悪徳騎士と恋のダンス

那原涼

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番外編&ifストーリー

【ifストーリー】学園編・学年1位

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試験を目の前にして、ウィオルとレクターは図書室で勉強をしていた。

ほとんど泣きつかれる形でウィオルが勉強を見ている。

「ダ、ダメだ……何一つわからない!」

「それはそれでダメだろ。この科目は基本ノートを丸暗記すれば合格点が取れる。まずは暗記だ」

「でも俺記憶力ないんだよな~」

「覚えれるところだけでいい」

「でも難しい~」

ウィオルはそろそろ頭痛を感じた。

どうにかならないだろうか。

最近ギルデウスの勉強も見ているが、しているうちになぜかベッドにいってしまう。

そのことを思い出してほんの顔を赤くする。

「ウィオル?平気か?風邪?」

「い、いや、なんでもない」

だがレクターはなぜか対面にいたはずの席をウィオルの隣に移した。そしてそのまま恋人のように寄りかかる。

「……レクター、何しているんだ」

「風邪なら移してもらおうと思って。目指せ!風邪休み!」

「後日追試受けることになるぞ。とにかく暗記をーー」

「きゃーー!!王子様!!」

「ルナ、図書室では静かに」

ツインテールの女の子と物静かな印象のある男がウィオルたちに近づいてきた。

「ルナとレイ?」

ルナと呼ばれた褐色肌の女の子がレクターを引っぺがして代わりに抱きついた。

「王子様~何してるの?」

「勉強だ。それよりなぜきみもここにいるんだ?」

「見回りかな」

「見回り?」

「そう!だってあたし風紀委員じゃん?ガラックスって生徒がデモなんてつまらないことするからこうやってデモの集会がないかを探してんの。試験間近でそれやるアホなんていないと思うのに、福委員長のレイったら真面目にしなければって言うし」

ガラックスはおそらくガラックのことだと思われる。

ぶつぶつと文句を言い始めたルナのえり首を引っ張って、レイはウィオルに視線を向けた。

「あのあと大丈夫だったか」

「おかげさまでだいぶ収まって、校舎前で騒がれることもありませんでした」

「それはよかった。それじゃ」

まだここにいたいと言うルナを抱き上げてレイはそそくさと図書室を後にした。

「ウィ、ウィ!?」

「……なんだ」

「ウィオル!今の可愛い子誰!?知り合いっ?」

「ギルデウスの妹さんだ。少し前に別の生徒にからまれたところを助けて、それから話すようになった」

「何それ!?もはや定番の出会いじゃんか!うらやましい!!」

「それより勉強のーー」

「俺もそんな出会い欲しいよ~っ」

「レクター」

「場所教えてよ、ねぇウィオル?」

ウィオルはペンを置いて目を覆った。

ダメだ。レクターのことはあきらめるか。

「でもうちの学校って基本乗竜クラスが上位をとるから、頑張っても意味なさそう」

「レクター、それはやらないとわからないことだ」

「そうだよな、ごめん……」

「謝ることでもない」

「1位取るような人って誰だろ。きっと見るからに天才で、なんでもできて、頼りになる人だろうなぁ」

その1位の顔を思い出してウィオルはペンを動かし始めた。

「そうでもないぞ」

「そうなのか?」

「1位はすでに長い間1人に占領されている」

「えっ!?うそ、誰?」

「フレング。ミレネ・フレング。うちの生徒会長だ」

「え……あの人が!?ギルデウスさんに火炙りされたあの人が!?」

「信じがたいだろうが、間違いなくあのつかみどころのない変人だ」

フレングはほがらかに人をイラつかせる達人であり、そのうえゴギブリみたい(ルナ評価)とさえ言われるほどの人物である。

突然現れて、何考えているのかわからず、かつ叩き落としたくなる顔をしているため、同じクラスの時によくつるんでいた親友のサナスが通常装備としてハエ叩きを持ち歩いていた。

ウィオルは頭を振りながら、こんな人がよく生徒会長などになれたものだと思った。なぜ人望とは程遠いフレングが生徒会長なのか、おそらくそれは帝国学園永遠の謎だと思われる。というか本当に謎だった。

学園七不思議の一つとさえ言われている。

「何やってんだ」

その声にウィオルが弾かれたみたい振り向いた。

「ギルデウス!」

「ギルデウスさん!?ごめんウィオル俺用事思い出した!」

勉強道具一式を見捨てたままレクターは窓から飛び降りた。

「俺たちのクラスにはそういった願望でもあるのか?」

ギルデウスはレクターが飛び降りた窓を見て言った。

「願望?」

「アルバートもレクターも他のやつらもよくこんな二階や三階から飛び降りできるもんだな」

いや、それはたぶんきみのせいだ。だがウィオルはそれを口には出せない。

「ギルデウスはなんでここにいるんだ?勉強か?」

ウィオルはちょっと期待の込めた声音こわねで聞いた。

「昼寝」

「………まあ、そうだろうとは思ったが」

こんなに堂々と言われると逆に何も言えなくなる。

「ちょうどいいし、一緒に勉強でもするか?」

「いやいい。寝る」

「で、でもガラックとの約束もあるだろ?試験に負けたら退学と……」

「負けたらあいつもろとも退学にしてやる」

「そんな権力どこにあるんだ……というかそれだったら約束する意味がない」

するとギルデウスは目を細めながらじぃとウィオルを見た。

「な、なんだ?」

「お前、別に俺が退学になったところで外で連絡すればいいのに、やけに気にする素振りをするな」

「え?いや、それはただ」

「なんだ、成績が低いと自分につり合わないと思ったか?」

「つり、合わない?」

なんでそうなるのかウィオルにはわからなかった。誤解されていると気づいて慌てて弁明する。

「違う!俺が気になっているのはあはた自身だ!成績とか関係ない!」

「やっぱりお前がそこまでムキになる理由がねぇな」

「あるだろ!俺たちは恋人だ!」

「………何か見返りでも欲しいか?」

「なんっでそうなるんだよ!」

たまに、ギルデウスと話していると妙に噛み合わない。今がそうである。どうにも自分の言動が何か見返りを求めてのものだと思われている。

確かにギルデウスの注目や関心が欲しいが決してそれを何かの対価にしたいわけではない。だがギルデウスはそう思わない。

「今夜ヤるか?」

「違う!」

「ヤりたくないのか?」

その声に少しの不機嫌が混じる。

「聞いてくれ。俺はーー」

「あのー」

間延びした声が響いて顔を向けると、やけにやる気のない目をした男が2人の近くに来た。

「あ、俺図書委員のシュナイン・ヴェノジスタです。ここでは声を小さくしてもらえませんか。痴話喧嘩なら他の場所おすすめです」

それでは、と言ってシュナインがササッと遠ざかる。

ち、痴話喧嘩ーーッ。

痴話喧嘩だと言われてウィオルが真っ赤になる。

「とりあえず、他の場所に行くか」

ギルデウスはふんっと鼻を鳴らしてそのまま窓に近づいて飛び降りた。

………旧校舎クラスには階段を利用するという概念がないのか?







◇———————————————————

こちらであまり書ける時間が取れず、更新が遅くなってしまいました。

申し訳ありませんm(_ _)m
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