【完結】🧚‍♀️カクヨムコン10中間選考突破作品・マーダ『森の護り人・ファウナ』-ローダ第零章-

🗡🐺狼駄(ろうだ)

文字の大きさ
76 / 234
第7部 思考を捨てた女

第67話 扉を開いた者

しおりを挟む
「──朝陽か」

 さもまぶし気にカーテンからの木漏こもれ日をにらむレヴァーラである。隣のファウナは未だ夢の中であるらしい。刺激的な深夜から一体どんな夢を見ているのやら。

 レヴァーラは「ふふっ」とゆるみつつ少しはだけた毛布を掛け直してやる。こうしていると本当にただの綺麗な少女に過ぎない。光の精霊達が金髪に反射し悪戯いたずらを仕掛けている。

 昨夜ファウナが打ち明けたレヴァーラとヴァロウズの誕生にまつわる話。

 あれはあくまでファウナの知る結果に過ぎない。何故レヴァーラが人を実験体にする所業しょぎょうを仕出かし、それに乗っかりあまつさえ未だ付き従うNo6チェーン以下の心根こころね

 一番肝心かんじんな箇所が抜け落ちている。
 加えてこんな外道げどうと呼ぶべき自分を愛し付き従っているファウナ自身の気持ちもまるでさだかでない。

「──本当にこれで良いのかファウナ。いつか…いつの日か我のすことに愛想あいそつかすのではないか」

 キラキラ輝く長い金髪をもてあそびながら感傷にひたるレヴァーラ。本当はこの娘、一体何処まで知り得ているのか。気にはなるが触れてはならぬ領域。根拠こんきょこそないがそんな気がしてならない。

 かつてヴァロウズNo1、エルドラ・フィス・スケイルが『レヴァーラはあくまで人類の進化を望んでいると信じていた』そんな話をしていた。

 生きた人間にもう1つの人格ナノマシンを埋め込もうとしたこの実験。全く身寄みよりのない生きた奴隷どれい。そんな夢も希望も持ち得ない人間だけをき集めた。

 されどそれらとは別に自分の内なる可能性を引き出してみたい。

 そうした理由でつどい、自ら実験体になるのを敢えて望んだ連中──結果その地獄というべき実験に打ち勝ったのは、そんな強烈なるエゴをいだいたやから。今のヴァロウズナンバーズだ。

 寄って今の能力を与える切欠きっかけをくれたレヴァーラに従うと判断しても決して不思議ではない。しかし彼女等とて所詮しょせん人間。利害不一致となれば自分の元を去って往くうつろな仲間。

 なお自分の意志と投げ込まれたナノマシン共の意志を共有し、たった1つだけ切望せつぼうする力を手にした連中は、扉を開いた者と呼ばれた。

 ──我が何故こんな非道ひどうを歩んでいるのか? この可愛げしかない娘、それさえも知っているのか?

「──どうでも良い、今はどうでも良いのだ。此処にこんな可愛げしかない娘が寝ている。それだけで至福しふく。先の歴史なぞ誰にも図れる訳があるまい」

「──んんっ」

「人という生き物は間違いだと知りながら着いて行く時が往々としてあるものだ。──楽…だからな。その方がお前も私も」

 ひたいに掛かるファウナの金髪をそっとき上げレヴァーラが微笑む。その笑み、彼女に在りがちな世界全てを小馬鹿にしたわらいでは決してない。

 心の底からゆるみ切った本物の娘の寝顔に安堵あんどする母親の如き優しみをたたえた笑顔で在った。


 ◇◇

「──短剣ダガーで立ち合い? 私とお前が?」

 不意にオルティスタから稽古けいこの相手を頼まれたNo9アノニモが少々面食らう。浮島での一戦以来、オルティスタはすっかり短剣のとりこと化したらしい。

 姿形さえもあの時と同じ、緑色のパーカーとキャミソールのままでいた。大きな胸元で跳ねるネックレスとそろいのピアスがキラリと輝き誇張こちょうする。

「そうだ、これ迄の俺は死んだ。新しい剣の道を歩む──いや、炎舞えんぶを捨てる訳でない。俺なりに昇華しょうかさせてみせる」

 悲嘆ひたんひんしていた彼女があの一戦で見せた本気の顔。その真剣な眼差まなざしそのままを黒づくめの暗殺者アサシンにぶつけた。

 ──今更お前みたいな非凡ひぼんな者に教える剣などないと思うね、少なくとも私には。

 本気でそう感じているアノニモなのだが、その真剣なる表情を向けられては断る理由を見出みいだせない。

「判った、やるなら本気
「無論だ、宜しく頼む」

 ダガー2刀をスッと抜き峰打みねうちになるよう構えるアノニモ。しかし逆手握りは殺意の証。

 オルティスタも浮島にてしたアーミーナイフ2刀を握る。もうさまになっているのは流石というべきか。

 刃の側がやけに輝いて見える。浮島での戦闘直後であれば刃こぼれしているのが道理。余程ぎ直したと見える。恐らく自分の手で丹念たんねnに。

 火花散り合う本気の鍛錬たんれんが幕を明けた。

 ◇◇

「──リディーナ、お前さては寝ておらぬな?」

 地下の格納庫にて、とある機械を熱心に組んでいるリディーナの背中。レヴァーラが友達としての声を掛けをする。

 兎に角とにかくリディーナの多忙が過ぎる。
 ビクロス人型兵器2機の整備、奇跡を成したマリアンダと捕虜ほりょとしたレグラズの状況調査。

 何より彼女はレヴァーラに次ぐ役割がある。フォルテザという世界にるいを見ない街を建造する。
 これを宣言したのはあくまでレヴァーラ・ガン・イルッゾだが実働するのは彼女ではない。

 現場責任者としての役割はこのリディーナがになっている。まれにレヴァーラも皆の前に顔出しするが士気を挙げる理由が大なり。やはり陣頭指揮じんとうしきはリディーナなのだ。

 とはいえ根っからのエンジニア気質である彼女。街の設計&施工せこうだなんて知るよしもない。
 ただネットワークを含めたインフラ整備という余りに好都合な解釈を押し付けられている次第だ。

 声を掛けられリディーナが油まみれのその手を止めた。「ンーッ」と曲げっぱなしであった背中を伸ばす。

「昨夜は随分とでしたね、フフフッ……」

「なっ!? ただ共に風呂に入って寝ただけに過ぎぬ!」

 リディーナからの想定外の反撃で耳まで染めて狼狽うろたえるレヴァーラである。たとえ寝ずに仕事をしていたとはいえ、気取けどられていない筈なのに。

「え、当たったのぉ?」
「お、お前さてははかっな!」

 計ったなんて大袈裟おおげさなものでない。ちょいと揶揄からかってみただけなのだ。

「道理で今朝はやけに肌の色艶いろつやが良い訳だわ。私なんて徹夜続きで美貌びぼうを気にしてる余裕すらないからうらやましいわぁ」

「ば、馬鹿を言うな! 一緒にだと言っている!」

 このレヴァーラ、恐らく本当にただ森の女神候補生と一夜を共にしただけに違いない。だからこそ余計にいじ甲斐がいが在るというものだ。

「お、お前にばかり仕事を押し付けて悪いと感じてはおるのだ。しかしまで頼んでおらぬ」

 どうにか話題をらそうと懸命なレヴァーラなのだが、それがかえってリディーナの笑みを誘発ゆうはつする。ただ確かに無駄話むだばなしばかりしてる余裕はないのだ。

「嗚呼……これ? これは仕事っていうより私の趣味だから気にしないでぇ。それに今から2時間寝るし大丈夫よ」

 その作りかけの趣味とやらを見上げるリディーナの愉悦ゆえつ碧眼へきがんがすっかり緩む。確かにこの大掛おおがかかりな機械、誰に頼まれた訳ではないのだ。

 寝る時間すら惜しみたい。そんな大人の愉快ゆかいがこれに詰め込んであるのだ。大地を踏みしめる姿を妄想もうそうすると年甲斐としがいもなく心がおどった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...