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閑話二 周防の友人
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周防は退屈していた。今日は風邪を引いたと伝えてもらって休んだのだが、・・・実は朝食を食べ過ぎての腹痛だった。ただ、それはいくらなんでも格好悪いので、風邪ということにしたのだ。朝から何度も厠に駆け込むわ、母からは叱責を受けるわで、今はすっかり体調は良いものの、散々だった。
母から、体調が良いなら勉強しろと言われ、とりあえず机に向かったが、まぁ集中出来ない。 「・・・せっかく久しぶりに天気も良いのになぁ・・・。」
弟達も母ももともと集まりの予定があって留守にしていた。貴重な一日をこのまま潰してしまうのはやっぱりもったいないと、周防は下駄を突っ掛けて庭に出た。
家人に見つからぬように、庭の裏手の植え込みから抜け出す。城に通うようになってから、なかなか行けなかった所へ行こうとある家に向かっていた。
「松じい、来たぞ。」
開いたままの上がり口から声をかけて、あとは勝手に上がってしまう。入ってすぐの居間では、松じいと呼ばれた年老いた男が、広げた布の上で何やら作業をしていた。
「久しぶりだな。何をやっている?」
「・・・かごの修理をしております。」
松じいの横にはいくつか壊れたかごがあり、今は材料の竹を薄く加工している。直すにはまだ時間がかかりそうだった。
もともとは農家の使っていた家屋だったらしく、居間の他にも部屋が二つあり、やもめ暮らしには広すぎる。だが、松じいは昔医者をやっていたそうで、奥の部屋にはその頃使っていたという医学書がたくさん積んであった。前に、もう医者をやらないのかと聞いたことがあるが、やらないと、答えは一言だけだった。
周防は松じいの作業が終わるまで、いつものように、その部屋で本を読むことにした。読むと言っても、周防にはわからない単語ばかりで、図を眺めるだけのことも多かったが。父や母が考えているように外を駆け回っていることもあったが、松じいの家で本を読んでいることも少なくなかった。
気付くと昼を回っていたようで、松じいは昼餉を用意していた。用意とは言っても、よそった冷飯に漬物をのせてお茶漬けにしたもので、周防も勝手にそれに習った。松じいは何も言わない。
「松じい、もう修理は終わったのか?」
お茶漬けを掻き込みながら、周防は尋ねた。松じいは、こくりと頷く。
「ではこれからどうする?」
「魚の罠を上げに行きます。」
「俺も行って良いか?」
松じいは再びこくりと頷いた。茶碗などを片付け、先程松じいが修理していたかごを一つ持って、近くの川へ向かう。
川にはいくつか罠を仕掛けてあって、一つ回収しては次の罠を上げに行く。周防が持っているかごで、魚がぴちぴちと跳ねた。沢蟹も何匹か捕れた。沢蟹も食べるのか聞くと、今日は砂抜きをするから明日食べると松じいは言った。
家に帰ると、大きめの魚を二匹串焼きにして、あとの小魚は酒と醤油と多めの砂糖で甘く煮た。串焼きは一つ周防にくれた。
あとはまたそれぞれ好きにしていた。松じいは周防がこの家に来ても、嫌そうにもしなければ、歓迎もしない。ほとんどしゃべったりもしないが、周防はこの年老いた友人が好きだった。
日が傾いてきたことに気付くと、さすがに今日は早めに帰っておかなくてはと、本を読みながら寝転んでいた身体を起こした。
「そろそろ帰る。またな、松じい。」
松じいは軽く手を上げ、また来ると言ったことを咎めなかった。
すでに母は帰宅していて、周防はこっぴどく怒られた。跡取りとしての自覚が足らないだの、弟を見習えだの。いつものことで、耳にタコができている。
とりあえず、明日からはまた真面目に城へ通おう。城での勉強は好きではないが、京様達と過ごす毎日も嫌いではない。
翌日腹痛で休んだことを京に指摘されて、しばらくからかわれることになるのをこの時周防はまだ知らない。
母から、体調が良いなら勉強しろと言われ、とりあえず机に向かったが、まぁ集中出来ない。 「・・・せっかく久しぶりに天気も良いのになぁ・・・。」
弟達も母ももともと集まりの予定があって留守にしていた。貴重な一日をこのまま潰してしまうのはやっぱりもったいないと、周防は下駄を突っ掛けて庭に出た。
家人に見つからぬように、庭の裏手の植え込みから抜け出す。城に通うようになってから、なかなか行けなかった所へ行こうとある家に向かっていた。
「松じい、来たぞ。」
開いたままの上がり口から声をかけて、あとは勝手に上がってしまう。入ってすぐの居間では、松じいと呼ばれた年老いた男が、広げた布の上で何やら作業をしていた。
「久しぶりだな。何をやっている?」
「・・・かごの修理をしております。」
松じいの横にはいくつか壊れたかごがあり、今は材料の竹を薄く加工している。直すにはまだ時間がかかりそうだった。
もともとは農家の使っていた家屋だったらしく、居間の他にも部屋が二つあり、やもめ暮らしには広すぎる。だが、松じいは昔医者をやっていたそうで、奥の部屋にはその頃使っていたという医学書がたくさん積んであった。前に、もう医者をやらないのかと聞いたことがあるが、やらないと、答えは一言だけだった。
周防は松じいの作業が終わるまで、いつものように、その部屋で本を読むことにした。読むと言っても、周防にはわからない単語ばかりで、図を眺めるだけのことも多かったが。父や母が考えているように外を駆け回っていることもあったが、松じいの家で本を読んでいることも少なくなかった。
気付くと昼を回っていたようで、松じいは昼餉を用意していた。用意とは言っても、よそった冷飯に漬物をのせてお茶漬けにしたもので、周防も勝手にそれに習った。松じいは何も言わない。
「松じい、もう修理は終わったのか?」
お茶漬けを掻き込みながら、周防は尋ねた。松じいは、こくりと頷く。
「ではこれからどうする?」
「魚の罠を上げに行きます。」
「俺も行って良いか?」
松じいは再びこくりと頷いた。茶碗などを片付け、先程松じいが修理していたかごを一つ持って、近くの川へ向かう。
川にはいくつか罠を仕掛けてあって、一つ回収しては次の罠を上げに行く。周防が持っているかごで、魚がぴちぴちと跳ねた。沢蟹も何匹か捕れた。沢蟹も食べるのか聞くと、今日は砂抜きをするから明日食べると松じいは言った。
家に帰ると、大きめの魚を二匹串焼きにして、あとの小魚は酒と醤油と多めの砂糖で甘く煮た。串焼きは一つ周防にくれた。
あとはまたそれぞれ好きにしていた。松じいは周防がこの家に来ても、嫌そうにもしなければ、歓迎もしない。ほとんどしゃべったりもしないが、周防はこの年老いた友人が好きだった。
日が傾いてきたことに気付くと、さすがに今日は早めに帰っておかなくてはと、本を読みながら寝転んでいた身体を起こした。
「そろそろ帰る。またな、松じい。」
松じいは軽く手を上げ、また来ると言ったことを咎めなかった。
すでに母は帰宅していて、周防はこっぴどく怒られた。跡取りとしての自覚が足らないだの、弟を見習えだの。いつものことで、耳にタコができている。
とりあえず、明日からはまた真面目に城へ通おう。城での勉強は好きではないが、京様達と過ごす毎日も嫌いではない。
翌日腹痛で休んだことを京に指摘されて、しばらくからかわれることになるのをこの時周防はまだ知らない。
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