【完結】🧚‍♀️カクヨムコン10中間選考突破作品・マーダ『森の護り人・ファウナ』-ローダ第零章-

🗡🐺狼駄(ろうだ)

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第6部 人が創りし者と造られし者

第58話 狂気と狂気の狭間で揺れる

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 暗い、暗い、何処までも暗い闇の中にある小部屋。

 たったこれだけの説明だと監獄かんごくかと思われるやも知れない。しかしそこにはベッドが在り、短い金髪の男が割れた腹筋をさらしながら親指をくわえていた。その足元を白い子猫が幾度いくども回る。

 この部屋、窓こそ無いが実は母なる星青い地球を上から見下ろす位置に存在するのだ。

 この部屋コロニーの主、ヴァロウズの圧倒的No1、エルドラ・フィス・スケイルである。闇しかないこの部屋に於いて、彼の輝く金髪と白い毛並みのジオはやたら目立つ。

「──レヴァーラ、ウチらと本気でやるみたいやな」

 また暗闇に光る影が増える。No4でエルドラと恋仲であるパルメラ・ジオ・アリスタだ。嫌気の差した声色でエルドラの隣へ座る。そのひざの上にピョンッと飛び乗るジオであった。

「全く以って困った話だよ。僕はねパルメラ、レヴァーラ・ガン・イルッゾは人を進化させたいという純粋たるこころざしが在るって信じていたんだ」

 パルメラはジオの顎下あごしたもてあそびつつ、愛する男の言葉に耳をかたむけている。まるで子供をあやすかの様に何度もうなずきを返す。

「せやな。せやからこそ彼女の元にさんじた力ある連中ヴァロウズやった筈なのに。要らんゆうて斬って捨てる。随分勝手なもんやでホンマ本当に

 パルメラが『斬って捨てる』を仕草で表現する。実に腹にえかねたその態度。

「ま、せやかてあの外連味けれんみたっぷりのレヴァーラはんも、そして例の魔法少女ファウナも貴方の足元にも及ばんやろ?」

 憤怒ふんぬしたかと思えば次は首をすくめてヤレヤレ──慌ただしく情緒じょうちょが働く。

「──それはどうだろう……。のレヴァーラは兎も角ともかくファウナという娘は人間。人には伸びしろ不確定要素が必ず存在する」

 比較的能天気なパルメラとは一線をかくす明確なる態度。これが星を落とせし者の真なる恐ろしさ。圧倒的自信の上で胡座あぐらをかこうとはしない。

「──ただ、それはそれとして少し仕置しおきが必要かな」

 エルドラは静かに立ち上がり白いシャツと緑のマントを着衣した。加えて緑色のオーブを左掌の上に浮かべる。そのオーブ……あくまで緑なのだが、まるで地球そのものをべている様に映らなくもない。

「この辺か……」

 とても適当にオーブの表面を軽く触れる。たったそれきりの何気なにげない行い。

 ◇

「──な、何この揺れ!? じ、地震?」

「いや、そうではあるまい。こんな表面的は揺れは在り得ない」

 一方、二人っきりの医務室で愛を謳歌おうかしていたファウナとレヴァーラ。レヴァーラが何も無い宙を指で軽く小突こづくと不意に小さなモニターがその場に出現した。

「──派手にやってくれたわ。エルドラが島の西南部に星屑ほしくずを落とした。今、周囲を監視させてるドローンの映像に切り換えるわ」

 それはそれは壮絶そうぜつな光景である。この島の西南部といえば本来更地さらち。けれどもその平地が例外なく海に沈み、山であった場所が海に突き出すみさきと化した。

 ファウナの顔が青ざめている。自分の魔法の威力と比較しているのだろうか。

「派手? これ程なら派手とは言わん。落とされたデブリいくつだ?」

 レヴァーラの方は随分ずいぶん落着き払ったものである。これしきの被害、エルドラに取っては児戯じぎに等しいと認識している。

「恐らく3つね。まあ確かに貴女の言う通りだわ。これは私達に対するおどしって処かしら?」

「そういう事だ。奴に取ってはごみにすらならんチリを落としたお遊びだよ。こんなもので我がおくするなどと思っているまい」

 素早い手つきでカチャカチャとキーボードをリディーナが叩いている。被害状況を数値化しているらしい。寝たままの姿勢でレヴァーラが独りニヤつく。

「それにしても軍の連中が迎撃の暇もなかったというのはうなずけるわね。光ったと同時に落とされては撃ち落とす何て到底とうてい不可能ふかのう

 相棒バディであるレヴァーラが笑っているのでリディーナもすぐさま落着きを取り戻した。

「なぁに……物事には打つ手が必ずあるものだ。それにこれは具合の良いをしてくれたものよ。丁度この辺りは入り組んだ地形に直して、港町を建造するつもりであった」

 レヴァーラが途方もないことをアッサリと言ってのけた。『地形を直して港町を建造する』爆発の芸術師であるディスラドならいざ知らず、今のレヴァーラにそんな力が潜在せんざいするとは思えない。

「ククッ……。この500mはある崖、実に良い景観眺めでないか。黒い竜ドラゴンを降ろせばさながら暗黒の島。愚物ぐぶつから見ればさぞや恐怖の坩堝るつぼであろうぞ」

 ──ドラゴン? 暗黒の島?

 何かに取りかれたかの如くレヴァーラが口角こうかくを挙げている。ファウナは大変珍しく──いや初めてかも知れない。レヴァーラに恐怖をいだいた。

 フォルテザは人のすいを集約した先進都市を目指している。しかし暗黒の島とは何とも古めかしき物言い。

 ファウナの想いが及ばぬ処でこの黒髪の女は、その緑の瞳の先に何を思い描いているのであろう。

「──いつまでもこうして寝ているはおれぬ訳にはゆかぬ。ファウナよ、もうか?」

 怪しげな笑顔のままでレヴァーラがファウナをあおる。一刻も早く魔法で怪我を治せと要求しているのだ。

「──は、はい。『森の美女達の息吹レクプレーノ』」

 慌ただしい返事のファウナ。目を閉じて自分の怪我に意識を集約する。森の樹々の枝達が腹の傷をおおった様な不思議な喧騒けんそう。ファウナの傷は完全にえた。

 後は身体を起こしてレヴァーラに同じことをほどこすだけだ。天斬てんざが命と引き換えにした置き土産の傷は完璧に一掃いっそうされた。

「おおっ、こうもアッサリとは。森の癒しレクプレーノの効果は絶大だな」

 自身の胸元を覗き込み、さらに手足も動かして完治したことを確認するレヴァーラである。その行為の中途、ファウナの視界にレヴァーラの胸元が飛び込んで来た。

 迂闊うかつでかつ不謹慎ふきんしんな自分を恥じたファウナであった。そんな乙女心など露知つゆしらず。再びレヴァーラは目前にモニターを呼び出す。

「デラロサ、アル・ガ・デラロサは出られるか?」

 このモニターは音声認識機能が在るのか。モニター越しに銀髪と迷彩色を混ぜた頭の男が映る。

『──これはこれは我等が女神レヴァーラ嬢。お加減はもうよろしいので?』

 やけに減り下ったデラロサ現る。うざがれらそうな程の犬っぷりを披露ひろうしてきた。この機械馬鹿は格納庫に居る模様。この間、奇跡を呼び込んだマリアンダの姿も見えた。

挨拶無用あいさつむよう。貴様のツテとやらに物資の調達を頼みたい、頼めるか?」

 うやうやしく頭を下げるデラロサを軽くいなすスルーレヴァーラ。それはさておき食い入る態度で頼みごとはしっかりやるのだ。

 先程ファウナにフォレスタ家の威光いこう頼みで、この島の自活をうながしたとはいえ、そんなもの直ぐさま機能する訳がない。

 現時点で外部との接点と言えば、このアル・ガ・デラロサを置いて他は在り得ない。

『頼めるかとはまたさびしきことをおおせになられる。何時如何いついかなる時でもこのデラロサ、貴女の言いつけとあれば順守じゅんしゅするのが当然の役目』

 遂に片膝を付いて恭順きょうじゅんの意すら示す。その後ろでマリーがそむれた顔をプィッとそむけた。他の女にこうも肩入れしているのを見てて面白い道理がない。

 そんなやり取りをファウナ・デル・フォレスタは全く気にも留めない。彼女は星屑が落ちる瞬間の映像を頭の中で反芻はんすうするのに躍起やっきであった。
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