妖古書堂のグルメな店主

浅井 ことは

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#12 新たな訓練

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 自分の手を見ながらブツブツと文句を言うと、大丈夫だとテーピングを巻かれる。

「最初は軽くでいい。拳が鉄になるようなイメージを持って集中して殴れば……」

「出来るか!」

 それでもやるしかないかと、丸太の前に立ち「おりゃ!」と殴る。

「痛ぇ……」

「集中を切らしたらダメだ。軽くと言っただろう」

 まずは右手の拳だけに集中し、何度も丸太と格闘していると、自分の手が麻痺したのかだんだん痛みが無くなり、小さな穴が開く。

「よし、休憩にしよう」

 時計を見るとお昼の十二時過ぎ。

 食堂に行かないとお昼を食べ損ねるからと急いで行き、スタミナ肉定食を頼む。

「ああ、そうだ。ホルンから野菜も別にと言われてるんだった」

「サラダついてるから大丈夫。それより、ホルンさんてアギルに似てない?」

「兄のリヒトもかなりうるさい方だけど、食に関してはあの二人に敵う者はいないかな。私は殆ど任務で携帯食料か狩で肉を丸焼きするぐらいで、食にはさっぱり」

「携帯食料って美味しいのかな?」

 はいっと一つ渡され、袋から出して齧ると、味もしないし口の中の水分が奪われてのどが渇く。

「まずっ! こんなの毎日食べてたら味覚障害になりそう」

「慣れたら三回に分けて食べるんだ。水も一口ずつ」

 そんな任務嫌だなぁと言っていると、俺に回ってくることはないから安心しろと言われ、十三時になるまでお茶を飲みながらゆっくりと体を休める。

午後からも同じことを繰り返し、一本の丸太が折れたのは終了間際。

テーピングを取ると少し赤くなっていて、お風呂上りに塗ると良いからと軟膏を貰って家に帰る。

夕飯を食べ、のんびりお風呂に浸かってから軟膏の蓋を開けると、色が真っ赤。

「何で出来てるんだよこれ……」

 それでも、塗るとスーッと馴染んでベタベタしない。しかも、赤みがすぐに引いて何事もなかったかのように直っている。

「凄いなこれ……」

翌日も同じようにするが、マルコの様に一発で壊すことは出来なくても、コツがつかめてきたのか、数発で壊せるようになって三日目。

「今日は走りながら一本ずつ壊していく事」

 ランダムに立てられた丸太は二日目までとは違い更に太くなっている。それを走りながらぶっ壊すなんて出来るわけがないだろう!

 なのに、「武器は無し。はS締めるタイミングは任せる」と言われ、両拳に集中する。
 丸太の位置は覚えた。慣れてきた時の様に拳が熱くなってくるのが分かる。でもこれでは壊せない。もっと集中しなければ……

 腕まで熱いと思ったところで目を開け、走る!

「おらぁぁぁ」

 殴っているだけでは届かないと、全身を使って足で蹴りも入れながらラストまで駆け抜けフェンスにぶつかる。

 パチパチと拍手が聞こえ、振り返ってみるとほとんどの丸太が折れ、一部は半分折れている様な状態。

「やった……」

「やはり、天性の才能がありますね。リヒト兄上が見込んだだけはある」

 そう、興奮してくれるのはいいのだが、誰かを殴ったり傷つけたりそんな事は一度もしたことはないし、これからもしたくはない……

「悠一、君が考えている事は分かる気がする。私も体が大きく力が強いだけで小心者だ。だが、この世界に居るまだ死んだと認識していない魂は暴走する。人ではないにしろ、それらを滅するのは心が痛むこともある。だから、その今の気持ちは忘れないでいてもらいたい」

「そう……だよな。でも俺はまだ決めれない」

 今はそれでいいと言われ、午後からは隊服の採寸をするとのことで仕立て屋に連れていかれ、テオと同じようにフードを付けてもらいたかったが、既にテオの採寸が終わっておりフードを付けたので違う形にと言われ、首元は苦しくないように少し開いた形にして欲しいと頼む。半袖が良かったが、それは決まりで出来ないと言われたので、描かれたデッサンを見せてもらってお願いする事にした。

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