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記憶とメモリー9
しおりを挟むライネスがアレアと出会ったのはほんの偶然である。
それはとあるテロ集団の攻撃に遭った民間人を救出する際のことだった。
ライネスは本来なら指揮する立場にいるのだが、この日、副指揮官が代わりに指揮を取り、ライネスは自ら救出の場に立った。
理由は他でもない。テロ組織員がいないかどうかを探すためである。
その際中に、助けを求める女の声を聞いた。
その人がアレアだった。
アレアは自分を助けたライネスに一目惚れをし、その場で求婚をした。
アレアの家はちょうど軍部へ武器提供をする裕福な家庭であり、ライネスは周りの賛同に断れきれず、そのまま求婚を受け入れた。
なにぶん戦闘型アンドロイドなため、結婚生活はギズギズしたものがありながらも、それなりに良好に過ごすことができた。
だが、変化が訪れたのは結婚して2年目のことである。
アレアは箱の中に残った最後の飴を見て眉をひそめた。
「もう残り一個しかない……」
ライネスとの時間は貴重であり、人間の食べ物を口にできないアンドロイドと一緒に食べれるこの飴はさらに特別なものである。
支配階級の軍用アンドロイドであるライネスは常に忙しい。家に帰って来れる頻度も少ない。
「買いに行こう!」
アレアは思い立つとすぐに行動する派だった。
支度をして部屋を出ると、ちょうど廊下を通る人物に出会った。
「エルヴィス!」
「おや?アレアさん、今日は庭園にお出かけですか?」
「お買い物に行くんだよ!」
「いいですね。では送り迎えのひとを準備しましょうか?」
「大丈夫、大丈夫!1人でいけるから!じゃあね!」
遠ざかっていくアレアの背中を見て、エルヴィスは興味を無くしたかのようにまた廊下を歩いた。
だがその日、アレアは帰って来なかった。エルヴィスが実家のほうへ確認をしても戻っていないという。
監視カメラでその姿を探したが、お店に入った姿を最後に途絶えてしまった。
ライネスに連絡が入ったのはその晩のことである。
アレアが見つからないという情報に急いで軍部から戻ってきた。
「アレアが失踪したというのはどういうことだ」
ライネスがエルヴィスに問い詰めるとあちらはどこか悩ましげな顔をした。
「午後に買い物に行くと言って、お店まで入る姿は確認できたけどその後出てくる姿はなかったんだ」
「店は調べたか?」
「調べたよ。なんならエルドにお店の監視カメラまで侵入してもらったけど、相手はなかなか強いハッカーみたいで、エルドが反撃を受けて今自己修復中なんだ」
「ハッカー………まさか」
「グレイシー・アンブラじゃないかな。確か彼女の元には凄腕のハッカーが加わったっていうじゃない?この近くで本人の目撃情報も見つかったらしいし、たぶん関係あると思うよ」
その時だった。
エルドが他のアンドロイドに車椅子を押してもらいながら会議の場に出た。
「あれ?エルドじゃないか。もう修復終わったのかい?」
「いや、先ほどグレイシー・アンブラと名乗る人物が連絡をしてきたらしい」
その名前にライネスは目を鋭くし、エルヴィスはやっぱりと目を見開いた。
「あの女はなんと言っている」
「可愛い子猫を保護したから、受け取りに来てほしい。謝礼はライネスの軍事情報入りメモリーカードだそうだ」
「謝礼だと?」
ライネスが鼻で笑った。
「俺が軍事情報を渡すと思うか?」
「アレアさんのことはどうするんだい?」
エルヴィスが聞くとライネスの判断に一瞬だけの空白ができた。
「………なんとかする。どうせ融通が効く。とりあえず渡すことをエサに誘きだす」
「わかった。じゃあ私が準備してこよう!エルドもお疲れ様。まだ修復できていないならゆっくりしてくるといいよ。他のことは私に任せて」
エルヴィスがニコニコと会議室を出て行った。
ふたりの反応を見ていたエルドは確認の意味で「本気か?」と言った。
ライネスの言っていた融通が何を指しているのかわかっているからだった。
しかしライネスはどこか煩わしそうに頭をかいて、まったく問題だと感じない口調で続けた。
「仕方ないだろ。軍事情報は渡せない。だがアレアを放っておくこともできないだろ。こうすることが一番効率がいい」
「アレアさんなら怒る気がするが」
「あいつの性格ならしばらくは怒るだろうな。なぐさめればそのうち収まるはずだ」
いつものように発散させて、何か贈り物でもすれば怒りは収まるはずだ。
ライネスはそう考えた。
だからーー
ーーだからこの手で殺した。
正確に言えば殺そうとした。
グレイシーはいなかったものの、誘き作戦で姿を現した誘拐犯がアレアを盾に前へ出た。
店の店主を殺してから成り変わったグレイシーの手下である。
「潜伏して1ヶ月でやっとつかんだ機会なんだ!これで俺はあの方のお役に立てる!お前らアンドロイドは全員鉄屑になれ!」
誘拐犯が口にしているあの方はさしずめグレイシーのことだと思われる。
アンドロイド嫌いが全てグレイシーのもとに集まっているんじゃないかと思うほどその側にどんどん湧いてくる。
ライネスは冷めた目で誘拐犯を見やり、そしておびえているアレアを見た。
「ライネス……」
か弱く震える声にライネスは意図的に表情を和らげた。
どうにも戦闘型の顔の作りは怖いと評判らしい。
ぶつけたのか、それとも殴られたのかアレアの顔には酷いアザができている。
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