16 / 17
第2部『意識の魔道士』
第16話 幼馴染の落着きと葛藤
しおりを挟む
「あれ? どうしたの疾斗? 自転車なんて珍しいじゃない」
無い体力を振り絞り、フラフラと坂道をどうにか登っている中途。部活帰りの逢沢弘美に涼しい顔で追い抜かれる。
───過酷な部活で酷使してる筈の女子から、ど、どうしてこうも気楽に僕は抜かれるのか? 増してやまだまだ暑い盛りだというのに。
せっかくの真新しい自転車も、僕のようなヘタレが乗車では全く以って冴えないだろう。練習が目的だから敢えて自分専用を準備せずとも良かったのだが。
僕にとっては新しい事始めなのだ。せっかくだから気分を新たにと思った。所詮、大型量販店の格安物に過ぎないけれど。
それにバイクの免許が取得出来たとしても、いきなり購入出来るとは到底思えないから、足は合った方が良いに決まっていた。
「ハァハァ…ハァハァ………」
僕の普段の行動範囲には、坂道なんて敵は存在しない。弘美にしてみれば、それも知った上での『珍しいじゃない………』って発言なのだろう。
ようやく登り切った所で、僕の脚がいう事を効かなくなる。あ、汗がヤバい………。情けないけど、気が遠くなりそうだ。
「はい、コレ飲みなよ。この季節なんだから、水分取らなきゃマジ危ないよ」
「あ、ありがと………」
坂の上でわざわざ待っててくれた弘美が、スポドリが入ってるらしいボトルを気軽に差し出す。朦朧とする意識の中で、それを受け取り突き出たストローを口に入れる。
───い、生き返る………。HP0寸前だった僕の身体に染み渡る万能薬……っておいっ、待てっ! このストローってばよっ!?
「あ、あ、ち、違う………た、ただ喉が渇いていただけなんだ」
「………? 判ってるよ、そんなこと」
僕の顔が朱色に染まり切っている理由は、急な登り坂を無理して上がり、血流量が増しているからではない。
弘美の頭に浮いている疑問符。僕の慌てふためきぶりの意味を、まるで判っていない口振りであった。
───何も塗っていない自然な赤みが差した健康的な唇を意識せずにはいられなかった。
「こ、コレ、コレ………」
今しがた口にしたばかりの物を僕が幾度も指差し、弘美へアピールする。すっかり首を傾げていたが、ようやく把握した様で、顔を緩ませ一気に吹き出す。
「アハハッ! おっかしいっ! そういうことぉ!? そんな小学生じゃあるまいし」
自分の膝を何度も叩く弘美の笑いが鳴り止まない。腹筋が痛いのか少々目が潤んですらいる。
「あーっ、えぇ………そうでござんしょうよ………。高校生の男子がそんなことを逐一意識してたら、恋愛なんて出来ねえよな………」
これは他の誰でもない僕自身の恋愛童貞が成した台詞だ。けれどサラリと、ただの友達には言わない余計な付属品が付いていた。
「………れ、恋愛ね」
登り坂の駆け上がりでも、間接キスですら、まるで響きやしない弘美の目の下に、自然のチークを入れてしまった。
「………そ、それはそれとして、どうして疾斗が自転車なんかでこんな所に居るの?」
自ら話を逸らしたかったのか、冒頭の質問へ戻る弘美。慌てた気持ちをまるで代弁してるかの様に揺れ動くポニーテールが次に僕の目を惹く。
───そ、それは間接キスより触れて欲しくない話題だ。弘美からの場合だと実に顕著だ。
「そ、それはだあな………う、運動不足っ! そうっ、運動不足解消のためさ。流石に家に閉じ籠ってばかりじゃ身体に良くな………」
「どうせ爵藍ちゃん絡みでしょう。アンタの顔に書いてあるわ」
最後まで告げようとした矢先に挫かれてしまった。恐る恐るゆっくりと弘美の顔へ視線を送る。
少しだけ剥れた頬がそこにはあった。
「………大丈夫。私その程度で怒るほど短気じゃないつもりよ」
ふぅと軽い深呼吸をしてから笑顔へ返り、僕に視線を合わせてそう答えた。落着き払って魅せている感じではなさそうだ。
───何だろうこの笑顔………。今の弘美になら正直に接するべきではあるまいか。………勝手な思い込みかも知れないけど。
「………う、うん。実はそうなんだ。僕、まだバイクに乗れるか判らないけど、免許だけでも取るかもって颯希に話したんだ」
『颯希』……目の前に居るのは弘美だけ。だから颯希との約束の方は違えて爵藍って呼称しても問題ないし、寧ろ角が立たない気もする。
───だけど、それはそれで卑怯なやり口だと感じた。
後は颯希の勧めで免許を取る前に自転車で練習すべきだと言われたことを在りのままに話した。
僕の言葉にしっかりと耳を傾け、逐一頷きを返してくれる弘美がいる。何だかとても有難いと感じた。
「なるほどねぇ………。いや、爵藍ちゃんの言ってることは正論だと私も思うよ。正直疾斗は運動神経が足りないからねぇ」
しみじみと言われてしまった………。幼馴染の言葉は重みが違う。でも受け入れて貰えてやはり話して良かったと安堵した。
「疾斗がやりたいことに口出しするつもりはないし、良いアドバイスをしてくれた爵藍ちゃんには感謝だね。………ところでさ、まるで違う話を続けても良い?」
僕の話は全肯定してくれた弘美。けれど違う話題を切り出そうとした途端、雲行きが怪しさを帯びる。
「な、何だ。どうした? 帰りの時間だったら、特に気にしなくて良いよ」
「あ、ありがとう………じゃ、じゃあ話すね」
弘美の話したかった内容………。それはあのテニス大会の直後、彼女が自宅へ帰る時のことであった。
嘗ては親同士の仲良しから始まった筈の風祭疾斗と逢沢弘美の友人としての付き合い。これに待ったを掛けた弘美の父親………。やはりあの場にも顔を出していた。
そして僕の堂々と応援をした振舞いに、禁を破ったなどと勝手な言い分があったそうだ。
───せっかく勇気を持ってテニスに向き合おうと決め、勝利を残したのに何という言い草だろう………。僕の中の何者かが大いに弾ける。
「ちょい待ちっ! あれは俺が勝手こいただけろうがっ………。何でお前が怒られんだよっ! テメェが望んだ最高をくれてやったのに一体どういう了見だァッ!?」
火の国の第6皇子………フィアマンダ・パルメギアの傲慢なる怒りが炸裂した。
無い体力を振り絞り、フラフラと坂道をどうにか登っている中途。部活帰りの逢沢弘美に涼しい顔で追い抜かれる。
───過酷な部活で酷使してる筈の女子から、ど、どうしてこうも気楽に僕は抜かれるのか? 増してやまだまだ暑い盛りだというのに。
せっかくの真新しい自転車も、僕のようなヘタレが乗車では全く以って冴えないだろう。練習が目的だから敢えて自分専用を準備せずとも良かったのだが。
僕にとっては新しい事始めなのだ。せっかくだから気分を新たにと思った。所詮、大型量販店の格安物に過ぎないけれど。
それにバイクの免許が取得出来たとしても、いきなり購入出来るとは到底思えないから、足は合った方が良いに決まっていた。
「ハァハァ…ハァハァ………」
僕の普段の行動範囲には、坂道なんて敵は存在しない。弘美にしてみれば、それも知った上での『珍しいじゃない………』って発言なのだろう。
ようやく登り切った所で、僕の脚がいう事を効かなくなる。あ、汗がヤバい………。情けないけど、気が遠くなりそうだ。
「はい、コレ飲みなよ。この季節なんだから、水分取らなきゃマジ危ないよ」
「あ、ありがと………」
坂の上でわざわざ待っててくれた弘美が、スポドリが入ってるらしいボトルを気軽に差し出す。朦朧とする意識の中で、それを受け取り突き出たストローを口に入れる。
───い、生き返る………。HP0寸前だった僕の身体に染み渡る万能薬……っておいっ、待てっ! このストローってばよっ!?
「あ、あ、ち、違う………た、ただ喉が渇いていただけなんだ」
「………? 判ってるよ、そんなこと」
僕の顔が朱色に染まり切っている理由は、急な登り坂を無理して上がり、血流量が増しているからではない。
弘美の頭に浮いている疑問符。僕の慌てふためきぶりの意味を、まるで判っていない口振りであった。
───何も塗っていない自然な赤みが差した健康的な唇を意識せずにはいられなかった。
「こ、コレ、コレ………」
今しがた口にしたばかりの物を僕が幾度も指差し、弘美へアピールする。すっかり首を傾げていたが、ようやく把握した様で、顔を緩ませ一気に吹き出す。
「アハハッ! おっかしいっ! そういうことぉ!? そんな小学生じゃあるまいし」
自分の膝を何度も叩く弘美の笑いが鳴り止まない。腹筋が痛いのか少々目が潤んですらいる。
「あーっ、えぇ………そうでござんしょうよ………。高校生の男子がそんなことを逐一意識してたら、恋愛なんて出来ねえよな………」
これは他の誰でもない僕自身の恋愛童貞が成した台詞だ。けれどサラリと、ただの友達には言わない余計な付属品が付いていた。
「………れ、恋愛ね」
登り坂の駆け上がりでも、間接キスですら、まるで響きやしない弘美の目の下に、自然のチークを入れてしまった。
「………そ、それはそれとして、どうして疾斗が自転車なんかでこんな所に居るの?」
自ら話を逸らしたかったのか、冒頭の質問へ戻る弘美。慌てた気持ちをまるで代弁してるかの様に揺れ動くポニーテールが次に僕の目を惹く。
───そ、それは間接キスより触れて欲しくない話題だ。弘美からの場合だと実に顕著だ。
「そ、それはだあな………う、運動不足っ! そうっ、運動不足解消のためさ。流石に家に閉じ籠ってばかりじゃ身体に良くな………」
「どうせ爵藍ちゃん絡みでしょう。アンタの顔に書いてあるわ」
最後まで告げようとした矢先に挫かれてしまった。恐る恐るゆっくりと弘美の顔へ視線を送る。
少しだけ剥れた頬がそこにはあった。
「………大丈夫。私その程度で怒るほど短気じゃないつもりよ」
ふぅと軽い深呼吸をしてから笑顔へ返り、僕に視線を合わせてそう答えた。落着き払って魅せている感じではなさそうだ。
───何だろうこの笑顔………。今の弘美になら正直に接するべきではあるまいか。………勝手な思い込みかも知れないけど。
「………う、うん。実はそうなんだ。僕、まだバイクに乗れるか判らないけど、免許だけでも取るかもって颯希に話したんだ」
『颯希』……目の前に居るのは弘美だけ。だから颯希との約束の方は違えて爵藍って呼称しても問題ないし、寧ろ角が立たない気もする。
───だけど、それはそれで卑怯なやり口だと感じた。
後は颯希の勧めで免許を取る前に自転車で練習すべきだと言われたことを在りのままに話した。
僕の言葉にしっかりと耳を傾け、逐一頷きを返してくれる弘美がいる。何だかとても有難いと感じた。
「なるほどねぇ………。いや、爵藍ちゃんの言ってることは正論だと私も思うよ。正直疾斗は運動神経が足りないからねぇ」
しみじみと言われてしまった………。幼馴染の言葉は重みが違う。でも受け入れて貰えてやはり話して良かったと安堵した。
「疾斗がやりたいことに口出しするつもりはないし、良いアドバイスをしてくれた爵藍ちゃんには感謝だね。………ところでさ、まるで違う話を続けても良い?」
僕の話は全肯定してくれた弘美。けれど違う話題を切り出そうとした途端、雲行きが怪しさを帯びる。
「な、何だ。どうした? 帰りの時間だったら、特に気にしなくて良いよ」
「あ、ありがとう………じゃ、じゃあ話すね」
弘美の話したかった内容………。それはあのテニス大会の直後、彼女が自宅へ帰る時のことであった。
嘗ては親同士の仲良しから始まった筈の風祭疾斗と逢沢弘美の友人としての付き合い。これに待ったを掛けた弘美の父親………。やはりあの場にも顔を出していた。
そして僕の堂々と応援をした振舞いに、禁を破ったなどと勝手な言い分があったそうだ。
───せっかく勇気を持ってテニスに向き合おうと決め、勝利を残したのに何という言い草だろう………。僕の中の何者かが大いに弾ける。
「ちょい待ちっ! あれは俺が勝手こいただけろうがっ………。何でお前が怒られんだよっ! テメェが望んだ最高をくれてやったのに一体どういう了見だァッ!?」
火の国の第6皇子………フィアマンダ・パルメギアの傲慢なる怒りが炸裂した。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺をフッた幼馴染が、トップアイドルになって「もう一度やり直したい」と言ってきた
夏見ナイ
恋愛
平凡な大学生・藤堂蓮には忘れられない過去がある。高校時代、告白した幼馴染の星宮瑠奈に「アイドルになるから」とこっ酷くフラれたことだ。
数年後、瑠奈は国民的アイドル『LUNA』として輝いていた。遠い世界の住人になった彼女との再会なんて、あるはずもなかった――そう、変装した彼女が俺の前に現れ、「もう一度やり直したい」と泣きつくまでは。
トップアイドルの立場を使い強引に迫る元幼馴染と、過去の傷。揺れ動く俺の日常を照らしてくれたのは、俺の才能を信じてくれる後輩・朝霧陽葵の存在だった。
俺をフッた幼馴染か、俺を支える後輩か。過去の清算と未来の選択を描く、ほろ苦くも甘い、逆転ラブコメディ、開幕。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!
竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」
俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。
彼女の名前は下野ルカ。
幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。
俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。
だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている!
堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!
イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について
のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。
だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。
「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」
ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。
だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。
その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!?
仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、
「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」
「中の人、彼氏か?」
視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!?
しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して――
同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!?
「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」
代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
