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第3章 白と黒の狭間で
18.本当の卒業
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§
激しい揺れは、程なくして収まった。
きっと、もう大丈夫。そう思ったオレはベラから離れ、ゆっくりと目を開ける。
「うおっ……」
目に入ったのは、キラキラと輝く夕陽。そして、オレンジ色に染まった遠空小学校の校舎だった。
「現実に、戻ってきたんだな……」
「うむ! やったのう! カズキ!」
元の姿に戻ったシバがオレに飛びついてきた! シバは、尻尾をぱたぱたと振りながら満面の笑みを浮かべている。
「タリスちゃん! 私たちも!」
「うん。わかった」
「えっ? うおおっ!?」
二宮とタリスも、オレに飛びついてきた! 何でだ!?
「うーん。これはワイらも行くべきやな!」
「それ~! 突っ込むの~!」
シロー先輩とベラまでオレに突っ込んできた! ……いつの間にかベラが小さくなってて助かった! もし巨大化したまま飛びつかれたら大変なことになる!
「何でみんなオレに飛びついてくるんだよ!」
「もちろん、嬉しいからですよ! 事件が解決したうえに、姉さんも無事でしたからね!」
姉さんという言葉を聞いて、オレは気づく。オレのすぐ前に、二宮とよく似た人が立っていることに。
「えっと、ひょっとして二宮のお姉さんですか?」
「その通り! アタシは二宮ヒフミ! 園芸部の部長だよ! しくよろ!」
二宮の姉さんこと、ヒフミ部長は腕を組んで笑った。豪快そうな人だな。
「どもッス! オレっちはトラユリのフラスピである『トラ』ッス! いやー、ご主人と一緒にうっかりラビリンスに迷い込んだうえに閉じ込められた時はどうなることかと心配したッスよー! 助けてくれてサンキューッス!」
ヒフミ部長の隣には、スーツを着た虎のフラスピが立っていた。このトラと名乗ったフラスピは、どうやらヒフミ部長と共鳴している相棒のようだ。
トラユリは、花びらの中心にトラのような模様が入った花だ。タイガーリリーとか、チグリジアという別名もあったりする。花言葉は、『私を愛して』とか、『誇らしく思う』といったちょっと変わったものだったと思う。
それはともかく、今、トラはうっかりラビリンスに迷い込んだうえに閉じ込められたと言ったな。つまり、ロクのラビリンスに閉じ込められたのは偶然だったのか。
偶然、ミツバが負共鳴者になり、偶然、ヒフミ部長たちがロクのラビリンスに閉じ込められて今回の事件につながった……。そう考えると、偶然に偶然が重なったせいで事態が複雑になったんだなあ。
「あの、その、すみませんでした!」
ミツバはヒフミ部長とトラの前に立ち、深々と頭を下げた。
「過ぎたことはもういいよ! 閉じ込められてる間、おいしいご飯をくれた恩もあるしね」
「そうッスよ! ミツバっちが美味しいご飯を用意してくれたおかげで、ケージの中は意外と快適だったッス」
「そんなことをしてたのか? ミツバ」
「う、うん。別に善意とかではなく、情報を引き出すためにだけどね……」
なるほど。ミツバが鳴力やらラビリンスのことに詳しい様子だったのは、ヒフミ部長たちから情報を引き出していたからだったのか。
……餌付けという単語が頭に浮かんだが、黙っておこう。
「つまり、姉さんたちはミツバさんに餌付けされてたんですね」
「こら二宮! 餌付けとか言うな! せっかくオレが黙ってたのに!」
「あっ、カズキさんも思ってたんですね。餌付けされてたって」
しまった。口を滑らせてしまった。ヒフミ部長とトラが鋭い目つきでオレを見ている。
「なあ、トラ。生意気な坊やにはお仕置きが必要だと思わないかい?」
「思うッス!」
「よっしゃ! んじゃ、アタシたちも飛びつくよ!」
「オッケーッス!」
「何でだよ!?」
ヒフミ部長とトラまで飛びついてきてもうめちゃくちゃだ! ラビリンスから脱出できて嬉しいのは分かるけどみんなテンションがおかしくなってないか!?
「あっしらも飛びついときますかい?」
「そういう流れっぽいし、そうしとこうか」
「もうどうにでもしてくれ……」
なんとなく予想はしてたけど、ミツバとロクも飛びついてきた。ここまでくると、どうにでもなれって気持ちになるな。
「おや? カズキさん! いい笑顔ですね!」
「うむ! 満面の笑みってやつじゃな!」
「お前らのせいだぞ。こんなの、笑うしかないじゃないか」
数日前のオレは、想像もしてなかったな。こんな風に、奇妙な縁で繋がった賑やかなヤツらに囲まれる日が来るなんて。
――ああ。色々と大変だったけど、悪くない気分だな。ようやく、遠空小学校から卒業できた。そんな気がする。
激しい揺れは、程なくして収まった。
きっと、もう大丈夫。そう思ったオレはベラから離れ、ゆっくりと目を開ける。
「うおっ……」
目に入ったのは、キラキラと輝く夕陽。そして、オレンジ色に染まった遠空小学校の校舎だった。
「現実に、戻ってきたんだな……」
「うむ! やったのう! カズキ!」
元の姿に戻ったシバがオレに飛びついてきた! シバは、尻尾をぱたぱたと振りながら満面の笑みを浮かべている。
「タリスちゃん! 私たちも!」
「うん。わかった」
「えっ? うおおっ!?」
二宮とタリスも、オレに飛びついてきた! 何でだ!?
「うーん。これはワイらも行くべきやな!」
「それ~! 突っ込むの~!」
シロー先輩とベラまでオレに突っ込んできた! ……いつの間にかベラが小さくなってて助かった! もし巨大化したまま飛びつかれたら大変なことになる!
「何でみんなオレに飛びついてくるんだよ!」
「もちろん、嬉しいからですよ! 事件が解決したうえに、姉さんも無事でしたからね!」
姉さんという言葉を聞いて、オレは気づく。オレのすぐ前に、二宮とよく似た人が立っていることに。
「えっと、ひょっとして二宮のお姉さんですか?」
「その通り! アタシは二宮ヒフミ! 園芸部の部長だよ! しくよろ!」
二宮の姉さんこと、ヒフミ部長は腕を組んで笑った。豪快そうな人だな。
「どもッス! オレっちはトラユリのフラスピである『トラ』ッス! いやー、ご主人と一緒にうっかりラビリンスに迷い込んだうえに閉じ込められた時はどうなることかと心配したッスよー! 助けてくれてサンキューッス!」
ヒフミ部長の隣には、スーツを着た虎のフラスピが立っていた。このトラと名乗ったフラスピは、どうやらヒフミ部長と共鳴している相棒のようだ。
トラユリは、花びらの中心にトラのような模様が入った花だ。タイガーリリーとか、チグリジアという別名もあったりする。花言葉は、『私を愛して』とか、『誇らしく思う』といったちょっと変わったものだったと思う。
それはともかく、今、トラはうっかりラビリンスに迷い込んだうえに閉じ込められたと言ったな。つまり、ロクのラビリンスに閉じ込められたのは偶然だったのか。
偶然、ミツバが負共鳴者になり、偶然、ヒフミ部長たちがロクのラビリンスに閉じ込められて今回の事件につながった……。そう考えると、偶然に偶然が重なったせいで事態が複雑になったんだなあ。
「あの、その、すみませんでした!」
ミツバはヒフミ部長とトラの前に立ち、深々と頭を下げた。
「過ぎたことはもういいよ! 閉じ込められてる間、おいしいご飯をくれた恩もあるしね」
「そうッスよ! ミツバっちが美味しいご飯を用意してくれたおかげで、ケージの中は意外と快適だったッス」
「そんなことをしてたのか? ミツバ」
「う、うん。別に善意とかではなく、情報を引き出すためにだけどね……」
なるほど。ミツバが鳴力やらラビリンスのことに詳しい様子だったのは、ヒフミ部長たちから情報を引き出していたからだったのか。
……餌付けという単語が頭に浮かんだが、黙っておこう。
「つまり、姉さんたちはミツバさんに餌付けされてたんですね」
「こら二宮! 餌付けとか言うな! せっかくオレが黙ってたのに!」
「あっ、カズキさんも思ってたんですね。餌付けされてたって」
しまった。口を滑らせてしまった。ヒフミ部長とトラが鋭い目つきでオレを見ている。
「なあ、トラ。生意気な坊やにはお仕置きが必要だと思わないかい?」
「思うッス!」
「よっしゃ! んじゃ、アタシたちも飛びつくよ!」
「オッケーッス!」
「何でだよ!?」
ヒフミ部長とトラまで飛びついてきてもうめちゃくちゃだ! ラビリンスから脱出できて嬉しいのは分かるけどみんなテンションがおかしくなってないか!?
「あっしらも飛びついときますかい?」
「そういう流れっぽいし、そうしとこうか」
「もうどうにでもしてくれ……」
なんとなく予想はしてたけど、ミツバとロクも飛びついてきた。ここまでくると、どうにでもなれって気持ちになるな。
「おや? カズキさん! いい笑顔ですね!」
「うむ! 満面の笑みってやつじゃな!」
「お前らのせいだぞ。こんなの、笑うしかないじゃないか」
数日前のオレは、想像もしてなかったな。こんな風に、奇妙な縁で繋がった賑やかなヤツらに囲まれる日が来るなんて。
――ああ。色々と大変だったけど、悪くない気分だな。ようやく、遠空小学校から卒業できた。そんな気がする。
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