【完結】🧚‍♀️カクヨムコン10中間選考突破作品・マーダ『森の護り人・ファウナ』-ローダ第零章-

🗡🐺狼駄(ろうだ)

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第8部 思いがけない新たなる火種

第88話 地球上で最上たる幸福と吊り橋の魔法

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 レヴァーラ・ガン・イルッゾに反旗はんきひるがえした元ヴァロウズNo1からNo5までの面々めんめん

 日本で台風の如くその猛威もういふるったNo3天斬てんざを無事討ちり、イギリスの占い師No5アビニシャンは、その力を喪失そうしつしてシチリアにかえった。

 残るはNo1、星を落とせし者エルラド・フィス・スケイル。そして彼の全てを愛し、その身も心さえささげているNo4、インド神話の神々の力を引き出せる神聖術士しんせいじゅつしパルメラ・ジオ・アリスタ。

 そしてNo2、芸術を爆発とたがえたる男。ディスラドである。

 早い話、残るはあと二組という訳だ。説明を加えるのであれば、この二組が結託することなど、現時点では在り得ない。

 特にNo1エルドラNo2ディスラドは、多勢たぜい無勢ぶぜいでははかれぬ実力を有してはいる。No4パルメラとて未だ本気を出しているとは認め難い。

 だがシチリアの最北に拠点きょてんを構えるレヴァーラ・ガン・イルッゾ達が確実にその勢力を伸ばしつつある。レグラズ・アルブレンという覚醒かくせいした異能者すら手に入れた。

 レヴァーラにくみしない連中No持ちがシチリアの物量で押し切られる可能性も否定出来ない情勢じょうせいと化した。

 むしろ不気味な存在たるは連合国軍である可能性を否定出来ない。

 今後も彼等がNo3から異能の根源こんげんていよくぎ取り、量産でもしようものなら世界はかつてない異常者による戦争へ巻き込まれるかも知れないのだ。

 しかし今のシチリアは壮絶そうぜつな争いを終えたばかり。取り合えずは、彼等彼女等にひと時の安らぎ恵みをもたらすことをお許しになられた様だ。

 ◇◇

「──あ、アル……」

 戦いを終えたばかりの新妻マリー──。

 もう彼でなく夫に為った男アル・ガ・デラロサの部屋で一糸まとわず、ベッドの上で身をよじり恥じらいつつも、初めてのときを心待ちにしていた。

「──ま、マリー。何故お前はこんなにも美しい? 俺はこの瞬間の為、これまで生きびて来たのかも知れん」

 その上からたくましい男の手で妻と為った女の髪に触れ、頭をで……やがて肩から首へとゆっくりと静かにさせて征く。

 この一瞬が流れ落ちるのを愛おしくもあれど、勿体無いとも感じる二人だ。それは二度とやって来ない極上の時間

 愛し合う二人の初めてとは、すべからずして地球上で最上さいじょうたる幸福を得ている。そんな身勝手なる確信をいだくものだ。

 二つの重なる時くらい、そんな嘘の河で互いに流され溺れようとも構いやしない。それが人という感情を持ち得る生物の本質サガなのだから……。

 ◇◇

 パシャンッ。

 同じ頃、No7フィルニア・ウィニゲスタとNo8のディーネ、いつもの二人組仲良し。戦いのけがれを清めるべく竜の口から注ぐ湯に、その身をあずけ深夜の談笑だんしょううつつを抜かしていた。

「──結婚かぁ、あの二人ずっと一緒だったらしいからねぇ」

「フフッ……まあだからといって何も映画の様に戦場の只中ただなかで愛を叫ばなくてもな」

 18歳のディーネがポカンッと口を開いて天井を見上げている。苦笑するのはフィルニアである。

「あら、そうかしら? だからこそじゃないの? り橋効果って貴女知らない?」

「吊り橋!? いや知らんな初めて聞いた」

 ボケていたディーネが湯船に沈む身体全裸を捻り、フィルニアの方へ興味を注ぎ込む。怪訝な顔で返すフィルニア。『吊り橋? 橋がどうした?』そう言いたげな表情を向ける。

「え、知らないのォ!? あれって世界共通じゃないのかなぁ。あのね吊り橋ってさ、揺れて危ないじゃない? そんな場所を一緒に渡ると好きになっちゃうって話なのよ」

「嗚呼──成程。早い話、身の危険を感じたら命を繋ぐべく使って話だな」

 真顔で『生殖機能』と応じる実に痛い美女フィルニアにディーネが思わず唖然あぜん。『ど、動物オスとメスの話じゃない!』と言いたくなるが余計こじれそうなのであきらめた。

「はぁぁぁぁ……。もぅ、いいよ判った、それでおけOK。ま、大体だいたい合ってるし」

 大きな溜息をつくディーネである。そしてしばらくしてから再びほうけた顔して天井を向く。

「僕さぁ……。恋愛ってしたことないって言うか、正直良くわっかんないんだよねぇ」

を好きに為った試しがない?」

 宙に浮く湯気をいじ仕草しぐさをしてみるディーネ。未だつかんだ事ない恋愛と想いを重ねているらしい。フィルニアの問いに腕を組む。はさまれた胸がさも窮屈きゅうくつそうだ。

「うーん……それ聞かれると増々判んないのよ。だってさ僕、フィルニアだって好きだからこうして一緒に入っているんよ。ファウナちゃんなんて妹みたくて大好き! ──だけどさ、それってさっきのデラロサ達あの二人とは違うっしょ?」

 独りLike好きLoveの違いに悩む若いディーネの悩み処を見てクスリッと笑うフィルニアなのだ。6つ歳下の女の子の可愛げたまらなく心くすぐる。

「ディーネ。……お前の身体が起こす湯の波風はいつも心地良いぞ。今宵こよいは特にな」

「ふぃ、フィルニアさんッ!? それ何かすっごくはずい恥ずいんですけどォォ!!」

 不意にいつも良い声が何倍にも色濃いろこくディーネの耳に飛び込んで来た。『お前の身体』のくだりが特にヤバい。エコーとリピートの両方で脳内女性向け再生ASMRを停止出来ない。

「これも好意の形なのだよ。Like好きLove紙一重かみひとえ表裏一体ひょうりいったいの存在だ。フフッ、こればかりは口じゃ言い表せない。お前にもきっと判る時が来る」

 フィルニアが『表裏一体』と言いつつ自分のてのひらつかんだディーネの掌を半ば強引に合わせた。そうやって微笑みを手向けるフィルニアは相も変わらず美男イケメンのそれだ。

 ──な、何よコレ? たった今僕、どっかに気するんですけど!?

 独り、心此処にあらず──。そんな夢心地のディーネであった。
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