【完結】🧚‍♀️カクヨムコン10中間選考突破作品・マーダ『森の護り人・ファウナ』-ローダ第零章-

🗡🐺狼駄(ろうだ)

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第6部 人が創りし者と造られし者

第60話 己が正義に責任を

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 もうたきぎになりそうな流木はおろか、塵屑ごみくずすら見えなくなった砂浜の上。後は余りに頼り甲斐がいの無い段ボールの切れ端でその身を包んで横になる以外の選択肢がない。

 しかし休息すらゆるされぬ戦場を幾重いくえにも経験した両者。要は横になるだけで眠ったフリをすれば良いだけ。身体を何かに預けるだけでも体力というものは幾分いくぶん回復するものである。

「──この先どうする気だ」

「そんなの決まってらぁ、想定外の事態が起きた。ならば勝手に動くは法度はっと。必ず部下は上長のうかがいを立てた上で行動する。それが下に付く者の責務せきむってもんだ」

 お互い段ボールに包まりながら、背中合わせで会話している。肌寒いの言い訳に、身体を寄せ合う仲ではないのだ。

 軍の犬である自分を捨てたアル・ガ・デラロサ。それでも今つかえているレヴァーラへ対する忠義ちゅうぎは捨てない。

 ──忠義……か。

 オルティスタが空にまたたく星を繋いで自分の忠義をささげると決めた魔法少女の星座を創っていた。自分の生まれ故郷と同じ森を守護するフォレスタ家の一人娘に仕えると誓いを立てた。

 そんなたぎる心が何処かに失せた。
 実父焔聖冥途めいどの土産にうばい去ったか。それは絶対在り得ない、あのおきなは己が娘の剣に満足して逝ったのだから。

 ファウナ、そして盟友めいゆうであるラディアンヌに申し訳ない想いで胸が張り裂けそうだ。さりとて今の自分は剣を握ることがかないそうにない。

 病床の母を生かすべく自分の正義を揺らして迄、生き延びた頃がうその様だ。

「──お前、かつての味方をその手であやめたことあるか?」

 不意に飛び込むデラロサの声。まるで自分の意識を読まれた上での質問に思えた。

「嗚呼……ある。互いに生きようとさかずきを交わした翌日にそいつを殺した。──仕方なかった。俺達側の雇い主はもう終いを迎える直前、後は寝返ねがる以外の選択肢何て在り得なかった」

 オルティスタ自身も若く、杯を交わした相手も同じ様に若かりし頃だ。大局たいきょくを見通すには幼過ぎた。偶々たまたまオルティスタが自分達の窮地きゅうちを他の仲間に先んじて小耳にはさんだだけの

「──そうだな、それは仕方ない話だ。俺達傭兵に取っての正義……。もっと金をはずんでくれる雇い主。あるいはそれが駄目なら後は自分の命をどう守るか。何ともみじめな話さ」

 一度は傭兵という立場に身を置いた者なら言わずもがなといった内容。こんな湿っぽい話、何故今さら背中で告げているのだろう。

「しかしだ。それは間違い様のない正義。ホレッ、あそこで正義を気取きどる連中より余程純度の高い大義名分たいぎめいぶんだと俺は信じる」

 デラロサが馬鹿にしている『正義を気取る連中』とは間違いなく連合国軍を見限みかぎった奴等の事だ。先程から猪突猛進ちょとつもうしんな男が何とも回りくどいのだ。

「──デラロサ、お前一体何が言いたい?」

 もはや我慢の限界点。
 オルティスタがアルの背中を刃物の如き言葉で刺した。だけど身動みじろぎ一つしてはくれない。

「てめぇが傭兵のくせして自分の正義に迷ってんのが見てられんという戯言ざれごとだ。杯を交わした相手を殺す──それはアンタの正義を貫いた結果ならば仕方がない」

 荒げた声だが優しさも存在する『お前は何も間違っちゃいない』──これに帰結するだけなのだが、敢えて背中でウジウジしてる女の人生を思い起こさせ導こうとしているらしい。

「大体今さら悩んでどうなる? ブレッブレの正義に押し切られた殺された相手仲間が余りに哀れ不憫じゃねぇか……」

「そ、それは──!」

 刺した自分の罪深き手を覗き込むオルティスタ。震えが止まらない。だけどあの笑顔を送ったお陰で自分の生が此処に在る──それは確かだ。

「争いに正も悪もありゃしねぇよ。だがなこれだけは言っとく、その手で相手を滅した行為を正義だと言い張るのなら、になる最後の最期までそれを持ってけ」

 ──アァァァァ……。

 オルティスタの心中に次々と浮かんでは消えく自身の正義の証達の顔、顔、顔……。泣きたい、嗚咽おえつすら漏らして慟哭どうこくしたい。

 良く『涙が枯れる』と人は言う。それは泣き尽くした上で、涙腺るいせんからあふれ出るものが無くなったことを指す言葉。なれど今の彼女は流す涙の在処ありかを知らない。

 涙とは一種の浄化装置。けがれを洗い流してくれるものだ。これがまともに機能しない今のオルティスタは哀れの極みだ。自分が何を浄化すべきか判らずにいる。

「──それが殺した相手へせめてもの手向たむけだろ? お前が葬送おくった行為に迷うな。それは死者に対する冒涜ぼうとくだ」

 そこ迄言ったデラロサが口を閉じる。人生経験豊富な彼とて女を無理に泣かせる他人の心に入るすべなど判りはしないのだ。

 そして2人は夜が明けるまで眠ったフリをし続けた。まんまと敵陣真正面から逃げおおせたのだ。

『このアル・ガ・デラロサ様を知らんとは。此奴等途方とほうもないくずばかりだ』

『──いや、ワザと泳がされているかも知れんぞ。連中下らない頭は働くと見た』

 こんな捨て台詞を残して……。

「──レヴァーラ済まない。買い物が簡単には出来なくなった」

 森の木陰に隠していた車に搭載している無線を使うデラロサの浮かない顔。これは専用チャンネル、恐らく敵には気取けどられない。

 彼はア・ラバ商会で聞いた一部始終をレヴァーラに報告した。

「──だ、そうだファウナ・デル・フォレスタ。何か良い知恵は有るかな?」

 真横で全てを聴いていたファウナへ話を振るレヴァーラは何ともたのしげな口振り。

御意ぎょい──べからず私達のものと致しましょう」

 ファウナが恭順きょうじゅんの意を示すとレヴァーラのその笑顔に益々ますます磨きが掛かった。

『な、何だとォッ!?』

 慌てて無線機を落としそうになるデラロサ。あの少女、事もあろうに『私達のもの』とほざいた。

 ──それは駄賃代金はおろか、この期にじょうじて恩着おんきせがましいことをすると告げている。

「──だ、そうだ。アル・ガ・デラロサ、ポイントXまで戻り仲間と合流しろ」

『い、了解Yes Sir!』

 それはもう破顔一笑はがんいっしょうのレヴァーラなのだ。作戦の手段さえ聞かず万事ばんじ上手く往くと決めつけている。

『──デラロサ様御安心下さい。決して貴方と大事な方々に嫌な思いはさせません』

 無線越しSound Onlyにファウナがわらう。まるで向こう側のデラロサが見えているのかの如く。もうそこにはAI兵に後れを取った憐れっぷりなど微塵みじんも在りはしなかった。
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