ゴミ拾いで3体の夫ができた人間

那原涼

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水族館の侵入者

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水族館の中でアロンは窓枠にはめられたガラスの向こうで泳ぐ魚に目を見開いて張り付いていた。

青を基準に色合わせをされた館内はさながら海の中にいるようだった。天井や床に描かれた波模様、見たこともない魚、何もかも新鮮だった。

母の話から想像するより実物のほうが何倍も目に鮮やかだった。

「すげぇ……本当に水の中にいる」

エルヴィスは愛おしげに張り付くアロンを眺めていた。

「アロン、あっちにタコもいるよ」

「タコ?」

言われた通り向かってみると、そこには赤い体をした多足の生き物があった。

記憶の中で母が地面に描いたクラゲの絵とほんの少し似ている。

「クラゲの種類なのか?」

「違うよ。でもクラゲのなかにはタコと似ている種類もあるらしい」

「そうなのか?」

「もう少し進むとクラゲエリアがあったはずだから、行ってみる?」

「あるのか!」

「もちろんあるよ」

そこへライネスが近づいてエルヴィスに何やら耳打ちをした。

「………なるほど。それなら……」

エルヴィスも合わせて声をひそめ、ライネスと秘密の会話をした。

「………本当にいいのか?」

「でもそれが一番効率がよいのでは?」

「……………」

ライネスは深く考え込む様子で黙った。その視線がほんの一瞬アロンに向けられる。

「わかった」

「うん!それじゃあアロン、今はゼノンさん達と一緒にクラゲエリアに行こう。私とライネスは少しだけ離れるよ」

「いいけど、何かあったのか?」

「ごめんね。今は言えないんだ」

「なんだよ……」

「あとで必ず説明するから」

アロンがうなずくとエルヴィスはゼノン達に話をつけ、アロンをクラゲエリアまで連れて行ってもらった。

ゼノン達が前を歩き、アロンがその後ろをついていった。

ふたりの慣れた歩き方からおそらくこの水族館へ来たのは初めてではないのだろう。

アロンは周りを目を輝かせて眺めるものの、ふたりのいちゃいちゃ毎回意識を引き戻される。

今もそうである。

「そんなに寄るな。見られたいるだろ」

「嫌がるなよ~ゼノン。愛してるぜ」

茶化すような言葉にゼノンがますます顔を赤くする。

ふたりの恋人繋ぎを見てアロンがなんともいえない気分になった。

母にもよくしてもらった繋ぎ方である。夜の寒さを凌ぐために身を寄せ合って、手を握りしめて、子守唄を聴きながら眠る日々がまた蘇ってきたような気分になった。

アロンはふと寂しさを覚えて隣に手を伸ばした。

しかし誰かいるはずもなく、いつもうざがらみしてくるエルヴィスや、からかってくるライネス、そして何を考えているのかよくわからないエルドまでいない。

手をポケットに戻して視線を前のふたりに戻すといつの間にか見つめられていた。

「な、なんだよ……。俺の顔に何かついているのか?」

「坊や……くん?俺の手繋ぐか?」

アルケがニヤニヤしながら空いているほうの手を空中でひらひらさせた。

さっきのを見られたと知ってアロンの顔が瞬時に真っ赤になる。

「今のは違う!!」

「わかっているわかっている。ほら、手繋いでやるよ」

なおもからかうアルケにアロンが全身をプルプルと震わせた。

「テ、テメェ……ッ!もういい!1人でクラゲ探しにいく!」

「おい!アロン!1人で行動はするな!危ない!」

ゼノンが走り去っていくアロンの後を慌てて追った。

恋人に勝手に原地へ残されたアルケが何度も自分の手とゼノンが走り去った方向を見比べた。

「おーい、嘘だろ?俺たちの変わらぬ愛はこんなにほどけやすかったのか?」

茶化しながらアルケも急がず、しかし早足に追った。















デタラメに走ったアロンが足を止めた頃、もうすでにどこにいるのかわからなくなっていた。

周りは薄暗く、周りに魚の影もない。

「ここは……はぁ、はぁ……非常口だ」

やっとの思いで追いついたゼノンは両ひざに手を置いて激しく息継ぎをした。こんなに走ったのは10代以来である。

見た目は細いのに、意外と体力のあるアロンを不思議そうに見て、ゼノンはなんとか姿勢を正して衣服を整えた。

「ここには魚もクラゲもないぞ」

「………」

「アルケはいつもあんな感じだ。いや、最近は特に茶化しにくるが……まあ、悪いやつじゃない」

「………」

「悪かった。代わりに謝る。……それにしてもアルケのやつ、まだ追いついて来てないのか?」

アロンはそこで小さい声でボソリと言った。

「…………なよ」

「ん?今なんて?」

「エルヴィス達には、言うなよ」

「……。わかった。言わない。帰ろう」

アロンはなおも恥ずかしさが消えず、気まずげに差し出された手を見たあと、ゆっくりと手を伸ばした。

差し出された手をつかもうとしたその時、突然人の声が聞こえて来た。

「なんだお前達!?」

アロンとゼノンが一斉に声のした方向を見た。

そこには黒い目出し帽を被った男が両手それぞれにトランクケースを持って立っていた。

ちょうど非常口から入ってきたようである。その姿にゼノンはとっさにアロンの手を引いて自分の後ろに隠した。

「兄貴!閉館時間なのに他人がいますよ!」

「なんだと!?」

もう1人の赤い目出し帽を被った男が現れた。こちらも両手にトランクケースを持っている。

「クソッ、ここに来たのは俺達だけだ。こいつらは一般人だな!」

赤い目出し帽の男はゼノンとアロンを観察した後ふんっと鼻を鳴らした。

「どうせ金がなく夜中に忍び込んだ親子だろ!銃でもちらつかせて縛っとけ!」

「うす!」

黒い目出し帽の男は腰にぶら下げた縄を解いてゼノンとアロンに近づいた。

「おい!何ぼーと突っ立ってんだよ!銃とか言ってるぞ!逃げないのか!?」

「いや、逃げられない」

ゼノンは思いの外冷静だった。しかも逃げようとするアロンを押さえ込んでくる。

そのため2人は易々と手を縛られてぬいぐるみのように通路脇に並べられた。

「テメェはバカかよ!?」

アロンの怒りにゼノンは小さなため息を吐き出した。そして男2人が話し込むのを見て声量を落として言う。

「安心しろ。こいつらは見た限りまだこちらに危害を加えるつもりはないらしい。大人しくしていれば安全だ」

「だけど……!」

「よく考えてみろ。今ここに俺達以外に誰がいる?お前の夫の中で誰ひとりをとっても権力と能力を備えた強力な味方だ。俺達は何もしないほうが安全だ」

言われてみればそれもそうである。釈然としないものを感じながらも、アロンはおとなしく黙った。

ゼノンはあの日、事業拡大のために訪れた日にエルヴィス達と別れたあとに知ったのだが、どうやら話し合いの場にいたガタイのいい軍用アンドロイドもアロンの夫らしい。

しかも見るからに階級は低くなさそうである。いったい3体もの支配階級のアンドロイドと結婚したアロンは何者なのかゼノンは不思議でならなかった。

今までの社交の場で一度もアロンを見かけたことがない気がする。


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