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   第三章  勇者パーティの没落

 19  風魔法にのせた手紙

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「ねぇノエルちゃん、大丈夫? 顔が真っ青なのです」
 
 わたしの袖をひっぱるミルクちゃんのもう一方の手には、きらりと光る銀色の筒が握られていた。腰を曲げたわたしは、こっそりミルクちゃんの耳もとでささやいた。
 
「ねえミルクちゃん、クリスタルからの神託を覚えてる?」
「はい、火の女神の加護を受けた者が魔族を焼き払うだろう、というものでしたね……あ!」

 はっとしたミルクちゃんは、何をするべきか気づいたようだ。隣にいた女戦士のマントをひっぱり、「アーニャさんっ!」と声をかけた。
 
「火の神殿の方角を教えてください。あ! あと距離も、なのです」
「ん? どうした突然?」
「手紙を飛ばします」
「誰に?」
「ラクトくんへ」
「なんて書くの? 私らはあれだけラクトをいじめたんだ。どんなに謝っても助けに来てくれるとは思えない……」

 アーニャさんは肩を落とした。
 ミルクちゃんは握っている銀の筒をわたしに向けて、
 
「ノエルちゃん、手紙を書いてください」

 そう言って銀の筒を渡してくる。
 ゆっくりと受け取ったわたしは、筒の蓋を開け、中身に入っていた紙と筆を取りだした。
 首を振り、文字を書くために平らな場所を探す。
 幸いにも、川辺にある岩場が、机の役目を果たしてくれそうだ。そのことに気づいたわたしは、駆け寄ると紙を広げ、一筆したためた。川のせせらぎに耳を傾けながら、ふぅーと深呼吸をひとつおいて……。
 


( ラクトくんに手紙を書こう……この気持ちを伝えなきゃ )



   ラクトくんへ
   
   突然の手紙、お許しください
   これが最初で最後の手紙です
   
   ラクトくん、本当にごめんなさい
   
   いじめたことを許してもらえるとは
   思ってはいません
   わたしたちはラクトくんを傷つけました
   身も心も、ボロボロになるほどに……
   本当にごめんなさい
   
   それでも、わたしはラクトくんに会えて
   嬉しかった
   
   一緒に旅ができて、楽しかった
   
   美味しい料理を作ってくれて、ありがとう
   戦いの援護をしてくれて、ありがとう
   テントを張ってくれて、ありがとう
   みんなの荷物を整理してくれて、ありがとう
   
   ラクトくんがパーティから抜けて
   やるせない、後悔の日々が続いていたけど
   結果、これでよかったと思います
   成長したラクトくんは、かっこよかった
   どんな魔物でも倒せそう
   女神様とパーティを組むなんて、すごい

   お幸せに、ラクトくん
   
   成長したラクトくんの姿が見れて
   本当によかった
   
   それでも、ごめんなさい
   最後にひとつだけ、わがままをいいですか
   
   クリスタルの神殿にて、神託を受けました
   
   火の女神から加護を受けた者が
   魔族を焼き払うだろう、と
   
   きっとラクトくんのことだと思います
   どうかお願いです
   アステールの大地を
   自然を
   動物たちを
   人間たちを
   魔族から守っていただけませんか
   
   救えるのは、ラクトくんだけです
   
                   ノエル


 わたしは手紙を銀の筒にしまって蓋をし、ミルクちゃんに返した。
 ミルクちゃんの眼差しは真剣で、ぎゅっと筒を握りしめ、振りかぶり、
 
「えいっ!」

 と気合を入れて投げた。
 太陽に照らされた銀の筒は蒼穹のなかを飛んでいく。
 その光りが、だんだん小さくなって見えなくなるまで……。
 わたしたちは、しばらく眺めていた。
 どうか、ラクトくんに届きますようにと、願いをこめて。
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