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アレア・レイネール
しおりを挟む長い長い夢の中で、母の面影にアロンは目の端に涙をにじませた。
それをすくい取ったのはそばにいた人物である。
ベッドの前でひざをつき、クロードはアロンの顔をのぞき込んでいた。
「大丈夫……もうあんな冷たい機械のそばには返さない」
クロードは立ち上がるとどこかに電話をかけ、その間にアロンは少しずつと目を覚ました。
暗いほのかな光が目に入り、アロンのまどろんでいた意識も少しずつと鮮明になってきた。
どこだ……ここは……。
直前に何があったのかをゆっくりと思い返し、クロードに口をふさがれたと思い出したところでハッと目を見開いた。
上半身を起き上がらせようとすると首に何か重みがかかり、そのせいで一瞬だけ首が苦しくなる。
見やると、赤い紐が自分の首からベッドの端にまで伸び、首もとを触れば何か革製のようなものが囲んでいた。
なんだ、これ。首輪?
「起きたのか?」
アロンがパッと声の方向を見ると、クロードが端末の画面を手でふさぎながら振り返ってきた。
「お前っ!俺に何をした!!」
クロードは血色の悪い顔にどこか痛ましげな表情を浮かばせた。
「大丈夫だ。すぐによくなる。もうすぐきみはあの傲慢な機械どもから逃げられる」
クロードはそう言って近づき、アロンの前にひざをつくと手を伸ばした。
しかしその手は無情にもパシッとはらわれた。
「触るな!!」
「………今受け入れられないのはわかる。もう少しだけ時間をくれないか?アレア」
「何が時間………アレア?」
「きみはアレアの代わりに私のそばに来てくれた。私の天使だ」
アロンを顔を引きながらいやそうにクロードを見た。
そしてライネスもアレアと口にしていたことを思い出す。だが、そこでふとライネスが初めてアレアという名前を口に出したわけではないと思い出した。
そうだ。それよりも前に、どこかで聞かなかったか?
必死に記憶を探っていると、エルヴィスに連れて行ってもらったチャリティーイベントがあったと思い出した。
そこで初めてアレアという名前を聞いた気がする。
その名前を口にしたのは………お酒の瓶を持ったどこかくたびれた男の姿がだんだんと目の前の男と重なっていく。
「お、お前………」
思い出したのである。
人が多すぎるために気持ち悪くなり、上の階で休もうとしたら、突然見知らぬ男にアレアと呼び止められた。
その後、アロイスが戻ってきて男に向かって確かこう呼んだはずである。父さんと。
「お前アロイスの父親なのか!!」
クロードの目に驚きの色が浮かんだ。
「初めて会った時のことを思い出してくれたのか?やはりきみは天使のような存在だ。こんなにうれしい気持ちは久々だ。アレア、もうどこにも行かないでくれ。私が悪かった。もうあんなことはしない。きみが受け入れてくれるまで、こうして待ち続けるから」
クロードはベッドの上で垂れる赤い紐を持ち上げて軽くキスをした。
「何言ってるのかわからねぇよ!俺はアレアじゃない!つーか、そもそも誰だよそいつ!」
「……本当に知らないんだな。アレアはきみの母親だよ」
「は?俺の母親はアイラっていうんだよ。誰と勘違いしているんだ、アホが」
「アイラか、そう名乗っていたんだな」
クロードは態度悪くされても怒らず、ただ目を優しげに歪めた。
その目にどうしようもない嫌悪感が湧き上がり、アロンは後ろに少し移動した。
「お前はいったいなんなんだよ……」
「きみの母親の本名はアレア・レイネール。私の妹だ」
「……は?」
「私の最愛の妹なんだ。きみは彼女の子どもであり、その似た顔立ちはきっと別の形で私のそばに戻ってきた証だ。私にやり直す機会を与えてくれたんだ」
「お前、何を言ってるんだよ……ちょっと待て母さんがお前の妹!?」
「ああ、そうさ。ライネスという愛も情もないただの鉄の塊にだまされ、傷つけられ、私から奪っていったんだ」
「ライネスに……?どういうことだよ、本当に……」
ライネスもアレアと口にしている。そしてアレアはアロンの母親の本名で、目の前の男の妹である。
いったいライネスに奪われたとはどういうことだ?ライネスは最初から母と知っているようだった。もしかして自分は母さんの子どもだと最初から知っているのか?
ライネス含め、エルヴィス達は自分に母親のことを話そうとしなかった。なんなら避けている。
いったい何を隠されて、どこまであのひと達は知っているのか、色々ありすぎて、複雑すぎて頭が痛くなってくる。
やがてアロンは複雑な考え事で占められた頭をクリーンにすべくクロードに怒りをぶつけた。
「そもそも何様だお前は!ライネスを鉄の塊だと言うが、俺から見ればお前はただの他人だ!しかもなんだこの首輪みたいなものは!俺が最初からつけていたあの輪っかはどうした!?」
「あれはきみを縛り付けてしまう……きみにはもっと自由が必要だ」
「自由?俺をこんなところで犬みたいに繋いでいる人が言うことかよ!」
「もちろん外す。きみが私を受け入れる時がきたら、必ず外す」
「一生ねぇよ!強引なエルヴィス達ですらこんなこと………」
しないと言いたかったが、監禁されていることを思うとなぜかその言葉が続けなかった。
だが何かフォローしないといけない思いに無理やり言葉をつなげた。
「こんなこと……することはあってもお前みたいに変態じゃねぇよ!」
あまりフォローになっていない気がするが、クロードにはしっかりと打撃が入ったようである。
その目が見るみるうちに冷たくなっていく。
「きみはあの者達にだまされている。いや、洗脳させられた。あんな機械のそばで暮らしていいはずがない!」
クロードはスッと立ち上がると部屋の外へ向かった。
アロンはその姿が部屋からいなくなるのを見ると大慌てで紐を断ち切ろうとした。
だがいくら引っ張っても噛みついてもびくともしない。
「何か鋭いものはないのかよ!」
周りをいくら探しても刃物代わりの鋭いものはなかった。
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