悪徳騎士と恋のダンス

那原涼

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第三章

計画

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立て続けに翼竜がいることに驚き、背負っていたガラックを落としそうになる。

だが、驚きはまだあった。翼竜の姿が何匹も上空を飛んで行く。

「翼竜……騎士団?」

見慣れた翼竜たちが飛んで行くのを見て、爆発がやっと鳴りをひそめたなかでウィオルがポカンと口を開けた。

「ウィオルさん」

呼びかけられて振り返ると、シュナインがすすのついた顔を手でふきながら歩いてきた。

「シュナイン!」

あれ、と言ってシュナインが空を飛んでいる翼竜を指差した。

「もともと近くで少数待機させていたらしいです。モレスを捕えるために、自ら姿を現すよう計画していました。さすがにこの爆発は予想外だと思いますが。というか、あんなに爆弾取り払ったのにまだこんなにあったなんて……」

シュナインが周りの惨状を見ながらため息をつく。

ウィオルはますますわけがわからなくなる。

何を言っているんだ?計画?だとしてもそれをなぜシュナインが知っている?

疑問を感じ取ったのか、シュナインは考える素振りをすると手を左肩に添えた。

「申し遅れました。翼竜騎士団第二分隊に所属するシュナイン・ヴェノジスタです。もともとは長年コンボルで偵察をしていましたが、このたびモレス捕獲のためにシャスナ村へ来ました」

もはや驚きの連続で脳が追いつけない。

「先ほど言った計画とかも団長からの伝言です。ちなみに、恨まないでね、らしいです」

シュナインが翼竜騎士なのもそうだが、そう思うと今までの行動に説明がつく部分があった。

他人とあまり親しくしないシュナインがなぜ名前が似ているだけでボルの調査を手伝うのか、そしてボルの救出に際しても一番に駆けつけている。

長年地方で偵察すると同じ団員でも顔を知らない可能性が大きい。そして経験値もある。そう考えるとシュナインはいい人選かもしれない。

だが……。

「なぜ、俺には何も……」

もう団員じゃないとはいえ、信用されてない?

そんな疑問が横切る。まるで心を読んだかのようにシュナインは手を振る。

「違います。ウィオルさんはこの計画で大きな役割を果たしています。ただ正義感が強いので言わなかっただけです。フレング団長が言うには、ギルデウスと距離が近いせいでモレスが執着を見せているらしいです。ギルデウスを苦しめるのに手段を選ばない人だから必ず手を出すと言ってましたね。あの懇親会の拉致もそうですし、今回ガラックが暗示をかけられているのもあなた関係ですしね。あきらかに狙ってます。だから今回のことを利用して引きずり出すようにしていました。フレング団長も爆弾の偽造だったりといろいろ手を回してウィオルさんがモレスを憎むようにしていたようですが、まあ、わざわざしなくても恋人のために憎んでいる節がありますけどね。あと、気になると思いますけど、村人たちは大道芸人に扮した団員が安全な場所へ誘導しました」

一気にしゃべったのか、シュナインは大きく息を吸って吐き出した。

「思いつくだけ話しましたが何か疑問はありますか?ないでしたらあちらに翼竜2匹止めているので早く避難しましょう」

「あ、ああ。わかった」

疑問があってもここで言わない方がいいのだろう。翼竜を止めているという場所に来ると、うちの1匹がウィオルを見て顔を近づかせた。

「なんだ?妙に人懐っこいな」

「ああ、この子。ウィオルさんが見つけたあの違法飼育個体です」

「お前なのか。ずいぶんと鱗の状態も良くなったな」

艶やかな黒い鱗がわずかに青い色を反射している。その鱗を見つめてウィオルは黙ってしまった。

「ウィオルさん?」

「ガラックを頼む。俺はモレスを追いかける」

「え?でも……あ」

投げ出されたガラックを受け止め、改めてウィオルを見ると、すでに竜に乗り上げていた。

手綱を握るその手は震えているが、あきらめる素振りはない。

「ウィオルさん、乗れないんじゃ……」

「大丈夫だ!とりあえずお前たちだけでも避難してくれ!」

ウィオルはドクドク鳴り響く心臓を落ち着かせようとした。だが、今度はギルデウスが後ろにいないせいかなかなか落ち着かない。震えで手汗すら出てしまう。

ダメだ。これじゃあ翼竜にまで緊張が伝わってしまう。落ち着かないと。

頭に最愛の人の姿を思い描く。そして南まで追いかけたことを振り返って決心した。

モレスのことで理性をなくすほどだ。このまま1人だけ避難しているわけにはいかない。落ちて死ぬか骨折だ。どちらにしても今のギルデウスを1人にしてはいけない。

手綱を引っ張り、命令を受け取った翼竜は翼をはためかせた。

ゆっくりと高度を上げ、天高く上がると前へ飛び立って行く。

「乗れないって聞いたから補佐するつもりだったのに。乗れたのか」

シュナインは仕方なくガラックだけつれて避難することにした。











空では翼竜騎士たちがモレスを逃すまいとシャスナ村の範囲から出ないように囲い込んだ。

しかし、怒りで頭にきたギルデウスは剣を振いながらモレスに切りかかっていく。

「お前だけは絶対に殺す!」

「ハハハッ!!その顔最高だな!本来の計画ならガラックがウィオルを殺すはずなのになぁ!できなくて残念だ!」

「黙れッ!」

モレスのほうが翼竜の扱いに慣れているためか、攻撃はほとんどがかすめる程度だった。

「ギルデウス!モレスは俺たちがなんとかする!お前は手を出すな!」

そう言うも聞き入ってもらえなかった。ギルデウスの激しい攻撃に周りはつけ入るすきもなく、ずっと近づけずにいた。

そこへ翼竜に乗ったウィオルが近づいて行く。気づいた団員が目を丸くする。

「ウィオル!?お前、竜……大丈夫か!顔色悪いぞ!」

青白い顔で汗を吹き出しながらウィオルはうなずく。

「大丈夫だ……ギルデウスは、俺がなんとか、引き止める」

「そんな状態でできるか!早く地上に戻れ!」

だが、わざわざ忠告しなくてもウィオルは地上に戻らざるを得なかった。

攻撃が当たらないとイラついたギルデウスがそのまま翼竜ごとぶつかりに行った。翼竜と一緒に絡み合っていた2人も落ちて行く。

「ギルデウス!!」

ウィオルは翼竜でなんとかギルデウスだけをつかむことに成功した。

「ギルデウス!その手を離せ!騎士団に任せればいい!」

「黙れ!こいつだけはこの手で殺す!」

その手はモレスの首をわしつかんでいる。もう片方の手はウィオルにつかまれ、体は翼竜から垂れ下がっている状態だった。

首を絞められ、足の踏み場もないモレスは苦しんでいたが、その顔は嗤っている。

「お前、ずいぶんと、大事に思われているな!」

「何が言いたい!」

「お前だけッ、だなんて理不尽だ!お前の大事なものを全部、全部壊してやる!」

2人分の体重が垂れ下がっているせいか、翼竜はうまく体勢を整えず、何度も落ちそうになる。最悪なことに位置的に真下は火の海に囲まれている。

これにはウィオルも焦った。

「ギルデウス!手を離せ!そんなやつにこだわる必要はない!」

「黙れ!!こいつは、こいつは絶対に許さない!国も、親も、兄弟も、こいつのせいで!!」

すでに怒りと憎しみで正常な判断ができなくなっている。ウィオルはそう感じた。

そして翼竜はついに耐えられなかったのか、なんとか高度を下げていると突然その体が真下に落ちた。

「しまった!」

3人は火の海に囲まれた中へと落ちてしまった。

翼竜はその驚きで遠吠えを上げながらどこかに飛んで行ってしまい、他の翼竜騎士たちも火の海に近づけずにいる。

その中でギルデウスは拳で何度もモレスの顔を殴っていた。だが突然モレスが嗤う。

「ハハハハハハ!!ギルデウス!お前、俺が何ができるか忘れただろ!こんないい舞台に連れてきてくれて感謝する!」

「なんだと?」

パチンーー

ドクリと心臓が鳴り、ウィオルは頭を抱えてひざをついてしまった。

そうか、火の海に囲まれていると他の人は近づけないから何をしても、クソッ!

酷い頭痛が襲い、吐き気がしてくる。

ダメだ!意思を保て!!操られるな!!

だが舌を噛んでも、頭を地面に叩きつけてもどんどん意識は失っていこうとする。火の勢いはますます激しさを増し、ウィオルの意識とともに周りを飲み込んだ。









◇————————————————————

第3章でこのお話は終わります。もうすぐ終わりに近いです。

最近また見ていただける方が増えてとてもうれしいです!引き続き完結を目指して頑張らせていただきます!











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