高嶺の花屋さんは悪役令嬢になっても逆ハーレムの溺愛をうけてます

花野りら

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第一部 春

34 学園天国

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 一時間目の授業が終わった。

 風のように去っていくデューレ先生が廊下に出ていくと、教室の主導権は生徒のものになった。ひとときの学園天国。次の授業まで、思い思いに過ごす生徒たちは、わいわいと談笑を交わしていた。
 
 そんななかロックは、はあ~あ、なんて大きなあくびをして腕をのばすと席を立った。
 
「どこに行くんだ? ロック」

 なんともゆるいベニーの問いに、ロックは、昼寝、とつぶやいて教室を出ていった。ベニーは軽く両手を上げると呆れた。
 
「ほんっと、ロックはよく寝る男だぞ」

 すると、ソレイユも席を立った。ジャケットをひるがえすと、何も言わずに歩きだした。わたしは思わず、どこへ? と訊いた。
 
「購買部に……」とささやくようにソレイユは言うと、教室を出ていった。

 いってら~とわたしは内心でつぶやきつつ、ガッツポーズをする。

 よし! シナリオどおりに動きだしたわ。
 
 ふと、ルナを見てみると、自分の使い古された文房具たちを眺めていた。そろそろ新調するべきだと思っているのだろうか?
 
 いや、違う、そうではない。
 
 木材の筆箱はどうも手作りのようだ。ヴォワ村には都会で売られているような物資はほとんどない。自給自足の生活があたりまえ。わたしたちの常識では、そんなの買えばいいと思う。だけど、ルナは、わたしたちとは考え方が根本的に違う。ルナは、小さい消しゴムも短い鉛筆も、まだ使えると思っていた。
 
 そんななか、ソレイユは購買部で文房具を一式買ってくるつもりだった。その足取りは軽い。買い物はもちろんのこと、人のために動くことなんてしたことがないから、心が踊っていた。それはもちろん、ルナにプレゼントするからだ。

 わたしはそんなことを思いながら、公式ファンブックをおさらいする。
 
 このパルテール学園はゆるい。

 授業はたったの二時間しかない。昼からは生徒の自主性を活かすようになっていて、生徒たちはみんな部活動にあてていた。わたしは園芸部に所属しており、花壇の世話をする傍らで花の研究をしていた。

 ちなみに部員はわたししかいない。

 ベニーは演劇部でダンス、ロックは拳闘部、ソレイユはなんの研究をしていたっけ、たしか、国家戦略的な帝王学だと思ったけど、詳しくは知らないし、興味もない。
 
 さて、ルナスタシア・リュミエールのシナリオを確認しておこう。彼女は転校生だ。どこか部活動に参加することができる、のだけど……。

 ここで、大きく二つルートが分岐する。
 
 一、帰宅部。
 二、演劇部。

 どっちを選ぶかで未来が変わる。

 公式ファンブックによると、攻略対象者を一人に絞りこんでエンディングを迎えたいなら、帰宅部が一番効率がいい。言い方は悪いけど、ストーカーのように攻略対象者を追っていればいい。もっとも、演劇部を選んでもハッピーエンドは迎えられる、だけに。
 
 パル学はそんなに難しいゲームではない。
 
 女子高生やOLさんが、暇つぶしにポチポチやってるだけでクリアできる仕様になっている。手軽にイケメンから誘われて、肌を触れ合い、キスとか朝チュンができる。

 現実世界なら、きゃあああ、ちょっと待ってぇぇぇ、まだ早いですわぁぁぁ♡ ってなるけど、ゲームなら大丈夫。だって、見てるだけだもん、うふふ。まぁ、シンプルに攻略対象者をひとり落とすことくらい、めちゃ簡単ってことね。
 
 ただし……。
 
 誰とも結ばれない大団円を迎えたいなら、演劇部を選ばなくてはならない。これには必須イベントがあるからだ。
 
 つまり、この乙女ゲームは、序盤から大きな選択が隠されている。
 
 ルナスタシア、あなたどうするの?
 
 まあ、将来に関わる選択が目のまえにあるなんて、攻略本がないとわからないわよね。
 
 わたしならどうするかな? 
 
 帰宅部かな? 演劇部かな?
 
 人生には攻略本なんてない。

 一般庶民は行き当たりばったりの人生だ。仮に、ターニングポイントを知っているなら、みんな成功しているだろう。この世は後悔と失敗の連続が積み重なってできている。発明家トーマス・エジソンはこんなこと言葉を残した。

 失敗は成功の元だ、と。
 
 ふと、ディーレ先生の言葉が蘇った。
 
「人生は自分で選択をしなくてはならない」

 わたしの個人的な意見としては、ルナは演劇部を選択して大団円のエンディングを迎えてほしい……でも。

 ディーレ先生が言うとおり、ルナの人生は自分の意思で選んだほうがいいことは、わかる。好きな人は自分で選びたいよね、やっぱり。それゆえに、ルナは、出会ったばかりの三人のイケメンのうち、いったい誰が気になっているのだろうか。
 
 部活を決めるのは今日の夕方だ。まだ時間はある。

 わたしはルナの様子を見守ることにした。それと同時に、教室にいるモブたちのことも観察してみた。この乙女ゲームの世界の住人は、なんとも個性的だ。普通の乙女ゲームよりもモブキャラのデザインに力を入れているように見える。例えば、男子生徒たちは、チビで、デブで、デカい、そして、オタクが大半。フツメンが一割もいないというリアル。
 
 一方、女子のレベルは異常に高い。

 みんな普通にかわいい。制服が似合う女子は細身でサラサラヘアーなのは鉄板。ピンク髪は妹系、紫髪は清楚系、ベニーみたいな赤髪は元気っ子。ちなみに、わたしこと黒髪美人のマリエンヌ・フローレンスはボンッキュッボンのセクシー担当みたいな女子生徒。だからなのか、男子たちの視線がやらしいのは……ヤダぁ、キモい。
 
 そして、この教室でもっとも重要なモブは、なんと言っても……。
 
 メリッサだ。
 
 昨日、ロックから婚約破棄された女子生徒。金髪ドリルのつり目が特徴的な、学園一番の金持ちであるお嬢様。常にとりまきであるモブの女性生徒が、三人いる。ちなみに、モブには名前はない。モブABCと仮定しておく。
 
 わたしは彼女たちをにらんだ。
 
 なぜならこのあと、とんでもないイベントが発生するからだ。
 
 耐えられるだろうか、わたしの心と、ルナの心が。
 
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