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トラウマ1
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アロンがメモリーカードを持ってゼノンのところへ行こうとした時、ぐいっと腕を引っ張られた。
「なっ!?」
「あー、いてて」
グレイシーは引っ張った勢いのままアロンの腕を後ろにひねり、その手に握られているメモリーカードを奪い返そうとした。
「こら、手を離しなさい。お友達?のゼノンがアンドロイドに騙されてもいいのか?」
「うるせぇ!指図してんじゃねぇ!」
「元気がいいねぇ、きみは。…本当、そっくり」
「あ?誰とそっくりだって?」
「きみの母親」
その言葉に暴れていたアロンがピタッと止まった。
「母さんのこと、知っているのか?」
「知っているも何も、あたしだけじゃない。きみの夫達だっけ?あいつらだって知っている。そう考えるときみらは本当に縁が深いねぇ」
「どういうことだ?」
母がライネス達と知り合いなのはなんとなくわかっていた。しかし、グレイシーはそれよりももっと深い何かを知っているような気がした。
「あれ?まだ知らないのか……なるほど」
意味深い目に悪戯に似たものが浮かび出た。
「ライネスの恋人……いや、元妻と言えばいいのかね。彼女はね………」
アロンがその続きを緊張しながら待った。まるで今から聞くことがこれからの予言かのように、絶対に聞き逃してはならないと勘が訴えている。
グレイシーの口が次の言葉を吐き出す前に、突如、パァンという軽い破裂音が響いた。
その音に全員の視線が向かう。
非常出口につながる廊下にギィという軋んだ音を立てて車椅子に乗ったエルドが現れた。
「エルド!?」
予想外の登場者にアロンが素っ頓狂な声を上げた。
エルドが視線を一身に受け止めながらもう一度手を叩き、先ほど聞いた軽い破裂音を出した。
「そこまでだ」
エルドはいつも表情がなく、しゃべる言葉も仕草も冷たく見えるはずなのに、なぜ人の警戒心を解かすことができるのかアロンには不思議でならなかった。
しかし、今のこの瞬間、エルドからは親しみも警戒心をおろすほどの人間味もいっさい感じない。
言葉通り表情と相まった冷たい声に思わず固まる。
………エルドなのか?
「おやぁ?きみひとり?」
「そうだ」
「わお!きみがここにいるのも意外だし、ひとりで来るのも意外だねぇ」
「もちろんライネスは後から来る」
「おっと、それはやばい。あの軍用アンドロイドの前じゃ命がいくつあっても足りない」
そう言うものの、グレイシーの口調からあまり焦っている感じはしない。
「それにしても、どうやって来たんだい?あたし確か銀行強盗できみを警察連中に貸し出したはずなんだけど」
言い草からまるでエルドがグレイシーのものであるかのよう言い方だった。
それにどれほどの変化を見せるわけではないが、せめてアロンから見て、エルドの目がその言葉にほんのわずかに温度が下がったように感じた。
「強盗犯達がバラバラに逃げたことで追うのが困難になった」
「うん。そう仕向けたからね」
「その中でいくつか気になる箇所に向かった強盗犯達がいる」
「ほぉん。それで?」
「うちのひと組が水族館に向かってきた」
「ああ、なるほど!だからきみはのこのことひとりで来たわけだ」
「ひとりではない」
グレイシーが目線で素早く周りを一回確認する。
「…本当かな?」
「どのみちあなたはライネスに捕まる」
「ずいぶんと確信した言い方だね。坊やが今あたしの手にいることを忘れたかい?」
グレイシーはひねり上げたアロンの腕に力をわずかに入れると、その痛みにアロンが思わず息をつめた。
「………っ」
クソッ!
人質にされている気分はあまり良くない。
エルドはその様子に一回まばたきをした。
「ライネスはあまり伴侶を人質にされるのは好きじゃない。こればかりはあなたのせいだ。今手を離したほうがいい」
「嫌だと言えば?」
「言ったはずだ。今、手を離したほうがいい」
繰り返される言葉にグレイシーが反応するより先に、低く怒気を含んだ声が聞こえてきた。
「やはり死にきれていなかったか。アロンに会いに来るだろうと周りに張り付いておいて正解だった」
その声に続き、グレイシーから息がのどに留まったような苦しげな声が響いてきた。
「お前は虫みたいにしぶといな」
いつの間にか背後に立ったライネスはグレイシーの首を片手で締め上げ、その隙にアロンを前に押し出した。
少しよろけたアロンは次に振り返った時、グレイシーの首からビキビキとした不吉な音が鳴り響いた。
「安心しろ、今は死なせない。あとでじっくりと皮を剥いでその体に詰まっている部品を一つ一つ引きずり出してやる」
「ガハ……ッ!お、おっかしいな……計画、通りなら……今きみは足止めを喰らっているはずなんだ、けど……ね」
「ああ、おかげさまでエルドは増援要請に駆り出され、たまたま近くにいた俺はその手駒みたいに使われたな」
「な、なら……なぜ……っ」
「ここにいるってか?片付けてきたに決まっているだろ」
「ウソ、でしょ………!」
「すでに軍部から命令が下されている。お前は永久データ保存されることになった。ありがたく思え」
ライネスの顔に今までにない悪意に満ちた顔が浮かんだ。
グレイシーの首からゴキッという音が響き、その頭がユラッと傾いたのを見たーー瞬間、目を何かに覆われた。
真っ暗な視界にアロンが反応できずにいるとエルドの声が聞こえてきた。
「見なくていい、アロン」
その言葉の語尾に被せるように、ゼノンの声にならない悲鳴が聞こえた気がした。
「なっ!?」
「あー、いてて」
グレイシーは引っ張った勢いのままアロンの腕を後ろにひねり、その手に握られているメモリーカードを奪い返そうとした。
「こら、手を離しなさい。お友達?のゼノンがアンドロイドに騙されてもいいのか?」
「うるせぇ!指図してんじゃねぇ!」
「元気がいいねぇ、きみは。…本当、そっくり」
「あ?誰とそっくりだって?」
「きみの母親」
その言葉に暴れていたアロンがピタッと止まった。
「母さんのこと、知っているのか?」
「知っているも何も、あたしだけじゃない。きみの夫達だっけ?あいつらだって知っている。そう考えるときみらは本当に縁が深いねぇ」
「どういうことだ?」
母がライネス達と知り合いなのはなんとなくわかっていた。しかし、グレイシーはそれよりももっと深い何かを知っているような気がした。
「あれ?まだ知らないのか……なるほど」
意味深い目に悪戯に似たものが浮かび出た。
「ライネスの恋人……いや、元妻と言えばいいのかね。彼女はね………」
アロンがその続きを緊張しながら待った。まるで今から聞くことがこれからの予言かのように、絶対に聞き逃してはならないと勘が訴えている。
グレイシーの口が次の言葉を吐き出す前に、突如、パァンという軽い破裂音が響いた。
その音に全員の視線が向かう。
非常出口につながる廊下にギィという軋んだ音を立てて車椅子に乗ったエルドが現れた。
「エルド!?」
予想外の登場者にアロンが素っ頓狂な声を上げた。
エルドが視線を一身に受け止めながらもう一度手を叩き、先ほど聞いた軽い破裂音を出した。
「そこまでだ」
エルドはいつも表情がなく、しゃべる言葉も仕草も冷たく見えるはずなのに、なぜ人の警戒心を解かすことができるのかアロンには不思議でならなかった。
しかし、今のこの瞬間、エルドからは親しみも警戒心をおろすほどの人間味もいっさい感じない。
言葉通り表情と相まった冷たい声に思わず固まる。
………エルドなのか?
「おやぁ?きみひとり?」
「そうだ」
「わお!きみがここにいるのも意外だし、ひとりで来るのも意外だねぇ」
「もちろんライネスは後から来る」
「おっと、それはやばい。あの軍用アンドロイドの前じゃ命がいくつあっても足りない」
そう言うものの、グレイシーの口調からあまり焦っている感じはしない。
「それにしても、どうやって来たんだい?あたし確か銀行強盗できみを警察連中に貸し出したはずなんだけど」
言い草からまるでエルドがグレイシーのものであるかのよう言い方だった。
それにどれほどの変化を見せるわけではないが、せめてアロンから見て、エルドの目がその言葉にほんのわずかに温度が下がったように感じた。
「強盗犯達がバラバラに逃げたことで追うのが困難になった」
「うん。そう仕向けたからね」
「その中でいくつか気になる箇所に向かった強盗犯達がいる」
「ほぉん。それで?」
「うちのひと組が水族館に向かってきた」
「ああ、なるほど!だからきみはのこのことひとりで来たわけだ」
「ひとりではない」
グレイシーが目線で素早く周りを一回確認する。
「…本当かな?」
「どのみちあなたはライネスに捕まる」
「ずいぶんと確信した言い方だね。坊やが今あたしの手にいることを忘れたかい?」
グレイシーはひねり上げたアロンの腕に力をわずかに入れると、その痛みにアロンが思わず息をつめた。
「………っ」
クソッ!
人質にされている気分はあまり良くない。
エルドはその様子に一回まばたきをした。
「ライネスはあまり伴侶を人質にされるのは好きじゃない。こればかりはあなたのせいだ。今手を離したほうがいい」
「嫌だと言えば?」
「言ったはずだ。今、手を離したほうがいい」
繰り返される言葉にグレイシーが反応するより先に、低く怒気を含んだ声が聞こえてきた。
「やはり死にきれていなかったか。アロンに会いに来るだろうと周りに張り付いておいて正解だった」
その声に続き、グレイシーから息がのどに留まったような苦しげな声が響いてきた。
「お前は虫みたいにしぶといな」
いつの間にか背後に立ったライネスはグレイシーの首を片手で締め上げ、その隙にアロンを前に押し出した。
少しよろけたアロンは次に振り返った時、グレイシーの首からビキビキとした不吉な音が鳴り響いた。
「安心しろ、今は死なせない。あとでじっくりと皮を剥いでその体に詰まっている部品を一つ一つ引きずり出してやる」
「ガハ……ッ!お、おっかしいな……計画、通りなら……今きみは足止めを喰らっているはずなんだ、けど……ね」
「ああ、おかげさまでエルドは増援要請に駆り出され、たまたま近くにいた俺はその手駒みたいに使われたな」
「な、なら……なぜ……っ」
「ここにいるってか?片付けてきたに決まっているだろ」
「ウソ、でしょ………!」
「すでに軍部から命令が下されている。お前は永久データ保存されることになった。ありがたく思え」
ライネスの顔に今までにない悪意に満ちた顔が浮かんだ。
グレイシーの首からゴキッという音が響き、その頭がユラッと傾いたのを見たーー瞬間、目を何かに覆われた。
真っ暗な視界にアロンが反応できずにいるとエルドの声が聞こえてきた。
「見なくていい、アロン」
その言葉の語尾に被せるように、ゼノンの声にならない悲鳴が聞こえた気がした。
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