60 / 73
四社
.
しおりを挟む
「階段を作るのは見ていてわかるが……あれは妖力ではないし、力が出る時に体から発する気が凄まじい。まさかあんな子供がと思っていたが……」
「見てみたいですが、今はやめた方がいいでしょうね。雪翔の力は神のそれに近いのかも知れませんねぇ」
「何れにせよ、我々はしばらく影に戻らせてもらうよ。水狐や葉狐辺りならばそこまで影響は受けるまいし。にしても、何故紫狐は平気なんだろうね?我らの次に力があるというのに」
「あの子供が守っておるのかもしれんが、無意識だとすれば、それはそれで脅威となるやもしれん」
「そうですねぇ。何か考えないととは思いますけど、今の所野狐も出ていませんし、他の妖もまだ大人しいので大丈夫でしょう」
「そう言えば、栞が下宿から外に出たが?放っておいていいのかい?」
「商店街に行く程度でしたら所々に私の結界が張ってあるので何かあればすぐにわかりますし、彼女もそれなりに雑魚くらいははらえるでしょう」
ひとまず寝ますと布団にもぐり、横になりながら意識を飛ばす。
栞は買い物で魚屋に立ち寄っているところ。何も問題はなさそうだ。
雪翔は神輿の掃除だろう。雑巾を持って丁寧に拭いている。
鳥居の前から順に白い線が引かれているのは、屋台の場所だろうが、数からしてかなり多く出店が出るようだ。
その中で飛ばなくてはいけないのかと思うと、人には見えずとも、突風くらいは起きるだろうとつい考えてしまう。
「冬弥様」
「橙狐?何ですか?」
「影から出てもいいですか?」
「構いませんけど、影響は?」
「それほどありません。みんなまだまだ動けます。社の鳥居周りの結界が緩んでいるようですが」
「え?」
もう一度意識を飛ばすと、大きな飾りのしめ縄が鳥居の前に置かれていた。
「さっきまでは無かったんですけどねぇ……しめ縄のせいですね。気にしないで構いませんが、無理のないように一度見てきてください」
「行ってきます」
やはり千年祭ともなれば、人々の活気も違い、神社にかなりの陽の気が集まる。
それに祭りとのことで、街にも活気が溢れているので当日は体が思ったように動かないかもしれない。
900年でさえかなり苦労して飛んだものだと思いを巡らせ、琥珀と漆にゆっくりと休んでくれといい、自分もひと眠りすることにした。
気づけばもう日が傾いて肌寒さを感じる時間。
夕餉の支度を……と思い、上着を着て土間へと行こうとしたら、粥を持った栞と鉢合わせした。
「あの、起きられても良いのですか?」
「ええ、何とか。夕餉の支度をと思いまして」
「勝手にとは思いましたが、もうすべて済ませました。お布団も干してシーツも被せましたし、お買い物にも行って夕餉の支度も。先に冬弥様に消化の良いものをと粥を持ってきたのですが……」
「大変だったでしょう?」
「いえ、途中で隆弘さんと堀内さんが手伝ってくれまして、今雪翔君と皆さん銭湯へ」
「そうでしたか……迷惑をかけてしまいました」と中へと招く。
「あ、お酒は今日はやめておいた方が宜しいかと」
お礼を言い、粥を食べている間にお茶を入れてくれる。
とても良い見合い相手だと思うが、兄も結婚しているし、次男の自分が急ぐ必要は無いとずっと思っていた。
だが、兄夫婦には子がおらず、余計にこちらに期待がかかってくる。
父からすれば、早く子を作り家のために……との事なのだろう。
「冬弥様?」
「あ、美味しかったです。ありがとうございました」
「いえ。朝もゆっくりなさって下さい。魚を焼いて卵焼きなどならば私にもできますし、和物も前と同じになってしまいますが」
「ではお言葉に甘えて」
多分これが気が滅入っている時や病の時に感じる、この人ならばという感情なのだろう。
もしもと思うことがないこともないが、そうすれば栞はあの社の狐では居られなくなるのが掟だ。
それは取り上げることにもなり、彼女も本意ではないだろう。
そう考えると、今このままの状態でまず祭りを成功させることだけに専念しなければ、邪心が入るとどうしても飛べなくなってしまう。
「お聞きしたいことがあるんですけど」
「何ですか?」
「冬弥様は私の事は見合い相手としてちゃんと見てくださっているのかと……」
「初めは思っていませんでしたよ?結婚なんて面倒だとも思ってましたし。それに、うちの兄夫婦に子がいないので早く後継をとこちらに期待されていることもご存知ですよね?」
「知っています」
「最近は二人でいる暮らしもいいのではと考えてます。ですが、祭りでちゃんと飛べるまで答えは待ってもらえませんか?それに、社のこともありますし」
「はい。ちゃんと話してくださってありがとうございます。また朝はこちらにお持ちしますね。何か違う味をとも思うのですが……」
「あぁ、なら、揚げ下さい。細かく切って梅と一緒に……」
「はい」
そう言って部屋を後にする栞を見てから、ふぅっと息を吐く。
女性に気を使う方ではないが、なんでも自分でやってきている分、甘える行為がとても苦手な部類に入ってしまう。
「見てみたいですが、今はやめた方がいいでしょうね。雪翔の力は神のそれに近いのかも知れませんねぇ」
「何れにせよ、我々はしばらく影に戻らせてもらうよ。水狐や葉狐辺りならばそこまで影響は受けるまいし。にしても、何故紫狐は平気なんだろうね?我らの次に力があるというのに」
「あの子供が守っておるのかもしれんが、無意識だとすれば、それはそれで脅威となるやもしれん」
「そうですねぇ。何か考えないととは思いますけど、今の所野狐も出ていませんし、他の妖もまだ大人しいので大丈夫でしょう」
「そう言えば、栞が下宿から外に出たが?放っておいていいのかい?」
「商店街に行く程度でしたら所々に私の結界が張ってあるので何かあればすぐにわかりますし、彼女もそれなりに雑魚くらいははらえるでしょう」
ひとまず寝ますと布団にもぐり、横になりながら意識を飛ばす。
栞は買い物で魚屋に立ち寄っているところ。何も問題はなさそうだ。
雪翔は神輿の掃除だろう。雑巾を持って丁寧に拭いている。
鳥居の前から順に白い線が引かれているのは、屋台の場所だろうが、数からしてかなり多く出店が出るようだ。
その中で飛ばなくてはいけないのかと思うと、人には見えずとも、突風くらいは起きるだろうとつい考えてしまう。
「冬弥様」
「橙狐?何ですか?」
「影から出てもいいですか?」
「構いませんけど、影響は?」
「それほどありません。みんなまだまだ動けます。社の鳥居周りの結界が緩んでいるようですが」
「え?」
もう一度意識を飛ばすと、大きな飾りのしめ縄が鳥居の前に置かれていた。
「さっきまでは無かったんですけどねぇ……しめ縄のせいですね。気にしないで構いませんが、無理のないように一度見てきてください」
「行ってきます」
やはり千年祭ともなれば、人々の活気も違い、神社にかなりの陽の気が集まる。
それに祭りとのことで、街にも活気が溢れているので当日は体が思ったように動かないかもしれない。
900年でさえかなり苦労して飛んだものだと思いを巡らせ、琥珀と漆にゆっくりと休んでくれといい、自分もひと眠りすることにした。
気づけばもう日が傾いて肌寒さを感じる時間。
夕餉の支度を……と思い、上着を着て土間へと行こうとしたら、粥を持った栞と鉢合わせした。
「あの、起きられても良いのですか?」
「ええ、何とか。夕餉の支度をと思いまして」
「勝手にとは思いましたが、もうすべて済ませました。お布団も干してシーツも被せましたし、お買い物にも行って夕餉の支度も。先に冬弥様に消化の良いものをと粥を持ってきたのですが……」
「大変だったでしょう?」
「いえ、途中で隆弘さんと堀内さんが手伝ってくれまして、今雪翔君と皆さん銭湯へ」
「そうでしたか……迷惑をかけてしまいました」と中へと招く。
「あ、お酒は今日はやめておいた方が宜しいかと」
お礼を言い、粥を食べている間にお茶を入れてくれる。
とても良い見合い相手だと思うが、兄も結婚しているし、次男の自分が急ぐ必要は無いとずっと思っていた。
だが、兄夫婦には子がおらず、余計にこちらに期待がかかってくる。
父からすれば、早く子を作り家のために……との事なのだろう。
「冬弥様?」
「あ、美味しかったです。ありがとうございました」
「いえ。朝もゆっくりなさって下さい。魚を焼いて卵焼きなどならば私にもできますし、和物も前と同じになってしまいますが」
「ではお言葉に甘えて」
多分これが気が滅入っている時や病の時に感じる、この人ならばという感情なのだろう。
もしもと思うことがないこともないが、そうすれば栞はあの社の狐では居られなくなるのが掟だ。
それは取り上げることにもなり、彼女も本意ではないだろう。
そう考えると、今このままの状態でまず祭りを成功させることだけに専念しなければ、邪心が入るとどうしても飛べなくなってしまう。
「お聞きしたいことがあるんですけど」
「何ですか?」
「冬弥様は私の事は見合い相手としてちゃんと見てくださっているのかと……」
「初めは思っていませんでしたよ?結婚なんて面倒だとも思ってましたし。それに、うちの兄夫婦に子がいないので早く後継をとこちらに期待されていることもご存知ですよね?」
「知っています」
「最近は二人でいる暮らしもいいのではと考えてます。ですが、祭りでちゃんと飛べるまで答えは待ってもらえませんか?それに、社のこともありますし」
「はい。ちゃんと話してくださってありがとうございます。また朝はこちらにお持ちしますね。何か違う味をとも思うのですが……」
「あぁ、なら、揚げ下さい。細かく切って梅と一緒に……」
「はい」
そう言って部屋を後にする栞を見てから、ふぅっと息を吐く。
女性に気を使う方ではないが、なんでも自分でやってきている分、甘える行為がとても苦手な部類に入ってしまう。
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
下宿屋 東風荘 5
浅井 ことは
キャラ文芸
☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*゜☆.。.:*゚☆
下宿屋を営む天狐の養子となった雪翔。
車椅子生活を送りながらも、みんなに助けられながらリハビリを続け、少しだけ掴まりながら歩けるようにまでなった。
そんな雪翔と新しい下宿屋で再開した幼馴染の航平。
彼にも何かの能力が?
そんな幼馴染に狐の養子になったことを気づかれ、一緒に狐の国に行くが、そこで思わぬハプニングが__
雪翔にのんびり学生生活は戻ってくるのか!?
☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*☆.。.:*゚☆
イラストの無断使用は固くお断りさせて頂いております。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
課長と私のほのぼの婚
藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。
舘林陽一35歳。
仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。
ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。
※他サイトにも投稿。
※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる