ゴミ拾いで3体の夫ができた人間

那原涼

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「申し訳ないのですが、私の伴侶は生涯あの子だけですよ」

「どうしてですか!」

娘がダンッとテーブルに手をついて大きな声を出した。だがすぐに自分の失態に気付いたのか、乗り出した身を戻して肩にかかった髪先を指ではさみ、気まずさをごまかすように声量を落とした。

「その……その方はどんなお方なのですか?あなたのような方がそこまで魅せられるなんて」

「彼はそうですね……恥ずかしがり屋で、気分屋で、怒りっぽいけど心は敏感で……何より体が完璧なんだ」

「体が、完璧?」

「そうですよ。彼は僕が見てきた中でもっとも人間らしい。どこも改造されていない自然な美しさを持っている」

相手を語る時のエルヴィスの笑顔に娘は思わず惚けた。

もとよりエルヴィスが人間好きだと周りの者は知っている。娘もインタビューで知っていた。

もし特権階級や生身の人間とそっくりな伴侶型アンドロイドを造ることを禁止されていなければ、娘はとっくにエルヴィスと同じ顔と性格のアンドロイドをオーダーメイドしていただろう。

だがそこで思わなかったのは、エルヴィスの言う人間好きは何も改造されていない人間を魅力に感じることである。

「しかし、今のご時世、何も体に入れていない人間なんて……」

「そう、その通りです。だからこそ彼を魅力に感じました。何より私は彼に対してーー」

ドォン!

突然この部屋のドアが大きな音を出した。

全員の視線がドアに集まるなか、ドアがゆるゆると開かれていく。

「本当にだめなんです!」

「おせぇよ!もう開いてる!」

「終わったぁ~!」

騒々しい声に真っ先に反応したのはエルヴィスだった。

「アロン!!」

ダッとソファから立ち上がり、まるでサプライズを受けた子どものように顔を輝かせた。

「どうしてここにいるんだい?」

アロンは連れてきた少年を手放し、ズボンのポケットに手を入れながら室内を見渡した。そしてエルヴィスの対面にいる男女が客だと確信した。

復讐を受けやがれ!このアホエルヴィス!

「お前に会いたくなったからに決まってるだろ」

「わっ、私に!?」

エルヴィスの顔が歓喜に変わる。待ちきれずに前に出てアロンを出迎え、その両手を持ち上げた。

だがアロンはいやそうに両手を引っ込めると、つかんでくる手をパァンと叩き落とす。

その行動に局長と娘が驚きで口を閉じれなかった。

「勝手に触んじゃねぇよ!」

「ごめんね。おいで、アロン」

エルヴィスはソファに戻り、隣を叩いてアロンに座るよううながした。

アロンは完全にじゃまするつもりで来たのに、まさか隣に座らされるとは思わなかった。一瞬戸惑うもおとなしく座るとスッと肩を抱き寄せられた。

「勝手に触るなと言っただろ!」

パァン!と肩の手をとはたき落とす。

「すまない、アロン!きみが可愛くてつい」

「うるせぇよ!」

邪魔しに来たつもりなのに先ほどからエルヴィスは自分にしか話しかけない。そのことにアロンは逆に居心地悪く感じた。

10分経った頃、アロンが耐えきれずに客人2人を指さした。

「お、おい…あっちはいいのかよ。さっきからずっと目ん玉剥いてこっち見るんだけど」

エルヴィスはやっと思い出したように2人を見た。確かに目ん玉を剥いている。

「お2人さん、すみません。紹介が遅れましたが、彼が私の妻です」

先に声を出したのは局長の方だった。

「あ、ああ!これは失礼!私は市役所企画部で局長を務めさせて頂いている者です。こちらは私の娘、ユラです」

「は、初めまして。ユラです……」

「おう、俺はアロン」

あまりにもずさんな自己紹介に、2人とも続きを待ったが、一向に続きがないのでこれで終わりらしい。

ユラが気を取り直してアロンに向かって微笑んだ。

「えと、アロンさん?」

「なんだよ」

「エルヴィスさんと仲がとてもいいですね。どういった出会いで?」

「ゴミ拾いしていたら誘拐された」

「ゴッ………え、ゆ、誘拐?」

エルヴィスがイタズラっ子を見るようにアロンの頭をちょんと指でつついた。

「まったくアロンときたら。私たちの出会いはもっと浪漫だったじゃないか」

「事実しか言ってねぇよ!あれのどこに浪漫があったんだよ!」

「そんな……」

エルヴィスがしゅんと肩を落とす。

「イラつく顔すんじゃねぇよ!」

「あ、あの!」

何やらまたふたりだけで話し出しそうな雰囲気にユラが慌てて声を出した。

「つかぬことをお伺いしますが、アロンさんのご出身はどこですか?」

「郊外のゴミ溜め場だ」

「……え?」

ゴミ溜め場といえば貧困区なんじゃ……。

ユラは疑惑的な目をエルヴィスに向けた。なんと否定もなくうなずかれた。

「そうですよ。アロンは貧困区出身です」

今度こそ局長とユラは完全に固まってしまった。エルヴィスが冗談を言っているようには見えないからだ。

ユラは信じられない表情で胸を押さえた。そうしなければ怒りで失態しそうになるからだ。

私が…この、品性のかけらもない貧困区出身の男に負けた?私が?どうして?

「エルヴィスさん、本当にアロンさんとしか結婚しないのですか……?」

「もちろん!彼ほど魅力に感じる人間はいないよ」

「そんな……」

アロンは腕を組んで下を向いた。

本来の計画ではエルヴィスが接客する瞬間を狙って話をはさんでじゃまするつもりだったが、先ほどから自分中心の話しかしない。

思っていることと違うことになんだかこの場にいづらくなり、アロンはおもむろに立ち上がった。

「アロン?」

「悪いけど、俺戻る」

「え?どうして?」

「いや……お前らで話せよ。もともとそのつもりだったんだろ」

「そうだけど、せっかく来たのなら一緒に戻ろう」

「俺は今戻りたいんだよ!」

「じゃあ今戻ろうか」

「あの2人はいいのかよ!」

エルヴィスが局長とユラを見つめた。

「申し訳ないけど、私の妻は生涯アロンだけです。出口まで他の者に見送らせます」

ほぼ帰れと言っているようなものに、局長は慌て、やがてアロンをにらみ、ふんっと立ち上がった。

「それでは市長どの、私どもはこれで失礼します」

「ああ、帰りはお気をつけください」

「ユラ、帰るぞ」

「父さん!」

「早く立ちなさい!」

ユラは唇を噛み締めて渋々と立ち上がった。2人とも去り際にもう一度エルヴィスにあいさつするとその姿が室内から消えていく。








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