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第三章 勇者パーティの没落
28 別れ
しおりを挟むフルール王国の要地、西の砦はまぶしい太陽の光に強く照らされている。
魔界から来た黒竜の群れが舞い飛ぶ禍々しい景色。澄み渡る蒼穹。
そんななかに、一人の青年が空を飛び、詠唱をしていた。
呪文の言葉はアステールの古代言語。一般的に解読は不可能であり、扱えるのは賢者クラスの魔術レベルが必要。つまり、彼は賢者なのだ。
やがて、晴れ渡る青空に黒い魔法陣が現れる。
大きい、果てしなく大きい。神秘的かつ呪術的な空の景色。
それは広がりを見せ、天空を切り裂くように上昇していく。
雷鳴、暗澹たる雲ゆき、飛び交う黒竜の咆哮……。
彼の指が、その黒い瞳が光り輝き、パッと弾けた。
時が止まる、かのような激震。
発生する圧倒的な強風に、砦の損壊が進んでしまう。
神様がウィンクでもしたみたいに。
荒ぶる嵐、舞い散る瓦礫、賢者の微笑み……。
「バハムート、異次元に住む幻の竜……」
と、横に立つミルクちゃんがつぶやく。その瞬間、
ズムゥゥゥウウウゥン……という地鳴りのような重低音が響く。
巨大な黒い魔法陣から、それに匹敵するくらいのサイズの竜が出現した。
神秘的なブラックメタリックの鱗に翼、獰猛な鋭い牙に爪、幻の竜、バハムート。
グゥオオオオオオオオッ!
と、バハムートの咆哮があがる。
賢者は腕を伸ばし、横に払った。
すると、爆音を帯びた灼熱の炎がバハムートの口から放出される。
それは、世界を地獄へと一瞬で変える爆発だった。
舞い飛ぶ黒竜の群れが、まるで爆ぜた花火の屑のように、ちりぢりになって焼け焦げ、落ちていく……落ちていく……。
無数の黒い残骸、生命だったものが塵になって土に還っていく……。
“火の女神から加護を受けた者が魔族を焼き払うだろう”
わたしの頭のなかで、預言者マルコスの神託が鮮やかに蘇る。
それは、まさにこの光景のことを予言していたのだろう。
今日、この日に、神託の通りに……。
「す、すごい……」
わたしは感嘆の声を漏らした。
暗い雲が立ちこめる空からは、まるで雨のように焼け焦げた黒竜の群れが落ちている。
隣に立つアーニャさんが、バハムートの頭に乗るラクトくんを見つめながら、
「あれが、ラクトなんて信じられない……」
と、つぶやいた。
「でも、ラクトくんなのです」
そう、クールにミルクちゃんは言い切った。
暗黒面に落ちたような世界のなか、バハムートの咆哮と爆発はやがて静かになり、いつもの変わらない青い空と白い雲が戻ってきた。
空を飛ぶラクトくんが手を振ると、バハムートは異次元に帰っていった。
賢者になった彼はどんな魔法でも使えるのだ。
( 召喚魔法なんて、す、すごい…… )
シュタッと着地したラクトくん。
わたしたちは彼のもとに急いだ。
「みなさん、どうしたんですか?」
と、ラクトくんはわたしたちに訊いた。
うーん、とわたしが困惑していると、アーニャさんが、「あっはは」と笑うと、
「パーティを抜けてきた。あっはは」
と、快活に答えた。
いつも明るくてポジティブなアーニャさん。
こういうとき、本当に頼りになる。
ミルクちゃんもそれに倣って、
「ミルクも、なのです」
と言った。
きっと、アーニャさんのことを姉貴的な存在だと思っているのだろう。
は? と言ったラクトくんは、ぽかんとした顔をしている。
微笑みで返すアーニャさんとミルクちゃんはラクトくんと話をした。
「まっ、そういうことだから……たまにはフリーも悪くないし」
「ミルクも、またご主人様を探す旅にでなくちゃ」
「え? アフロは?」
「知らない、女神様に叱られているんじゃない?」
アーニャさんは肩をすくめた。
ラクトくんは困惑している。
「え? リクシスさんがそんなことを……」
「なにやら、エッチな魔族のお姉さんを召喚してました」
と、ミルクちゃんが答えると、
「サキュバスか……」
とラクトくんはつぶやいた。
思い当たる節があるようで、青ざめた顔をしている。
どうしました? とわたしが訊くと、なんでもありません、とラクトくんは答えた。パーティを抜けてから、過酷な修行の旅にでていたのだろう。あの恐ろしいリクシスのことだ、ラクトくんに凄まじい試練を与えていたに違いない。
と、噂をすれば女神が空から、ふわふわと降臨してきた。髪をかきあげ、何事もなかったかのように声をかけてくる。
「あら、みんなおそろいで……」
「あの……リクシスさん、アフロになにを?」とラクトくんは訊く。
「懲らしめてやりました。これ以上、悲しい女性が増えないように」
「そ、そうですか……」
はい、と答えたリクシスは満面の笑みを浮かべるとつづけた。
「それでは、フバイの皇帝に会いに行きましょう。ラクトくん」
……!?
みんな一斉に驚いた顔をリクシスに向けた。
( 皇帝と知り合いなのだろうか? )
すると、リクシスは胸甲のなかに、もぞもぞと手を入れると一枚の紙を取りだした。
「次期魔王の誓約書です。これを持ってして西の砦奪還のクエストの報酬金である十億を貰う。とともに、これ以上、魔族が人間界に干渉しないことを宣言してあげるのです。皇帝にとって、これほどの安心材料はない。必然的に、さらなる褒美がもらえることでしょう」
そう、口早にしゃべるリクシスの顔は恍惚としていた。
( 何か企んでいる? )
すると、リクシスは手を伸ばした。
ラクトくんの指を絡めとり、言葉を紡ぐ。
「さあ。ラクトくん帝都に戻りましょう。賢者に成長した君の姿を見せれば、お母さんもきっと喜びますよ」
はい、と答えたラクトくんはつづけた。
「それなら、僕がみんなを転移させます」
みんな? と言ったリクシスは眉をひそめた。
「ラクトくん、この人間たちは君をいじめたんですよ? 忘れたんですか? あの地獄のような日々を……」
「忘れてはいません。逆に、忘れることなどできませんが、もうみんなとは仲直りしたんです。いつまでも過去を引きずっているほど、僕は子どもではありません。なので、今度こそみんなと “友達” になりたいと、そう思うのです」
リクシスはラクトくんの右手を、ぎゅっと自分の両手で包みこみ、
「わかりました、ラクトくん。私ではない人と “友達” になる願いを求めるのですね……」
「え?」
戸惑いを隠せないラクトくんに、リクシスは涙目になって答える。
「もうラクトくんには私の加護は必要ないでしょう。この誓約書は渡しておきます。フバイの皇帝に献上してください」
「ええっ? ちょっと待ってください、リクシスさんっ!」
リクシスは絡めいていた手を繋ぎなおし、ラクトくんと握手を交わした。
一方的で強引な握手。そんなふうに見える。
かたや、混乱するラクトくんは、
「……あ、あの、リクシスさん? つまり、僕たちはお別れですか?」
と、尋ねる。
わたしたちは固唾を飲んで見守った。
リクシスは微笑みで返すのみ。
やがて、繋いでいた手が離れていく。
いつのまにか、ラクトくんの手のなかには誓約書が収まっていた。驚きを隠せないラクトくんは、何かを言おうと口を開くが、うまく言葉がでてこない。女神との突然の別れに、困惑しているようだ。
「それでは、ラクトくん。お元気で、さようなら」
パチン、と指を鳴らすリクシスは、黒い魔法陣のなかに消えていった。
ふぅーと深い呼吸をしたラクトくんは、蒼穹を仰ぎ、
「ありがとう、リクシスさん。さようなら……」
と、感謝と別れの言葉を紡いだ。吹く風にのせて。
* おまけ コーナー *
お疲れ様です。ノエルです。
読者様、いつも読んでくれてありがとうございます。
心から嬉しく思います。
さて、女神パーティも解散してしまいましたね。
これからラクトくんは、どうなるのでしょうか?
わたしも、どうしようかな?
身の振り方を考えないと……。
次回、
『 冒険の旅はこれからかも!? 』
ご期待ください。
感想、お待ちしてます。
投票すると読者様にプレゼントが当たるらしいですよ。
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