妖古書堂のグルメな店主

浅井 ことは

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#12 新たな訓練

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「えっと、醤油とか豚骨とか色々ありますけど」

 ポケットから一冊の本を取り出し見せてくる。

 『人間界、おすすめ料理店』

「何ですかこれは」

「こちらで美味しいお店百選らしい。そこにこの地域のラーメン屋が載っていて……」

 見せてもらうといつも行列のラーメン屋さんだと分かり、時間を確かめる。

「今の時間はお昼でかなり混んでるかも。俺のおすすめのラーメン屋でもいいですか?」

 それでいいと言われたので、サッパリ醤油のちぢれ麺のお店に案内する。

 店舗は古いが安くて美味しいので、たまに来るお店なので好みに合えばいいのだが。

 
「いらっしゃい」

 メニューを見せ注文したのは、チャーシュー麺の大盛り、餃子、青菜炒めにエビチリ。しかもしっかりと二人前。

「食事も訓練……こちらで言うトレーニングと同じだ。バランスよく食べ、筋肉と力に変えるのが一番いい。アギル様が食にこだわるのは高ランクの者はみんな知っているが、その分栄養のバランスは考えていると思っている」

「確かに、バランスはいいです。でも食材取りに行かされてばかりだったから、俺は死神の仕事の事は全くと言っていいほど分かってません。それに、バイトで雇われてただけで、死神の仕事をする返事もリヒトさんにしてないんです」

「聞いているが……王とリヒト様方がお決めになったのだから、何かしら君にも能力があるのだろう」

「ホルンさんはその……」

「俺は王家の血筋だ。と言っても親戚にあたる。話は聞いているし、他に漏らすこともない。もちろん今聞いた話も」

「あの、ありがとうございます」

 来た料理はボリュームがあるが、二人で半分ずつ食べお腹いっぱい。

 ラーメンは初めてらしく、食べ方はぎこちなかったが、「美味い」と満足してくれ、会計も払ってくれたので、御馳走になることにした。

 夕方まではまた走り込みをして終了。

 内容は毎日変わると言われたが、朝と夕方は主に走り込みで三日間すると言われて、最終日。

「ほんとにここ走るんですか?」

 連れてこられた場所は山の中。

 しかも高配のきつい整備もされていない場所で、周りは木だらけ!

「えーと、道らしきものがないんですけど」

「この山から下の街に戻るには、走り続けて半日はかかる。十二時間以内に戻らない時は助けに行くから安心してくれ」と、ペットボトルの入ったリュックを渡される。

「今回は武器の使用は禁止。一応懐中電灯も入れておいた。緊急の時には中の連絡用携帯を鳴らしてくれ」

「ちょ……」

 待ってと言いたいのに「始め!」と言われ、まずは降り易い道を探す。

「方角が分からないじゃやないかー! 確か、良く葉の茂ってる方が南だっけ? あれ? 方角聞いてもどこに着くのかさえ分からないっていいのかよー」

 文句を言いつつも、開始からすでに十分。

 降りられそうなところをゆっくり降り、速足で歩ける所は進めるだけ進むが、まだ少ししか歩いてないのに息が苦しい。

「山の上の方だから空気が薄いのかな」

 時折時計を見て、一時間に一度五分休憩し、水も少しずつ飲む。

 今までキャンプ経験もないし、本当に降りれるのだろうか?

 途中で少し大きめの木を見つけたので、それで足元の葉をよけながらさらに進み、どのぐらい歩いたのだろうか……やっと川が見えてきた。

「無くなったペットボトルに水入れておくか」

 済んだきれいな水だったので、大丈夫だろうと水を入れてリュックにしまい、川下に向かって歩くスピードを上げる。

 順調に歩いていたら川が二手に分かれていたので、ど真ん中を行けばどうなるんだろうという好奇心から、川を渡って真ん中を進むのはいいのだが、山の中で木々の擦れる音とたまに聞こえる鳥の声だけではちょっと寂しい。

 それ程の砂利ではなかったので軽く走って行くとまた川になったので横の道を歩き、途中で水を飲みながら時計を見る。
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