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メルヘンな絵
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「それで、きみは?やっぱり伴侶型アンドロイドはドキドキするようなロマンチックなデートをしてくれるの?」
期待のこもった眼差し達にアロンがまぶたをひくつかせた。人の隙間からこっそりと壇上をうかがうとエルドも軍用アンドロイドに囲まれて質問攻めにされていた。
「俺は……その、エルドとは……」
そもそもデートらしいデートをしたことがない。
ますます期待がこもっていく眼差し達に気まずく感じていると、「あ、あの!」という気弱そうな声が響いてきた。
顔を上げると眉がハの字になった声通りの気弱そうな男が前に出てきた。
「その、いきなりこんな質問失礼かもしれませんが、でもどうしても知りたくて……その、あなたは普段どうやってエルドさんと接していますか?夫とのコミュニケーションの参考にしたくて……今まで夫以外のアンドロイドとはあまり接したことがなかったから」
見た目ではどこか他の参加者よりも落ち着いて見えるが、もじもじと指先を絡めている姿はだいぶ頼りなく感じる。
「あ、わ、私はセシと言います!そして夫はトレスタンと言います。その、軍用アンドロイドは伴侶型とだいぶ違うと聞きましたが、それでもアンドロイドと人間であることには間違いなかなと。だから、その……参考にしたくて」
まるでアロンの機嫌を伺うようにチラチラと視線を送った。
「んなこと言われてもな……」
アロンはあごに手を当てて考えてみた。
「とりあえず、一緒に手を繋ぐ……とか?水族館とかで」
「なるほど!」
「いやそんなに信じるなよ!俺だってそんなにデートしたことあるわけじゃないし……」
「トレスタンは力が大きいので、あまり触れてこないのですが、でも確かに手を繋いだことはありません。次の休みが合えば水族館に誘ってみます」
うれしそうな顔にアロンは割とテキトーに考えたことを少し後悔した。
その後は休憩時間になり、アロンは他の子たちにお昼に誘われたものの、1人で回りたいと勝手にビル内を探索した。
おもに彼ら彼女らの話についていけないのが原因である。
話を聞けばほとんどがまだ成人したばかりの高校生と大学生ばかりで、話の中心もおのずと学校生活に移り変わっていく。学校に一度も通ったことがないアロンにとっての知識は母から教えられたものしかわからない。
それでさえめんどくさがり真面目に聞かず、かつ母の教え方も壊滅的だったためにほとんど吸収できなかった。
1人で廊下を歩き、1階のエントランスに降りようとしたところ、たまたま廊下にとある部屋のドアが開いていたため、興味本位で中をのぞいた。
すると壁一面の絵とイーゼルに立てかけられたキャンバスに思わず圧倒された。
アロンは目をこすってそれらの絵に描かれたメルヘンな世界と動物についつい母のことを思い出した。
ずいぶんと母好みの絵たちである。
アロンが夢中になりすぎて部屋の一角でイーゼルにかけられた絵を眺めている人物に気づかなかった。
黒髪を後ろに整え、両手を背中に回した人物がどことなくエルドと似た雰囲気を感じ、思わず声を出した。
「エルドか?」
呼びかけてから、先に出てきた自分がこんなところでエルドに会うはずがないと思い出し、慌てて「あ、悪い!人違いだ」と言って逃げようとした。
振り返った人物は不健康な顔色の上に不機嫌をにじませた表情をしていたが、アロンの顔を見た瞬間、はっと目を見開いた。
逃げようとするアロンを慌てて呼び止める。
「待ってくれ!」
「……っ。な、なんだ?」
男は目を見開いたままアロンを見つめ、やがて震える声で小さく言った。
「きみ……名前は……?」
「アロン。……もう行ってもいいか?」
「アロン………そうか、きみの名前はアロンというのか。絵に、興味はあるか?」
「絵は別に……」
だがそこまで言って口を閉ざした。アロンは確かに絵に興味はないが、これらの絵には興味がある。
「まあ、ここの絵はいいなとは思うけど……」
「それなら見ていかないか?」
言いながら男は先ほど眺めていた絵に布を被せてアロンに近寄ってきた。
その行動にアロンはパッと後ろに数歩離れた。
なんだ?このいやな感じは?
アロンはなぜか男の接近に拒否感を覚えた。しかもよく見れば男の顔にどことなく見覚えがある。だがどこで見たのかは思い出せない。
「そんなに怖がらないでくれ。……何もしない」
「別に怖がってねぇよ」
強がってみせたアロンはまったく気にしていないと言いたげな態度でドカドカと室内に入った。
その様子に男はまるでまぶしいものでも見るように目を細め、そして指先をこすり合わせてじっとアロンの行動を観察した。
「ここにある絵はお前が描いたのか?」
男からこんなパステルカラーを使ったメルヘンチックな絵を描くのかと思うと、とてつもない違和感がある。
「いや、私の妹だ」
「へえ、妹ずいぶんといい絵を描くな。俺の母さんもこんな絵が好きなんだよ」
言いながらその絵たちを見ているうちに、母が地面に描く絵とどことなく似ているように感じた。色彩さえ抜けばそっくりではないだろうか?
「ア………きみの母は、絵が好きなのか?」
「ああ。よく海の生き物を描いていたな。クラゲという生き物が好きみたいで一番よく描いていた。あ!これとかまんまる同じだ!」
壁の絵を順に見ていたアロンはたくさんのクラゲが描かれた絵を見つけた。水色やピンク色の華やかでドレスを着ているようなクラゲが珊瑚や海藻、水の泡が舞い上がる中を漂っていた。
「それはクリサオラ・プロカミアというヤナギクラゲ属のクラゲを参考にしている」
「くり……?ぷろ……?」
難しすぎる名前にアロンがハテナを浮かばせた。
期待のこもった眼差し達にアロンがまぶたをひくつかせた。人の隙間からこっそりと壇上をうかがうとエルドも軍用アンドロイドに囲まれて質問攻めにされていた。
「俺は……その、エルドとは……」
そもそもデートらしいデートをしたことがない。
ますます期待がこもっていく眼差し達に気まずく感じていると、「あ、あの!」という気弱そうな声が響いてきた。
顔を上げると眉がハの字になった声通りの気弱そうな男が前に出てきた。
「その、いきなりこんな質問失礼かもしれませんが、でもどうしても知りたくて……その、あなたは普段どうやってエルドさんと接していますか?夫とのコミュニケーションの参考にしたくて……今まで夫以外のアンドロイドとはあまり接したことがなかったから」
見た目ではどこか他の参加者よりも落ち着いて見えるが、もじもじと指先を絡めている姿はだいぶ頼りなく感じる。
「あ、わ、私はセシと言います!そして夫はトレスタンと言います。その、軍用アンドロイドは伴侶型とだいぶ違うと聞きましたが、それでもアンドロイドと人間であることには間違いなかなと。だから、その……参考にしたくて」
まるでアロンの機嫌を伺うようにチラチラと視線を送った。
「んなこと言われてもな……」
アロンはあごに手を当てて考えてみた。
「とりあえず、一緒に手を繋ぐ……とか?水族館とかで」
「なるほど!」
「いやそんなに信じるなよ!俺だってそんなにデートしたことあるわけじゃないし……」
「トレスタンは力が大きいので、あまり触れてこないのですが、でも確かに手を繋いだことはありません。次の休みが合えば水族館に誘ってみます」
うれしそうな顔にアロンは割とテキトーに考えたことを少し後悔した。
その後は休憩時間になり、アロンは他の子たちにお昼に誘われたものの、1人で回りたいと勝手にビル内を探索した。
おもに彼ら彼女らの話についていけないのが原因である。
話を聞けばほとんどがまだ成人したばかりの高校生と大学生ばかりで、話の中心もおのずと学校生活に移り変わっていく。学校に一度も通ったことがないアロンにとっての知識は母から教えられたものしかわからない。
それでさえめんどくさがり真面目に聞かず、かつ母の教え方も壊滅的だったためにほとんど吸収できなかった。
1人で廊下を歩き、1階のエントランスに降りようとしたところ、たまたま廊下にとある部屋のドアが開いていたため、興味本位で中をのぞいた。
すると壁一面の絵とイーゼルに立てかけられたキャンバスに思わず圧倒された。
アロンは目をこすってそれらの絵に描かれたメルヘンな世界と動物についつい母のことを思い出した。
ずいぶんと母好みの絵たちである。
アロンが夢中になりすぎて部屋の一角でイーゼルにかけられた絵を眺めている人物に気づかなかった。
黒髪を後ろに整え、両手を背中に回した人物がどことなくエルドと似た雰囲気を感じ、思わず声を出した。
「エルドか?」
呼びかけてから、先に出てきた自分がこんなところでエルドに会うはずがないと思い出し、慌てて「あ、悪い!人違いだ」と言って逃げようとした。
振り返った人物は不健康な顔色の上に不機嫌をにじませた表情をしていたが、アロンの顔を見た瞬間、はっと目を見開いた。
逃げようとするアロンを慌てて呼び止める。
「待ってくれ!」
「……っ。な、なんだ?」
男は目を見開いたままアロンを見つめ、やがて震える声で小さく言った。
「きみ……名前は……?」
「アロン。……もう行ってもいいか?」
「アロン………そうか、きみの名前はアロンというのか。絵に、興味はあるか?」
「絵は別に……」
だがそこまで言って口を閉ざした。アロンは確かに絵に興味はないが、これらの絵には興味がある。
「まあ、ここの絵はいいなとは思うけど……」
「それなら見ていかないか?」
言いながら男は先ほど眺めていた絵に布を被せてアロンに近寄ってきた。
その行動にアロンはパッと後ろに数歩離れた。
なんだ?このいやな感じは?
アロンはなぜか男の接近に拒否感を覚えた。しかもよく見れば男の顔にどことなく見覚えがある。だがどこで見たのかは思い出せない。
「そんなに怖がらないでくれ。……何もしない」
「別に怖がってねぇよ」
強がってみせたアロンはまったく気にしていないと言いたげな態度でドカドカと室内に入った。
その様子に男はまるでまぶしいものでも見るように目を細め、そして指先をこすり合わせてじっとアロンの行動を観察した。
「ここにある絵はお前が描いたのか?」
男からこんなパステルカラーを使ったメルヘンチックな絵を描くのかと思うと、とてつもない違和感がある。
「いや、私の妹だ」
「へえ、妹ずいぶんといい絵を描くな。俺の母さんもこんな絵が好きなんだよ」
言いながらその絵たちを見ているうちに、母が地面に描く絵とどことなく似ているように感じた。色彩さえ抜けばそっくりではないだろうか?
「ア………きみの母は、絵が好きなのか?」
「ああ。よく海の生き物を描いていたな。クラゲという生き物が好きみたいで一番よく描いていた。あ!これとかまんまる同じだ!」
壁の絵を順に見ていたアロンはたくさんのクラゲが描かれた絵を見つけた。水色やピンク色の華やかでドレスを着ているようなクラゲが珊瑚や海藻、水の泡が舞い上がる中を漂っていた。
「それはクリサオラ・プロカミアというヤナギクラゲ属のクラゲを参考にしている」
「くり……?ぷろ……?」
難しすぎる名前にアロンがハテナを浮かばせた。
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