【完結】🧚‍♀️カクヨムコン10中間選考突破作品・マーダ『森の護り人・ファウナ』-ローダ第零章-

🗡🐺狼駄(ろうだ)

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第13部 陽堕ちる刻

第177話 真実のマーダ生誕の刻

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 マーダによる太陽神ディスラドに対する精神汚染は、最早もはや止めるすべを持ち得ない……。

 ファウナ・デル・フォレスタは悔しさにじませながらも、姉ゼファンナへ風の精霊術『言の葉ことのは』によるフォルテザで帰りを待つ仲間達への注意伝達を依頼するのだ。

 ゼファンナは此処までの戦いに於いて余りに飛ばし過ぎた。魔力マナが底を尽きそうである。魔力マナが完全に失われた者は思考停止──即ちすなわち脳死を意味する。

 それにもかかわらず魔力マナに余裕の有るファウナ自身ではなく、危険な状態にあるゼファンナへ依頼したのは何故か。以後の戦闘に於ける自分の魔力マナ消費への備え?

「ふぅ……OK。取り合えず伝達し終えたわよ。の出撃準備だけは、か・な・り怪しいけどね」

 優秀たる魔導士のゼファンナが、流石に一息つき、操縦席の背もたれへ後ろ側から寄り掛かる。

「ありがとう姉さん、無理言ってごめんなさい」

「ンッ……良いのよ。そうね、落ち着いたら三毛猫亭みけねこていおごってくれたらチャラにしてあげる。それより……」

 ファウナ、顔は向けずとも誠心誠意を込めた労いねぎらいの言葉を姉へ送る。

 姉の方、実の処冷汗モノだが笑顔混じりの冗談Joke……というより『必ず生きて二人一緒に帰るのよ』といった誓いを含んだ応答。加えて太陽を背にした白い天使ディスラドへ厳しい視線を送る。

「……」

 此方の心配の種についてファウナは無言で応えるだけ。──と思いきや左腕部に装備した軽量重視の超電子銃レールガン太陽ディスラド目掛けて照準合わせを始めるではないか。

 パチン。

『エス・ポロ・シエーネ・ルクエアーニ。現世の人間共に巣食う混沌こんとんよ……』

「──ッ!?」

 不要な筈のファウナの詠唱。然もこの術、姉ゼファンナを模倣もほうした威力最強呪文スペル原子の連鎖ディスディ・ラトーン相違そういない。

 これを態々わざわざ拡声器スピーカー全開で狙った獲物に対する当て付けの如く紡ぎつむぎ出す。

『──堕天使ルシファーすら飲み干せぬ知恵の果実を得た人の渇望かつぼう聖盃せいはいよりあふれ出す……』

 凛々りりファウナの声。間違いなく発射後、威力に耐え切れず破壊するであろう超電子銃レールガンに波動が溜る。詠唱が地獄への秒読みカウントダウンに聴こえる戦慄恐怖

『──悪魔サタンの地より来たれ破壊の衝動。人の創りし最大の禁忌きんき……』

 森の女神ファウナの詠唱が淡々たんたんと機械仕掛けの様に間もなく終わりを告げる。

 これはまさしく自分が神の化身だと驕りおごり昂るたかぶる様子に映る。人に向けて決して撃ってはならぬもの。天罰てんばつを与えるかの如く冷淡れいたん貫くつらぬくのだ。

「ま、待ってファウナッ!! アレはレヴァーラでもあるんじゃないのッ!!」

 ゼファンナがファウナの細腕を横から強く握り締め止めようとする。ゼファンナ自身、愚かな行為だと理解している。詠唱を終えた魔法を止める術など在りはしない。

『──『原子の連鎖ディスディ・ラトーン』』

 最強術の名称を告げるのに無感情が過ぎるファウナ。嘗て浮島での一戦にて姉ゼファンナと相殺した術の火花がマーダレヴァーラ混じるディスラドへ向け、無慈悲むじひにも放たれた。

 ズギューーーンッ!!

 壮絶そうぜつたる火柱が白いディスラドへ一目散。地上から様子を見ているオルティスタ、ラディアンヌ、パルメラ母子も言葉が出ない。

「──ぬんッ!!」

「避けたッ!?」

 間もなくマーダの意識で塗り潰されるディスラドが最後の最期に見せる抵抗。光速の如き火柱が迫り征くのを背中の翼羽ばたかせ、紙一重でかわしたのだ。

 ファウナ・デル・フォレスタ、独りほくそ笑む。実母の血縁を形にした冷笑。

「フフッ、成程……まだ望みは在るのがこれで良く判ったわ」

「──ファウナッ!?」

 肩を僅かに揺すり嗤うわらうファウナの様子に、俄かにわかには信じ難き顔のゼファンナ。妹と揃いそろいの蒼き瞳を大きく見開く。ファウナ自身は真逆に目を細める。

「ゼファンナ姉さん、もしアレがPerfect完璧なる太陽なら私の撃った核攻撃ディスディ・ラトーン、真正面から受けて立つわ間違いなくね」

「──ッ!? 試し撃ちだったというのッ!?」

 ファウナが紛いまがい物の太陽神を見下す声と視線。ゼファンナとて妹の真意を理解した。

 理解こそしたが、もし当たっていたなら白い天使ディスラド元・黒レヴァーラの女神・ガン・イルッゾが揃って消滅したかも知れない。キレたファウナの本質サガを大いに見せつけられ背筋が凍る。

 ディスラドが暗転ヴァンシオネを用い、完璧な太陽を己の元に落としたのであれば、確かに原子の連鎖ディスディ・ラトーンはマッチの火を燃え盛る焚火たきびへ落した愚かな行動とみなされる。

 太陽に限らず自ら光り輝く恒星こうせいならば星のそのものが核の嵐に等しき存在。

 ファウナの放った核攻撃。だいぶ言葉に語弊ごへいこそあるが、さくりと言えば超巨大なる核融合炉かくゆうごうろだけだ。

 そんな攻撃を歯を食い縛り決死の覚悟で避けたディスラド。陽光こそ危険な太陽なれど存在自体まで染まり切ってはいなかった何よりの証。

 現時点では避ける以外の選択肢がなく、やがてさらに能力がさらに開花し、偽りいつわりが真実へ昇華しょうかする可能性も否定は出来ない──だが光明こうみょうは見えた!

 ──それに種は既に仕掛けてあるのよ。これなら充分やれるわ戦えるわ

 ファウナ秘中の秘。溺愛できあいするレヴァーラの意識こそ消えはしたが、勝利への道筋、確実に捉えた確信がある。後は味方をこれ以上失わぬ様、万全を尽くすのみ。

「く、クククッ……試したなファウナ・デル・フォレスタ。やはりあることをする」

「──グッ!?」

「あ、嗚呼……つ、遂にしまったのね」

 見た目真っ白であったディスラドの髪の毛が黒に染まる。加えて鋭き碧眼蒼い眼翠眼緑色の瞳孔転嫁てんかを遂げた。

 されどそんな見た目よりファウナ必死の行動を『可愛げ』と言葉緩ませるのが紛うまごうことなきマーダレヴァーラだと知る。『ククッ』と笑う辺りレヴァーラのくせが目立つのが余計に辛い。

 声音は男性──ディスラドなのに何とも形容し難いレヴァーラ時代が端々はしばしに見えては霞むかすむ

 始めて恋慕れんぼした女性の面影おもかげの内に見るなどファウナに取って苦痛以外の何物でもない。

「我は遂にこの手に本物を握った。此処から全ての道が開けるというもの……」

 陽光の力と屈強くっきょうたる剣士の力を手に入れた歓喜に浸るマーダが

 他人より体幹優れる踊り子の剣などという小賢こざかしい力と比較しようがない超越的な力漲るみなぎる。身体中の細胞総てに流れる血液すらも滾るたぎる愉悦ゆえつ

「さあファウナよ、我の灰色半端を知るお前達をこれより一掃いっそうしてくれるッ! お前は一番最後メインディッシュに取って置く。仲間が消え逝くさまを、絶望と共に見せつけてくれようぞッ!」

 金色に輝くファウナ機を紛いまがいなメッキの光だと口角上げ指差すマーダの嘲笑ちょうしょう

 造られた人工知能プログラムが偽りの身体でなく、然も嘘で塗り固めた現人神あらひとがみでもない絶対を手にした生まれ変わりの瞬間。

 剰えあまつさえこれが頂上ではない。他人を意識毎、根こそぎ奪える力を用い天上で人間を嘲笑うあざわらう神すら超え得る奇跡の人生ショーの幕開けなのだ。

 ──レヴァ?
「そ、そうだレヴァはッ!?」

 レヴァーラが意識を失って以来、余りに急転直下が過ぎた。マーダの意識抜け落ちたレヴァーラの存在遺体にようやく気回しの猶予ゆうよが出来たファウナ。必死に周囲を見渡す。

「──黒い機体ッ!」

 地上に落ちてたレヴァーラ専用機成れの果てを見つけたファウナ。涙流しながら暫ししばし機体を離れ重力解放ヴァレディステラで宙を舞う。

 奇跡的にも黒い塊は、地面にいつくばる感じでうつ伏せに倒れていた。

 レヴァーラ機の操縦席コックピットハッチはファウナ自身が吹き飛ばしてしまった。ハッチで遺体を守れていない。けれど地面に接していたのであれば希望は在る。

「レヴァ、レヴァ、レヴァ、レヴァァッ!!」

 ファウナ、泥だらけになるのも構わず地面に接した操縦席コックピット付近を文字通りの手探りで母と恋人の混じる名前を嗚咽おえつしながら吐き出し続ける。

 姉ゼファンナも心底手助けをしたい。されど彼女には重力解放ヴァレディステラで地上に降りる余裕すら無い。

「──居たァッ!!」

 ファウナが遂に黒い戦闘服バトルスーツ姿の愛しき母を見つけ操縦席コックピットから引き摺りずり出した。

 これぞまさに不幸中の幸い。綺麗な死に顔、陽光の力による火傷あと無く、ファウナが幼き頃から敬愛けいあいし続けた美麗びれいな女性の姿を保ってくれてた。

 ファウナ、思わず天に十字を切り両手を合わせて、奇跡を手繰りたぐり寄せてくれたへの感謝を伝える。

「レヴァッ! レヴァァァッ! アァァァァッ!!」

 森の女神などと偉ぶっているが所詮しょせん少女の細腕。それでもありったけを込めて抱え上げると、己が膝枕の上にレヴァーラの遺体を寝かせた。

 綺麗な顔を見てるだけで満足出来る訳もなく、末期の接吻キスを交わすファウナ。当然此処も冷たい。接吻キスだけじゃ足らず、濡れた顔を至る場所に擦りこすり付ける。

 切なさで増々溢れるファウナの。枯れ果てた冷たきに注ぐ森の女神恵みの涙雨。降り続く場所だけ命を分け与えられたかの如き温かみと瑞々みずみずしさを帯びて往く。

 レヴァーラ・ガン・イルッゾ、享年32歳という余りにも短過ぎた人生。されど愛娘の膝上という、これ以上ないを安らぎの内に見つけた。

 ── 第13部 陽堕ちるとき 完 ── 
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