120 / 137
4章 ダンジョンアポカリプス
112話【スイッチ】
しおりを挟む
「十中八九、放映中に彼らは乱入してくるでしょう」
どのタイミングで、そうしてくるかはわからない。けれど、異星の神は徳川さんたちを護衛にして乱入をしてくるだろうと、原国さんは言った。
打ち合わせ中のその言葉通り、告解スキルの使用、説明の後、彼らは僕らの元へと来た。
徳川さん、伏見さんもいる。
突然の、彼らの乱入にweb中継スタッフの皆森さん、撮影スタッフの人たちが声をあげる。
僕はそれに構わず走り、徳川さんの胸に触れた。心臓の位置。
「徳川さん、お約束の条件です」
徳川さんは何の抵抗もしない。彼の中から運命固有スキル『信奉崇拝』を引き抜いて、剥奪する。
「突然に強引でいいね」
そう言って徳川さんが微笑むと、何故か僕を抱き寄せて、伏見さんと共に手のひらを異星の神へと向ける。
「なっ、貴様ら、何を」
異星の神の体が硬直して、動きが止まる。
「何って、アンタも聞いていただろ? 俺たちが彼らと交渉していたところをさ。異星の神様ちゃん」
徳川さんは運命固有スキルを使えなくするか、移譲させれば味方につくと約束をした。
異星の神から見れば、これは裏切りだけれど。
「キスしていいかな」
上機嫌な徳川さんの囁く言葉に、有坂さんが動いた。
「いいわけないでしょ」
僕をひったくるようにして、有坂さんが徳川さんから引き剥がす。
「ふたりまとめてでも構わないよ」
楽しげに笑って、徳川さんが両手を広げる。
威嚇するように、有坂さんが僕を後ろから抱きとめて「お断りします」と言った。
僕たちと徳川さんの間に、武藤さんが立つ。
「異星の神と言えど、人間の体に入っている限りはスキルによる足止めは可能ってことだな」
「俺たちもこれやってる間はあんまり動けないけどね」
どうやら彼らは金縛り系の何かしらのスキルを使っているらしい。僕を抱きとめた有坂さんが僕から離れる。僕は、武藤さんの背に触れる。
武藤さんは歩を進め、異星の神が入り込んだ楓さんの前に立ち、宣言する。
「お前から、神の力を剥奪する」
頭に触れて、『神の右手』を使用した。
『神の右手』はあらゆるスキルの剥奪、保存、移譲が可能なスキル。無論、『神の右手』自体も移譲することが、できる。
僕たちは中継の準備の間、『神の右手』のスキルを検証した。
僕の赤銀コインをつかって、光るひよこを僕の中から復活させて、説明を受けてそれを行った。
そして、僕ら全員が、僕同様に運命固有スキルをふたつ得られるように調整した。
僕がしたように、全員がその魂を削り、容量を作ったのだ。
『神の右手』は、術者が対象者の心臓の位置か頭に触れている必要がある。
僕がまず徳川さんの胸に触れ、『信奉崇拝』を剥奪。僕を抱きとめた有坂さんに、移譲。
そして、武藤さんの背、心臓の位置に手を触れて『神の右手』を移譲。
武藤さんが、楓さんの中の異星の神と共に『複製』を剥奪した。
意識を失った彼女の体を抱きかかえて、僕の頭に触れる。僕に『複製』が移譲され、これで、異星の神は封じられた。
光るひよこが言うには、異星の神、力そのものが神性を持つ人間の意識の主導権を得るには、相手が死亡していることが絶対条件。その上で魂の再構築が行われ力と共に主導権を奪う。
だからこそ、運命固有スキルを持つ僕たちの誰かひとりでも死亡すれば、世界は滅んだ。
僕たちの持つ、運命固有スキルには、異星の神の神格の一部が在るからだ。
楓さんが意識を取り戻せなかったのは、その再構築に抵抗したためだ。15年間彼女は、抵抗を続けた。
入り込んだ神格と知識を共有したことで、原国さんの死に戻りを停止させないように、異星の神の憎悪と15年間戦い続けた。
けれど反魂を使ったことで強制的に、交じり合ってしまった。
それを今引き抜いて、僕の中に。
原国さんと武藤さんも一度死んでいる。彼らの中の神格はこの星の人類に対する悪意はなかった。
僕と共にいる光るひよこと同じように、溶けて存在はしても主導権を奪おうとはしなかった。
けれど、異星の神の異能を持った状態の僕たちの誰かが死ねば、それは強制的に表に出て、狂う、という。
発狂した神格のすることはひとつ。世界を滅ぼす。そうやって幾度も、この世界は滅んだ。
「それで、報酬はいかほど?」
伏見さんが僕らに右手を差し出して言う。
「我々に敵対しない限り、伏見宗旦、徳川多聞両名を殺さないこと。おふたりに告解は使わない。それを徹底します」
原国さんが言う。
「命の保障、ってね。まあそれでいいかな。それじゃ、俺たちはこれで」
そう伏見さんは言うと、徳川さんと共に姿を消した。
伏見さんは徹頭徹尾死にたくないと要望していたので、それを叶える形になる。
徳川さんの持っていた運命固有スキル『信奉崇拝』を使って有坂さんが命じれば、それは叶う。
告解スキルは有坂さんの持つ聖女スキル由来のもの。蘇生反魂を受けた人たちにも付与されたそれを彼らには使わないよう、命じる。
放送用の説明を原国さんがする。嘘ではないが、事実でもない。そんな話を。
真実を告げるとリスクが高い。世界が滅んでしまえばいいという破滅願望を持つ人たちがいないわけじゃない。
僕らや、伏見さんが殺されれば、詰むことに変わりはない。
何はともあれ、憎悪の異星の神は封じられ、楓さんを取り戻すことができた。
放送は終わり、そして大型地下迷宮が、その入り口を開いた。
どのタイミングで、そうしてくるかはわからない。けれど、異星の神は徳川さんたちを護衛にして乱入をしてくるだろうと、原国さんは言った。
打ち合わせ中のその言葉通り、告解スキルの使用、説明の後、彼らは僕らの元へと来た。
徳川さん、伏見さんもいる。
突然の、彼らの乱入にweb中継スタッフの皆森さん、撮影スタッフの人たちが声をあげる。
僕はそれに構わず走り、徳川さんの胸に触れた。心臓の位置。
「徳川さん、お約束の条件です」
徳川さんは何の抵抗もしない。彼の中から運命固有スキル『信奉崇拝』を引き抜いて、剥奪する。
「突然に強引でいいね」
そう言って徳川さんが微笑むと、何故か僕を抱き寄せて、伏見さんと共に手のひらを異星の神へと向ける。
「なっ、貴様ら、何を」
異星の神の体が硬直して、動きが止まる。
「何って、アンタも聞いていただろ? 俺たちが彼らと交渉していたところをさ。異星の神様ちゃん」
徳川さんは運命固有スキルを使えなくするか、移譲させれば味方につくと約束をした。
異星の神から見れば、これは裏切りだけれど。
「キスしていいかな」
上機嫌な徳川さんの囁く言葉に、有坂さんが動いた。
「いいわけないでしょ」
僕をひったくるようにして、有坂さんが徳川さんから引き剥がす。
「ふたりまとめてでも構わないよ」
楽しげに笑って、徳川さんが両手を広げる。
威嚇するように、有坂さんが僕を後ろから抱きとめて「お断りします」と言った。
僕たちと徳川さんの間に、武藤さんが立つ。
「異星の神と言えど、人間の体に入っている限りはスキルによる足止めは可能ってことだな」
「俺たちもこれやってる間はあんまり動けないけどね」
どうやら彼らは金縛り系の何かしらのスキルを使っているらしい。僕を抱きとめた有坂さんが僕から離れる。僕は、武藤さんの背に触れる。
武藤さんは歩を進め、異星の神が入り込んだ楓さんの前に立ち、宣言する。
「お前から、神の力を剥奪する」
頭に触れて、『神の右手』を使用した。
『神の右手』はあらゆるスキルの剥奪、保存、移譲が可能なスキル。無論、『神の右手』自体も移譲することが、できる。
僕たちは中継の準備の間、『神の右手』のスキルを検証した。
僕の赤銀コインをつかって、光るひよこを僕の中から復活させて、説明を受けてそれを行った。
そして、僕ら全員が、僕同様に運命固有スキルをふたつ得られるように調整した。
僕がしたように、全員がその魂を削り、容量を作ったのだ。
『神の右手』は、術者が対象者の心臓の位置か頭に触れている必要がある。
僕がまず徳川さんの胸に触れ、『信奉崇拝』を剥奪。僕を抱きとめた有坂さんに、移譲。
そして、武藤さんの背、心臓の位置に手を触れて『神の右手』を移譲。
武藤さんが、楓さんの中の異星の神と共に『複製』を剥奪した。
意識を失った彼女の体を抱きかかえて、僕の頭に触れる。僕に『複製』が移譲され、これで、異星の神は封じられた。
光るひよこが言うには、異星の神、力そのものが神性を持つ人間の意識の主導権を得るには、相手が死亡していることが絶対条件。その上で魂の再構築が行われ力と共に主導権を奪う。
だからこそ、運命固有スキルを持つ僕たちの誰かひとりでも死亡すれば、世界は滅んだ。
僕たちの持つ、運命固有スキルには、異星の神の神格の一部が在るからだ。
楓さんが意識を取り戻せなかったのは、その再構築に抵抗したためだ。15年間彼女は、抵抗を続けた。
入り込んだ神格と知識を共有したことで、原国さんの死に戻りを停止させないように、異星の神の憎悪と15年間戦い続けた。
けれど反魂を使ったことで強制的に、交じり合ってしまった。
それを今引き抜いて、僕の中に。
原国さんと武藤さんも一度死んでいる。彼らの中の神格はこの星の人類に対する悪意はなかった。
僕と共にいる光るひよこと同じように、溶けて存在はしても主導権を奪おうとはしなかった。
けれど、異星の神の異能を持った状態の僕たちの誰かが死ねば、それは強制的に表に出て、狂う、という。
発狂した神格のすることはひとつ。世界を滅ぼす。そうやって幾度も、この世界は滅んだ。
「それで、報酬はいかほど?」
伏見さんが僕らに右手を差し出して言う。
「我々に敵対しない限り、伏見宗旦、徳川多聞両名を殺さないこと。おふたりに告解は使わない。それを徹底します」
原国さんが言う。
「命の保障、ってね。まあそれでいいかな。それじゃ、俺たちはこれで」
そう伏見さんは言うと、徳川さんと共に姿を消した。
伏見さんは徹頭徹尾死にたくないと要望していたので、それを叶える形になる。
徳川さんの持っていた運命固有スキル『信奉崇拝』を使って有坂さんが命じれば、それは叶う。
告解スキルは有坂さんの持つ聖女スキル由来のもの。蘇生反魂を受けた人たちにも付与されたそれを彼らには使わないよう、命じる。
放送用の説明を原国さんがする。嘘ではないが、事実でもない。そんな話を。
真実を告げるとリスクが高い。世界が滅んでしまえばいいという破滅願望を持つ人たちがいないわけじゃない。
僕らや、伏見さんが殺されれば、詰むことに変わりはない。
何はともあれ、憎悪の異星の神は封じられ、楓さんを取り戻すことができた。
放送は終わり、そして大型地下迷宮が、その入り口を開いた。
22
あなたにおすすめの小説
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る
伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。
それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。
兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。
何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる