誰かの所為にして、拗ねて暴れて、いいことなんて何もなかった。
「お前が親を恨むの、わかるよ。だけど、親だって、人間だ。うまくやれないことも、間違うこともある。否応なく巻き込まれて、辛い目にあったことを理由にいつまでも甘えるのはもうやめよう」
俺は、人前で泣くのは恥ずかしいことだと、ずっと思ってきた。情けないことだと。
だけど今はもう、そんなことはどうでもいい。
伝わって欲しい。俺たちは、ずっと、折れそうな悲しさを不安を一緒に居ることで、見ないようにして支えあってきた。
自分たちが被害者だと、そう言いあって、復讐している気分だった。
だけど、もう変わるべきだ。俺も明人も。
そうあの夢現ダンジョンで、俺たちは、話し合った。
それでも、そう簡単に変われない。わかってる。だけどここで俺がこいつから逃げたら、明人の孤独はもっと強くなる。そんなのは嫌だ。
「お前まで、俺が間違ってるって言うのかよ」
「間違ったんだ俺たちは! だから人を殺した、そうだろ? 明人、俺は」
「俺がいなくなれって、お前もそう思うのか」
「違う。そうじゃない、俺たちはずっと一緒だった。これからもそうだ。だけど償わなきゃならない。もう親の、誰かの所為にするのはやめよう」
明人の両腕を掴んで、目を見て言う。涙で視界がぼやける。
「明人。俺はお前を置いて行かない。一緒に償おう」
明確に何をすればいいのかは、わからない。だけど、俺たちは、もっと向き合うべきだ。生きている限り。
「お前がそれをしたくないなら、俺を殺せ。お前にはそう、できる力がある。俺はお前と変わりたい。もうこんなのは嫌だ。俺は死にたくないけど、お前が変わりたくないと言うなら、今までみたいに今度は俺が裏切ったって、思うならそうしてくれ」
明人がこうなったのは、俺の所為でもある。同調して、増長して、ふたりだから、何でもできると勘違いして。ゲーム感覚で人を殺した。
夢の中だったとしても、俺たちはしてはいけないことをしたんだ。
最初は正しいことをしたと思った。
暴力から、人を守ろうとした。だけど、それも間違っていて。
俺たちは結局、誰も救えなかったし、救わなかった。
敬たちと違って、自分のためだけに力を使って、奪ってきた。
自分の心地よさの為に。それは俺たちが憎んだ者と同じだ。力で相手を搾取する者。そう、思ってきたもの。だけど、間違ってた。
「傷つけられたからって、傷つけて、何が得られた? 俺たちは間違ってた。それを認めよう、明人。お前が傷ついたことを俺はよく知ってるけど、それを傷つける理由にしたらもう、だめだ。そうやって一番傷つくのは、お前だから。もう、やめようこんなの」
明人の目に、動揺が浮かぶ。
「どうしろ、っていうんだよ……」
明人が呟く。
「今更、どうしろっていうんだよ!」
俺の胸倉を掴んで、叫ぶ。
「今更、どうすればいい。それは、俺たちの親が、ずっと飲み込んできた言葉だ。実の息子から責められてなじられて、お前の所為だといわれ続けて。それでも飲み込んできた言葉だと俺は思う。だから、話をしよう、明人。みんなで話をするんだ」
敬はいつも、そうしていた。相手と向き会って話をしているうちに、相手は答えを得る。
俺もそうだった。
そうして、俺たちは話し合い、和解をした。
本当はどうして欲しかったのか、伝えれば、それは最初からそこにあった。
人を殺してしまう前に、こうすればよかった。
恐れず向き合って、腹を割ればよかった。
その後、何度かアナウンスが流れて、そのたびに親父は顔色を変えて仕事先へと連絡をしていた。
そして、昼食が出た後に、ひとりの女性が部屋に連れてこられた。
ジャージを抱えた、泣き腫らした顔の女。
彼女にも、俺たちと同じ腕輪がつけられていた。
紅葉と名乗り、静かに椅子に座る彼女に、俺たちは話しかけ、彼女の境遇を聞いた。
敬たちと出会って、救われたのだと。今更だけどね、と儚く笑った彼女が大切そうに抱えるジャージは、敬のパーティーの剣聖持ちの男のものだった。
そしてまた、アナウンス。俺たちの左手には罪人の証が刻まれた。
その日の夜、俺は敬のパーティーにいた原国という刑事に呼ばれた。
迎えにきた刑事は、危険はないと告げて俺だけを連れて行く。不安がないわけじゃないけれど、敬が頼った大人だ。悪い人間のはずはない。
そこで、俺たちの罪人の証が、蘇生のキーになることを痛みと共に知った。
今まで感じたこともない激痛だった。けれど、俺たちに殺された人はもっと痛かったはずだ。
もう、俺はもう他人の痛みに目を逸らしたりはしない。そう決めた。
敬たちは、この世界に起きた現象の中心にいるようだった。
その後の説明会に俺や明人、親も呼ばれて話を聞いた。規模のでかい話。
たった1日で世界がひっくり返った。
翌日は血の紋を使った蘇生を別の場所で行うという。明人と紅葉さんは警視庁に残り、俺と両親は近場のホテルへと行き、翌日また蘇生を手伝う。
俺が蘇生を手伝う間に両親もダンジョンへ警察官と共に潜ってスキルを得た。敬と有坂がカップルになったり、襲撃を受けたり、敬たちが消えたりしたけれど、無事戻ったという知らせを受けた。
心配だったけれど、敬たちは、彼らにしかできないことを懸命にやっているのだと信じていたから不安はなかった。
警視庁で明人や紅葉さんと再会して、もう一晩を過ごした。
そして、朝が来た。レッドゲートは完全踏破されたというアナウンスが流れ、俺たちは覚悟をした。
説明会で聞いた『告解』、その力が開放されること、そしてそれにより俺たちは償いをすることを。
スキルの返却、弱体化。そして、肉体の欠損、あるいは消滅。
俺たちは、俺たちの罪により、裁かれる。
警視庁の中で寝起きするなんてのは、想像したこともなかった。
両親との和解も。
俺たちと悪友である明人を迎えに来たのは、地下5階で動けなくなっていた集団にいた警察官だった。
彼の顔を見て、やっぱり夢ではなかったんだと強いショックを受けた。俺も、明人も。
人殺しに、なってしまった。
俺たちは、被害者ではなく、加害者になった。
親や大人と上手くやれないことが俺たちを苦しめた。俺たちは被害者だと思っていたし、そう思いたかった。
だけど、俺たちのやってきた反抗が、親たちから見れば加害だったことに、ようやく気付いた時には遅かった。
混乱する親と共に、俺たちは説明を受けた。
夢の中のこと、ダンジョンのこと。ダンジョンが今までも出現していて、警察が対応していたこと。
説明を受ける中で、アナウンスが聞こえた。
ダンジョンで聞いた、説明の、レベルアップの、あの声。
現実に、夢が浸食するような感覚。
説明を聞き終わり、弁当が配られた。それをみんな無言で食べた。
俺たちの持つスキルは、他人から奪った力。
スキルだけじゃない、レベルもだ。
しばらく経つと、スキルを封じる腕輪を付けられた。俺も明人も抵抗はしなかった。俺たちは簒奪者で、人殺しだ。牢に入れられてないことが不思議ですらあった。
俺の母親も明人の母親も、泣いていた。息子はどうなるのか、と説明する刑事に縋りもした。
父はスマホで誰かとずっとやりとりをしていた。こんな時まで、向き合う事をしないのかとキレそうになった。
けれど、親父がやりとりしていたのは、弁護士だった。
同じ部屋に俺たちはいて、家と違って、別の部屋へ行くことはできない。
その会話は、前例のない現状で、俺を助けようとしているものだった。
いつもそうだったんだ。俺が、見てないところ、見えないところで、必死で守ろうとしてた。
俺が、手を伸ばせば、向き合おうとすれば、欲しい答えはあったのに。
そんな親父を見て無言で泣く俺の背を母が撫でた。息子の、殺人者の、背。
親父は僅かに驚いた顔をしていた。
明人の家は、だいぶ前に父親が浮気をして、離婚をした。親の身勝手で、環境が変わって、明人は更にやさぐれた。
俺は明人と遊ぶのが好きだった。俺たちは兄弟みたいなものだと、そう思って生きてきた。
「誰の所為でこんなことになってると思ってんだよ」、は明人の口癖みたいなものだった。
泣く母親に、今回も言い放つ。
「自分の、俺たちの所為だろ。明人、もうやめようこんなのは」
もう俺たちは、出会った時の無力な小学生じゃない。家を出て、働くこともできる。あとわずかな時間で、成人して大人として扱われる。
誰かの所為にして、拗ねて暴れて、いいことなんて何もなかった。
「お前が親を恨むの、わかるよ。だけど、親だって、人間だ。うまくやれないことも、間違うこともある。否応なく巻き込まれて、辛い目にあったことを理由にいつまでも甘えるのはもうやめよう」
俺は、人前で泣くのは恥ずかしいことだと、ずっと思ってきた。情けないことだと。
だけど今はもう、そんなことはどうでもいい。
伝わって欲しい。俺たちは、ずっと、折れそうな悲しさを不安を一緒に居ることで、見ないようにして支えあってきた。
自分たちが被害者だと、そう言いあって、復讐している気分だった。
だけど、もう変わるべきだ。俺も明人も。
そうあの夢現ダンジョンで、俺たちは、話し合った。
それでも、そう簡単に変われない。わかってる。だけどここで俺がこいつから逃げたら、明人の孤独はもっと強くなる。そんなのは嫌だ。
「お前まで、俺が間違ってるって言うのかよ」
「間違ったんだ俺たちは! だから人を殺した、そうだろ? 明人、俺は」
「俺がいなくなれって、お前もそう思うのか」
「違う。そうじゃない、俺たちはずっと一緒だった。これからもそうだ。だけど償わなきゃならない。もう親の、誰かの所為にするのはやめよう」
明人の両腕を掴んで、目を見て言う。涙で視界がぼやける。
「明人。俺はお前を置いて行かない。一緒に償おう」
明確に何をすればいいのかは、わからない。だけど、俺たちは、もっと向き合うべきだ。生きている限り。
「お前がそれをしたくないなら、俺を殺せ。お前にはそう、できる力がある。俺はお前と変わりたい。もうこんなのは嫌だ。俺は死にたくないけど、お前が変わりたくないと言うなら、今までみたいに今度は俺が裏切ったって、思うならそうしてくれ」
明人がこうなったのは、俺の所為でもある。同調して、増長して、ふたりだから、何でもできると勘違いして。ゲーム感覚で人を殺した。
夢の中だったとしても、俺たちはしてはいけないことをしたんだ。
最初は正しいことをしたと思った。
暴力から、人を守ろうとした。だけど、それも間違っていて。
俺たちは結局、誰も救えなかったし、救わなかった。
敬たちと違って、自分のためだけに力を使って、奪ってきた。
自分の心地よさの為に。それは俺たちが憎んだ者と同じだ。力で相手を搾取する者。そう、思ってきたもの。だけど、間違ってた。
「傷つけられたからって、傷つけて、何が得られた? 俺たちは間違ってた。それを認めよう、明人。お前が傷ついたことを俺はよく知ってるけど、それを傷つける理由にしたらもう、だめだ。そうやって一番傷つくのは、お前だから。もう、やめようこんなの」
明人の目に、動揺が浮かぶ。
「どうしろ、っていうんだよ……」
明人が呟く。
「今更、どうしろっていうんだよ!」
俺の胸倉を掴んで、叫ぶ。
「今更、どうすればいい。それは、俺たちの親が、ずっと飲み込んできた言葉だ。実の息子から責められてなじられて、お前の所為だといわれ続けて。それでも飲み込んできた言葉だと俺は思う。だから、話をしよう、明人。みんなで話をするんだ」
敬はいつも、そうしていた。相手と向き会って話をしているうちに、相手は答えを得る。
俺もそうだった。
そうして、俺たちは話し合い、和解をした。
本当はどうして欲しかったのか、伝えれば、それは最初からそこにあった。
人を殺してしまう前に、こうすればよかった。
恐れず向き合って、腹を割ればよかった。
その後、何度かアナウンスが流れて、そのたびに親父は顔色を変えて仕事先へと連絡をしていた。
そして、昼食が出た後に、ひとりの女性が部屋に連れてこられた。
ジャージを抱えた、泣き腫らした顔の女。
彼女にも、俺たちと同じ腕輪がつけられていた。
紅葉と名乗り、静かに椅子に座る彼女に、俺たちは話しかけ、彼女の境遇を聞いた。
敬たちと出会って、救われたのだと。今更だけどね、と儚く笑った彼女が大切そうに抱えるジャージは、敬のパーティーの剣聖持ちの男のものだった。
そしてまた、アナウンス。俺たちの左手には罪人の証が刻まれた。
その日の夜、俺は敬のパーティーにいた原国という刑事に呼ばれた。
迎えにきた刑事は、危険はないと告げて俺だけを連れて行く。不安がないわけじゃないけれど、敬が頼った大人だ。悪い人間のはずはない。
そこで、俺たちの罪人の証が、蘇生のキーになることを痛みと共に知った。
今まで感じたこともない激痛だった。けれど、俺たちに殺された人はもっと痛かったはずだ。
もう、俺はもう他人の痛みに目を逸らしたりはしない。そう決めた。
敬たちは、この世界に起きた現象の中心にいるようだった。
その後の説明会に俺や明人、親も呼ばれて話を聞いた。規模のでかい話。
たった1日で世界がひっくり返った。
翌日は血の紋を使った蘇生を別の場所で行うという。明人と紅葉さんは警視庁に残り、俺と両親は近場のホテルへと行き、翌日また蘇生を手伝う。
俺が蘇生を手伝う間に両親もダンジョンへ警察官と共に潜ってスキルを得た。敬と有坂がカップルになったり、襲撃を受けたり、敬たちが消えたりしたけれど、無事戻ったという知らせを受けた。
心配だったけれど、敬たちは、彼らにしかできないことを懸命にやっているのだと信じていたから不安はなかった。
警視庁で明人や紅葉さんと再会して、もう一晩を過ごした。
そして、朝が来た。レッドゲートは完全踏破されたというアナウンスが流れ、俺たちは覚悟をした。
説明会で聞いた『告解』、その力が開放されること、そしてそれにより俺たちは償いをすることを。
スキルの返却、弱体化。そして、肉体の欠損、あるいは消滅。
俺たちは、俺たちの罪により、裁かれる。
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