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記憶
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「その下宿とやらの人間にはどう説明する?」
「勝手ながら私は苦し紛れに叔父と名乗ってしまいました。みんな里帰りをしていると思っているので、少し記憶操作をします。冬弥は外せない用があり、代わりに祖父母が来たと」
「分かった。すぐ行くのかね?」
「出来れば」
「家内に話してくる。少し待っていてくれんか」
「はい」
話はトントン拍子に進み、みんなで岩戸をくぐって病院まで行く。
そっと戸を開けると、雪翔は泣いていた。
「どうした?」
「那智さん、これ、外して……トイレ、行きたい」
「今、勝手に外せないんだよ。看護婦呼ぶまで待ってくれ」
トイレは尿瓶だが、便だけは頼むしかなく、それでも外してもらえないと知ってまた泣き出してしまった。
「お前が雪翔か……」
「だ、れ?」
「おまえのじいちゃんだ。まだ顔を合わせてなかったろう?」
「私がお婆さん。覚えてね?」
「はい……」
「雪翔、おまえの父についても追々聞いたらいい」
「お狐、様?です、よね?」
「おお、分かるか?だが、みんなには内緒だぞ?」
「僕は、狐じゃ、ないです」
「知っておる。儂の息子の子になったのが雪翔、お前じゃ」
「だから私達はお爺さんとお婆さんなの。仲良くしましょうね?」
「はい……」
「当主、先程は知らぬふりをして申し訳ありませんでした。天狐の従兄弟と知られるわけにもいかなかったもので。この紙を……食べて良いものとダメなものが書いてあります。御用の際には守として煌輝、治癒として凛が置いてありますので使いに使ってください」
「わかった。お主はどうするのじゃ?」
「お話した通り、人間の手続きなどと交渉を中心に動きます」
そのまま窓から消え、残ったのはお爺さんとお婆さん。
「あら?果物が食べられるのね?幾つか買ってこようかしら?りんごと、苺、どちらが好き?」
「え?いち、ご?」
「私ちょっと行ってきますから、お爺さん頼みましたよ?」
「任せておけ」
「あの、遠い、ところか、らきて、くれたんで、すか?」
「無理して話さんでもいいぞ?遠いといえば遠いが、近いといえば近いのぅ。狐の住む街から来たんじゃが、元気になったら遊びに来たらいい」
「はい。はじめ、てあうのに、ごめん、なさい」
「何を言っておる。心配するのは当たり前じゃ。今のうちに甘えておきなさい」そう言って紙を見ているが、食べ物のリストだけでないのはなんとなくわかる。
「僕、本が、すきなんで、す」
「おお、これか?本を読むことはいいことじゃよ。冬弥の上にもう一人いてな、またそれが本が好きで、部屋中本だらけだ。もう棚にも入らんよ」
「すごい」
「婆さんは料理が好きでな、儂はそうじゃな。囲碁とか将棋とかばかりしておるな」
「将棋、でき、ます」
「よし、治ったら一緒にしよう。楽しみが増えたの?」
明るく話してくれているが、結構威厳の強そうな感じがする。先程から影にいる狐が様子を伺っているのがよく分かる。
「影、の……」
「ああ、気にせんでいい。こちらに来るのが久しぶりだからきっと警戒しているだけだと思うぞ?すぐ仲良くなれる」
「みんな、な、にか、かくして、る。と、おもう」
「何をじゃ?みんな、驚いているだけじゃ。友達なんだろう?」
「とも、だち……」
ガタガタガタガタ____
「お、おい。えーっとこれか?押せばいいのか?」
ピーとなった後天井から声が聞こえてくるので、すぐに来てくれと頼む。
「落ち着いて。大丈夫じゃ。爺がおる!」
「どうしました?」
「友達と言ったら、震えだしてのう……何かあったらこれを押せと……」
「雪翔君、大丈夫ですよ?ゆっくり、息を吸って……吐いて……もう一度、すって、吐いて……ほら、落ち着いたでしょう?えっと、あなた方は?」
帰ってきた妻と一緒に、雪翔の祖父母だといい、術をかける。
「紙に注意事項が。今は様子を見てます。何かあったら押してくださいね」と看護婦が出ていき、いきなり婆さんに叱られる。
「全くもう!苺少しだけ洗うわね。あとは冷蔵庫にしまうわよ?食べれるかしら?」
小さいキッチンで切ってくれているのだろう。甘い香りがして、爪楊枝で少しずつ口に入れてもらう。
「勝手ながら私は苦し紛れに叔父と名乗ってしまいました。みんな里帰りをしていると思っているので、少し記憶操作をします。冬弥は外せない用があり、代わりに祖父母が来たと」
「分かった。すぐ行くのかね?」
「出来れば」
「家内に話してくる。少し待っていてくれんか」
「はい」
話はトントン拍子に進み、みんなで岩戸をくぐって病院まで行く。
そっと戸を開けると、雪翔は泣いていた。
「どうした?」
「那智さん、これ、外して……トイレ、行きたい」
「今、勝手に外せないんだよ。看護婦呼ぶまで待ってくれ」
トイレは尿瓶だが、便だけは頼むしかなく、それでも外してもらえないと知ってまた泣き出してしまった。
「お前が雪翔か……」
「だ、れ?」
「おまえのじいちゃんだ。まだ顔を合わせてなかったろう?」
「私がお婆さん。覚えてね?」
「はい……」
「雪翔、おまえの父についても追々聞いたらいい」
「お狐、様?です、よね?」
「おお、分かるか?だが、みんなには内緒だぞ?」
「僕は、狐じゃ、ないです」
「知っておる。儂の息子の子になったのが雪翔、お前じゃ」
「だから私達はお爺さんとお婆さんなの。仲良くしましょうね?」
「はい……」
「当主、先程は知らぬふりをして申し訳ありませんでした。天狐の従兄弟と知られるわけにもいかなかったもので。この紙を……食べて良いものとダメなものが書いてあります。御用の際には守として煌輝、治癒として凛が置いてありますので使いに使ってください」
「わかった。お主はどうするのじゃ?」
「お話した通り、人間の手続きなどと交渉を中心に動きます」
そのまま窓から消え、残ったのはお爺さんとお婆さん。
「あら?果物が食べられるのね?幾つか買ってこようかしら?りんごと、苺、どちらが好き?」
「え?いち、ご?」
「私ちょっと行ってきますから、お爺さん頼みましたよ?」
「任せておけ」
「あの、遠い、ところか、らきて、くれたんで、すか?」
「無理して話さんでもいいぞ?遠いといえば遠いが、近いといえば近いのぅ。狐の住む街から来たんじゃが、元気になったら遊びに来たらいい」
「はい。はじめ、てあうのに、ごめん、なさい」
「何を言っておる。心配するのは当たり前じゃ。今のうちに甘えておきなさい」そう言って紙を見ているが、食べ物のリストだけでないのはなんとなくわかる。
「僕、本が、すきなんで、す」
「おお、これか?本を読むことはいいことじゃよ。冬弥の上にもう一人いてな、またそれが本が好きで、部屋中本だらけだ。もう棚にも入らんよ」
「すごい」
「婆さんは料理が好きでな、儂はそうじゃな。囲碁とか将棋とかばかりしておるな」
「将棋、でき、ます」
「よし、治ったら一緒にしよう。楽しみが増えたの?」
明るく話してくれているが、結構威厳の強そうな感じがする。先程から影にいる狐が様子を伺っているのがよく分かる。
「影、の……」
「ああ、気にせんでいい。こちらに来るのが久しぶりだからきっと警戒しているだけだと思うぞ?すぐ仲良くなれる」
「みんな、な、にか、かくして、る。と、おもう」
「何をじゃ?みんな、驚いているだけじゃ。友達なんだろう?」
「とも、だち……」
ガタガタガタガタ____
「お、おい。えーっとこれか?押せばいいのか?」
ピーとなった後天井から声が聞こえてくるので、すぐに来てくれと頼む。
「落ち着いて。大丈夫じゃ。爺がおる!」
「どうしました?」
「友達と言ったら、震えだしてのう……何かあったらこれを押せと……」
「雪翔君、大丈夫ですよ?ゆっくり、息を吸って……吐いて……もう一度、すって、吐いて……ほら、落ち着いたでしょう?えっと、あなた方は?」
帰ってきた妻と一緒に、雪翔の祖父母だといい、術をかける。
「紙に注意事項が。今は様子を見てます。何かあったら押してくださいね」と看護婦が出ていき、いきなり婆さんに叱られる。
「全くもう!苺少しだけ洗うわね。あとは冷蔵庫にしまうわよ?食べれるかしら?」
小さいキッチンで切ってくれているのだろう。甘い香りがして、爪楊枝で少しずつ口に入れてもらう。
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