【完結】🧚‍♀️カクヨムコン10中間選考突破作品・マーダ『森の護り人・ファウナ』-ローダ第零章-

🗡🐺狼駄(ろうだ)

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第12部 混沌と入り混じる敵味方の思惑

第153話 親子の情と愛故の苦悩

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 ギリシャ、アテネのアクロポリス以来──またしても進撃のレヴァーラは、たった独りで

 リディーナの辱めはずかし犠牲踏み台にした閃光エンツォ体現たいげんしたレヴァーラ・ガン・イルッゾ専用機。敵が動くものならいざ知らず、もの言わぬただの

 こんな連中──現人神あらひとがみが本気を下すまでもなかった。もう『やれやれ』と溜息を吐く気にさえならぬ仲間達。アテネの時は、二人の女神で敵を蹂躙じゅうりんした。

 今回は敵と言える存在動ける敵殆どほとんどゼロの状態。この状況下で黒い女神が最新鋭の人型兵器ビクロス縦横無尽じゅうおうむじんに操ろうものなら当然過ぎる帰結きけつと言えよう。

 閃光本気の無駄遣いづかい、此処にきわまる。『時間がない』と我が隊長デラロサ安否生死を気にした黒い女神レヴァーラ。正にを以って基地最深部に追い着いた。

 まるで出来の悪い特撮映画の御都合主義フィナーレが如き、押して押して、仕るつかまつる

『──黒いEL97式改エル・ガレスタ! レヴァーラめ、もぅ追い着きやがった』

 音無しのジレリノ機による加勢もあり、これだけ派手をやらかした割、デラロサに気取けどられなかったレヴァーラ陣営。

 あと何より、目前の親玉ガディンに気を取られていたのであろう。アル・ガ・デラロサ当人より先に、銀色のEL97式改隊長機が背中に在る熱源センサーで感知した。

『フフッ、デラロサ。奥に居るのが例の司令官殿だな。未だ、ではないか』

 敵の司令官だけならいざ知らず、『何れも生きてる』とは笑えとんだないブラック冗談ジョーク殿敬称けいしょうをワザと付け、あおるのも忘れないレヴァーラ

「も、無理ぃ……」

 此処でレヴァーラ機を囲んでいた蒼き閃光エンツォの時間切れ。

 同乗者のリディーナ、息も絶え絶えだえ失神して終わりを迎える。わずかな時間であったが、見事役目を果たしてくれた。

 ザシュッ! ザシュッ!

 宙を旋回していたレヴァーラ機のナイフ2本、魂の器遠隔の力を失い時間差を以って落ちた重力の先。ストーナーの乗るED01-Rストーナー機の両腕とは、いささか話が旨過うますぎやしないか。

『よ、よせレヴァーラッ! ソイツの足元には、大量の爆弾が埋まってやがるんだッ!』

 これには大層焦るあせるアル・ガ・デラロサ。基地の床へ力なく落ちたストーナー機の両腕。加えて2本の巨大なナイフも地面に刺さる切れ味の良さ。

 ガディンを冥途めいど送りにするのは俺様。そんな意地だけでは済まされない一大事の方を先ずは案じた。

『ククッ、それは何とも随分下らぬ冗談だな。──ただのハッタリではないのか? 折角せっかく最深部まで足を運んでみれば、軍最後の敵が自爆上等の人形とは小馬鹿にするにも程度があるぞ』

 デラロサから『よせ』と制止をうながされた処で所詮しょせん落ちたナイフだ。如何どうにもならない。挙句あげくの果て『ソイツは自爆テロを狙ってるから攻撃するな』これは片腹痛いじゃ済まされない。

『──さて、貴様がゼファンナ・ルゼ・フォレスタを好きに扱った男だな。年寄りのジジイが何と趣味の悪い』

 レヴァーラ、静かなる怒り。操縦室コックピット越しとはいえ、敵側のED01-R古めかしい機体を真正面に睨みにらみ付ける。

 ──母さんマム……やっぱり姉さんの分まで怒っているのね。

 ファウナはやはりこのは母親なのだと改めて思い返す。自分ながららしい話、此処で双子の姉を好きにされた苦情なんて正直

『これは……まさにどの口が言うを地で往くな。そうは思わんかね? 君の年齢時間とて大して変わらぬ筈。然も本命妹君を連れ回して良く言えたものだ』

 レヴァーラの中身意識を差すストーナー。さらにファウナのことを『本命』と付け加える。姉ゼファンナの方が有能故、軍は選んだのではなかったのか?

 浮島に於ける戦闘のおり、『あんな時代遅れの魔女など……』とコケにしたのち、『絶対に生け捕りにしろ』と意味の通らぬことを告げた男だ。

 ガディン・ストーナー──いぶかしき事この上ない存在。

『レヴァーラァァッ!! 手を出すんじゃねぇって言ってんだろうがッ!! もし此奴ストーナーの言ってる事がただの脅しおどしでなけりゃ、ファウナを含む手前テメェそろって御陀仏おだぶつだぜッ!』

 本音はただ『俺が殺るから邪魔すんなッ!』と狂犬に成りてえたいデラロサである。されど此処は一旦、かたきの言うがままだまされたフリを装うよそおう。その方がスジが通っているのだ。

『フフッ……。貴様の気分、判っているつもりだデラロサ。我はこんな愚物ぐぶつの命なぞ、興味ない。──然し殺す前に少しモノをたずねたい』

 これはレヴァーラの意外なる物言い。現人神あらひとがみが他人へ質問を投げ掛ける。ファウナの如く可愛い上に放って置けない者でもなければ、傾聴けいちょうだなんて在り得やしない。

『ほぅ……面白い。私に答えが出せる内容ならば……どうせせる命、包み隠さず話して差し上げよう』

 相も変わらず自爆による道連れ狙いか不明なガディン。『失せる命』と自ら吹いた。自分が死にぎわなのは認めているらしい。それは差て置き、黒い女神御自らおんみずから教えをいたのが嬉しい言い草。

『では問わせて貰う。──虚ろき愚かなる人間共の魂は次々と減っているというのに、何故私の娘ゼファンナ堕天使ルシファーの様に使い倒してまで、さらなる根絶ねだやしを進めたのだ?』

 メインカメラ越しに目前のガディン・ストーナーなる初見の人物を睨みにらみ、疑問を投げるレヴァーラである。

 ──レヴァーラ・ガン・イルッゾ『お前がそれを言うのか?』一見筆頭に上がりそうな台詞。

 しかし嘗てかつて彼女は、自分の元を去り世界の力無き人々を、好きに乱獲らんかくしたヴァロウズNo1~No5の連中に対し『こんな事をさせたくて力を与えた訳ではない』とすごんだものだ。

 ──我とて人の進化を望んでいる。それを絶やして何とする。

 それがよもや仮にも人民を護るべく結成された連合国軍が、雑草でも摘むつむ手軽さで世界を混沌こんとんへ堕とし込んだやり口には、かなり腹にえかねている。

 然もその先兵が己の娘だと知り尽くしてしまった……これは心中おだやかでいられる方がどうかしている。

 ……フフッ、ハハッ、フハハハハハッ。

 その蔑みさげすみは声というより聴く者達それぞれの心の闇へ直接響いた。もう各機のメインモニタにストーナーも、彼の代名詞である伊達眼鏡だてめがねも映り込んではいない。

 それにもかかわらず、あごまでいて嘲笑ちょうしょうするストーナーの姿が透けて見える気がした。

『戦乱、動乱、紛争、事変、内戦。──そして革命。これら総てが人を革新へうながした。人は争いなくしてこれほど進化出来なかった。君達が乗っているソレは何だ? 子供の玩具ではあるまい』

 如何にも戦争を商売の道具にしている者の言い分といった処か。確かに押し付けの教育でさえ悲しい程に判る理屈だ。

『──判らんでもない。だがッ! 断じて否ッ!! 確かに人の欲が進化を育むはぐくむ。しかし彼等、彼女等を……人の結び付きを削っては元も子もないッ!!』

 無力な若き踊り子時代、愛など知らぬ間に双子を宿しやどし、それらを捨てた当人レヴァ。それでも彼女は愛を語らずにはいられなかった。

『マーダ君……意識だけの君が人の世を語るとは。出過ぎ真似だと思わんのかね?』

 ガディン・ストーナーとてマーダの出自しゅつじを理解している。サイガン・ロットレンというイカれた男が産み落とした人ならざる者。

『否ッ!! 今の我はただのレヴァーラ! 二人の娘を捨てた罪を今さらやむ愚かで孤独な女に過ぎぬッ! 我は孤独からは何も生めぬと知ったッ! この愛する娘ファウナがそれを教えてくれたッ!!』

 世界最初の自由意志を持った人工知能としてではなく、代わりの作れぬ母親としての矜持きょうじを語る。愛を忘れた老人からろんじられるまでもなく、己の愚かは知った上でだ。

「──……さん、う、アァァァァッ!!」

 ファウナは独り、金色こんじきなる専用機エル・ガレスタの内で慟哭どうこくせずにいられない。操縦席コックピットの上、身体中をじらせ泣き喚くわめく

 何とも複雑怪奇ふくざつかいきな人間模様か──。 

 実の母親を女性として憧れ、やがて愛へ転嫁てんかさせてしまった少女ファウナの末路。血縁としての愛を強調して語る姿に、手放しの歓喜かんきだけではいられぬ強欲。

 同性同士で実は親子。前者は兎も角ともかく、後者の愛は普通の百合同性愛では片付け切れない。母親レヴァとの情を語られ、虚ろな少女は何を夢見る……。
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