ゴミ拾いで3体の夫ができた人間

那原涼

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仲間

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アロンが部屋のなかに連れ込まれるとドンッとベッドの上に投げ出された。

「いって!」

壁にぶつけた頭を押さえて見上げると、男はアロンを見下ろしながら静かな口調で言った。

「お前の寝床はここだ」

「寝床?わざわざ連れてきて何がしたいんだ?言っておくけど俺は体なんか売らねぇぞ」

「……貧相な体に興味はない」

「じゃあ、なんで連れてきた?」

「………」

「………?なんとか言え」

「眠い」

「は?」

男はアロンの向かいのベッドに向かうとそのまま静かな寝息を立てた。

アロンはしばらく呆然と見つめていたが、もしやと思い、ベッドを降りて男の近くに来た。

こいつがその助け出さないといけない人なんじゃないか?

仲間を探すための暗号だが、人間違いをして怪しまれないようにさりげなく聞くようにと言われたが、アロンは早く確かめたかった。

そもそも暗号は教えられたものの、よく考えれば助けるべき人の見た目は教えられてない。

「おい、起きてるか?」

「………」

「本当に寝たのか?明日の夕飯にはトウモロコシはあるか?」

明日の夕飯にはトウモロコシはあるか?というのが暗号である。

アロンは初めてこの暗号を聞いた時、一瞬暗号だとわからず、「知るかよ」と返していた。本来ならそんな回答になるだろう。

アロンが期待を込めて相手の反応を待った。だが本当に寝たのか、いくら待っても返事はない。

やがてあきらめ、開いたドアの隙間から外の様子を伺った。

下の方ではみんな集まってテーブルゲームをしたり談笑したりして、思ったより平和な様子にアロンはどこか拍子抜けした。

もっと殺伐とした空気かと思っていたが、意外とそうでもないらしい。

だがそんな時である。突然ゴッという音が響き、それに続いて囃し立てるような笑い声が聞こえてきた。

見やると、下の方でテーブルと椅子が倒れたりどけられた場所があり、殴り合いが発生していた。

野次馬気分でアロンは首を伸ばして見た。

なんだ、喧嘩か?

「テメェ俺のトランプどこに隠した!」

「俺じゃねぇよ!」

「嘘つけ!お前が持っていったんだろ!」

「知らねぇよ!お前がどこかに置き忘れたんだろ!」

喧嘩の内容はしごくつまらなかった。

なのに周りは集まって囃し立て、2人を阻止に入るつもりはないようである。

アロンはもっと近くで見ようと廊下に出て、柵につかまって下をのぞき見た。

野次馬のなかにいた1人がのぞくアロンに気づき手を振った。

「おいチビ!興味あるなら降りてこいよ!おじさん達が可愛がってやるからよ!」

周りから笑いが起きてアロンがギリギリと歯を噛み締めた。

「誰が降りるかよ!」

アロンは部屋に帰ってドンッとドアを閉めたが、力を入れすぎて思った以上に大きな音が響き、それに反応して後ろでもぞりと音がした。

ゆっくりと頭を回すと、寝たはずの男が起きていた。

「………」

長い前髪の間からのぞく目が不機嫌そうにアロンを見つめている。

「……何をやっている」

「えーと……明日の夕飯にはトウモロコシはあるか?」

「……………」

「……………」

「ない」

「……残念だなぁ」

助ける人はこいつじゃないのかもしれない。

男はそのまま寝るものだと思っていたが、やがて起きてアロンの前に来た。

「な、なんだよ」

細く骨張った手が伸びて逃げようとするアロンを引き寄せてその首に触れた。

その場所には本来輪っかがある。だが、今は何もなく、首を囲う赤い跡しか残っていない。

「触るな!」

首を触られたことでアロンは息苦しさを感じ、パッと男の手を払った。

「……すまない」

「次から気をつけろ!俺は首を触られるのが嫌いなんだ!」

「そうなのか」

首を守るように手で囲い、アロンは男から距離を取った。

「そういえば、お前の名前はなんだ?ちなみに俺はアロンだ」

「俺はトセル」

「トセルだな。いいか、次首触ったらお前の首へし折ってやる」

トセルは前髪の隙間からアロンの細い両腕を見つめて言った。

「わかった。次から気をつける」

アロンはふんっと頭をそらしてベッドに戻った。

自信たっぷりな様子でドスンと座るが、内心はグレイシー達への恨み言でいっぱいだった。

先ほどトセルの名前を聞いた時に思い出したが、グレイシー達から助けるべき人の名前すら教えられていない。

知っているのは暗号と会った後の脱出方法である。

獄中生活や、期限など細々と説明を受けて、それらを覚えるのに必死だったが、思えば一番肝心な、助けるべき人物の特徴と名前を教えられてない。

ポンコツ過ぎだろアイツら!

とはいえ、アロンも今になってようやく思い出した。

期限は1週間しかない。この短い期間の中で目的の人物を見つけ出さなければいけない。

なんだか途方もない道のりに思えて、アロンの自信が少し揺らいだ。

どうするんだよ!見つけ出せれないぞ!

なんだか危機感に駆られてアロンは部屋を出ようとした。せめて同じ監房のなかにそれらしい人はいないかを探さなければいけない。

だがそれを察したトセルがアロンの肩を掴んで阻止した。

「その猫みたいな好奇心を収めろ。ここにいるやつらは長らく女を見ていない者ばかりだ。小さくて抵抗力のなさそうな、おまけに顔も悪くないお前を狙っているのは感じているだろ」

何か言おうとしたアロンはぐっと言葉を飲み込んだ。

その通りである。

周りの反応を見るに、トセルはここである程度存在感があるみたいなので、この人についていけば身の安全はある程度守られるはずである。

アロンはそう考えていったん落ち着くことにした。









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