悪徳騎士と恋のダンス

那原涼

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番外編&ifストーリー

【番外編】仕事1

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北のヘレントに来たウィオル一行は居住権を手に入れるために仕事を探していた。

ヘレントで結婚式を挙げようとすれば、まず居住権が必要であり、今後もここで生活することを考えて手に入れなければいけなかった。

ウィオルはダグラスと傭兵の仕事を探し、なんとかギルデウスに黙ってやっていたが、1週間も経たないうちにバレてしまった。








重たい拳がウィオルの頬に打ち込まれ、椅子と一緒に壁に吹っ飛ぶ。

「ゲホッ……ギ、ギルデウス!言い訳をーーうっ!」

革ブーツが起き上がったウィオルの胸を踏み、壁にギシリと固定する。

「なんで俺には何も言わなかった」

「ちが、これには深いわけがあって……」

「深いわけ?」

「そう!ギルデウスはもともと北の出身だろ?故郷と似た環境でもっとゆっくりと息抜きしたいんじゃないかと思って」

本音はそんなものではない。ギルデウスは今両目が見えない状態である。音のみで日常生活を送るにも限界がある。今一番早く稼げて、居住権を獲得したあと、家を買うことを見据えて傭兵業が一番いい仕事だった。

バレないように1日や2日でできるような仕事を受けていたが、まさか初仕事で相手が泊まっている宿まで迎えに来るとは思わず、留守番していたギルデウスに無事バレることとなった。

まるでウィオルの考えを見透かしたとばかりにギルデウスが鼻で笑った。

「息抜き……」

そうつぶやいて足にぐいっと力を入れる。

「お前の肺に穴でも開けて息抜きしてやろうか?」

「わ、悪かった……もう二度と黙ったりしない……」

傭兵の仕事はもうできないな。

ウィオルが密かに思っていた時だった。ギルデウスがニヤッと笑う。

「次の依頼はもうきてるのか?」

「え?」

「次の仕事!」

「い、一応依頼だけは舞い込んでいるが……」

「内容は?」

「ここにいるあいだの個人商隊の護衛」

「悪くねぇな」

「ギルデウス……もしかして」

「俺も行く」

「ダメだ!!」

ウィオルは踏んでくる相手の足首をつかんでにらみ上げた。だがすぐに自分の語気が強すぎることに気づいて、ごまかすように目を泳がせる。

「その、あなたがわざわざ仕事をする必要はない」

「あ?どういう意味だ。じゃまだと言いたいのか。お前、やっぱり……」

忌々しくつぶやかれた言葉にウィオルが慌て出した。

「ち、違う!変なこと思わないでくれ!ただ……ただ……」

「………」

「ただ決まった後にまた教えて驚かせたかっただけだ」

苦虫を噛み潰した顔でウィオルは唇を噛んだ。自分の嘘はなぜかその大半がギルデウスに通用しない。

本人が相当見えないことを気にしているため、恋人であり、婚約者でもあるウィオルの態度にはかなり敏感だった。少しでも見えないことを気にする素振りがあるとかなり暴力的になる。

もとより、ギルデウスはそもそも言葉で解決することを知らないので暴力的な性格が加わって手加減を知らない。

しかしいくら殴られて、罵られてもウィオルはますますギルデウスのことを愛おしく思ってしまう。最近自分が新しい世界の扉を開きかけているのではないかと思うこともある。

ウィオルの答えに満足いったのか、今度は機嫌良さげに鼻で笑うとベッドに戻っていった。

一気に通気良くなった胸をなでおろしてウィオルが一息をつく。

ギルデウスの機嫌を見ながら傭兵の仕事を切り上げるしかなくなったな。

いくら相手の意にそいたいと言っても、見えない状態では不利なことも多い。ウィオルはやはり心配からギルデウスに危ない仕事はしてほしくなかった。

なんなら自分が養うから一生どこにも行ってほしくない。まずそのためにはお金がいるが。










ダグラスを通して依頼を受けたウィオルはギルデウスを連れて個人商隊の6人と顔合わせをした。

「「………」」

想像通り6人ともギルデウスを見上げて呆けていた。

「リ、リード殿、これはいったい……」

リードはウィオルの姓名である。先頭の男は怯え気味にチラチラとウィオルの顔色をうかがった。

「その、すみません。彼も傭兵団の団員です」

「そうですか!それならよかったです!」

「賊つったらどうする?」

「賊!?」

男が顔を青ざめて「やはりそうか!」という表情のまま仲間と後ずさりをする。

「ギルデウス!驚かしたらダメだ!」

一応雇い主だ!

ギルデウスは反省しているのかいないのかイタズラが成功した子どもみたいに笑っていた。

こんなことでこれほど純真に笑えるのか。

ウィオルが溺愛な眼差しを向けながら仕方なさそうにする一方で、ダグラスは過去の出来事から「悪魔め」と言いたげに目をすがめた。

個人商隊は3人を見比べてなんだか安いという理由で依頼したことを少し後悔した。





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