【完結】🧚‍♀️カクヨムコン10中間選考突破作品・マーダ『森の護り人・ファウナ』-ローダ第零章-

🗡🐺狼駄(ろうだ)

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第5部 世界の片隅で起きる戦争に見向きもしない人々

第45話 芸術の華

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 ──能力的にはただの踊り子である筈のレヴァーラが堂々名乗りすら挙げ、No3天斬相対あいたいしようとしていた頃。

 一応No0リディーナが率いてる形となっているディスラド包囲網。不意に戦闘の幕が明けた。

 フラリッと現れた見た目裸婦らふに等しき女の両目がカッと充血した途端とたん、発火点となり爆発したのだ。

「──き、聴いていたがこれ程とはッ!?」

「きゃあッ!? い、いったあぁぁっ!」

「ウグッ!?」

 リディーナの言いつけ通り、自分の駆る人型機体を後方へ蹴り出し御丁寧ごていねい尻餅しりもちすらさせる。そうあくまで故意こいに、こっぴどくと見る者に印象付けるべく。

 同乗していたNo8ディーネも派手に尻餅を突く。いくらコクピットが広い方とはいえ所詮しょせん単座1人乗り。固い計器類に身体をぶつけなかっただけマシだと言える。

 普段冷静クレバーNo7フィルニアでさえ、人型兵器特有の姿勢維持性能オートバランサーの反応には驚かざるを得ない。マリアンダの背もたれにしがみ付くのがやっとである。

 目前にて火山の如きを上げた女の姿にマリアンダ・アルケスタは茫然自失ぼうぜんじっしつ。その破壊力もさる事ながら、何しろ非人道的ひじんどうてきが過ぎる。

 人間の5倍はあろうかという機体を、真実に噴き飛ばしたと判定しても釣銭つりせんが出る位、それは異常な光景であった。

 これまで人殺し戦争で日々のかてを得ていた自分をないがしろにしているのに気が付けない。

 ──しかし無理もなかろう。
 ただでさえあわれな女がただのと化したのだ。あの神殿で神を気取きどる男のなぐさみ者で居た方がまだマシだったなんて認められない、認めたくない。

「こ、これが金髪野郎ディスラドのやること……っ! 火山やミラノをぶっ飛ばした時、一体どれだけ犠牲にしたんだッ!!」

 怒髪天どはつてんと化したアル・ガ・デラロサ。壊してしまうのではないかと危惧きぐする程、グレイアードのコクピットを拳で殴る。

「──何百……いえ何千でしょうか。これが彼の渇望かつぼうした芸術の形なのです。──また来ます、次は複数」

 リディーナはさも当然の結果として冷たくこの状況を言い放つ。無論、彼女とて気分が良いとは微塵みじんも思ってなどいない。

 ただ作戦を遂行すべく、この地に居るのを最優先事項としているだけだ。

「おぃっ! リディーナさんよォッ! アレのきっかけ発破条件は何だッ?」

「そ、それが……。恐らくですがディスラドNo2と一度たりとも目が合った者なら、後は彼が散れっと思うだけで実は良いらしいのです」

 ディスラドの爆弾と化す発動条件。軍からの合流組に取って初めて相手するヴァロウズの能力値を的確に把握したいのは当然の事。

 此処に至り初めてうつろな顔で応じるリディーナ。とんでもない事を言っているが、わずかばかり自信がない口振りなのだ。

「──ええッ!?」
「ハァッ!? そんな馬鹿な話があるかァァッ!?」

 慌てふためくマリーとアル。当然だろう、その理屈が事実なら顔見知りであるリディーナ、フィルニア、ディーネとて即座に爆弾と化すのが道理。

ただし、アレにはアレなりの美学がある様なのです。先ず美麗びれいであれ。さらに己が目に堕ちた適った者だけを良しとする……」

 さも嫌気顔いやけがおで応じるリディーナ。言ってて馬鹿馬鹿しくて仕方がないのだ。

「「ハァッ!?」」

 アルとマリー、最早この2人。ヴァロウズ達の力を聞く度、驚きの語彙力ごいりょく喪失そうしつしてゆかずにはいられなくなっている。

「いや待て待て、って、いよいよ全く以て意味判らんっ!?」

 デラロサが無線に向けて平手を振る。無論そんなアピール誰にも見えやしない。

 ──俺は女を目で口説く。冗談ジョークならまだ判るが地で行くだとォッ!?

「私だって可笑おかしな事、言ってる自覚があります! 兎も角ともかく話は後です! 次はデカいの来ますよ!」

 数十人が列を為す女性陣の塊。そのまるで覇気はきのない歩みぶり。亡者ゾンビの様な連中の1人が芸術爆発の華を咲かせると、開花する桜の如く次々に誘爆ゆうばくしてゆく。

「グッ! 止めろ止めろぉ! ほこりに入って痛いじゃないかっ!」

 独り明らかに怒りの矛先ベクトルが違う者がいる。巨大な白狼、No6チェーンである。大きく鋭い目をゴシゴシこするはまるで猫の顔洗いだ。

 ──目? それはメインカメ……じゃないのか、そうか。

 マリアンダが自分の認識誤りを頭脳の中で正してゆく。──嗚呼、それが貴女チェーンの目そのものだった。判っていたつもりでもおかす間違いとは往々おうおうにしてあるものだ。

 またもや散り散りとなって避ける一行。こうも壮絶そうぜつで酷い花見惨劇は在り得ない。それでもリディーナだけは無言で動画LIVEを撮り続ける。

「リディーナッ! 美女がああも消されてゆくのは、最早我慢がまんならんッ!」

 ──美女!?

 啖呵たんかを切ってグレイアードが飛び出してゆく。美女という言葉に不快をいだいたマリー。それについてリディーナは何故か是非ぜひを問わなかった。

 その様子を神殿側から目をらして見ていた男が口が裂けんばかりにわらう。腰に差した剣の柄を握り締める。

 No2ディスラドは、美麗びれいなるものが好きなだ。あくまで剣こそが彼の本懐ほんかい。このだけで、2番目になった訳では決してない。

 3番目の剣士天斬より上の実力は伊達だてじゃない。

 ◇◇

 ──レヴァーラ・ガン・イルッゾ? 勢いは買うが貴様に一体何が出来る?

 No3の剣士、天斬てんざが柄しかない己の剣を空から降って来るレヴァーラへ向ける。完全なる名フルネームは初めて聞いた。

 ──どれだけ着飾きかざろうとも、お前はただの踊り子に過ぎん。俺はこの女剣士オルティスタとやりたいのだ。邪魔立ては止めて貰う。

 先程自衛隊員越しに放った蒼き光線を幾重いくえも飛ばす。曇天どんてんえる輝き。──重力任せに降って来る相手レヴァーラ迂闊うかつ過ぎるのだ。

 確かにそうかも知れない。
 増してや天斬のける以外の選択肢がない。ごくありふれた得物えものでそれを受けるのは不可能。

 ブォンッ! ブンッ!

「──な、何だと!」

 ──何とした事だろう。

 レヴァーラが自分に下から押し寄せる火の粉光の刃を右手の巨大な実体剣で、いとも容易たやすはじいたではないか。

 天斬は万が一レヴァーラが横に避けても当たる様、置きだますら飛ばす周到しゅうとうさを見せつけた。

 処がだ。レヴァーラが、さらにその上をく。

 自分の真正面に飛んできた分を弾くだけではき足らず、えてその無駄だま側へ移動し、丹精たんせい込めて弾き落とした。

 これはリディーナが対天斬戦向けに入れた仕込みがこうそうした。レヴァーラの握るこの実体剣、強力な電磁場を帯びている。強い磁場とは光すらも曲げるのだ。

「フフッ……。では我と遊んで貰おうではないかっ!」

「クッ!? 斬り結べただけで俺の剣に勝てると思うなァッ!」

 遂に地上で互いの剣を交える両者。天斬の輝きをレヴァーラが大いに散らす。

 余裕の笑みで上から実体剣を叩きつけるレヴァーラ、ちょっと剣におぼえがあるだけの踊り子。
 対する天斬がえる通り、自分の師匠すらも超えた男だ。その練度れんどの差たるや歴然れきぜん

 ただ彼は知らないのだ。

 レヴァーラが着装ちゃくそうしている戦闘服バトルスーツの真なる技術力。

 それに宙でこのレヴァーラすら追うのを諦めた天斬の無駄弾を、弾くのではなく蒼き光の刃マディラスで斬り裂いた魔法少女のしたたかさを。
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