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第30話 柏原の異変6
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「しのぶはどうして殺し屋になったんだ?」
「あたし? あたしはね……育ててくれたのがお爺ちゃんとおっ母さんだったからだよ。殺し屋に育てられたんだから殺し屋の生き方しか知らない」
だが、お藤はしのぶの本当の母ではないと言っていたし、茂助も血のつながりはないはずだ。どういうことかと凍夜が首を傾げていると、しのぶはそれを感じ取ったのか言葉を継いだ。
「あたしの本当の親は死んだんだ。今はもう足を洗ったらしいんだけど、お藤さんの先輩があたしの父を殺したらしい。あたしの父は大店の旦那様で、あたしの母はそのお店の女中だったらしいんだ。あたしがもし男だったらお内儀の子ということにして跡取りになったらしいんだけど、女だったから母は手代と結婚させられて、あたしはそこの子供ということにさせられたんだって。あたしと女中は本当の母子だからいいけど、手代もいい迷惑よね」
なんだかややこしい話になっている。つまりお内儀が子を産めない体だったから、旦那が女中に産ませたということか。それで男子なら跡取りに、女子なら手代に押し付けたと。
「だけど、それで手代と女中が納得するわけが無くて、揉めに揉めて旦那がごろつきを雇って手代と女中を殺そうとしたの。そこにちょうど心配した番頭がやってきたわけ。その番頭は友達だったお藤さんの先輩と一緒だったから、一瞬でごろつきを畳んじゃったんだけど、女中と手代はもう瀕死の重傷で、間もなく息を引き取ったんだって。だけど、死ぬ間際に自分たちの全財産を使って旦那とお内儀を殺し屋に頼んで欲しいって言ったらしくて、その先輩が請け負ったってわけ。それで先輩は旦那とお内儀を抹殺しに行って、死んだ女中と手代の家にいた赤子はお藤さんが連れて帰った、それがあたし」
「つまり女中がしのぶのおっ母で、しのぶのお父がおっ母をごろつきに殺させた。で、おっ母が死に際にお父を殺し屋に依頼したってわけか」
「そういうことになるね。本当のおっ母さんが死んだのは可哀想だと思ったけど、お父つぁんは死んで当たり前のやつだと思った。その先輩が殺していなければあたしが今頃殺してたかもしれない。だからお藤さんはあんたに『幸せになりたかったら恨みは捨てるんだ』って言ったんだよ。あたしは恨む相手がもう死んでるから恨みようがない。ありがたい限りさ。だけど、お藤さんの先輩はあたしのお父つぁんとお内儀を殺して、遺されたあたしを見たら急に空しくなっちゃって、この世界から足を洗っちまったんだってさ」
「その人は今、何してるの?」
「さあね。一切教えてくれないよ。あたしが知ったらその人に親のことを聞きに行くかもしれないからだろうね」
きっと何も知らなければ興味もわかないだろう。だが、知ってしまうともっと知りたくなるのが人情だ。それがわかっているからお藤も教えないのだろうし、しのぶも敢えて聞かないのだろう。
「あたしはお藤さんに育てられて幸せ。その先輩ってのを恨んだこともない。恨みは不幸の始まりさ。それに加えてあんたは自分のせいで両親が死んだと思ってる。実際そうなんだろうけど、そういうことで自分を責めるのは違うよ。そんなものに振り回されて誰かを恨むなんて時間の無駄。あんたがそいつを憎んでいる時間、そいつは人生を楽しんでる」
自分がこんなにやり場のない気持ちを持て余している間も、あの口入屋は人生を楽しんでいるのだ。そう思うと、しのぶには悪いがますます口入屋を恨む気持ちが募ってしまう。しのぶは実際に親と一緒に過ごしていないから、わからない部分もあるはずだ。
「あたしはそろそろ寝るよ。鬼火も寝な。三郎太って人のこと心配かもしれないけど、あの悠って人は凄く賢そうだったし。任せておいて大丈夫じゃない?」
そこは大いに同意できる。
「お恵って子、あんたに惚れてるね」
「え?」
「じゃ、おやすみ」
しのぶはサッと立ち上がると足音も立てずに駆けて行ってしまった。ポカンとしていた凍夜はしのぶが家に入ったのを見て、やっと今頃になって自分がからかわれたことに気づいた。
「まったくもう。お恵はおいらの師匠なんだ」
独り言ちて、ふと「おいらじゃねえ、俺だった」と訂正した。
「あたし? あたしはね……育ててくれたのがお爺ちゃんとおっ母さんだったからだよ。殺し屋に育てられたんだから殺し屋の生き方しか知らない」
だが、お藤はしのぶの本当の母ではないと言っていたし、茂助も血のつながりはないはずだ。どういうことかと凍夜が首を傾げていると、しのぶはそれを感じ取ったのか言葉を継いだ。
「あたしの本当の親は死んだんだ。今はもう足を洗ったらしいんだけど、お藤さんの先輩があたしの父を殺したらしい。あたしの父は大店の旦那様で、あたしの母はそのお店の女中だったらしいんだ。あたしがもし男だったらお内儀の子ということにして跡取りになったらしいんだけど、女だったから母は手代と結婚させられて、あたしはそこの子供ということにさせられたんだって。あたしと女中は本当の母子だからいいけど、手代もいい迷惑よね」
なんだかややこしい話になっている。つまりお内儀が子を産めない体だったから、旦那が女中に産ませたということか。それで男子なら跡取りに、女子なら手代に押し付けたと。
「だけど、それで手代と女中が納得するわけが無くて、揉めに揉めて旦那がごろつきを雇って手代と女中を殺そうとしたの。そこにちょうど心配した番頭がやってきたわけ。その番頭は友達だったお藤さんの先輩と一緒だったから、一瞬でごろつきを畳んじゃったんだけど、女中と手代はもう瀕死の重傷で、間もなく息を引き取ったんだって。だけど、死ぬ間際に自分たちの全財産を使って旦那とお内儀を殺し屋に頼んで欲しいって言ったらしくて、その先輩が請け負ったってわけ。それで先輩は旦那とお内儀を抹殺しに行って、死んだ女中と手代の家にいた赤子はお藤さんが連れて帰った、それがあたし」
「つまり女中がしのぶのおっ母で、しのぶのお父がおっ母をごろつきに殺させた。で、おっ母が死に際にお父を殺し屋に依頼したってわけか」
「そういうことになるね。本当のおっ母さんが死んだのは可哀想だと思ったけど、お父つぁんは死んで当たり前のやつだと思った。その先輩が殺していなければあたしが今頃殺してたかもしれない。だからお藤さんはあんたに『幸せになりたかったら恨みは捨てるんだ』って言ったんだよ。あたしは恨む相手がもう死んでるから恨みようがない。ありがたい限りさ。だけど、お藤さんの先輩はあたしのお父つぁんとお内儀を殺して、遺されたあたしを見たら急に空しくなっちゃって、この世界から足を洗っちまったんだってさ」
「その人は今、何してるの?」
「さあね。一切教えてくれないよ。あたしが知ったらその人に親のことを聞きに行くかもしれないからだろうね」
きっと何も知らなければ興味もわかないだろう。だが、知ってしまうともっと知りたくなるのが人情だ。それがわかっているからお藤も教えないのだろうし、しのぶも敢えて聞かないのだろう。
「あたしはお藤さんに育てられて幸せ。その先輩ってのを恨んだこともない。恨みは不幸の始まりさ。それに加えてあんたは自分のせいで両親が死んだと思ってる。実際そうなんだろうけど、そういうことで自分を責めるのは違うよ。そんなものに振り回されて誰かを恨むなんて時間の無駄。あんたがそいつを憎んでいる時間、そいつは人生を楽しんでる」
自分がこんなにやり場のない気持ちを持て余している間も、あの口入屋は人生を楽しんでいるのだ。そう思うと、しのぶには悪いがますます口入屋を恨む気持ちが募ってしまう。しのぶは実際に親と一緒に過ごしていないから、わからない部分もあるはずだ。
「あたしはそろそろ寝るよ。鬼火も寝な。三郎太って人のこと心配かもしれないけど、あの悠って人は凄く賢そうだったし。任せておいて大丈夫じゃない?」
そこは大いに同意できる。
「お恵って子、あんたに惚れてるね」
「え?」
「じゃ、おやすみ」
しのぶはサッと立ち上がると足音も立てずに駆けて行ってしまった。ポカンとしていた凍夜はしのぶが家に入ったのを見て、やっと今頃になって自分がからかわれたことに気づいた。
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独り言ちて、ふと「おいらじゃねえ、俺だった」と訂正した。
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それでは、小説「黄昏夫婦」をお楽しみ下さい。
読者の皆様の何かにお役に立てれば幸いです。
作家 蔵屋日唱
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