【完結】🧚‍♀️カクヨムコン10中間選考突破作品・マーダ『森の護り人・ファウナ』-ローダ第零章-

🗡🐺狼駄(ろうだ)

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第7部 思考を捨てた女

第74話 只者ではない"リイナ"

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 ファウナ・デル・フォレスタ、壮絶そうぜつなる18歳最初の夜明けだ。

「──くぅ……あったまいてぇぇ」

「も、もぅ無理。食べ過ぎですって、しかも深夜に」

 姉妹のちぎりを交わした三人の内の二人。

 オルティスタはやはり飲み過ぎであった。ベタッベタな二日酔いに頭を押さえて動けずにいる。

 そしてこれは寝言なのか、はたまた意識の内で苦しみを吐露とろしているのか。ラディアンヌが再びソファベッドの上でもんどり打っている。

 何ともだらしない26歳と24歳。俗に言ういい大人の両者がズタボロで『まだ寝かせろ』と朝陽をにらむ。加えて波が船を揺らすのも、この調子に乗った大人を大いに苦しめていた。

「──全くだっらしないわねっ! イギリスアビニシャンはもう目の前なのよっ! シャキッとなさいっ!」

 やはりファウナは未だ若かっあれだけ飲んだたと割にはいうオチである。容赦ようしゃない文句を姉2人に浴びせ掛ける。元フォレスタ組で水入らずの慰安いあん旅行。それは充分楽しめている。少しやり過ぎな感もあるが。

 しかしこの旅の真なる目的はイギリスにて自由気ままな人殺しを働くヴァロウズのNo5、タロットのアビニシャンを止めることだ。その対策についてまるで話が出来ていない。これは一大事だ。

「──大丈夫でございますか? 珈琲コーヒーですか? それともお水ですか?」
「わ、わりぃ……じゃ目覚めの一杯珈琲を頼むわ」

 相変わらずの気遣きづかいが出来るア・ラバ商会の女性社員。二日酔いの長女が甘える。

 処でこの女商人、毛先まで光る長い銀髪であおい目をした美女である。白いスーツなのか? はたまた聖職者の正装なのか? 兎に角とにかくレヴァーラ陣営の美女達とは一味違うも言われぬ魅力みりょくが在るのだ。

「食あたり……ごめんなさい、少し痛いですが我慢がまんして下さい」
「ウッ! あ、あれれ? 何故かお腹が少しスーッと楽になりました。ありがとうございます」

 気遣いの出来るア・ラバ商会の女性。次はラディアンヌの素足すあしの裏をギュッと親指で押さえた。瞬間、悲鳴を挙げたがいくらかスッキリした顔色に落ち着いたではあるまいか。

 ──初めから雰囲気在るだと思っていたけど一体何者なの?

 これはファウナの気分だ。
 見ただけで相手の事が在る程度知れる彼女がそんな疑問──ファウナの蒼き瞳よりも、深くて碧い瞳が透かそうとする力を跳ね返してしまうというのか?

「しっかしだなぁファウナよ。タロットカードで相手を殺す訳判らん相手だぞ? 対策って言われた処で身体を動かすだけの俺にはどうにもならん。……シャワー行って来るわ」

 頭をボリボリきつつ珈琲を飲み干したオルティスタ。スタスタ風呂場へ行ってしまった。水の流れる音がやけに響く。それはそうだ、オルティスタが風呂場の扉を閉めていないからである。

「──す、すいませんファウナ様。わ、私も今回ばかりはどうすべきなのか……ま、まるで判断出来る気が致しません」

 ソファに深く身体をあずけたラディアンヌがさも申し訳ないといった顔つきでファウナへ謝罪した。

 姉二人は異能こそあるが基本からだ頼りの技を繰り出す戦士だ。『いきなり首を落とす』を御法度ごはっとにされた以上、如何に相手をすれば良いのか考えあぐねるのは道理だ。

「部外者が口をはさんで申し訳ございません。タロットカードで人殺し? そんな陳腐ちんぷな物語ですら在り得なさそうな話……」

 此処でその姉達2人よりも頭の回転が良さそうなア・ラバの女性が少し躊躇ためらいつつも話題に割って入る。

「──話すのは構わないけど、その前に貴女の御名前をうかがいたいわ」

 腕組みしてファウナが人の素性すじょうたずねる。これはこれで中々の屈辱くつじょくなのだ。

「──あっ、これは大変今更ながら失礼致しました。わたくし『リイナ』と申します。少々医療に心得こころえがございます。歳は──秘密にさせて頂きますウフフッ……」

 あっと開いた口に手をあてた後、スカートのはしつかみ軽い会釈えしゃくで自己紹介したア・ラバの如何にも出来る女。ただの商館の娘──そんな肩書きなどとっくに捨てたファウナの認識。

「医療に心得──不躾ぶしつけだけどそれって人の内面精神にすらお詳しいのではなくて?」

 ファウナのリイナに対する態度が妙に鋭い。

 同じ様なことがエンジニア兼医者であるリディーナに対しても言える。若さ故かどうしても自分の知恵の高さを誇るきらいがあるのだ。
 なのでその分野に於いて自身より優れてると感じた者と距離を置こうとしているのだ。とは言え今は非常時。頼れそうな感じであれば贅沢ぜいたくなど言ってられない。

「──驚きました。ファウナ様は読心術どくしんじゅつの心得でもお在りになるのでございますか?」

「ま、まあそんな処。良いわ──アビニシャンについて話してあげる……」

 そしてファウナはこの只者ただものではないと感じ始めたリイナに対し、ヴァロウズのNo5について粗方あらかた話した。

 しかしながらタロット占いによる命をけた勝負をけしかけ、それに必ず勝利し相手は絶命する。こんなもの説明してる側ですら要領ようりょうを得ない内容である。

 それでもリイナはファウナと視線をらすことなく逐一頷ちくいちうなずき返し、如何にもキチンと話を聞き、そして自分の中へ取り込もうと躍起やっきになった。
 その真摯しんしな態度、ファウナは自分の少し冷たい物言いを反省すべきなのではないかと思い直し始めている。

「──うーん、何とも不思議な話ですね……そもそも占いに勝ち負けなんて概念がいねんがないのですから……ただ」

 ──ただ? 今のやり取りだけでもう何か思う処が在るって言うの?

「ただ、勝ち負け。すなわち勝利条件が存在するやり方だということです。タロットの結果を自在に操り、占いを受けた側が負けを認めざるを得ない程の結果を突き付けるのだとしたら……」

 このリイナの発言にファウナがハッと息を飲んだ。言われてみれば実に単純な理屈でないか。
 軽く嫌悪してた相手なのに、タロットの逆位置が正位置に変わるかの如く、リイナのことを尊敬せずにいられなくなった。

「そっか! それだわ! その考察恐らく正しい!」

 急にリイナ側へ踏み込み、その両手を自分の両手で包み込むファウナ。天使神の使いを見つけた様に敬意けいい眼差まなざしを送るのだ。とんでもない手のひら返しだ。その押しの強さにリイナがたじろぐ。

「え、ええと……そういった勝負であるなら間違いなく1対1。恐らくそのアビニシャンという人物は相手に勝利することのみに全てをささげれば……良い。そう解釈致します」

「うんうんっ、リイナさん。貴女素晴らしいわ! 私どうにかなりそうな気がしてきた!」

 リイナの手を握ったままひざまづきキラッキラした視線をファウナが届ける。──可愛い、可愛いけどちょっと怖いかも……。これはリイナの心情本音

 ──まま、それはそれとして。

 リイナがその碧い目をキョロキョロさせる。そしてソファに座るラディアンヌのボブカット短い金髪と目前のファウナのロング長い金髪を交互に見比べ、ハッと碧い瞳を大きく見開く。

「ファウナ様、私に考えがございます。……ただ多大なる代償だいしょうを払って頂くことになりますが」

「へっ?」

 とても申し訳ない気持ちがあふれ、目の前の可愛いを直視出来ないリイナであった。
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