神様の学校 八百万ご指南いたします

浅井 ことは

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2巻

2-3

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 神様、普通の問題のない生徒にしてください!
 そう願うも、連れてくるのも、連れてこられるのも神様だ。なんで今日、学校で大国さんを拾ってきちゃったんだろうと後悔するも、時すでに遅し!

「俺、とっても嫌な予感しかしないから、本読んでおくよ」

「頭に叩き込めよ?」と、迦具土にノートを渡されたので、「わかったよ」と返事をする。迦具土の書いてくれたものを、本と突き合わせつつ読んでいく。

「うぅ、暗記、苦手」
「翔平、何度も読み返して、わからないことを書いていったらどうだ?」
「うん……」

 祖父に言われた通りに書き出しながら勉強する。夕飯が終わり、寝る時間まで祖父も付き合ってくれ、たまに知っていることも教えてくれたので、少しだが理解はできた。
 もうこれ以上は覚えられないから寝ると部屋に行き、布団を被った。


 それからしばらく、学校でも授業中にノートを取るふりをしながら、違うノートを見て、神産みだとか、国産みだとかの言葉を調べ、神話の物語の本なども読んでいく。
 帰宅したらしたで、さらに祖父と迦具土から地理や歴史の話を寝るまで延々と聞かされる。もう頭がパンクすると思った頃、神棚に神社へ行く日時がしるされた紙が届いた。
 そして、翌日の水曜日、帰宅してから急いで支度したくする。

「最近、毎日が早いよ……行ってきまーす」

 迦具土にも自転車を買ったので、二人でそれぞれ乗っていき、駐輪場に停めて茅葺かやぶき屋根の家に向かう。その途中、「俺は一瞬でこっちに来られるから自転車など必要ないのに」と、迦具土が言った。

「いいじゃん、一人は嫌なんだよ! 寒いし、暗いし、何か出そうだし!」
「ここの神社は出ねーって。出るのは、この近くの小さなやしろの……」
「やーめーてー! 本気でおばけ無理! その話、最近学校でもよく聞くから嫌なんだよー」

 こんなに真剣に嫌がっているのに、迦具土は「で、その神社に夜な夜な……」と、わざと続きを話してくる。

「阿呆土ー!」
「誰が阿呆土だ! 暗いのなんて慣れろ。明かりも点いてるじゃないか!」

 とにかく早く入ろうと迦具土を引っ張って扉を開けると、すでに部屋は温まっていた。マフラーとコートを脱いで、玄関の脇に置く。
「こんばんはー」とこそっと室内を覗くと、「遅い!」と胡坐あぐらをかいている大国さん。少し不機嫌なように見える。

「すいません……? あれ? 八意さんは?」
「もう着く。相変わらず手間取っている様子でな……実は、今回頼みたい人物なんだが、ちょっと変わった者なのだ」

 そう言うあんたも相当だよ! 大国さん!

「翔平が学校に行っている間は、迦具土に頼む。帰宅したら翔平はこっちに来てくれ。できれば夕飯もここでとってもらいたい」
「えー、婆ちゃんに昼も夜も弁当頼むの?」
「そ、それなりの報酬は出してるだろう?」

「そうだけど、ここじゃ温かいご飯食べられないよ?」と抵抗してみる。

「カセットコンロというのと、ストーブがあればなんとかなるだろう?」

 神社の敷地内でそんなことしていいわけないだろ!
 思いっきり心の中でツッコミを入れると、心を読んだのか大国さんが、結界も張ってあるし、次の神様もここで寝起きすると言ってきたので、もう何も言うまいと、八意さんが来るのを待つ。やがて、扉が開いて八意さん達が入ってきた。

「すまんな、遅れてしもうた」
「あの……」

 八意さんの隣にいるのは、着物姿の体の大きな男性。
 被り物からして、かなり古い人だと思う。どこかで見た気が……
 そんなことを考えていると、「今回頼みたいのは、この方じゃ」と八意さんがいつものようにひげを触りながら言う。

菅原道真すがわらのみちざねと申す」
「俺でも名前知ってる! なんで? なんでここにいるの?」
「翔平、そう興奮するでない。実はのぅ……神と一口に言っても、色々と種類があるのはもう覚えたかの?」

 八意さんに聞かれ、「はい……」と答えるものの、全部覚えたわけではない。

「ふむ。道真公と大国主様との会談の際にお主のことを話してのぅ。道真公が興味を持たれたそうじゃ。それで、今回は――話し相手になってもらいたい」

 八意さんの説明に、大国さんが頷く。

「そういうことだ」

 どういうことだよ! それにさっきの質問の意味は? 大国さん達神様は、言葉が足りないから困る!
 呆れつつも、道真さんに声をかける。

「えーと、菅原道真さん?」
雷公らいこうでもなんでも好きに呼ぶとよい」
「じゃあ、道真さんでいいですか?」
「うむ」
「なんでなんですか?」

 ただの人間の何に興味を持ったのか、そもそも大国さん……何を話したんですか? そう聞きたいのをグッとこらえた。

「大国主が面白い子供がいると言っていたのも理由だが、息抜きがしたい。もし無理であるならば……」
「いえいえいえいえ。大丈夫ですよ、佐野翔平です。よろしくお願いします」

 そう言って頭を下げる。
 今回は有名な菅原道真ということもあって、正直なところ、かなり興味が湧いた。だが、この間、大国さんが毎日と言っていたし、明日からどうなるんだろう……
 心配そうにしていたら、特に注意事項はないので、今日はもう帰っていいと告げられた。明日、学校が終わったら来ますと言って家を出る。
 自転車で帰る途中、肉まんを四つ買った。家に到着して早速、祖母に肉まんを渡して、冷蔵庫からお茶のポットを出してお茶を入れる。すると迦具土が呆れ顔になった。

「お前、冷たいものばかりじゃお腹壊すぞ?」
「喉が渇くんだよ」

 買ってきた肉まんでお茶にしていると、「今回はどんな方だった?」と祖父に聞かれる。

「爺ちゃんも驚くと思うよ。なんと菅原道真だって! すごくない?」
「すごいどころか、またどうしてそんな方が……」
「俺に興味を持ったとか言ってたけど。あ、肉まん冷めるよ?」

 祖父にも肉まんを勧めつつ、今日のことを思い出して呟く。

「でも、昼も夜も婆ちゃんにご飯作ってもらうのもなー」

 大国さんから聞いたことを話すと、祖母は「私は構いませんけどねぇ」と、ニコニコ笑う。

「カセットコンロと、ストーブでなんとかしろって」
「そうねぇ、だったら翔平が料理したら?」
「は?」
「おかずとかは持たせてあげられるけど、汁物は無理でしょう? それに、道真公の食事情がわからないとねえ」

 料理は手伝いくらいしかしたことがないのに、なんて難題を突きつけるんだ! それに俺は来月初めからテストだよ!
 心の声が口に出ていたらしく、「勉強を教えてもらったらいいだろ?」と迦具土が言ってくる。

「誰にだよ?」
「道真に。勉強と言えば道真だろ?」
「勉学の神様に教われなんて、怖いこと言うな! 迦具土の馬鹿ー」

 残りの肉まんを食べながら、明日は祖母におにぎりを作ってほしいこと、卵焼きと煮物、あと味噌汁みそしるを大きな水筒で持っていきたいことを伝えた。すると、祖父が急に渋い顔をする。

「翔平、まさかとは思うが……」

 あ、これは神様の勉強をせずに休むつもりじゃないかって聞かれるな……
 祖父の一言に、慌てて「よ、読むよ? 今から……風呂入ってから読む!」と答える。

「まだ何も言っておらん……」
「だって……」
「だってじゃない。本に載っていることがすべてではないから、ちゃんと道真公と向き合って話をしなさい」
「わ、わかった」

 風呂に逃げ、湯船にかりながら、道真さんについて学校の授業で習ったことを思い出す。が、左遷させんされたり、怒って雷を落としたりした人としか思い浮かばず、明日聞けばいっか! と風呂を出た。


 翌日、学校から帰宅してすぐ、祖母に作ってもらった弁当を持って神社へ行く。今日は大国さんに言われた通り、迦具土が先に来ているはずだ。

「こんにちは」

 戸を開けて挨拶あいさつして中に入ると、「ばかもーん! これは斜めには動かぬと言ったではないか」と、いきなり道真さんの大きな声。迦具土と何かしているらしい。

「じゃあこっちで」
「それもいかーん! 王手になるではないか」

 将棋かな? 王手になるから置いちゃいけないって、どんな将棋だよ……
 ふすまを開けて重箱の入った風呂敷と、買ってきたジュースとお茶を置き、紙コップも用意する。
 もうひと勝負! と声が聞こえたので、その間に水が出るか確かめに行くと、裏口に蛇口があり、そこの水が使えるようだった。いちいち外に出るのは面倒だなーと思いながら、持ってきた鍋に水を入れてストーブにかける。
 パチッパチッと駒を置くいい音が聞こえてきた。邪魔してもいけないので、リュックから今日の数学と化学の課題プリントを取り出して文机ふづくえで頭を悩ませる。
 いつの間にか集中していたようで、「今の学生達は難解な形の問題を解くのだな……」と、道真さんに声をかけられるまで気づかなかった。

「道真さん達が将棋をさしていたので、宿題してました」
「うむ! 偉い!」
「はぁ、ありがとうございます」

 ここでやらないと、家に帰ってからは時間が絶対にないと思って持ってきたのだが、道真さんはプリントを見るなり、「まったく意味がわからん」と言って、将棋に誘ってきた。
 あと一枚だけで終わるからちょっと待ってほしいとお願いすると、「翔平と言ったな? お主は頑張り屋な子だな」と何故か頭をでられる。
 なんとか答えのらんを全部埋められたので、将棋しましょうか? と声をかけたところ、道真さんは風呂敷が気になったらしく、先に食事にすることに。
 一緒に持ってきた徳利とっくりに、台所に置いてあった日本酒を入れて、ストーブの鍋の中へと入れた。それを熱燗あつかんにする間、風呂敷から弁当を取り出して並べる。

「ほう、これはまた色とりどりで綺麗だな……」

「婆ちゃんが作ってくれたんです。お箸と紙皿を置いておきますので、好きなのをとって食べてください」と説明した後で、一人ずつのお弁当にした方がよかったかもしれないと慌てていると、「食事については大国主から聞いておるし、私は気にしない」と言う道真さん。
 それから、頂きますと手を合わせ、鍋から出した徳利とっくりを拭いて道真さんのお猪口ちょこに注ぐ。

「うむ、美味うまいな。卵も美味うまい。この明太子とキュウリの数の子えは酒によく合う」
「あの、普通のご飯はよく食べるんですか?」

 以前、迦具土から神様は普通の食物を食べる必要はないと聞いていたので、気になって聞いてみた。

「時折、色々な神が会いに来てくれる。その時に食べるが、何故だ?」

「なんか俺、先生役なのに神様について本当にわかってないなって……」とつい本音が出てしまい、怒らせてないかな? と道真さんを見る。

「それは仕方がないことだと思うが?」

 おつまみを食べながら答えてくれる道真さん。

「それでいいんでしょうか? あ、すいません。道真さんはここへくつろぎに来ているのに、相談みたいなことしちゃって……」
「何、構わん。構わん。ちゃんと自分の意見が言えるのはいいことだ」

 その後もぱくぱくとつまみを食べ、熱燗あつかんのお代わりをし、上機嫌の道真さんだったが、途中でウトウトとし始めた。なので席を立ち、迦具土と布団を敷いて運ぶ。

「この重さって着物のせいかな……」
「だろうな。この帽子脱がしたらまずいか? こいつと同じ時代の連中は脱いで寝てた気もするんだが、まぁ、いっか」

 顎紐あごひもを解いて被り物をとり、毛布と布団を肩までちゃんとかけ、片付けて家を出る。

「なぁ、毎日こんな感じでいいのかな?」
「さあな。俺は明日も昼から行くけど、また将棋かなー」


 家に着き、風呂に入っている間に祖母が重箱などの片付けをしてくれた。風呂を出た後、お弁当はどうだったかと聞かれる。
「うん、美味おいしかったって。でも、つまみ系ばっかり食べてたなぁ」と食事の時のことを思い出す。

「あら、そうなの? 昔の人はどんなご飯を食べてたのかしらねぇ」

 ほほほ。と、楽しそうに笑っている祖母に、明日もよろしくと言って布団に入って寝た。


 次の日もその次の日も、学校から帰ってすぐに神社へ行き、特に何をすることもなく、宿題をしてお弁当を食べて、他愛たあいない会話をして帰宅。
 将棋より簡単だからと、トランプとオセロを持っていくと、道真さんはすぐにルールと勝ち筋を理解してしまった。
 見た感じは貫録かんろくがあり、少し怖そうに見えるが、話すと気さくで、国語のプリントをしていると漢字の間違いなどを教えてくれる。人は見た目によらずという言葉がぴったりな人かもしれない。
 しかも、結構話好きのようで、話し相手が欲しかったというよりは、俺に自分の話を聞いてもらいたかったんじゃないかとさえ思えてくる。
 今日も、道真さんが課題のプリントを覗き込んで話しかけてきた。

「翔平、この古文とやらのお題に悩んでいるようだが?」
「ちょっと苦手で……でも、なんとか自力で頑張ります」
「そうか?」

 きっと道真さんには簡単なんだろう。なんと言っても平安時代の人だし……
 ちらっと見ると、迦具土とオセロで勝負を始めていたので、さっさとプリントを終わらせてご飯の準備をする。
 二日目からは重箱の一段目がすべておつまみに変わっていたので、道真さんは喜んでいた。
 食事をしながら、昔の話を聞く。今とは随分違う生活だったんだなぁと思っていたら、「昔は灯りがこんなになく、夜は書物を読むのも難儀した」とポツリポツリと語ってくれる。
 道真さんはこういう雑談でも説明がわかりやすいし、昔の道具などは紙に筆で絵を描いてくれるので、とても想像しやすい。
 学校の先生もこんな風に教えてくれたら、苦手科目がなくなるんじゃないかなーなどと考えていると、「誰しもがうまく説明できるわけではない」と言われてしまった。
 そういえば、神様には心の声が筒抜けなんだった。

「あの、道真さんの時代って、夜は提灯ちょうちんとかの灯りだったんですよね? 夜に出歩く時、怖くなかったんですか?」

 なんとなく気になったので聞いてみたところ、道真さんは昔を懐かしむように目を細める。

牛車ぎっしゃに乗っている時は、そうは感じなかったな。しかし日暮れを怖がる者もいた。私も幼少の頃は化け物が出ると思って怖がったが、成長してからは本当にいるのならば姿を見せてみよと考えるようになり、わざわざ廃屋に行ったこともある」
「肝試し?」
「そうなるのかな? だが、翔平の歳の頃は勉強することが楽しくて、本ばかり読んでいた。十八の歳には文章生ぶんしょうせいになっていたから……」
「なんですかそれ」
「今の大学生みたいなものだ。一番、勉学に夢中になっていた時期かもしれん」

 平安時代の話を聞き、その日も無事に終わったが、今までのことを考えてみると、勉強したり道真さんの話を聞いたりしているだけで、外に出ていない。
 すると、迦具土に声をかけられた。

「何を考えてる?」
「んー? ちょっとね……」

 家に帰ってから、祖父に相談があると話し、祖父の部屋で座布団に座る。

「爺ちゃん、毎日婆ちゃんに弁当を作ってもらってるけど、婆ちゃん大丈夫かな?」
「張り切っているぞ? それがどうかしたのか? 道真公のお口に合わなかったとか……」
「いつも美味おいしいって食べてるよ。それに、当時の話も沢山してくれて新鮮なんだ。で、神様って基本的に神社とかに一人でいるから、誰かに話を聞いてもらいたいんじゃないかなって、ここ数日で思うようになって……。それと気になったのが、道真さんがまだ一度も外に出てないことなんだ」
「確かに、ずっと家の中というのも気が塞ぐだろうが、それをどうするのか決めるのは、翔平、お前の役目だ。何が道真公のためになるのかよく考えてみなさい」
「考えてみるよ。また……話してもいい?」
「もちろんだとも」

 おやすみと言って二階に上がり、迦具土の部屋を覗くと、もう寝ている。なので、自分の部屋に戻って学校の授業の予習をしておくことにした。


 三連休の翌日の学校は、雪で警報が出たので休みとなり、朝ご飯を食べてから、祖母の手伝いをすることにした。

「あ! 卵が! 婆ちゃん、げる!」

 悪戦苦闘して作った玉子焼きは少し甘め。そしておむすびを、さけ・おかか・明太子の三種類作った。後ろの台では迦具土が白菜をぶつ切りにしている。
 作ったものをなんとか重箱に詰めたが、荷物の多さに加え、弁当の見た目がどうもイマイチでちょっと落ち込む。

「初めてにしては上出来よ。ほら、ウインナーは上手に焼けたじゃないの」
「それくらいはできるよ。婆ちゃん、他を褒めてよね」
「ほほほ。気をつけて行ってらっしゃいな」

 二台の自転車の荷台に荷物をくくりつけ、かっぱを着てゆっくりと進む。
 結構な雪が降る中、夜にはやんでくれればいいなと思いながら、自転車をぎ続ける。神社に着いた時には寒いのに汗だくだった。

「風邪引きそう」

 荷物を一気に持ち、土間の上に運んでから、こんにちはと挨拶あいさつをし、お湯を沸かす。

「熱いので気をつけてくださいね」

 道真さんが本を読んでいる横にお茶を置いて、読み終わるまで迦具土とトランプで遊ぶ。その後、そういえばじっくりとこの家の中を見たことがなかったなと気づき、探検しようということになった。

「上への階段とかないのかな? ほら、隠し階段的な」
「天井にあるだろ?」
「どこかわかんないよ……」

 懐中電灯で照らして、棒でつついていると、カタンと音がして天井の一部が浮く。
 二人でどうにか開けたら階段が出てきたので、からくり屋敷みたいだと言いながらのぼる。
 上には巻物や壺、本が置いてあり、かなりほこりを被っていた。

「この家って、神社の人が管理してるんだよね?」
「これは今まで見つからなかったんだろう。で、どうするんだよ、これ」
「触ったらやばいかな?」

 そう言った瞬間、迦具土が遠慮なしに本を一冊手に取り、ほこりを払う。

「おい!」
「いいんじゃねーか? 人の匂いはしないし」
「そんなことわかるの?」

 俺だって中身を見てみたい。でも、もし価値のあるものだったらと思うと怖くて手に取れない。
 なのに……

「ほう? こんなところに隠し部屋が?」

 いつの間にか上がってきていた道真さんが、「書物がいっぱいあるが……」と手に取る。道真さん、やめて!
 このあとの展開が予想できすぎて今すぐ帰りたいと思いつつ、諦めてバケツと雑巾ぞうきんを用意し、再び上へ。すると迦具土が言った。

「よくわかってるじゃねーか! 掃除だってよ」
「やっぱりか」

 迦具土と二人で乾いた雑巾ぞうきんを使い、ほこりをそっとぬぐっては捨て、ぬぐっては捨てと繰り返す。本の手入れは道真さんがしてくれるというので、床掃除も始める。

「なんで雪の日に大掃除なんだよっ!」
「俺に言うな! そもそも俺は道真より格が高いんだぞ!」

 文句を言う迦具土と二人で半分ずつ屋根裏の床を拭く。屋根までが高く、文机ふづくえ燭台しょくだいなども置いてあったので、蝋燭ろうそくを持ち込んで灯りをつける。すると道真さんが満足そうに頷いた。

「かなり古いものだが、そんなに損傷がなく保存状態もよい。しばらく退屈せずに済みそうだ」

 退屈だったんですか、あなたは‼
 ひとまず食事にしようと下りていくと、昼はとうに過ぎていた。余分に作ってきたおむすびを食べてから、もう一度掃除に戻る。

「ここのこと、大国さんは知っていたんでしょうか?」

 そう道真さんに話しかけたら、迦具土が口を挟んだ。

「知ってるに決まってんだろ? 絶対に面白がってやがる」
「そう怒るなって。でも、秘密にしていたんだから、大切なものなのかな。ちゃんと報告をした方がいいかも」

 いくら結界が張ってあって、他の人からは見えないようにしてくれているとはいえ、勝手なことをして神社の管理の人にバレてしまったら元も子もない。それよりは先にこちらから伝えた方がいいんじゃないだろうか。
 すると、道真さんに聞かれた。

「翔平よ、誰になんと言うつもりだ? ここで遊んでいたら見つけましたと言うのか?」
「あ……」
「はっはっはっ。お主は若い頃の私に似ているところがあるなぁ。だから大国主も紹介してくれたのかもしれぬ。さて、日が暮れるまでにもう少し掃除を進めておこう」

 そう言いながら自ら雑巾ぞうきんを絞って拭き掃除を始める。
 掃除まで自分でやるなんて、かなりイメージと違うのだが……
 分担して掃除をした後、時計を見て夕飯の支度したくに取りかかった。
 手を洗って、鍋に水を入れ、婆ちゃんが作ってくれた濃縮の出汁だし醤油じょうゆを注いで味見をし、肉や魚、野菜をどっさりと入れて煮えるのを待つ。


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