下宿屋 東風荘 4

浅井 ことは

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港町

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何となく怖い感じがするが、逆らっても仕方ないと思い別部屋で採寸される。

「重次、立つのを手伝ってあげてちょうだい」

立たされ、股下や腰周りなど採寸されてから、車椅子に座りフゥっと息を吐く。

「疲れた?ごめんなさいね、あの人は形式的なことが嫌いなの。でも、分家と言っても本家の初孫が来ているのに何もしないなんてできないのよ」

「はい……」

「怖いおばさんて思ったでしょ?」

「そんな事は……」

「あるでしょ?よく言われるの。悪気はないのよ?つい、口に出してしまうの。もしかして普段から食事の量が少ない?」

「はい、沢山はあんまり……」

「痩せすぎでもないけれど、もう少し食べれるようにしないと健康にも悪いわ。三食の他にもつまみ食いしてもいいくらいよ?」

「こちらに来た時はよく食べれるんですけど」

「空気が合うのかしら?那智はぶっきらぼうだけど、抜けてるところがあってね、私はあなたの食事が心配だわ」

その後はジュースをもらったので、それを飲みながらたくさんの生地を隣に座りながら選んでいく。

「もういいわ。帰るまでに出来てますからね?」

「あの、ありがとうございます」

「いいのよ。服は私の趣味ですもの」と言って奥の部屋へと行ってしまったので、グラスを返して応接間まで戻る。

「那智さん」

「今日は機嫌が良かったらしい。得したな」

「普通の人だったよ?」

「今はな……大人しくしてないとお前に嫌われると言っておいたから」

みんながいうほど変な人でもないし、ちょっと怖かったけど、普通の人って感じだったので、みんなが言うほど逃げる必要はなさそうにも見える。

「晩飯までとりあえずゆっくりしてろ」

部屋に戻って開いた本をもう一度読み直して時間を潰す。

みんな大人しくしていたので、ひとつおやつを食べていいよと言い、翡翠にもマシュマロをあげる。

「雪、これ読んで」

持ってきていた絵本集ではあるが、タイトルはかぐや姫。

かなり簡単に書いてあるのですぐに読み終わると、また「姫ずるい」「ちゃんと振ってやればいいのに」などと言っていて、夢がなくなりそうで怖い。

「次何か読む?」

「いい、ひーちゃんの好きなの見る」

「翡翠は何が好きなの?」

「一寸法師」

「何で?」

「分かんないけど、お椀みてご飯ご飯て言ってるよ?」

確かにお椀に乗っているし、味噌汁のお椀と同じだが、それのどこが気に入ったのか全くわからない。

「じゃあ、僕も本読んでるから。これは借りた本だから触ったらダメだからね?」

「あいっ!」

撫で撫でとしてから本を読んでいく。
扉絵は地図のようになっており、海の真ん中に一つ丸が振ってあるのが島だろうことはわかる。

南の国の形を頭に入れておいて出だしを読むと、東の国の物語とそう変わりないのかなと思ってしまった。
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