下宿屋 東風荘

浅井 ことは

文字の大きさ
39 / 73
居候

.

しおりを挟む
8畳の部屋に敷かれた絨毯の色は淡いピンク。

「こんな色でしたかねぇ?」

板の間に敷くのには何でもいいと、安いのを適当に買ったので、記憶があやふやだったが、タンスは前に気に入って買ったものの、囲炉裏に似合わないと使わずに閉まっていたものなので使えないことは無い。

押し入れ側にタンスとベットを置くとスッキリと収まり、出し入れも不便はなさそうだが、テーブルだけというのは味気無い。

客間の布団をベッドに敷き、カーテンがいると商店街へと買いに行く。

「あの、色って僕が決めてもいいですか?」

「構いませんよ?」

「僕、本当はインテリア関係の仕事がしたくて……親はちゃんと大きな会社に入るために勉強しなさいって言うけど……」

「好きなんですか?」

「部屋作りも、家具などを見るのも好きです」

「なら、インテリアなどの関係の大手に行けばいい。そのために今頑張ればいいんじゃないですか?」

「親は……許してくれるでしょうか?」

「結果を出すのは雪翔ですよ?ここのお店でいつも買うんですけど、好きなの選んでください」

セールと書かれたワゴンで幾つか濃い色のカーテンを選んでいる。

「サイズってこれで合ってますか?」

書いてあるのを見て大丈夫だと言うが、ピンクの絨毯に何色を合わせるのだろうと思いながらも、書かれている値段にビックリする。

「これ、二枚入ってますよね?」

「はい。生地も遮光になってるのに、980円の税込は安いと思って」

「ですよね?傷物でしょうか?」

「在庫処分て書いてありますけど……あ、これいいかも」

雪翔がワゴンから出したカーテンの色は白から濃いピンクへのグラデーションカーテンだった。少し花の刺繍がしてあるだけなので、落ち着いた感じになるだろう。

「あの、カーテン安かったから、この500円のラグも買ってもいいですか?」

「構いませんけど、どこに置くんです?」

「テーブルの下です」

買い物を終えて、下宿に帰る時に100円ショップに立ち寄り、ジャラジャラとしたビーズが沢山ついたものを雪翔が買って、それを持って音々の部屋へと入る。

カーテンを取り付け、白い小さなテーブルの下にアイボリーの楕円形のラグを敷いたら、部屋らしくなり、ドアとキッチンの間に100円ショップで買った突っ張り棒につけられたビーズの暖簾が掛けられる。

「わぁ、可愛い……」

「スッキリとした部屋になりましたね」

「音々さんこれで良かったですか?」

「はい、ありがとうございます。でも私お金は社に置いてきてあって」

「僕はいいです。気に入ってもらえたなら」

「そういう事です。今夜からここを使ってください。で、お家賃なんですけどねぇ」

「私働いてないんですけど」

「なので、下宿を手伝ってもらいます。壊滅的にできない料理はしなくていいですから」

「酷い」

「食材がもったいないです。後で日用品を渡しますので取りに来てくださいね」

「……はい」

「さて、今宵の夕餉は何にしましょうかねぇ」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

下宿屋 東風荘 5

浅井 ことは
キャラ文芸
☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*゜☆.。.:*゚☆ 下宿屋を営む天狐の養子となった雪翔。 車椅子生活を送りながらも、みんなに助けられながらリハビリを続け、少しだけ掴まりながら歩けるようにまでなった。 そんな雪翔と新しい下宿屋で再開した幼馴染の航平。 彼にも何かの能力が? そんな幼馴染に狐の養子になったことを気づかれ、一緒に狐の国に行くが、そこで思わぬハプニングが__ 雪翔にのんびり学生生活は戻ってくるのか!? ☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*☆.。.:*゚☆ イラストの無断使用は固くお断りさせて頂いております。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

処理中です...