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4章 ダンジョンアポカリプス
117話【精霊感知】
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「すまない。アレに僕が侵食されればアウトだったので退避していたんだ」
僕の問いに、星格が姿を現す。よかった、いたんだ。
ほっと胸をなでおろすと、星格は食事中のぴよ吉を一瞥してから口を開いた。
「アレはダンジョンから生まれてダンジョンに還るモノだ。バグ中のバグ。ダンジョンの根幹。魔王の祖。堕ちた神の化身。レッドゲートの踏破により地上に血の紋が刻まれたからダンジョンから這い出てきた。アレがゲーム的に言えばラスボスだね」
「私を乗っ取ってた憎悪はそれから切り離された一部。実は晴信が毎日の参拝とお見舞いに来てくれてなかったらヤバかったんだよねえ」
星格の言葉に頷いて、楓さんは紅葉さんの背を撫でながら言う。
「呪いっていうのは邪な祈りの塊だから、晴信が誓いを立てて毎日正しく祈るのを続けてたのはとてつもないファインプレーだったんだ。直感スキル的に、多分やらないと不安になることだったとは思うんだけど」
「八尾くんは、どうなっているんですか」
「明人は、俺を殺したと……思い込んでる……」
根岸くんが、胸を押さえて起き上がる。
「何だよ、あいつ……ずっとそんなふうに思ってたのかよ……」
根岸くんの目から、ぼろりと大粒の涙が零れる。
震える声で、心臓を捕まれたときに流れてきた八尾くんの心情を、根岸くんが語った。
八尾くんの半生と、その葛藤。心を許した人は、唯一人で、いつかは分かれ道が来ると思っていたこと。
「俺が見捨てるわけねえだろバカが……っ」
ソファを悔しさの余り殴りつける根岸くんの震える肩に触れる。
「それを伝えに行こう」
と言うと、僅かな時間、目を見開いて彼は「面倒ばかりかけて悪いな」と小さく笑って涙を拭う。
「僕が人間の魔族化が地上でおこらないように改変をかけたからか」
ぽつりと星格が口にする。
「魔族化が起きなければ、魔王は生まれない。だから、強硬手段をとったんだ。『支配』の権能を持つ堕ちた呪いの神。異星ではないから自身は魔王になれない。だから魔王を得ようとして、顕現した。僕の敷いたルールを破って行うソレには、代償が必要なはず」
確かめるように言葉を並べ、星格は原国さんを見た。
「多分もうアレは地上には現れない。ルールからの逸脱はもう出来ない。何かしらのリスク……弱体化も受けたはず。連れ去った八尾明人が今回の魔王として覚醒するのにもそれなりに時間がかかる。彼は魔族じゃない、人間のままだった。唯一人のよりどころの人物をその手で殺させることで、絶望した彼は多分、世界を呪った」
「あの砕けるような音は、何が」
「魂の一部。全部を砕けは死だ。死体では魔王は作れない」
「魂の、どこだよ」
「魂とは人間性と神性の総体だ。多分、アレは彼の持つ善性を砕いた。魔王にするために」
「何であいつばっかそんな目に遭うんだ、ふざけんなよ!!」
根岸くんの慟哭が部屋に響く。それでも星格は表情を崩さず、淡々としている。
「僕に噛み付かれても困る。この世界は平等に不平等なんだ。全てはランダム。輪廻システムは何にも忖度はしない。君たち人類全てが神なのだから、何かひとつ誰かひとりに忖度することも執着することもない。輪廻システムは偏りがあることすら受け入れる、完全に自動的な機構でしかない。僕が個を手に入れたのも偶発的な願いゆえだ。15年より後の話ならまだしも、それ以前のことについては僕に問われても困る。その輪廻の機構を作ったのは君たちの願いと祈り、思想と信仰の祖なのだから」
「砕かれた魂の部分は回収復元は可能ですか」
静かに有坂さんが問う。
「可能だ。砕かれただけで消去されたわけでも、消化されたわけでもない。回収にも復元にもスキルが必要になる。『魂の回収者』『魂の復元』、どちらにしろ真瀬零次の復活には必要なスキルだ。世界崩壊を防ぐ道中あるいは、防いだのちにゆっくり探せばいいと思ったが悠長にできる時間はなくなった」
「精霊の卵だが、孵化するのに50時間必要なんだろう? 間に合うのか?」
武藤さんの問いに、ぴよ吉が「ぴ」と顔を上げた。顔中お米まみれになっている。
「わえが時間を必要としたのは地上に血の紋が刻まれるまでの猶予も含むですぴ。血の紋が刻まれている今なら2時間で充分ですぴょ」
「卵の感知はできるのか?」
「それにもスキルが必要ですぴ。『精霊感知』スキルは通常高レアスキルなので主のガチャで出るまで引くのがオススメですぴ」
ぴよ吉の顔についたお米をとってくちばしに運びながら、僕は頷く。
「卵はダンジョン内のどこか、宝箱の中。僕たちがダンジョン攻略をして卵を集める。八尾くんの現状はどうなっていますか」
「彼は今、魔王として孵化するための繭の中だ。どのくらいで孵化するのかは僕にもわからない。大型地下迷宮の地下深く。99階にいる」
原国さんがテーブルにじゃらりとモンスターコインを置いた。
「方々からの寄付です。これで真瀬くんはガチャを。私の部下たちを呼びました。血の蘇生術の複製をして、地上メンバーに付与。準備が終わり次第、ダンジョンへ。根岸くんをパーティーメンバーへ組み込んで下さい」
原国さんの指示に頷いて、僕はガチャを引く。
みんなが命がけで得た財貨。その財貨も、誰かの魂で出来ている。
「私は地上で血の蘇生術を使い続けるよ。戦力としてはイマイチだけど、神の一部と対抗し続けたからMPだけは潤沢なんだ」
楓さんが挙手をして言う。
「あとひとりはどうしますか」
「紅葉は連れて行けない。ここで保護だ。質問スキルを『神の右手』で完全封印するには、俺たちのスキルをストックする容量が足りない。スイッチができなくなる。『神の左手』を得るまでは待機だな」
「では彼女にも血の蘇生術を。楓さんと部下たちと共に、蘇生を行って貰います。できますか?」
原国さんの問いに、紅葉さんは表情を固くして、緊張しながら頷く。
「精神的なケアも行います。大丈夫。私の部下に貴女を蔑ろにし、痛めつける人間はいません。これからは、大事にされることを、学んでください」
微笑んで言う、原国さんの言葉に、一瞬唖然とした紅葉さんは大粒の涙をこぼして頷いた。その頭を楓さんがよしよしと撫でる。
しばらくして、原国さんの部下の人たちが集まってくる。総勢10名。男女半々。彼らに血の蘇生術を付加。そしてそこに楓さんと紅葉さんも加わる。
「姉貴、よろしく頼むわ」
紅葉さんからジャケットを受け取り、羽織りながら、武藤さんが言う。
「お任せお任せ」
「紅葉もまたあとでな。預けたジャージはその時でいい。気をつけてな。何か困ったら、姉貴やみんなを頼ってくれ」
ジャケットに袖を通しながら、言う武藤さんの言葉に紅葉さんは顔を赤くして、たくさん頷く。
「彼らにも僕の分体をつける」
星格はそう言うと、ちいさな光る珠を指先から出した。
ふよふよと浮遊するそれは原国さんの指示を受けて、彼らと共に転移した。
「私の部下たちはレッドゲートの攻略班が半分、回復系スキルを持つ者が半分。彼らの善性は私の過去周回が保障します。蘇生班の班長は私の指示がなくとも動ける人です。精霊感知スキルを手にいれ次第、卵の回収へ。私はここであなたたちが立ち回る際の人間側の障害を全て排除します」
原国さんの言葉を聞き終わると同時に、僕は、引き当てた。
『精霊感知』スキル。
「カードの状態で複製が可能か、やってみます」
有坂さんがカードに触れる。指先でなぞると、カードマジックのように複数枚に増えた。
「有坂さん、スキルの交換を。私がここで指示を出しながら、共有ストレージ内の回復系スキル、防具、アイテム等のカードの複製を行います。それらを寄付を行ってくれた個人、パーティーに額に応じた返礼として配布します」
精霊感知のスキルを得た僕たちは、その後も準備をして、ダンジョンへと向かう。
向かう先は、お台場。海岸間際にできたダンジョンゲートだ。
転移スキルを星格から複製させてもらった僕らは、一瞬で砂浜に立っていた。
有坂さんと、武藤さん、根岸くん、そして僕とぴよ吉で、このレベル30ダンジョンゲートを見上げる。
潮風、照りつける太陽、波の音。普段なら、多くの人たちが訪れる人の手で整備された海岸。
今回、星格の同行はない。オールドヴェールの女。アレがダンジョン発生の核であるならば、分体であっても星格がダンジョンに飲み込まれたら終わりだ。そう星格は語った。
ゲートには、既に先行者がいることを示す数字があった。
僕たちは、顔を見合わせて頷き合い、レベル30ダンジョンへと、足を踏み入れた。
僕の問いに、星格が姿を現す。よかった、いたんだ。
ほっと胸をなでおろすと、星格は食事中のぴよ吉を一瞥してから口を開いた。
「アレはダンジョンから生まれてダンジョンに還るモノだ。バグ中のバグ。ダンジョンの根幹。魔王の祖。堕ちた神の化身。レッドゲートの踏破により地上に血の紋が刻まれたからダンジョンから這い出てきた。アレがゲーム的に言えばラスボスだね」
「私を乗っ取ってた憎悪はそれから切り離された一部。実は晴信が毎日の参拝とお見舞いに来てくれてなかったらヤバかったんだよねえ」
星格の言葉に頷いて、楓さんは紅葉さんの背を撫でながら言う。
「呪いっていうのは邪な祈りの塊だから、晴信が誓いを立てて毎日正しく祈るのを続けてたのはとてつもないファインプレーだったんだ。直感スキル的に、多分やらないと不安になることだったとは思うんだけど」
「八尾くんは、どうなっているんですか」
「明人は、俺を殺したと……思い込んでる……」
根岸くんが、胸を押さえて起き上がる。
「何だよ、あいつ……ずっとそんなふうに思ってたのかよ……」
根岸くんの目から、ぼろりと大粒の涙が零れる。
震える声で、心臓を捕まれたときに流れてきた八尾くんの心情を、根岸くんが語った。
八尾くんの半生と、その葛藤。心を許した人は、唯一人で、いつかは分かれ道が来ると思っていたこと。
「俺が見捨てるわけねえだろバカが……っ」
ソファを悔しさの余り殴りつける根岸くんの震える肩に触れる。
「それを伝えに行こう」
と言うと、僅かな時間、目を見開いて彼は「面倒ばかりかけて悪いな」と小さく笑って涙を拭う。
「僕が人間の魔族化が地上でおこらないように改変をかけたからか」
ぽつりと星格が口にする。
「魔族化が起きなければ、魔王は生まれない。だから、強硬手段をとったんだ。『支配』の権能を持つ堕ちた呪いの神。異星ではないから自身は魔王になれない。だから魔王を得ようとして、顕現した。僕の敷いたルールを破って行うソレには、代償が必要なはず」
確かめるように言葉を並べ、星格は原国さんを見た。
「多分もうアレは地上には現れない。ルールからの逸脱はもう出来ない。何かしらのリスク……弱体化も受けたはず。連れ去った八尾明人が今回の魔王として覚醒するのにもそれなりに時間がかかる。彼は魔族じゃない、人間のままだった。唯一人のよりどころの人物をその手で殺させることで、絶望した彼は多分、世界を呪った」
「あの砕けるような音は、何が」
「魂の一部。全部を砕けは死だ。死体では魔王は作れない」
「魂の、どこだよ」
「魂とは人間性と神性の総体だ。多分、アレは彼の持つ善性を砕いた。魔王にするために」
「何であいつばっかそんな目に遭うんだ、ふざけんなよ!!」
根岸くんの慟哭が部屋に響く。それでも星格は表情を崩さず、淡々としている。
「僕に噛み付かれても困る。この世界は平等に不平等なんだ。全てはランダム。輪廻システムは何にも忖度はしない。君たち人類全てが神なのだから、何かひとつ誰かひとりに忖度することも執着することもない。輪廻システムは偏りがあることすら受け入れる、完全に自動的な機構でしかない。僕が個を手に入れたのも偶発的な願いゆえだ。15年より後の話ならまだしも、それ以前のことについては僕に問われても困る。その輪廻の機構を作ったのは君たちの願いと祈り、思想と信仰の祖なのだから」
「砕かれた魂の部分は回収復元は可能ですか」
静かに有坂さんが問う。
「可能だ。砕かれただけで消去されたわけでも、消化されたわけでもない。回収にも復元にもスキルが必要になる。『魂の回収者』『魂の復元』、どちらにしろ真瀬零次の復活には必要なスキルだ。世界崩壊を防ぐ道中あるいは、防いだのちにゆっくり探せばいいと思ったが悠長にできる時間はなくなった」
「精霊の卵だが、孵化するのに50時間必要なんだろう? 間に合うのか?」
武藤さんの問いに、ぴよ吉が「ぴ」と顔を上げた。顔中お米まみれになっている。
「わえが時間を必要としたのは地上に血の紋が刻まれるまでの猶予も含むですぴ。血の紋が刻まれている今なら2時間で充分ですぴょ」
「卵の感知はできるのか?」
「それにもスキルが必要ですぴ。『精霊感知』スキルは通常高レアスキルなので主のガチャで出るまで引くのがオススメですぴ」
ぴよ吉の顔についたお米をとってくちばしに運びながら、僕は頷く。
「卵はダンジョン内のどこか、宝箱の中。僕たちがダンジョン攻略をして卵を集める。八尾くんの現状はどうなっていますか」
「彼は今、魔王として孵化するための繭の中だ。どのくらいで孵化するのかは僕にもわからない。大型地下迷宮の地下深く。99階にいる」
原国さんがテーブルにじゃらりとモンスターコインを置いた。
「方々からの寄付です。これで真瀬くんはガチャを。私の部下たちを呼びました。血の蘇生術の複製をして、地上メンバーに付与。準備が終わり次第、ダンジョンへ。根岸くんをパーティーメンバーへ組み込んで下さい」
原国さんの指示に頷いて、僕はガチャを引く。
みんなが命がけで得た財貨。その財貨も、誰かの魂で出来ている。
「私は地上で血の蘇生術を使い続けるよ。戦力としてはイマイチだけど、神の一部と対抗し続けたからMPだけは潤沢なんだ」
楓さんが挙手をして言う。
「あとひとりはどうしますか」
「紅葉は連れて行けない。ここで保護だ。質問スキルを『神の右手』で完全封印するには、俺たちのスキルをストックする容量が足りない。スイッチができなくなる。『神の左手』を得るまでは待機だな」
「では彼女にも血の蘇生術を。楓さんと部下たちと共に、蘇生を行って貰います。できますか?」
原国さんの問いに、紅葉さんは表情を固くして、緊張しながら頷く。
「精神的なケアも行います。大丈夫。私の部下に貴女を蔑ろにし、痛めつける人間はいません。これからは、大事にされることを、学んでください」
微笑んで言う、原国さんの言葉に、一瞬唖然とした紅葉さんは大粒の涙をこぼして頷いた。その頭を楓さんがよしよしと撫でる。
しばらくして、原国さんの部下の人たちが集まってくる。総勢10名。男女半々。彼らに血の蘇生術を付加。そしてそこに楓さんと紅葉さんも加わる。
「姉貴、よろしく頼むわ」
紅葉さんからジャケットを受け取り、羽織りながら、武藤さんが言う。
「お任せお任せ」
「紅葉もまたあとでな。預けたジャージはその時でいい。気をつけてな。何か困ったら、姉貴やみんなを頼ってくれ」
ジャケットに袖を通しながら、言う武藤さんの言葉に紅葉さんは顔を赤くして、たくさん頷く。
「彼らにも僕の分体をつける」
星格はそう言うと、ちいさな光る珠を指先から出した。
ふよふよと浮遊するそれは原国さんの指示を受けて、彼らと共に転移した。
「私の部下たちはレッドゲートの攻略班が半分、回復系スキルを持つ者が半分。彼らの善性は私の過去周回が保障します。蘇生班の班長は私の指示がなくとも動ける人です。精霊感知スキルを手にいれ次第、卵の回収へ。私はここであなたたちが立ち回る際の人間側の障害を全て排除します」
原国さんの言葉を聞き終わると同時に、僕は、引き当てた。
『精霊感知』スキル。
「カードの状態で複製が可能か、やってみます」
有坂さんがカードに触れる。指先でなぞると、カードマジックのように複数枚に増えた。
「有坂さん、スキルの交換を。私がここで指示を出しながら、共有ストレージ内の回復系スキル、防具、アイテム等のカードの複製を行います。それらを寄付を行ってくれた個人、パーティーに額に応じた返礼として配布します」
精霊感知のスキルを得た僕たちは、その後も準備をして、ダンジョンへと向かう。
向かう先は、お台場。海岸間際にできたダンジョンゲートだ。
転移スキルを星格から複製させてもらった僕らは、一瞬で砂浜に立っていた。
有坂さんと、武藤さん、根岸くん、そして僕とぴよ吉で、このレベル30ダンジョンゲートを見上げる。
潮風、照りつける太陽、波の音。普段なら、多くの人たちが訪れる人の手で整備された海岸。
今回、星格の同行はない。オールドヴェールの女。アレがダンジョン発生の核であるならば、分体であっても星格がダンジョンに飲み込まれたら終わりだ。そう星格は語った。
ゲートには、既に先行者がいることを示す数字があった。
僕たちは、顔を見合わせて頷き合い、レベル30ダンジョンへと、足を踏み入れた。
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