下宿屋 東風荘 7

浅井 ことは

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南中心街から秋へ

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もうすぐサーカスのある街につくと聞き、夜もショーをやっているとのことだったので、暖かい服に着替え背もたれにちゃんとひざ掛けもかけて用意する。

「坊っちゃま、気が早いですよ?」

「だって、早く見たいんだもん。その前に宿探すの?」

「はい。近くに空いていればいいのですが」

後ろは夕方には上で止めてある部分の紐を外して、外からは見えないように閉めてしまうために、暗くなって来ると中もかなり暗くて何も見えなくなる。

前の市場で油とランプを買い、それを取り付けたので明かりをつけると、豆電球より明るくなるので本を読むのにも苦労は無い。

「重次さん、やっぱりこのランプ大きかったんじゃない?」

「荷物を運ぶだけでしたら付けないんですが、今回は夜も走ることもあるかもしれませんし、前にもつけましたから、明るいくらいでいいんです。獣も寄ってきにくいですから」

「そう言われたら怖いんだけど」

「滅多に出てはきませんが、まだまだ寒いので、暖を取るのにも大きめなほうがいいです」

「重次さんは、南の那智さんの家の書物は全部読んだんだよね?」

「はい」

「分家のジイジの所のも?」

「ほぼ全て読んでますが、お館様の許可がいる書物は読んでません」

「そのなかに、術とかの本もある?」

「いくつかありましたけど、坊っちゃまの使われるのとは全く違いました。それに、紙が人になるとはどの書物にもなかったので驚いています。四郎もよく解読できたものだと。私にも少し難解ですから」

「でも、これ……前と少し違うんだ……書いてあることが」

「冬弥様にお伝えしますか?」

「まだいい。だって、文字の解読に時間かかりそうだし。病院の日までになんとかしようと思ってるけど」

「檪殿にも分からないのですか?」

「こんな文字見たことないって言うんだ。一文に時間かかっちゃうけど、何とか頑張るよ」

宿はショーをする近くで取れはしたが、洋装の建物で看板には平仮名で『ほてる』と書かれていた。

東の街にも人間の世界と同じものが持ち込まれ、カフェや雑貨もどきのものが沢山出てきたので、ここで見てもそんなに違和感はないが、驚いたのは中もちゃんと真似をしているというところだった。

エレベーターはないが、一階の客室はちゃんとベッドの作りになっていて、布団も羽根布団とまでは行かないがフワフワだった。

流石にお風呂とトイレは外にあったが、雰囲気だけでいえばかなりの合格点である。

「頑張って似せていますね」

重次も同じことを思ったのか、感心してはいたが、ご飯は食堂まで移動するというのか面倒だと言いながらも、料金は思っていたより安かったと言っていた。

「ショーは夕餉のあとです。すぐに食堂に行かないと間に合いませんから急ぎましょう」

「うん」

ご飯を食べ、急いでショーをするテントに行き場所をとる。

「結構いるね」

「観光のものがほとんどだと思います。あ、これ演目の紙です」

「ありがとう」さっと目を通すと、ライオン・虎・象・兎・蛇・猿など書いてあったが、自分の知っている動物とは違うんだろうと始まるのを待っていると、始まりの挨拶はピエロではなく、兎。

三匹のうさぎか首から小太鼓をさげ、上手に叩きながら舞台の真ん中まで来て、ようこそ!と挨拶をし、最後に猛獣がいるので係の人に従ってくださいと言われた。

「うさぎが喋った……」

「初めてでしたか?」

「祭りで見たことはあるけど……」

「うさぎは島で暮らしてますから、なかなかこちらでも見ることはないんです。小太鼓演奏が終わったら、一輪車での綱渡りが待ってますね」

「猿だっけ?」

「はい。ただロープがあんな所にありますけど……」

見上げると上の方にロープがあり、それでは客が見れないから下ろすのだろうと重次と話、空中ブランコも目に止まったので、人では無いサーカスだなと思いながら、次を待つ。
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