悪徳騎士と恋のダンス

那原涼

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第二章

嫌み 2

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懇親会当日、ウィオルたちは会場であるシグレット広場に来ていた。

アルバートは昨晩酔って帰って来たにも関わらず、今朝はぱっちりと目が覚めていた。

レオンは服装の乱れを気にして、さっきからえりにできたシワを伸ばしている。

「ウィオル、どうしよう!緊張してきた!」

レクターはハラハラしながら広場をキョロキョロと見ている。

「大丈夫だ。基本開会式のあいさつのあと、自由交流になっているから。特別に何かする必要はない」

ウィオルは昔、フレングについて行きながら懇親会の警備をしたことがある。そのおかげで大方の進め方は知っていた。

「おお!酒もあるな!」

アルバートが用意されたテーブルに並べられた食べ物と酒を見てうれしそうにしている。

「乗馬に参加するつもりですよね。1日目からあるのでお酒はひかえてください」

「ウィル坊~そう固くなるなよ~」

「落馬しても知りませんよ」

「うっ……しゃーね、終わってから飲むか」

「そうしてください」

ほどなくすると開会のあいさつが始まり、フレングの姿が壇上に立った。

「えー、こんにちは~」

フレングは正式な場でも気の抜けるようなあいさつをした。ニコニコとした顔は相変わらず、カンペしながらなんとか開始のあいさつを進めている。

相変わらずだなあの人。

そしてウィオルが来賓席に座っている面々を眺めている時、ふと見知った顔が見えた。

眼鏡をかけた目に恨めしい感情を乗せてずっとフレングをにらんでいる。

視察官!?あの人も来ていたのか!

2人を交互に見て今度はウィオルがハラハラする番になった。

フレングが壇上から降りても恨めしい視線はその身から離れなかった。

そして自由交流時間になると、さっそくウィオルたちに近づく姿があった。赤い騎士服を着た人たちであり、顔を隠す黒い仮面に目の部分も黒い布でさえぎっている。

あの騎士服は……まさか!!

「こんにちは」

あいさつされてウィオルは慌てて姿勢を正した。

「お初にお目にかかります」

「はは!そんなに固くならなくていいよ。私たちは陛下の代わりとして団長についてきただけだから」

先頭の赤髪の男は気楽にそう言ってちらっとウィオルの背後に立つギルデウスを見た。敏く気づいたギルデウスはギロッとにらんだ。

「なんだ?」

「ギルデウスっ、この方たちは近衛このえ騎士団の団員だ。くれぐれも失礼な態度はとるな」

「だからなんだよ。見てくんな赤頭。ひねりつぶすぞ!」

ウィオルは思わず目を覆った。

なんで今日はこんなに攻撃性が高いんだ!

「それは申し訳なかった。気を悪くしないでくれ。それじゃあ、懇親会を楽しんでいって」

赤髪の男はウィオルに対してひらひらと手を振った。

近衛騎士団の面々は軽く会釈をして会場の中央に行く。

最初は近衛騎士団の人が自らウィオルたちに近づいていったためか、邪魔しまいと誰も近づこうとしなかった。しかし、彼らが会場の中央で特に誰かに話しかけようとしないのを見て、他の騎士たち、そして来賓席にいた貴族もその周りに集まり始めた。

「あ、あの人たちは誰!」

初めて濃緑と藍色以外の騎士服を見たのか、レクターが興奮気味にウィオルの腕を揺らしている。

「あの人たちは近衛騎士団の団員だ。近衛騎士団は誰を守っているのかは知っているか?」

レクターが頭を横に振る。

「皇帝陛下だ」

レクターがガバッと口を開けて驚いた顔をした。

「てことはあの人たち、めちゃくちゃ偉いな!」

「当たり前だ。みんな顔がわからないように仮面を被っているそうだ。さっきの赤い髪の人はおそらく副団長のセシヤ・デフレミアだ。俺も話したのは初めてだな」

「すげぇ!やっぱり帝都って驚くことばかりだな!」

「そうだなぁ、いやなこともワンサカ。ほら、もういやなのが来た」

レオンはレクターの肩をたたいて、あっちを見るようにあごをクイと動かす。

興奮していたレクターは向かってくる4人組の男を見て思い切り顔をしかめた。

「昨日の3人がいる……」

レオンは不思議そうに片目をすがめた。

「なんだ、あのムカつく微笑みをしているやつらは知り合いか?」

「昨日、あのうちの3人がからんできたんだよ」

4人はそのうち3人はウィオルが昨日見たことあると思い出したが、もうひとり筋肉の盛り上がった大男は見たことなかった。

「あいつら、俺たちのこと田舎もんとか言って笑ってくんだよ!しかも俺のこと殴ろうとした!」

「お前いじられてそうな顔してるもんな」

「してねぇし!」

4人はウィオルたちの前に来ると見下しているように腕を組んだ。

「やっぱり田舎もんはまとっている空気が違うな!」

「ダサい空気?」

4人が腹を抱えて笑っているあいだ、ギルデウスも見覚えあると思い出したのか、ザリッと地面を踏みしめる音を聞いた。ウィオルは慌ててその腕をつかむ。

「もう少し我慢だ。せめて今は殴り時じゃない」

ウィオルとギルデウスの動きを見た4人のひとりが「ああ!」と声に出す。

「この2人だ!俺たちを剣術競技で負かすみたいなことを言ったのは!」

「ちゃんと剣を握れるのか?」

「俺が教えてやろうか?」

ウィオルは男たちの優越感にひたった醜い顔を見て眉を寄せた。

「こんな人たちでも翼竜騎士になれるのだな」

4人は笑いを引っ込めてウィオルをにらんだ。

「どういう意味だ」

「品格のかけらもない。他人を笑いものにして自分の自尊心を保つような者など騎士にふさわしくないと言っているんだ」

「エライ口をたたくな?」

先頭の男はニヤリと笑う。

「それならば剣術競技と言わず、最終日の翼竜競技にも出ろよ」

なっ!とレクターが前に出ようとする。その肩をレオンが押し返した。

「なんて卑怯な!俺たちに乗れないと思ってそんなことをいうなんて……っ」

「おいおい、卑怯ってなんだよ。俺は提案しただけ。参加するかどうかはこいつが決めればいい。まあ、腰抜けなら参加しなければいいがな」

「あおってきやがった……っ!」

レクターが顔を真っ赤にして殴りかかりそうになるが、レオンに押さえられているおかげでなんとか我慢できている。そして視線でウィオルに、言ってやれ!と念を送る。

ウィオルは手をきつく握った。自分が翼竜に乗る姿を想像したが、やはりトラウマはまだ克服していなかった。

「一応、誤解がないように言うが、俺は前まで翼竜騎士団にいた。翼竜の乗り方は知っている」

「あ?お前が?」

男は信じてないようにウィオルを上から下まで見た。

「昔は一隊にいた」

「一隊だと?……お前、まさかウィオル・リードか?あの左遷されたやつか!」

「ああ、思い出した!竜から落ちて乗れなくなったやつだ!」

「あれはお前だったのか!」

男たちの嘲る声を耳に、ウィオルはますます手をきつく握りしめた。

「ウィ、ウィオル……」

レクターの心配げな声が聞こえて、ウィオルはなんとか気を保とうとした。その時、突然手首をつかまれて引っ張られた。

強制的にギルデウスと向かい合わされ、思わずごくりとのどが鳴る。

「翼竜競技?おもしろそうな名前だな。出るんだろ」

「いや、俺は……」

布越しにじっと見つめられて、目をそらしそうになるも、ウィオルは唇を噛みしめて若干震える声を出した。

「参加、する」

ギルデウスのふっと笑う声が耳に届く。ウィオルの脳裏に翼竜に乗っていた時期の記憶がよみがえった。それがいつの間にかギルデウスと一緒に乗っている場面に切り変わる。

あの時は2人でいたからなんとか乗れたが、今回は……参加すると言って本当に大丈夫だろうか……。






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