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第5部『Resonant Fate(響命)』
第55話『VERMILLION(暁の彼方)』 B Part
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瀕死のジオーネ・エドル・カスードから不死鳥を継承したリイナ・アルベェラータVs鬼女が模倣で引き出した悪魔の鳥、互いの全力をぶつけ合う凄烈なる一戦の最終局面。
ハイエルフ・ベランドナが悪魔の鳥の本質を見抜いた。
太陽神ラーの御使いである不死鳥。太陽を模した存在。
永久不変な太陽の表面を染める黒点。
強力な磁場を秘めたこの黒点こそ悪魔の鳥の正体であるとベランドナは見抜いた。
相打ち前提で最後の攻撃を仕掛けた鬼女の狙いは其処に生じた。
「調子に乗ってんじゃぁないッ!」
暫く黙って人間達の与太話に付き合った鬼女。
何故黙認したか正直自分で理解に苦しむ。兎に角死に物狂いの突貫を再開すべく少女に迫ろうとした次の瞬間。
ユラァァ……。
飛び掛かろうとしたリイナの姿が炎毎、揺れた様子を視覚に捉えた。
当然だと言い聞かせる、自分は満身創痍。
血も足りずまともな思考が出来ぬのだ。目に映るリイナを正確に捉え切れず、蜃気楼のように揺れて見えたのだと決めつけた。
──構うものかッ! これ以外もう残ってないッ!
あくまで目の錯覚だと決め、方向だけリイナへ定め鬼焔で飛び込む鬼女。
何たる事か、手応えがまるで無かった。それ処か、加えて一方的に背中を脚で蹴られた激痛が走り抜けた。
「ば、馬鹿なッ!?」
自身だけ受けた理不尽な痛覚、それでもリイナを追い求めた。石畳を蹴り、折れた翼はためかせ、上から迫り征く攻勢に変えた。
ユラァ……。
宙から眺めているのに再び踊るリイナ正義の炎。
ベランドナは俄かに信じ難い光景を目の当たりにした気分。
格闘術、そんなものまるで知らぬリイナが拳闘の華麗な脚捌きで鬼女の視覚に幻影を残していた。
──常に揺らぎ動き続ける太陽が発する炎を彷彿させた──
その上、鬼女が定めた黒点以外の場所を狙い澄まして攻撃するのだ。
黒点の発する磁場に惑わされず、不死鳥を継いだばかりのリイナが熟す脅威の攻勢。
飛来した鬼女、躰毎少女に避けられた敗北感に潰された。
そう──。
これは既に自身の負け。逆に頭上を本物に取られたのだ。
逆転の一手?
本気でやり合った闘争。そんなご都合主義など在り得ない。数多の戦闘を潜り抜けた者だからこそ、この場は甘んじて受ける。鬼とて戦人の矜持は捨てない。
バキッ!
鬼女の首裏、嫌な音響。砕けた首が在らぬ向きへ屈曲。燃え盛るリイナが己の全体重を載せた膝落とし。見事鬼女の首をへし折った。
「や、やったよジオ君ッ! 私、勝てたッ!」
絶叫と共に涙噴き出すリイナ、されど勝ち取った歓喜に在らず。
他人を殴る蹴る──暴力が生じる心の痛みから漸く解放された嬉しさ弾けた。
例えそれが大切な人を殺そうとした敵であろうと、自身に返る痛みがこれほど辛いと今さらリイナは知り得た。
同時に父ジェリドやローダ、増してや普段から素手で相手を殴るルシアの強さを思い知らされた。
やがてリイナから不死鳥の炎が失せ、躰中に刻まれた炎の紋様も消えた。リイナに継がれた不死鳥も戦の終わりを自ら知り得たらしい。
炎の翼を失い、地上へ力無く落下するリイナを、ベランドナが右往左往しながら如何にか受け止めた。
「ジオ君ッ!」
リイナ、泣き通しの顔で床に伏せたジオーネ・エドル・カスードの元へ駆け寄る。不死鳥召喚を果たした当人が助からないと告げた言葉は重みが違う。
本当にもぅ、如何にもならないのか?
ジオーネの傍らにベランドナが戻り座って、先に様子を窺っていた。
「べ、ベランドナさん! ジオ君はッ!」
リイナに声を掛けられたベランドナ、正直芳しくない顔色である。
ベランドナ、先ずはリイナを落ち着かせるべく、両肩にそっと手を置きジオーネの傍へ座らせる。
そしてリイナの手を握り、ジオーネの首元へゆっくりあてがうのだ。
──冷たい……けど何か変?
扉の候補者ローダ・ファルムーンが蘇生時、心肺停止して1週間以上経過したにも関わらず、温かみと死後硬直した身体が柔らかみを持った不思議を思い出す。
あの時とは明らかに異なる。
体温は失われ、死後硬直も始まっていた。
ドクンッ……。
「えっ!?」
それはそれは信じ難きほど緩やかな命の脈動であった。然も余程注意せねば気付かぬほど微弱な脈だ。
「良いですか、ジオーネ様は息をしておりません。細胞分裂は完全に機能停止させました。──ですが魂は未だ此処に在ります」
リイナへ言い聞かせようと躍起──ベランドナの声色は慎重を喫していた。
「Masterと師匠、サイガン・ロットレンが300年寝ていた話は御存知ですね。今のジオーネ様は限りなくそれに近い状態です。私の精霊術式で如何にか死を免れました」
リイナの蒼い瞳がこれ迄以上に見開かれ、大粒の涙をとめどなく流す。
そしてふくよかなベランドナの胸に飛び込み、思い切り顔を沈めた。母に甘えるかの様なリイナの涙声。
「う、うわぁッ! べ、ベランドナさぁぁんッ!」
リイナは泣いた、ひたすら泣いた。
14年の生涯に於いて一番の泣きじゃくり。不謹慎な比較だが母ホーリィーンの葬式より強かに涙した。
それは、此処迄の苦労が報われた結実やも知れなかった。何しろ救えたのである、哀しみに暮れる涙と比べるのは的外れと云うものだ。
不死鳥を引継ぎ戦った様子を頭のお堅い大人が聞いても通じないかも知れない。構わないとリイナは思う。ベランドナが一部始終見てくれたのだから。
「あ、あくまで一時的です。鉱石の精霊で細胞の動きを封じ、潮流の精霊で命の流れだけ如何にか回した。こんな無茶、私も初めてでした。早くFortezaへ連れて行きましょう」
ハイエルフの約300歳──。
実の処、此方も未だ精神年齢的に子供と云って差し支えないベランドナが、リイナをあやせず顔を赤らめ大層困り果てた。
Fortezaに帰れば、冷凍睡眠装置が存在する。
何年掛かるか、ひょっとしたら数十年掛かるかも知れない。されどそれでもジオーネの時間をゆっくり流せば痛んだ細胞が緩やかに回復し、目覚める日が訪れる可能性はゼロじゃない。
リイナとベランドナ、安らかに眠るジオーネを覗き込み、とある想いに夢馳せていた。
それは笑顔湛えたドーナツ屋のひと時──4人に独りの純朴な少年が加わる夢だ。
◇────────◇
『なん何ですこの食べ物?』
真ん中に穴の開いたパンの様な食べ物を前に大層首を傾げるオッドアイの少年。
『知らないのですか? ドーナツって云うんですよ』
知った風な口で説明するベランドナ、彼女とて、ついこの間知ったばかりだ。
『何で真ん中に穴が空いてるんでしょう?』
兎に角其処に拘る純粋で小さな少年。後、真っ黒な飲み物を覗き込み『これ、飲めるんですか?』またしても金髪の首を傾げた。
『アハハッ! 知らない! どうしてだろうね。良いからはべよ』
笑い飛ばす容赦ないリイナ、構わず口に運んで頬張りながら喋る行儀の悪さを覗かせ、緑装束の少年を驚かせた。
◇────────◇
幸せな妄想が次々膨らみ、増々涙が留まる気配を忘れた。
気が付けばベランドナ自身も、リイナと共に涙と嗚咽を漏らしていた。二人に取ってこれは夢の扱いに在らず。必ず訪れる祝福、理屈じゃない自分達の描いた物語なのだ。
可愛く直向きな少年、ジオーネ・エドル・カスードは『ただ寝てるだけ、未だ生きている』この事実を今時分は幸福と捉えたい14と300、二人の少女であった。
ハイエルフ・ベランドナが悪魔の鳥の本質を見抜いた。
太陽神ラーの御使いである不死鳥。太陽を模した存在。
永久不変な太陽の表面を染める黒点。
強力な磁場を秘めたこの黒点こそ悪魔の鳥の正体であるとベランドナは見抜いた。
相打ち前提で最後の攻撃を仕掛けた鬼女の狙いは其処に生じた。
「調子に乗ってんじゃぁないッ!」
暫く黙って人間達の与太話に付き合った鬼女。
何故黙認したか正直自分で理解に苦しむ。兎に角死に物狂いの突貫を再開すべく少女に迫ろうとした次の瞬間。
ユラァァ……。
飛び掛かろうとしたリイナの姿が炎毎、揺れた様子を視覚に捉えた。
当然だと言い聞かせる、自分は満身創痍。
血も足りずまともな思考が出来ぬのだ。目に映るリイナを正確に捉え切れず、蜃気楼のように揺れて見えたのだと決めつけた。
──構うものかッ! これ以外もう残ってないッ!
あくまで目の錯覚だと決め、方向だけリイナへ定め鬼焔で飛び込む鬼女。
何たる事か、手応えがまるで無かった。それ処か、加えて一方的に背中を脚で蹴られた激痛が走り抜けた。
「ば、馬鹿なッ!?」
自身だけ受けた理不尽な痛覚、それでもリイナを追い求めた。石畳を蹴り、折れた翼はためかせ、上から迫り征く攻勢に変えた。
ユラァ……。
宙から眺めているのに再び踊るリイナ正義の炎。
ベランドナは俄かに信じ難い光景を目の当たりにした気分。
格闘術、そんなものまるで知らぬリイナが拳闘の華麗な脚捌きで鬼女の視覚に幻影を残していた。
──常に揺らぎ動き続ける太陽が発する炎を彷彿させた──
その上、鬼女が定めた黒点以外の場所を狙い澄まして攻撃するのだ。
黒点の発する磁場に惑わされず、不死鳥を継いだばかりのリイナが熟す脅威の攻勢。
飛来した鬼女、躰毎少女に避けられた敗北感に潰された。
そう──。
これは既に自身の負け。逆に頭上を本物に取られたのだ。
逆転の一手?
本気でやり合った闘争。そんなご都合主義など在り得ない。数多の戦闘を潜り抜けた者だからこそ、この場は甘んじて受ける。鬼とて戦人の矜持は捨てない。
バキッ!
鬼女の首裏、嫌な音響。砕けた首が在らぬ向きへ屈曲。燃え盛るリイナが己の全体重を載せた膝落とし。見事鬼女の首をへし折った。
「や、やったよジオ君ッ! 私、勝てたッ!」
絶叫と共に涙噴き出すリイナ、されど勝ち取った歓喜に在らず。
他人を殴る蹴る──暴力が生じる心の痛みから漸く解放された嬉しさ弾けた。
例えそれが大切な人を殺そうとした敵であろうと、自身に返る痛みがこれほど辛いと今さらリイナは知り得た。
同時に父ジェリドやローダ、増してや普段から素手で相手を殴るルシアの強さを思い知らされた。
やがてリイナから不死鳥の炎が失せ、躰中に刻まれた炎の紋様も消えた。リイナに継がれた不死鳥も戦の終わりを自ら知り得たらしい。
炎の翼を失い、地上へ力無く落下するリイナを、ベランドナが右往左往しながら如何にか受け止めた。
「ジオ君ッ!」
リイナ、泣き通しの顔で床に伏せたジオーネ・エドル・カスードの元へ駆け寄る。不死鳥召喚を果たした当人が助からないと告げた言葉は重みが違う。
本当にもぅ、如何にもならないのか?
ジオーネの傍らにベランドナが戻り座って、先に様子を窺っていた。
「べ、ベランドナさん! ジオ君はッ!」
リイナに声を掛けられたベランドナ、正直芳しくない顔色である。
ベランドナ、先ずはリイナを落ち着かせるべく、両肩にそっと手を置きジオーネの傍へ座らせる。
そしてリイナの手を握り、ジオーネの首元へゆっくりあてがうのだ。
──冷たい……けど何か変?
扉の候補者ローダ・ファルムーンが蘇生時、心肺停止して1週間以上経過したにも関わらず、温かみと死後硬直した身体が柔らかみを持った不思議を思い出す。
あの時とは明らかに異なる。
体温は失われ、死後硬直も始まっていた。
ドクンッ……。
「えっ!?」
それはそれは信じ難きほど緩やかな命の脈動であった。然も余程注意せねば気付かぬほど微弱な脈だ。
「良いですか、ジオーネ様は息をしておりません。細胞分裂は完全に機能停止させました。──ですが魂は未だ此処に在ります」
リイナへ言い聞かせようと躍起──ベランドナの声色は慎重を喫していた。
「Masterと師匠、サイガン・ロットレンが300年寝ていた話は御存知ですね。今のジオーネ様は限りなくそれに近い状態です。私の精霊術式で如何にか死を免れました」
リイナの蒼い瞳がこれ迄以上に見開かれ、大粒の涙をとめどなく流す。
そしてふくよかなベランドナの胸に飛び込み、思い切り顔を沈めた。母に甘えるかの様なリイナの涙声。
「う、うわぁッ! べ、ベランドナさぁぁんッ!」
リイナは泣いた、ひたすら泣いた。
14年の生涯に於いて一番の泣きじゃくり。不謹慎な比較だが母ホーリィーンの葬式より強かに涙した。
それは、此処迄の苦労が報われた結実やも知れなかった。何しろ救えたのである、哀しみに暮れる涙と比べるのは的外れと云うものだ。
不死鳥を引継ぎ戦った様子を頭のお堅い大人が聞いても通じないかも知れない。構わないとリイナは思う。ベランドナが一部始終見てくれたのだから。
「あ、あくまで一時的です。鉱石の精霊で細胞の動きを封じ、潮流の精霊で命の流れだけ如何にか回した。こんな無茶、私も初めてでした。早くFortezaへ連れて行きましょう」
ハイエルフの約300歳──。
実の処、此方も未だ精神年齢的に子供と云って差し支えないベランドナが、リイナをあやせず顔を赤らめ大層困り果てた。
Fortezaに帰れば、冷凍睡眠装置が存在する。
何年掛かるか、ひょっとしたら数十年掛かるかも知れない。されどそれでもジオーネの時間をゆっくり流せば痛んだ細胞が緩やかに回復し、目覚める日が訪れる可能性はゼロじゃない。
リイナとベランドナ、安らかに眠るジオーネを覗き込み、とある想いに夢馳せていた。
それは笑顔湛えたドーナツ屋のひと時──4人に独りの純朴な少年が加わる夢だ。
◇────────◇
『なん何ですこの食べ物?』
真ん中に穴の開いたパンの様な食べ物を前に大層首を傾げるオッドアイの少年。
『知らないのですか? ドーナツって云うんですよ』
知った風な口で説明するベランドナ、彼女とて、ついこの間知ったばかりだ。
『何で真ん中に穴が空いてるんでしょう?』
兎に角其処に拘る純粋で小さな少年。後、真っ黒な飲み物を覗き込み『これ、飲めるんですか?』またしても金髪の首を傾げた。
『アハハッ! 知らない! どうしてだろうね。良いからはべよ』
笑い飛ばす容赦ないリイナ、構わず口に運んで頬張りながら喋る行儀の悪さを覗かせ、緑装束の少年を驚かせた。
◇────────◇
幸せな妄想が次々膨らみ、増々涙が留まる気配を忘れた。
気が付けばベランドナ自身も、リイナと共に涙と嗚咽を漏らしていた。二人に取ってこれは夢の扱いに在らず。必ず訪れる祝福、理屈じゃない自分達の描いた物語なのだ。
可愛く直向きな少年、ジオーネ・エドル・カスードは『ただ寝てるだけ、未だ生きている』この事実を今時分は幸福と捉えたい14と300、二人の少女であった。
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