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第33話 口入屋1
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「ちょいと鬼火、しのぶ見なかったかい?」
お藤に声をかけられたのは昼四ツをだいぶ過ぎたころだった。
「昼餉なら俺が手伝うよ」
「そうじゃないんだ。手拭いを買いに行かせたんだけど、まだ戻らないもんだからね。柏原まで往復するのに半刻ばかり、買い物しても一刻もかかりゃしない。もうとっくに帰っても良さそうなもんだけど」
しのぶは一人では寄り道は一切しない。こんなに時間がかかるのは珍しい。
「昼餉までに戻らなかったら俺が探しに行く」
「いや、あたしが行く。まあ、それまでに戻ってくりゃいいんだけどね」
しのぶに限って掘割に落ちたり、大八車に轢かれたりということはないだろう。手拭いを買いに行って小間物屋の親父にお八つでもご馳走になっているだけならいいのだが。
もしもどこかで一緒に歩いているところを見られていて口入屋にかどわかされたりしていたらと思うと、凍夜も気が気ではない。
だが、昼餉の頃になってもしのぶは戻って来なかった。さすがに茂助が動いた。
「佐平治、おめえは口入屋の様子を探って来い。お藤は柏原市中を探せ。孫六が薬を売りに行ってるはずだ、孫六に伝えて二人で街中を探せ。鬼火は柏原には行くな。柏原とここの間の山道や田んぼ道を探すんだ。見つけ次第ここに戻って来い。しのぶが戻ったら狼煙を揚げる。狼煙を見たらみんな戻って来るんだ」
殺し屋たちはそれぞれに散って行った。凍夜も腰を上げたが、自分自身が口入屋に見つかってはいけない身である。あちこちに身を隠しながらの探索となった。
しのぶの歩きそうなところは大体わかる。数珠玉の生えている沼地、蒲が穂をつけている川縁、木賊の生い茂る道。どれも凍夜と一緒に歩いた道だ。水場が多いので足を滑らせたことも考えられる。
もし事故だったらと考えるのも恐ろしいが、もし事故でなかったらそちらの方がよほど恐ろしい。それは殺しやかどわかしを意味するからだ。更にかどわかしなら、凍夜をおびき出すための罠ということも考えられる。あの三郎太を半殺しにするくらいの連中だ、何をするかわからない。
お恵には悠さんがついているからと安心していた。まさかしのぶに手を出すとは。いや、まだそうと決まったわけではない。落ち着け。俺は凍夜じゃない、殺し屋の鬼火なんだ。殺し屋は冷静でいなければならない。
身を隠しながらしのぶと一緒に歩いた道を進むと、蒲の穂が見えてきた。上の段に着く花の粉を集めて焼くと、玉蜀黍の味がすると言っていた。あの時のしのぶは嬉しそうで、早く一緒に採りに来たいと思っていた。
だが、そのしのぶがいない。もし口入屋の仕業なら絶対に許さない。三郎太さんとしのぶに手を出した落とし前はつけて貰う。
この辺りは池や沼地が多い。今度は数珠玉が出てきた。木賊の群生地もある。そう、ここで鎖分銅の投げ方を教えて貰ったんだ。木賊がいっぺんに何本も吹っ飛んで驚いたんだ。こんなところで道草食ってるわけもなかろうに、いったいどこへ行ったのか。
しばらく行くと、子供が一人すっぽりと入れそうなほど大きな籠を背負った男が正面から歩いて来た。男は親し気に片手をあげて挨拶した。凍夜は警戒しながらもペコリと小さく頭を下げた。
「ちょっと聞きたいんだがいいかね」
「なんでしょう」
「子供とはぐれてしまったんだ、お前さんくらいの男の子なんだが、見かけなかったかね?」
「さあ、見かけませんでした」
そう言って通り過ぎようとしたとき、男がボソリと言った。
「そうかい、残念だなぁ。名前は凍夜って言うんだけどね」
――何だと?
凍夜が驚いて振り返ると同時に、鳩尾に重い拳がめり込んだ。
「やっと見つけたぜ、凍夜」
その声を聞き終わる前に、凍夜は意識を手放した。
お藤に声をかけられたのは昼四ツをだいぶ過ぎたころだった。
「昼餉なら俺が手伝うよ」
「そうじゃないんだ。手拭いを買いに行かせたんだけど、まだ戻らないもんだからね。柏原まで往復するのに半刻ばかり、買い物しても一刻もかかりゃしない。もうとっくに帰っても良さそうなもんだけど」
しのぶは一人では寄り道は一切しない。こんなに時間がかかるのは珍しい。
「昼餉までに戻らなかったら俺が探しに行く」
「いや、あたしが行く。まあ、それまでに戻ってくりゃいいんだけどね」
しのぶに限って掘割に落ちたり、大八車に轢かれたりということはないだろう。手拭いを買いに行って小間物屋の親父にお八つでもご馳走になっているだけならいいのだが。
もしもどこかで一緒に歩いているところを見られていて口入屋にかどわかされたりしていたらと思うと、凍夜も気が気ではない。
だが、昼餉の頃になってもしのぶは戻って来なかった。さすがに茂助が動いた。
「佐平治、おめえは口入屋の様子を探って来い。お藤は柏原市中を探せ。孫六が薬を売りに行ってるはずだ、孫六に伝えて二人で街中を探せ。鬼火は柏原には行くな。柏原とここの間の山道や田んぼ道を探すんだ。見つけ次第ここに戻って来い。しのぶが戻ったら狼煙を揚げる。狼煙を見たらみんな戻って来るんだ」
殺し屋たちはそれぞれに散って行った。凍夜も腰を上げたが、自分自身が口入屋に見つかってはいけない身である。あちこちに身を隠しながらの探索となった。
しのぶの歩きそうなところは大体わかる。数珠玉の生えている沼地、蒲が穂をつけている川縁、木賊の生い茂る道。どれも凍夜と一緒に歩いた道だ。水場が多いので足を滑らせたことも考えられる。
もし事故だったらと考えるのも恐ろしいが、もし事故でなかったらそちらの方がよほど恐ろしい。それは殺しやかどわかしを意味するからだ。更にかどわかしなら、凍夜をおびき出すための罠ということも考えられる。あの三郎太を半殺しにするくらいの連中だ、何をするかわからない。
お恵には悠さんがついているからと安心していた。まさかしのぶに手を出すとは。いや、まだそうと決まったわけではない。落ち着け。俺は凍夜じゃない、殺し屋の鬼火なんだ。殺し屋は冷静でいなければならない。
身を隠しながらしのぶと一緒に歩いた道を進むと、蒲の穂が見えてきた。上の段に着く花の粉を集めて焼くと、玉蜀黍の味がすると言っていた。あの時のしのぶは嬉しそうで、早く一緒に採りに来たいと思っていた。
だが、そのしのぶがいない。もし口入屋の仕業なら絶対に許さない。三郎太さんとしのぶに手を出した落とし前はつけて貰う。
この辺りは池や沼地が多い。今度は数珠玉が出てきた。木賊の群生地もある。そう、ここで鎖分銅の投げ方を教えて貰ったんだ。木賊がいっぺんに何本も吹っ飛んで驚いたんだ。こんなところで道草食ってるわけもなかろうに、いったいどこへ行ったのか。
しばらく行くと、子供が一人すっぽりと入れそうなほど大きな籠を背負った男が正面から歩いて来た。男は親し気に片手をあげて挨拶した。凍夜は警戒しながらもペコリと小さく頭を下げた。
「ちょっと聞きたいんだがいいかね」
「なんでしょう」
「子供とはぐれてしまったんだ、お前さんくらいの男の子なんだが、見かけなかったかね?」
「さあ、見かけませんでした」
そう言って通り過ぎようとしたとき、男がボソリと言った。
「そうかい、残念だなぁ。名前は凍夜って言うんだけどね」
――何だと?
凍夜が驚いて振り返ると同時に、鳩尾に重い拳がめり込んだ。
「やっと見つけたぜ、凍夜」
その声を聞き終わる前に、凍夜は意識を手放した。
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「平安時代には『うつほ物語』に「たそかれどき」の用例が現れ、さらに『源氏物語』に
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と、現在のように「たそかれ」で時間帯を表す用例が現れる。
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「たそがれ」の動詞化の用法。日暮れの薄暗くなり始めるころを指して「空が黄昏れる」や、人生の盛りを過ぎ衰えるさまを表現して「黄昏た人」などのように使用されることがある。
この物語はフィクションです。登場人物、団体等実際に同じであっても一切関係ありません。
それでは、小説「黄昏夫婦」をお楽しみ下さい。
読者の皆様の何かにお役に立てれば幸いです。
作家 蔵屋日唱
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