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第23話 峠の団子屋6
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しのぶの手本は凍夜にとって手妻のように感じられるものばかりだった。同じように凍夜がやってもうまくいかない。恐らくコツがあるのだろう。
驚いたのは、最初の試験でもやって見せた刃物投げである。
今回は小刀ではなく凍夜の楔だがやることは同じ、尖った方を手に持って木に向かて投げる。小気味良い音を立てて木の幹に刺さるのを見て、凍夜はただ溜息を漏らした。
「こんなのできるかなぁ」
「できるさ。あたしだって最初はできなかったけど、今じゃこの通り」
そう言って両手の人差し指と中指と薬指の間に楔を二本ずつ挟み、木に向かって投げると、見事に四本の楔が木の幹に刺さっている。
「これに紐をつけておくと、紐を引っ張るだけで手元に戻って来る。取りに行く手間が省けるよ。でも鬼火はちゃんと投げられるようになるまでつけない方がいい」
当たり前だ。紐なんぞ付けたらどこへ飛んでいくかわからない。つけなくてもわからないというのに。
「あとね、こうやって水平に刺して、その楔を足掛かりにして高いところに登ったりするの。お屋敷の壁に刺して屋根に上がるとか。そういう時に紐がついていると、屋根から回収しやすいんだ」
しのぶは刺さった楔に片足をかけて、軽々と頭の高さより高い枝に登ってしまった。そこまで行くのにいったいどれだけ訓練したらいいのか気が遠くなりそうだ。だが、そんなことは言っていられない。自分で殺し屋にしてくれと言ってここに来たのだ、もう後戻りはできない。
しばらく楔を投げる練習をしていたが、息が切れて来て地べたに座り込んでしまった。
「そんなにすぐにはできないよ。あ、孫六さんだ。あたし水汲みに行って来る」
そう言ってしのぶは井戸へ向かってしまった。
入れ替わるように孫六がやって来た。孫六は無口な大男だが、凍夜の小屋を作ってからは何かと面倒を見てくれる。その孫六が両手に何か長いものを持っている。蛇だ。
片方の蛇を下に置いて頭を踏みつける。長い胴体がグネグネと動き回り、なんとか逃げようとしている。
孫六が凍夜の方に手を出した。
「それを貸してみろ」
凍夜が素直に一本渡すと「よく見ておけ」と言って手に持っている方の蛇の頭を楔で落としてしまった。凍夜は思わず両手で口元を押さえたが、慌てて何事もなかったように手を下ろした。
孫六は踏んでいた方の蛇も頭を落とし、一匹ずつ皮を剝いで行った。
凍夜は驚きつつも、その見事な手際に関心していた。
孫六は無言のまま蛇に楔で縦に切れ目を入れ、内臓を取り出した。そこへちょうどしのぶが水を持って来る。彼女が少しずつ水を流す下で、孫六が蛇の肉を洗っている。しのぶはこのために水を汲みに行ったのだ。何も言われなくても孫六の手に蛇がいるのを見て、水が必要だと察したのだ。
早くしのぶに追いつきたい。頼まれなくても仲間の補佐ができるように、一人前になりたい。
「これを天日で干すといい値で売れるの」
言いながら納屋から平籠を持って来る。そこへ孫六が蛇を乗せる。なるほど今日は天気がいいからこのまま干そうということらしい。そう言えば以前孫六が薬草や蛇は薬屋に売れると言っていた。
「お前にもすぐできるようになる。その前に蛇の獲り方を教えないとな」
凍夜は足元に広がる血の染みを見ながらぼんやりと言った。
「これ、しのぶもできるの?」
「当たり前じゃない。蛙だって捌けるよ」
当たり前。蛇や蛙を捌くのが当たり前。
「あたしたち、殺し屋なんだから。人間殺すのに、蛙や蛇が殺せないんじゃ話にならないでしょ?」
そうだ。殺し屋というのは虫や魚を殺すのではない、人を殺すのだ。そして凍夜が手にかけるのは、あの口入屋のおこうなのだ。
「うん。俺も蛇を捌けるように練習する」
「でも、ちょっと休憩しなよ。鬼火、頑張りすぎだよ」
孫六もしのぶの隣で頷いていた。
だが凍夜は焦っていた。早く一人前になって、父の、母の、見ることのなかった恐らく妹の敵を討ちたい。
「うん、休み休みやるよ」
仲間に心配はかけられない、かと言って迷惑もかけられない。凍夜は適当に返事をしておいた。
驚いたのは、最初の試験でもやって見せた刃物投げである。
今回は小刀ではなく凍夜の楔だがやることは同じ、尖った方を手に持って木に向かて投げる。小気味良い音を立てて木の幹に刺さるのを見て、凍夜はただ溜息を漏らした。
「こんなのできるかなぁ」
「できるさ。あたしだって最初はできなかったけど、今じゃこの通り」
そう言って両手の人差し指と中指と薬指の間に楔を二本ずつ挟み、木に向かって投げると、見事に四本の楔が木の幹に刺さっている。
「これに紐をつけておくと、紐を引っ張るだけで手元に戻って来る。取りに行く手間が省けるよ。でも鬼火はちゃんと投げられるようになるまでつけない方がいい」
当たり前だ。紐なんぞ付けたらどこへ飛んでいくかわからない。つけなくてもわからないというのに。
「あとね、こうやって水平に刺して、その楔を足掛かりにして高いところに登ったりするの。お屋敷の壁に刺して屋根に上がるとか。そういう時に紐がついていると、屋根から回収しやすいんだ」
しのぶは刺さった楔に片足をかけて、軽々と頭の高さより高い枝に登ってしまった。そこまで行くのにいったいどれだけ訓練したらいいのか気が遠くなりそうだ。だが、そんなことは言っていられない。自分で殺し屋にしてくれと言ってここに来たのだ、もう後戻りはできない。
しばらく楔を投げる練習をしていたが、息が切れて来て地べたに座り込んでしまった。
「そんなにすぐにはできないよ。あ、孫六さんだ。あたし水汲みに行って来る」
そう言ってしのぶは井戸へ向かってしまった。
入れ替わるように孫六がやって来た。孫六は無口な大男だが、凍夜の小屋を作ってからは何かと面倒を見てくれる。その孫六が両手に何か長いものを持っている。蛇だ。
片方の蛇を下に置いて頭を踏みつける。長い胴体がグネグネと動き回り、なんとか逃げようとしている。
孫六が凍夜の方に手を出した。
「それを貸してみろ」
凍夜が素直に一本渡すと「よく見ておけ」と言って手に持っている方の蛇の頭を楔で落としてしまった。凍夜は思わず両手で口元を押さえたが、慌てて何事もなかったように手を下ろした。
孫六は踏んでいた方の蛇も頭を落とし、一匹ずつ皮を剝いで行った。
凍夜は驚きつつも、その見事な手際に関心していた。
孫六は無言のまま蛇に楔で縦に切れ目を入れ、内臓を取り出した。そこへちょうどしのぶが水を持って来る。彼女が少しずつ水を流す下で、孫六が蛇の肉を洗っている。しのぶはこのために水を汲みに行ったのだ。何も言われなくても孫六の手に蛇がいるのを見て、水が必要だと察したのだ。
早くしのぶに追いつきたい。頼まれなくても仲間の補佐ができるように、一人前になりたい。
「これを天日で干すといい値で売れるの」
言いながら納屋から平籠を持って来る。そこへ孫六が蛇を乗せる。なるほど今日は天気がいいからこのまま干そうということらしい。そう言えば以前孫六が薬草や蛇は薬屋に売れると言っていた。
「お前にもすぐできるようになる。その前に蛇の獲り方を教えないとな」
凍夜は足元に広がる血の染みを見ながらぼんやりと言った。
「これ、しのぶもできるの?」
「当たり前じゃない。蛙だって捌けるよ」
当たり前。蛇や蛙を捌くのが当たり前。
「あたしたち、殺し屋なんだから。人間殺すのに、蛙や蛇が殺せないんじゃ話にならないでしょ?」
そうだ。殺し屋というのは虫や魚を殺すのではない、人を殺すのだ。そして凍夜が手にかけるのは、あの口入屋のおこうなのだ。
「うん。俺も蛇を捌けるように練習する」
「でも、ちょっと休憩しなよ。鬼火、頑張りすぎだよ」
孫六もしのぶの隣で頷いていた。
だが凍夜は焦っていた。早く一人前になって、父の、母の、見ることのなかった恐らく妹の敵を討ちたい。
「うん、休み休みやるよ」
仲間に心配はかけられない、かと言って迷惑もかけられない。凍夜は適当に返事をしておいた。
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それでは、小説「黄昏夫婦」をお楽しみ下さい。
読者の皆様の何かにお役に立てれば幸いです。
作家 蔵屋日唱
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