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嫉妬の連続1
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ケーキを食べ終えて続きの連絡を待っていたが、その日のうちにライネスからもう一度連絡がくることはなかった。
電話から4日目のことである。
この日、アロンは依然としてライネスからの電話を待っていた。
そのあいだ、ほぼ毎日顔を出してくるエルヴィスが珍しく同じ期間中に現れなかった。
やっぱりあいつ忙しいのか?それともエルヴィスとの直談判うまくいかないのか?
アロンが知らないのは、忙しいと思っていたライネスは現在、エルヴィスの事務室にいることである。
事務室にてエルヴィスは顔をしかめながら手もとのタブレットを見つめていた。
「でもアロンまでこうなると決まったわけではない」
「なっていたら遅いだろうが」
対面に立っているライネスは冷笑しそうな顔で言った。
「人間が患う病気には体以外に精神的なものもある。あれが一番厄介だと聞く。アロンがそうなったらどうする?罪人でもないのに、一日中同じ場所に閉じ込めて、気を紛らわす程度のVR体験を与えて、あとあのフィンジャーとかいう犬か?あれで満足するわけがないだろ」
「でもきみもわかっているはずだ!アロンはいつも私達と人間のあいだで人間を選ぶ!グレイシーのような危険人物に簡単についていくし、しかも………」
「母親のことを知りたがっている」
「きみはいいのかい?アロンがあんなに大好きな母親が実は私達のせいで……。きっと嫌われる!本来ならアロンはアンドロイドの管理下でもっといい生活をしているんだ」
「アレアに関しては俺の問題だ。実は母親の死がグレイシーと関連していると知ればもう関わらないと思ってくれるならいいが、問題は復讐しようとすることだな。俺に復讐するならまだいい。あの行動力の塊みたいなやつがグレイシーを放っておくとは思えない」
「だから教えなかったんだ。あのまま知らないいでいてくれると助かるけど、本人はものすごく知りたがるし。それに、妙に鋭いところがあるから母親のことを半分隠しながら言うのも危険がある」
「だから母親から意識をそらせるように何か娯楽を与えたほうがいい。母親関連でなくともああなれば俺達でもお手上げだ」
ライネスはエルヴィスの持っているタブレットをトントンとたたいた。
「しかし……」
「来週の週末はちょうど街のイベントだ。息抜きくらい連れ出してやれ。恋人同士がわんさか集まる中でアロンと一緒にいたくないのか?」
その言葉にエルヴィスが思い切り動揺した顔を見せた。
ライネスはどれほど恋人同士がどうこうしたがるのを知っているわけではない。
ただ、わずかな記憶とアレアの日記から恋人は恋人同士が集まるような場所に行きたがるらしい。
だからそれをすすめた。そしてエルヴィスも悩んでいる。
やがてその顔に苦悶の表情が浮かぶ。
「い、一回だけなら……とりあえず一回だけだ!」
「じゃあそのことアロンに教えてくる」
「私も行く!」
エルヴィスが立ち上がるとライネスはふと思い出したように口を開いた。
「最近エルドのやつはどうしている」
「エルドなら警察や多方面からの協力要請によってほとんど監視室に張り付いているよ」
「……お前、あいつのことをどこまで知っている」
「どこまでとは?」
「メモリーカードがいじられた件だ」
「あれか!」
エルヴィスは目を覆うと小さなため息を吐き出した。
「後々から知ったけど、まさかフリだったとは……!アロンがなんだか気を遣って態度が和らぐし、こんなに使いやすいなら私も使っていた!」
「やめておけ。エルドはバレない自信があるだろうが、お前はできないだろ」
「酷い!私だってアロンともっとイチャイチャしたい!」
「それより、エルドの最近の様子はおかしくなかったか?」
「何か心配でもあるのかい?」
「今回のことで確信したが、あいつは何も変わっていない」
「………」
「前の持ち主と同じように追い詰め過ぎないか心配だ」
「ふむ。確かに。今回の監禁で反対意見を言わなかったし、こっそりと会いに行っているらしい。でも何かしようものならとっくにしているよ。今のエルドは昔出会った頃と違って、半分職務型としてのプログラムも組み込まれている。行き過ぎた行動には制限がかかるようになっている。だからあまり心配しなくとも大丈夫だよ」
「行き過ぎた行動か。俺達にはあまり縁のない話だな」
「それは私達は支配階級だからね。多少は大目に見てくれるさ。ともかく、エルドがアロンをどうこうしないはず、安心して!」
だがその言葉はライネスの不安を完全に消せるわけではなかった。
今のエルドは確かにあまり度の過ぎたことはしないだろう。しかし、エルヴィスや自分が何かしようとすればそれには反対しないと思われる。
ライネスはエルヴィスの持っているタブレットを見つめて険しい表情をした。
そのタブレットには今ネビュラの伴侶である囚人の生前の姿がある。そう、生前である。
すでに死んでおり、焼却も済んでいる。ネビュラが心を病んでしまった伴侶のために厨房に入り、初めての手料理を振る舞おうとした。
その目を離したあいだに相手はベッドから転がり落ち、何を思ったのか自ら頭を床に何度もぶつけた。
その結果、発見時にはすでに血を垂れ流して息絶えていた。
正直な気持ちを言えばライネスもアロンの身の安全を危惧している。
ネビュラや昔のエルドと同じように相手を行動不能にすれば問題はない。
腕や脚を無くしたところで死にはしない。傷口だって綺麗に処理してくれる。生きていればいい。腕や脚が欲しければ今の技術でいくらでも補えるため永遠に無くすわけではない。
だがそう考えたところで何度も最後に見たアレアの泣き顔が頭をかすめる。
人間はアンドロイドのように体のパーツを変える前提で作られていない。だから自分の生まれ持ったものに対する価値観はアンドロイドと違う。
そのことを常に頭の中で意識した。
同時にそう考えることでアロンに対して加害の意思はない。安心してほしいと示そうとした。もちろん本人は気づいているのかどうかはわからない。
電話から4日目のことである。
この日、アロンは依然としてライネスからの電話を待っていた。
そのあいだ、ほぼ毎日顔を出してくるエルヴィスが珍しく同じ期間中に現れなかった。
やっぱりあいつ忙しいのか?それともエルヴィスとの直談判うまくいかないのか?
アロンが知らないのは、忙しいと思っていたライネスは現在、エルヴィスの事務室にいることである。
事務室にてエルヴィスは顔をしかめながら手もとのタブレットを見つめていた。
「でもアロンまでこうなると決まったわけではない」
「なっていたら遅いだろうが」
対面に立っているライネスは冷笑しそうな顔で言った。
「人間が患う病気には体以外に精神的なものもある。あれが一番厄介だと聞く。アロンがそうなったらどうする?罪人でもないのに、一日中同じ場所に閉じ込めて、気を紛らわす程度のVR体験を与えて、あとあのフィンジャーとかいう犬か?あれで満足するわけがないだろ」
「でもきみもわかっているはずだ!アロンはいつも私達と人間のあいだで人間を選ぶ!グレイシーのような危険人物に簡単についていくし、しかも………」
「母親のことを知りたがっている」
「きみはいいのかい?アロンがあんなに大好きな母親が実は私達のせいで……。きっと嫌われる!本来ならアロンはアンドロイドの管理下でもっといい生活をしているんだ」
「アレアに関しては俺の問題だ。実は母親の死がグレイシーと関連していると知ればもう関わらないと思ってくれるならいいが、問題は復讐しようとすることだな。俺に復讐するならまだいい。あの行動力の塊みたいなやつがグレイシーを放っておくとは思えない」
「だから教えなかったんだ。あのまま知らないいでいてくれると助かるけど、本人はものすごく知りたがるし。それに、妙に鋭いところがあるから母親のことを半分隠しながら言うのも危険がある」
「だから母親から意識をそらせるように何か娯楽を与えたほうがいい。母親関連でなくともああなれば俺達でもお手上げだ」
ライネスはエルヴィスの持っているタブレットをトントンとたたいた。
「しかし……」
「来週の週末はちょうど街のイベントだ。息抜きくらい連れ出してやれ。恋人同士がわんさか集まる中でアロンと一緒にいたくないのか?」
その言葉にエルヴィスが思い切り動揺した顔を見せた。
ライネスはどれほど恋人同士がどうこうしたがるのを知っているわけではない。
ただ、わずかな記憶とアレアの日記から恋人は恋人同士が集まるような場所に行きたがるらしい。
だからそれをすすめた。そしてエルヴィスも悩んでいる。
やがてその顔に苦悶の表情が浮かぶ。
「い、一回だけなら……とりあえず一回だけだ!」
「じゃあそのことアロンに教えてくる」
「私も行く!」
エルヴィスが立ち上がるとライネスはふと思い出したように口を開いた。
「最近エルドのやつはどうしている」
「エルドなら警察や多方面からの協力要請によってほとんど監視室に張り付いているよ」
「……お前、あいつのことをどこまで知っている」
「どこまでとは?」
「メモリーカードがいじられた件だ」
「あれか!」
エルヴィスは目を覆うと小さなため息を吐き出した。
「後々から知ったけど、まさかフリだったとは……!アロンがなんだか気を遣って態度が和らぐし、こんなに使いやすいなら私も使っていた!」
「やめておけ。エルドはバレない自信があるだろうが、お前はできないだろ」
「酷い!私だってアロンともっとイチャイチャしたい!」
「それより、エルドの最近の様子はおかしくなかったか?」
「何か心配でもあるのかい?」
「今回のことで確信したが、あいつは何も変わっていない」
「………」
「前の持ち主と同じように追い詰め過ぎないか心配だ」
「ふむ。確かに。今回の監禁で反対意見を言わなかったし、こっそりと会いに行っているらしい。でも何かしようものならとっくにしているよ。今のエルドは昔出会った頃と違って、半分職務型としてのプログラムも組み込まれている。行き過ぎた行動には制限がかかるようになっている。だからあまり心配しなくとも大丈夫だよ」
「行き過ぎた行動か。俺達にはあまり縁のない話だな」
「それは私達は支配階級だからね。多少は大目に見てくれるさ。ともかく、エルドがアロンをどうこうしないはず、安心して!」
だがその言葉はライネスの不安を完全に消せるわけではなかった。
今のエルドは確かにあまり度の過ぎたことはしないだろう。しかし、エルヴィスや自分が何かしようとすればそれには反対しないと思われる。
ライネスはエルヴィスの持っているタブレットを見つめて険しい表情をした。
そのタブレットには今ネビュラの伴侶である囚人の生前の姿がある。そう、生前である。
すでに死んでおり、焼却も済んでいる。ネビュラが心を病んでしまった伴侶のために厨房に入り、初めての手料理を振る舞おうとした。
その目を離したあいだに相手はベッドから転がり落ち、何を思ったのか自ら頭を床に何度もぶつけた。
その結果、発見時にはすでに血を垂れ流して息絶えていた。
正直な気持ちを言えばライネスもアロンの身の安全を危惧している。
ネビュラや昔のエルドと同じように相手を行動不能にすれば問題はない。
腕や脚を無くしたところで死にはしない。傷口だって綺麗に処理してくれる。生きていればいい。腕や脚が欲しければ今の技術でいくらでも補えるため永遠に無くすわけではない。
だがそう考えたところで何度も最後に見たアレアの泣き顔が頭をかすめる。
人間はアンドロイドのように体のパーツを変える前提で作られていない。だから自分の生まれ持ったものに対する価値観はアンドロイドと違う。
そのことを常に頭の中で意識した。
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