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第6部『Reunion & Admonition(再会と”最戒”)』
第68話 『Wild Heaven(嵐舞う天国)』 B Part
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洋食屋・三毛猫亭に態々持ち込んだグランドピアノ。
愛機である黒いノートPCのキーボードをグランドピアノに変えた奏者『吉野亮一』
彼の周囲を取り巻く管楽器の演奏者達。
音の魔法使いに応じたローダ・ロットレンが満面の笑みと共に、妻ルシアを抱き寄せる踊りに誘う。
絡み合う二人の指に煌めく情熱の灯。純白の風使いが誘いに応じた。
夫ローダが掴む手から注がれる赤の生命力。命の紡ぎ合いが今──花開く瞬間。
これから起こる魔法の舞台を期待せずにはいられぬ女性達。
麗しの視線を横から見やる男性達。
特にロッギオネから出向いたスオーラ・カルタネラの純粋無垢な紫の瞳を覗き込む僧兵フィエロ・ガエリオの熱い目線。
スオーラ──。
普段から身に纏う六芒星の髪飾りとネックレスはそのまま。緑の長髪も流した慎ましやかな姿。
然し藍染の修道服から白のオフショルダーへの変身。
修道騎士総長の亡き父から継いだ凛とした面持ち。腕と胸元にあしらう雪を散らしたレース生地の刺繍がより彼女の純潔を際立たせる。
これから始まる演奏と若き夫婦の踊りを想像し胸躍らせ、ほのかに頬赤らめる夢見がちなお年頃。
普段肌を余り晒さぬ彼女が隣に居るだけで同い年のフィエロ。目移りを留める術が見つからず、いっそ肩を抱いてみた。
タンッ、タタンッ……。
「皆様──今宵はロットレン夫妻の披露宴へようこそお越し下さいました」
吉野亮一、演奏前のちょっとしたマイクパフォーマンス。
声量とは異なるブレのない声。それこそピアノの如く調律された落ち着き払った響き。
普段から人を説得だけで堕とす彼の声が今夜は店に仕掛けた音響設備の所為か、やけにキレを感じさせた。
「今日は何とあの護りの女神ファウナ・デル・フォレスタの生誕祭が、この三毛猫亭にて行われたとか。この奇跡に立ち会える感謝を込め、僭越ながら奏でさせていただきます。では……どうぞごゆるりと」
御礼代わりのピアノ独奏から始める亮一の自信。
300年前から森の女神を召喚し、この場に居合わす風の女神を必ず巡り合わせたき情熱を音に委ねる。これは彼だけに許容された戦場。
特設された舞台上、ローダとルシアがピアノの音響に合わせ、踊りに依る足音を奏でる合奏。皆が注目、誰も声はおろか息さえ吐けない。凍った様な刻の流れ。
やがて管楽器達がピアノ独奏に続き、俄然賑やかに──そして華やかさを増して往くのだ。
静かに聞き入っていた観衆からどよめきが起こる。
風の女神が夫ローダを宙へ連れ出す。
風の精霊術士の本領発揮。自由の翼を用いて灯りの真下、流麗極めたダンスを始める。普通の灯りを二人の舞が反射させ、シャンデリアへ変え往く魔術。
前回ローダと共に初めて踊り、社交界が終わった後も、素のまま明かした初夜。
OPERAの初夜──ローダの導きに全てを委ねたルシアだが今宵は違う色を見せる。
まるで争うかの如き激しき演舞、夫ローダの誘いに負けじとばかり。共に導き合いを魅せるのだ。
やがて1990年代のテクノサウンドが好きな亮一、鍵盤の上で彼の指も乱舞し始め、リズム激しくも耳障り良きテンポへ移り変わる。
踊る様にピアノを演奏した電子音と歴史の音をひとつに紡いだとある著名なミュージシャンが亮一に乗り移ったかの様な洗練。
亮一のピアノ演奏。
白いドレスを揺らすルシアの導き。
それを受け留め鍵盤の音を拾う様に纏め上げ、踊りに活かすローダの巧みさ。
三者三様──極彩色。三人だけの舞踏会。
戸惑う観客、全部観たいが目移りが忙しさを極める。全てが揃った協奏に酔いしれるのだ。
『ローダ……私怖いくらいに今幸せ』
『俺もだルシア──もういっそ尽きるまで君と踊っていたい』
余りにおませなヒビキが両親の祝福を後押しするのだ。繋いだ手の先からパッパとママへ想いの丈を響かせる悪戯。
皆の注目を集める中、ローダとルシアは互いしか見えないみていない。
「──全く……呆れた夫婦だ。結婚式とは祝いに訪れた者達へ感謝を手向けるものだろうに」
肘をつき娘と義理の息子の踊りを見上げる父サイガンの呟き。『呆れた』と云う顔が緩んでいた。あれぞ最大級の感謝の証だと実は知っていた。
「なんだ彼奴! 格好つけ過ぎじゃぁねえかっ!」
投槍の使い手ランチアが思わず文句を垂れる。彼の乱舞は戦いでこそ活きるのだ。自身の華やかさを知らぬ一言。
「あっ? 嗚呼……」
隣──。
赤ワインで酔わなかったプリドールがローダとルシアの演舞に酔い潰れ、相棒ランチアへ返す言葉を忘れた。
「狡い……」
ボソッと一言。らしくない心の声が漏れてしまうリイナ。傍らのベランドナが如何にも少女らしいリイナの言動を聞き遂げ微笑む。
「フィエロ……貴方踊れる?」
「え! あ、あぁ……が、頑張る!」
自分も賢士の修行一筋──踊りなんてまるで見知らぬスオーラが、共に踊りたいフィエロへ気分を擦る。
不意に振られたフィエロ。大層困った声を絞り出し、努力の約束を口にするのが精一杯であった。
「見ているかホーリィーン。見事なものだな。俺達のリイナもいつの日か……」
騎士ジェリド──。
亡き妻ホーリィーンと踊り明かした若き日の思い出と溺愛する娘。リイナがやがて良き伴侶と幸せを抱く未来を妄想しながら、白ワインへ静かに口づけ。
「ほうづき……まこち逢いたか。華恵、我月、元気にしちょっか……」
ローダとルシアを見上げ自分も知らぬ間に涙を流した中馬我狼。不覚の漢泣き。
地元に置いて来た妻『ほうづき』と長女『華恵』、長男『我月』に想いを馳せつつ洋酒を煽る。せめて芋臭い酒が欲しいと願った。
「あれが真の扉を拓いた者達の舞。──問題ない。僕とフォウにも資格が必ずある。何しろ僕は中に女神を飼っているのだから」
たった独り──。
舞の中途で背中を見せ、帰宅の途につく兄ルイス。ひがみでも妬みでもない本音を残した。
先程の結婚式、そしてこの披露宴が未だ宇宙で生き長らえてる人工衛星のネットを通じ全世界へ配信されている。
扉の兄弟が偽りとはいえ手を取り合った。
鍵の女性を造った父の名を継いだ英雄。
そして平和と栄華を極めたFortezaの安寧。
例えInternetを受け取る端末が希少と化したこの世界軸であろうとも、この平和と力の多重放送。
我がFortezaへ今にも襲い掛からんとする愚かな外敵達へ鳴らす福音入り混じる警告。
世界を震わす自信がある吉野亮一の愉悦交えた演奏の宴。
この提案がローダからあったらればこそ、話に乗ったのだ。彼は平和を嘯く冷戦の只中を操る自分に酔っていた。
後は風姫の器に住まうヒビキ・ロットレン。
師サイガン・ロットレンと嘗て夢見た人工知性と扉を拓いた者。さらに新人類である彼女も手中に収めれば300年越しの夢が盤石と化すのだ。
吉野亮一が描いた強固なる天国が手に届く瀬戸際に思い描きながらピアノが奏でる音に独り依存し切っていた。
愛機である黒いノートPCのキーボードをグランドピアノに変えた奏者『吉野亮一』
彼の周囲を取り巻く管楽器の演奏者達。
音の魔法使いに応じたローダ・ロットレンが満面の笑みと共に、妻ルシアを抱き寄せる踊りに誘う。
絡み合う二人の指に煌めく情熱の灯。純白の風使いが誘いに応じた。
夫ローダが掴む手から注がれる赤の生命力。命の紡ぎ合いが今──花開く瞬間。
これから起こる魔法の舞台を期待せずにはいられぬ女性達。
麗しの視線を横から見やる男性達。
特にロッギオネから出向いたスオーラ・カルタネラの純粋無垢な紫の瞳を覗き込む僧兵フィエロ・ガエリオの熱い目線。
スオーラ──。
普段から身に纏う六芒星の髪飾りとネックレスはそのまま。緑の長髪も流した慎ましやかな姿。
然し藍染の修道服から白のオフショルダーへの変身。
修道騎士総長の亡き父から継いだ凛とした面持ち。腕と胸元にあしらう雪を散らしたレース生地の刺繍がより彼女の純潔を際立たせる。
これから始まる演奏と若き夫婦の踊りを想像し胸躍らせ、ほのかに頬赤らめる夢見がちなお年頃。
普段肌を余り晒さぬ彼女が隣に居るだけで同い年のフィエロ。目移りを留める術が見つからず、いっそ肩を抱いてみた。
タンッ、タタンッ……。
「皆様──今宵はロットレン夫妻の披露宴へようこそお越し下さいました」
吉野亮一、演奏前のちょっとしたマイクパフォーマンス。
声量とは異なるブレのない声。それこそピアノの如く調律された落ち着き払った響き。
普段から人を説得だけで堕とす彼の声が今夜は店に仕掛けた音響設備の所為か、やけにキレを感じさせた。
「今日は何とあの護りの女神ファウナ・デル・フォレスタの生誕祭が、この三毛猫亭にて行われたとか。この奇跡に立ち会える感謝を込め、僭越ながら奏でさせていただきます。では……どうぞごゆるりと」
御礼代わりのピアノ独奏から始める亮一の自信。
300年前から森の女神を召喚し、この場に居合わす風の女神を必ず巡り合わせたき情熱を音に委ねる。これは彼だけに許容された戦場。
特設された舞台上、ローダとルシアがピアノの音響に合わせ、踊りに依る足音を奏でる合奏。皆が注目、誰も声はおろか息さえ吐けない。凍った様な刻の流れ。
やがて管楽器達がピアノ独奏に続き、俄然賑やかに──そして華やかさを増して往くのだ。
静かに聞き入っていた観衆からどよめきが起こる。
風の女神が夫ローダを宙へ連れ出す。
風の精霊術士の本領発揮。自由の翼を用いて灯りの真下、流麗極めたダンスを始める。普通の灯りを二人の舞が反射させ、シャンデリアへ変え往く魔術。
前回ローダと共に初めて踊り、社交界が終わった後も、素のまま明かした初夜。
OPERAの初夜──ローダの導きに全てを委ねたルシアだが今宵は違う色を見せる。
まるで争うかの如き激しき演舞、夫ローダの誘いに負けじとばかり。共に導き合いを魅せるのだ。
やがて1990年代のテクノサウンドが好きな亮一、鍵盤の上で彼の指も乱舞し始め、リズム激しくも耳障り良きテンポへ移り変わる。
踊る様にピアノを演奏した電子音と歴史の音をひとつに紡いだとある著名なミュージシャンが亮一に乗り移ったかの様な洗練。
亮一のピアノ演奏。
白いドレスを揺らすルシアの導き。
それを受け留め鍵盤の音を拾う様に纏め上げ、踊りに活かすローダの巧みさ。
三者三様──極彩色。三人だけの舞踏会。
戸惑う観客、全部観たいが目移りが忙しさを極める。全てが揃った協奏に酔いしれるのだ。
『ローダ……私怖いくらいに今幸せ』
『俺もだルシア──もういっそ尽きるまで君と踊っていたい』
余りにおませなヒビキが両親の祝福を後押しするのだ。繋いだ手の先からパッパとママへ想いの丈を響かせる悪戯。
皆の注目を集める中、ローダとルシアは互いしか見えないみていない。
「──全く……呆れた夫婦だ。結婚式とは祝いに訪れた者達へ感謝を手向けるものだろうに」
肘をつき娘と義理の息子の踊りを見上げる父サイガンの呟き。『呆れた』と云う顔が緩んでいた。あれぞ最大級の感謝の証だと実は知っていた。
「なんだ彼奴! 格好つけ過ぎじゃぁねえかっ!」
投槍の使い手ランチアが思わず文句を垂れる。彼の乱舞は戦いでこそ活きるのだ。自身の華やかさを知らぬ一言。
「あっ? 嗚呼……」
隣──。
赤ワインで酔わなかったプリドールがローダとルシアの演舞に酔い潰れ、相棒ランチアへ返す言葉を忘れた。
「狡い……」
ボソッと一言。らしくない心の声が漏れてしまうリイナ。傍らのベランドナが如何にも少女らしいリイナの言動を聞き遂げ微笑む。
「フィエロ……貴方踊れる?」
「え! あ、あぁ……が、頑張る!」
自分も賢士の修行一筋──踊りなんてまるで見知らぬスオーラが、共に踊りたいフィエロへ気分を擦る。
不意に振られたフィエロ。大層困った声を絞り出し、努力の約束を口にするのが精一杯であった。
「見ているかホーリィーン。見事なものだな。俺達のリイナもいつの日か……」
騎士ジェリド──。
亡き妻ホーリィーンと踊り明かした若き日の思い出と溺愛する娘。リイナがやがて良き伴侶と幸せを抱く未来を妄想しながら、白ワインへ静かに口づけ。
「ほうづき……まこち逢いたか。華恵、我月、元気にしちょっか……」
ローダとルシアを見上げ自分も知らぬ間に涙を流した中馬我狼。不覚の漢泣き。
地元に置いて来た妻『ほうづき』と長女『華恵』、長男『我月』に想いを馳せつつ洋酒を煽る。せめて芋臭い酒が欲しいと願った。
「あれが真の扉を拓いた者達の舞。──問題ない。僕とフォウにも資格が必ずある。何しろ僕は中に女神を飼っているのだから」
たった独り──。
舞の中途で背中を見せ、帰宅の途につく兄ルイス。ひがみでも妬みでもない本音を残した。
先程の結婚式、そしてこの披露宴が未だ宇宙で生き長らえてる人工衛星のネットを通じ全世界へ配信されている。
扉の兄弟が偽りとはいえ手を取り合った。
鍵の女性を造った父の名を継いだ英雄。
そして平和と栄華を極めたFortezaの安寧。
例えInternetを受け取る端末が希少と化したこの世界軸であろうとも、この平和と力の多重放送。
我がFortezaへ今にも襲い掛からんとする愚かな外敵達へ鳴らす福音入り混じる警告。
世界を震わす自信がある吉野亮一の愉悦交えた演奏の宴。
この提案がローダからあったらればこそ、話に乗ったのだ。彼は平和を嘯く冷戦の只中を操る自分に酔っていた。
後は風姫の器に住まうヒビキ・ロットレン。
師サイガン・ロットレンと嘗て夢見た人工知性と扉を拓いた者。さらに新人類である彼女も手中に収めれば300年越しの夢が盤石と化すのだ。
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