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プロローグ

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「捕まってたまるか!!」
 オレ、『一色いっしき カズキ』は今日、四月八日から中学生。同時に、十三歳の誕生日をむかえた。そんなとてもめでたい日の夕方に、オレはライオン頭のカイブツに追いかけられていた!
「そこの人間! 待つのダ! 逃げるでなイ!」
「ライオンのカイブツに追いかけられたら逃げるに決まってるだろ! というか、喋れるのかお前!?」
 黄色の毛皮におおわれたライオン頭の、喋るカイブツ。そんなのに捕まったらどうなるかわからない。最悪、食べられるかもしれない。そんなのはイヤだ! だから、オレは走る! 全力で!
「……って、ここはどこなんだよ!!」
 走りながら、オレは思わず叫んでしまう。
 オレは、ついさっきまで中学校の近くにある公園に居たはずだ。なのに、いつの間にか、時代劇に出てくるような古い建物が並ぶ見知らぬ場所に居た。そして、二足で立つライオン頭のカイブツに追いかけられることになってしまったんだ! 
 ワケが分からなすぎて頭が痛い! ついでに全力で走っているから横腹も痛くなってきた! 
 まさかこんなひどい誕生日になるなんて!
「ここはラビリンスですよ」
「えっ?」
 気がつくと、セーラー服を着た女子がオレの右隣を走っていた!
「お、お前はクラスメイトの……! ……名前、何だったっけ?」
「クラスメイトの名前くらいちゃんと覚えてくださいよ!? ああ、もう! 仕方ないからまた名乗ってあげます! 美少女アイドル、『二宮にのみや ニナ』です!」
 栗色の長い髪を風になびかせながら、自称美少女アイドルはそう名乗った。
 そうだ。二宮 ニナ。確か、そんな名前だったな。
「……いや、ぶっちゃけ今、名前なんかどうでもいい! そんなことより、あのカイブツは何なんだ!? そして、ラビリンスって何だ!? お前は知っているのか!?」
「そんな一気に質問されても答えられませんし、答える時間もありませんよ。私から言えるのは一つだけ。このままだと、私たちは『行方不明者』になっちゃいますよ」
 行方不明者。それは、オレたちが暮らしている『花守市はなもりし』でよく聞く言葉だ。
「無事に帰るためには、カズキさんが『共鳴者きょうめいしゃ』になる必要があります」
「きょ、きょーめいしゃ?」
 これは初めて聞く言葉だ。どんな意味の言葉なんだろう。
「逃げるなと言っているだろウ!」
「うわっ!?」
 しまった! ライオン頭のカイブツに追いつかれて、制服のえりを掴まれてしまった! しかもそのまま体を持ち上げられて、苦しい!
「教えロ! 我は何者ダ!」
 ライオン頭のカイブツは、オレにそう質問してきた。その質問に、オレは心の中で「知らねーよ!」と答えることしかできなかった。
「かはっ……!」
 オレ、死んでしまうのか? こんなところで?
 ……イヤだ! こんな、かっこ悪い死に方はイヤだ! オレは、かっこよく生きていかなければいけない! こんなところで死ぬわけにはいかないんだ!
「カズキさん! カズキさんが好きなものを認めてください! この状況を何とかするには、それしかないです!」
「好きなものを、認める……?」
「ええ! 思い出してください! 数時間前に私が話したことを!」
 二宮が、数時間前に話したこと? 
 薄れゆく意識の中、オレの頭の中に数時間前の出来事が思い浮かんだ。

 そうだ。数時間前に二宮と話したことは――。
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