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第6部『Reunion & Admonition(再会と”最戒”)』
第66話『Born to Find You Beyond the Door(君に出逢う為に拓いた)』 B Part
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地球上で唯一生き残った文明を孤独に担うForteza──。
英雄と女傑をひとつに奏でたチャペルの鐘が鳴り響く純潔。
ローダ・ファルムーンが少し至らぬ満月の名を捨て、ローダ・ロットレンとして装い新たな人生の門出を祝う鐘の音だ。
同刻──。
扉の候補者を見定める鍵の女性ルシアが、彼の心を拓き、自らもを解き放つ誓いの接吻で魂から結ばれ、生涯の伴侶に漸く至れた祝福の風来たる。
まるでルシアが風そのものと為りて恵みの雨を降らせた荘厳。どんな絵師にも決して描けぬ色鮮やかな華が──今、咲き誇る。
バーンッ!
『その婚儀、意義有り!』
不意にチャペルの扉が開かれ余分な嵐が吹き込んだ。
しゃがれた初老の男、想いの丈を必死にぶつけたサイガン・ロットレン。もうこの一言で肺が潰れようとも構いやしない胸中を明かした。
だが刻、既に遅かった──。
ローダとルシアはエリナ・ガエリオ司祭と、もはや血縁より大切な仲間達に見守れ誓いを交した。
サイガンは神前で反逆の意志を示す。それはまるで彼の人生そのものと云えた。
普段サイガン自身が好んで身に纏う黒いスーツ──ではなく、黒のタキシードと二人を認めた純白のネクタイ。
式の裏側でひそやかに若い二人の門出を祝うつもりでいた雰囲気を醸し出す。
タキシードの肩が揺れる息使い。
「お前達二人が愛し合うのを最早止めるつもりはないのだ。だが何故ッ! どうして貴様がロットレンを名乗るッ!」
皺が深く血管の浮き出た右人差し指を突き出して最大限の愚直を吐き出す。老練を極めた姿が霞んで見えた。
式場の誰しもが主人公であるべき蕾開いたばかりの夫妻でなく、嵐の根源を見やる瞠目。
正式にサイガンの息子と成ったローダが妻ルシアを抱き寄せ真顔で返す。
「俺とルシア二人で決めた。何の問題もない筈だ」
それは余りに父と似過ぎた愚直、だが正論過ぎる答えであった。
ガタッ。
「二人共成人を迎えている、確かに何も問題ない。我々が見届けた」
元フォルデノ王国騎士団、騎士の正式な白装束にその身を包んだ偉丈夫ジェリド・アルベェラータから繰り出される正論の塊。
アドノス島に於ける唯一無二な王国の聖騎士。胸に抱くはフォルデノ王国忠義の証、赤の竜を象る紋章。
騎士抜けした者にも拘わらず如何にも王国の見届け人を装う油断も隙もなき説得力を異端な黒い老人へ向けた。
「ぐっ! し、然しこれは我が一族の問題だ」
「ふぅ……」
語るに落ちたロットレン家最後の正当な血筋。
独り娘のルシアを奪うのではなくロットレン家に籍を譲る男相手に何の不満が云えようか。
ジェリドは語らず溜息ひとつでこれをあしらう。他にも奇異に溢れた冷たい視線が判らず屋の老人へ直に降り注いだ。
「サイガン・ロットレン様。例え新婦ルシア様の父上と云えど戦の女神の御前、司祭として当然容認出来ません」
毅然と振舞うエリナ・ガエリオ司祭。夫婦揃って戦之女神の信者でこそないが、預かった結婚式を汚される謂れはないのだ。
パンッ、パンッ。
不意に二拍、掌を叩く音がチャペル内を木霊した。皆の視線の行先が変わる。金縁眼鏡の吉野亮一が眼鏡を外して磨いてから掛け直す。
「ローダ御夫妻の結婚は晴れて成立致しました。込み入ったお話は披露宴──『三毛猫亭』にて伺うと云う事でこの場はどうか収めて頂きたい。式を預かる吉野亮一が責任を以て伺います」
師サイガンと相反する余裕の笑みと口振り。 マーダ第二の徒『ドゥーウェン』と名乗らず本名で流した。
皺で細かった目を見開き弟子を睨みつけるサイガンと、笑みを絡ませる亮一の図式。如何にも『総て整った正式な婚儀です』声を聞かずとも知れた。
「──僭越ながら森の女神の御加護を受けたこのハイエルフ、ベランドナもその口述伺わせて頂きたく存じます」
吉野亮一の傍らで控えていたハイエルフのベランドナも美麗かつ迫力秘めた琥珀色を添えた。
「サイガン殿、祝いの席だ。新郎の兄である僕の顔も立ててくれると嬉しい」
まさしくこれ以上ない四面楚歌──。
一応サイガンの背中を押しても良い立場であるマーダことルイス・ファルムーンが笑顔で〆た。
──何を伺うつもりだ亮一! 私の語る口を完璧に潰しおった!
師を蔑む逆転の視線を黙認しか出来ぬサイガン。「ふんっ」と身を翻してその場を後にせざるを得なかった。
「……」
ルシアが無言の揺らぎをローダに送る上目遣い。やはりどうあってもサイガン・ロットレンは彼女の親なのだ。
妻ルシアの不安を受け留めたローダ穏やかな微笑を湛え、全てを胸に抱く決意を改めて固める。辛くはない──彼女を取り巻く全部を自分が受ける幸福。
「大丈夫だルシア……ヒビキも、そして君の義父さんも俺が必ず護り抜く」
「──ッ!」
改めて夫ローダに唇を注いだルシア。
夫の言葉にその身が震え再び化粧を崩す涙目。
ルシアに取ってローダ・ロットレンは、英雄の座から昇格した救世主に思え、その身も心も魂さえも委ねる。その場所が余りに居心地良く溶けてしまうかに思えた。
ガッ!
「良か……良か門出じゃ! 良か青年んなった!」
新郎新婦の空気を敢えて読まないガロウ・チュウマが、ローダの首元を腕でガシリッと絞めた荒っぽい祝福。後に続けとばかりにローダの黒頭を叩く仲間達。
「ルシア・ロットレン──本当に心から御祝い申し上げます」
いつもの甘えた御姉様呼びでないリイナから妻ルシアへの祝詞。銀色の少女が肩震わせ心の底から涙を伝えた。
女性陣も『リイナに続け』とばかりにルシアから幸せのお裾分けを強請るべくドレスの裾上げ次々と押し寄せる。
まるで触れたら願いの叶う御神体、女性達がルシアの空いた場所をみつけ続々握り振り回す。
この後花嫁ルシアは幸福を投げるのだが、彼女達もやはり待てなかった。
この後、披露宴会場へ移動する一同。
店毎貸切った『三毛猫亭』まで祝福を伝えるのを我慢し切れなかったローダとルシアを心底慕う気の早い友達。
その様子を存在自体が影と云うべき兄ルイスが「クスリツ」──柔らかい笑みを思わず貰い零すのだ。
『パッパ、そしてママ……やっぱり僕…う、生まれたい……よ! 皆の場所に!』
──ヒビキッ!
母ルシアが命の器の中、式中の間、心を閉ざしたヒビキ。天照大御神の様に皆の呼び出しに応じ、ローダとルシアの魂を震わす。
ルシアが娘の名を心で叫び、今度はローダが涙堪え切れず顔を歪めて手で目を隠した。
やはりローダとルシアが護ると誓った家族とは此処に居る総てであった。
英雄と女傑をひとつに奏でたチャペルの鐘が鳴り響く純潔。
ローダ・ファルムーンが少し至らぬ満月の名を捨て、ローダ・ロットレンとして装い新たな人生の門出を祝う鐘の音だ。
同刻──。
扉の候補者を見定める鍵の女性ルシアが、彼の心を拓き、自らもを解き放つ誓いの接吻で魂から結ばれ、生涯の伴侶に漸く至れた祝福の風来たる。
まるでルシアが風そのものと為りて恵みの雨を降らせた荘厳。どんな絵師にも決して描けぬ色鮮やかな華が──今、咲き誇る。
バーンッ!
『その婚儀、意義有り!』
不意にチャペルの扉が開かれ余分な嵐が吹き込んだ。
しゃがれた初老の男、想いの丈を必死にぶつけたサイガン・ロットレン。もうこの一言で肺が潰れようとも構いやしない胸中を明かした。
だが刻、既に遅かった──。
ローダとルシアはエリナ・ガエリオ司祭と、もはや血縁より大切な仲間達に見守れ誓いを交した。
サイガンは神前で反逆の意志を示す。それはまるで彼の人生そのものと云えた。
普段サイガン自身が好んで身に纏う黒いスーツ──ではなく、黒のタキシードと二人を認めた純白のネクタイ。
式の裏側でひそやかに若い二人の門出を祝うつもりでいた雰囲気を醸し出す。
タキシードの肩が揺れる息使い。
「お前達二人が愛し合うのを最早止めるつもりはないのだ。だが何故ッ! どうして貴様がロットレンを名乗るッ!」
皺が深く血管の浮き出た右人差し指を突き出して最大限の愚直を吐き出す。老練を極めた姿が霞んで見えた。
式場の誰しもが主人公であるべき蕾開いたばかりの夫妻でなく、嵐の根源を見やる瞠目。
正式にサイガンの息子と成ったローダが妻ルシアを抱き寄せ真顔で返す。
「俺とルシア二人で決めた。何の問題もない筈だ」
それは余りに父と似過ぎた愚直、だが正論過ぎる答えであった。
ガタッ。
「二人共成人を迎えている、確かに何も問題ない。我々が見届けた」
元フォルデノ王国騎士団、騎士の正式な白装束にその身を包んだ偉丈夫ジェリド・アルベェラータから繰り出される正論の塊。
アドノス島に於ける唯一無二な王国の聖騎士。胸に抱くはフォルデノ王国忠義の証、赤の竜を象る紋章。
騎士抜けした者にも拘わらず如何にも王国の見届け人を装う油断も隙もなき説得力を異端な黒い老人へ向けた。
「ぐっ! し、然しこれは我が一族の問題だ」
「ふぅ……」
語るに落ちたロットレン家最後の正当な血筋。
独り娘のルシアを奪うのではなくロットレン家に籍を譲る男相手に何の不満が云えようか。
ジェリドは語らず溜息ひとつでこれをあしらう。他にも奇異に溢れた冷たい視線が判らず屋の老人へ直に降り注いだ。
「サイガン・ロットレン様。例え新婦ルシア様の父上と云えど戦の女神の御前、司祭として当然容認出来ません」
毅然と振舞うエリナ・ガエリオ司祭。夫婦揃って戦之女神の信者でこそないが、預かった結婚式を汚される謂れはないのだ。
パンッ、パンッ。
不意に二拍、掌を叩く音がチャペル内を木霊した。皆の視線の行先が変わる。金縁眼鏡の吉野亮一が眼鏡を外して磨いてから掛け直す。
「ローダ御夫妻の結婚は晴れて成立致しました。込み入ったお話は披露宴──『三毛猫亭』にて伺うと云う事でこの場はどうか収めて頂きたい。式を預かる吉野亮一が責任を以て伺います」
師サイガンと相反する余裕の笑みと口振り。 マーダ第二の徒『ドゥーウェン』と名乗らず本名で流した。
皺で細かった目を見開き弟子を睨みつけるサイガンと、笑みを絡ませる亮一の図式。如何にも『総て整った正式な婚儀です』声を聞かずとも知れた。
「──僭越ながら森の女神の御加護を受けたこのハイエルフ、ベランドナもその口述伺わせて頂きたく存じます」
吉野亮一の傍らで控えていたハイエルフのベランドナも美麗かつ迫力秘めた琥珀色を添えた。
「サイガン殿、祝いの席だ。新郎の兄である僕の顔も立ててくれると嬉しい」
まさしくこれ以上ない四面楚歌──。
一応サイガンの背中を押しても良い立場であるマーダことルイス・ファルムーンが笑顔で〆た。
──何を伺うつもりだ亮一! 私の語る口を完璧に潰しおった!
師を蔑む逆転の視線を黙認しか出来ぬサイガン。「ふんっ」と身を翻してその場を後にせざるを得なかった。
「……」
ルシアが無言の揺らぎをローダに送る上目遣い。やはりどうあってもサイガン・ロットレンは彼女の親なのだ。
妻ルシアの不安を受け留めたローダ穏やかな微笑を湛え、全てを胸に抱く決意を改めて固める。辛くはない──彼女を取り巻く全部を自分が受ける幸福。
「大丈夫だルシア……ヒビキも、そして君の義父さんも俺が必ず護り抜く」
「──ッ!」
改めて夫ローダに唇を注いだルシア。
夫の言葉にその身が震え再び化粧を崩す涙目。
ルシアに取ってローダ・ロットレンは、英雄の座から昇格した救世主に思え、その身も心も魂さえも委ねる。その場所が余りに居心地良く溶けてしまうかに思えた。
ガッ!
「良か……良か門出じゃ! 良か青年んなった!」
新郎新婦の空気を敢えて読まないガロウ・チュウマが、ローダの首元を腕でガシリッと絞めた荒っぽい祝福。後に続けとばかりにローダの黒頭を叩く仲間達。
「ルシア・ロットレン──本当に心から御祝い申し上げます」
いつもの甘えた御姉様呼びでないリイナから妻ルシアへの祝詞。銀色の少女が肩震わせ心の底から涙を伝えた。
女性陣も『リイナに続け』とばかりにルシアから幸せのお裾分けを強請るべくドレスの裾上げ次々と押し寄せる。
まるで触れたら願いの叶う御神体、女性達がルシアの空いた場所をみつけ続々握り振り回す。
この後花嫁ルシアは幸福を投げるのだが、彼女達もやはり待てなかった。
この後、披露宴会場へ移動する一同。
店毎貸切った『三毛猫亭』まで祝福を伝えるのを我慢し切れなかったローダとルシアを心底慕う気の早い友達。
その様子を存在自体が影と云うべき兄ルイスが「クスリツ」──柔らかい笑みを思わず貰い零すのだ。
『パッパ、そしてママ……やっぱり僕…う、生まれたい……よ! 皆の場所に!』
──ヒビキッ!
母ルシアが命の器の中、式中の間、心を閉ざしたヒビキ。天照大御神の様に皆の呼び出しに応じ、ローダとルシアの魂を震わす。
ルシアが娘の名を心で叫び、今度はローダが涙堪え切れず顔を歪めて手で目を隠した。
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