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第一部 春
39 中等部の頃のわたしたち
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授業が終わった。
みんな、わーいってはしゃいで、蜘蛛の子を散らすように教室を出ていく。はやっ!
生徒たちの午後は、部活や研究をすることにあてている。
すると、ソレイユのところに、風のように駆け寄ってくる黒い影。現れたのは黒執事、その人だった。午後の日程を打ち合わせをしているみたい。
「ランチのあとは晩餐会の衣装を決めましょう。そのあとは……」
ソレイユは浮かない顔。内心では、くそ、黒執事に捕まった、とでも思っているのだろう。
んもう、しっかりしてよね。
花壇になんか来ないで、次期国王として公務をしっかりとやって欲しい。
ロックは、授業をフケたまま結局、教室に戻ってこなかった。もともとロックは荷物なんか持っていないから、そのまま部活、つまり拳闘部に向かったのだろう。拳闘部とは、武器を使用しない格闘技のことだ。
簡単にいうとプロレスって感じかな?
ロックはわたしに、観にこい、観にこい、としつこく誘ってくる。たしかに、中等部のころはよく観戦に行っていたなあ……たしか、あの頃は。
わたしは教室の窓を閉めながら、蒼穹のなかを飛びかう数羽の鳥を眺めた。
ふと、昔のことを思い出す。
ソレイユとシエルと一緒に、ロックの応援に闘技場に行ったときのこと、中等部の頃の話だ……。
わたしたちはまだ子どもだった。
男と女を意識することもなく。わたしたちは、男たちの鬼気迫る拳闘を、身体を寄せ合って観戦していた。
まだ初等部のシエルは、すぐにわたしに甘えて抱きついてくる。男たちの死闘に、ビビっていた。ソレイユは、「いけー! そこだー!」なんて応援しながら白熱して見ていた。
自分よりも体格が大きい相手を打ち負かすロックは大活躍。やがて、試合が終わりロックがわたしたちの席までやって来た。そして、こんなことを言ったのを思い出す。
「戦う相手をリスペクトする、それが拳闘だぜ」
そんなふうに豪語していた。
だけどわたしは、あら、すごいわね、と受け流していた。そうしたら、隣に座っていたソレイユが、ロックに向かって言った。
「戦場において兵士に個性は必要ない。数字と戦略がすべてだ」
それでも、とロックは反発する。
「俺は百人でも千人でもぶっ飛ばせる兵士になりたいぜ!」
「戦場においては勝手な行動は命取りだ、ロック。戦場は万単位の人間が動く、その力は個人では到底勝てない」
「でもな、ソレイユ、俺は仲間が死ぬのをほっとけないぜ」
「……たしかに」
わたしは、やれやれとかぶりを振って、
「あんたたちバカ? 戦争が起きないようにすることがもっとも大事なのよ。兵力、つまり武力に頼らず世界を平和にする。頭を使ってね」
と諭してやった。
雷に打たれたように放心するソレイユとロックは目が点になっていた。シエルは相変わらずわたしの腕にすがりつきながら、
「拳闘ってすげぇぇ、戦うってすげぇぇ」
と震えながら観戦していた。殴り合っている拳闘士たちの口から血が吐き出ると、ひぃっ、とビビってわたしの胸に顔をうずめてくる。さらに、ドサクサに紛れて。
もみもみ……。
おっぱいを揉んでいたところ、ロックがシエルの首ねっこをつかんで持ちあげ、
「このエロガキは、拳闘士の見習いとして鍛える」
とか言って連れて行ってしまった。手足をジタバタして逃げ出そうとするシエルの滑稽なこと。わたしは二人のことを笑って見ていた。
「うわぁぁぁ! まだ、いい、僕はまだ観ているだけでいいっ!」
「うるせーなぁ小僧は、戦ってれば身体はできあがんだよ」
「そうなのか? 傷ついたら父に叱られるんだぞ、ロックわかってるか?」
「はいはい、そんときは一緒に叱られてやるよ」
「わぁぁぁぁ! 離せぇぇぇ!」
そんな光景を苦笑して見つめるソレイユは、
「愉快な仲間だ」
とつぶやいていた。わたしは、「バカで呆れちゃう」と返した。
「私のこともバカかい? マリ」
「うーん、あなたはバカになれないバカだと思うわ」
「どういうことだ?」
「一生懸命じゃないからよ」
「……え?」
「何かに夢中になれること、探してみたら?」
「……」
それから沈黙してしまったソレイユは、拳闘の試合を見ているのか見ていないのか判断がつかない様子だった。それはまるで、幼女が置き忘れた人形のように、ただ黙って座っていた。
そんな記憶が、わたしの頭のなかで蘇る。
マリエンヌの記憶。
いろいろと再生していると、気づいたことがある。
シナリオには載っていないけど、彼らは幼い頃からひょっとして……わたし、つまり、マリエンヌ・フローレンスのことが……。
好きなのでは?
そのときだった。わたしの横でベニーが快活に笑い声をあげた。
「演劇部に遊びにこない?」
ルナを誘っていた。
ルナも歌に興味があるらしく、いく! と快く了承した。二人は仲良く肩を並べて歩きだす。
「待って、わたしも花壇に行くわ」
そう言ったわたしは、ルナとベニーの間に入って歩いた。二人の身長はほぼ同じくらい。並ぶとわたしだけボコっと飛び抜けていた。使いにくいテトリスの形にそっくりだった。
みんな、わーいってはしゃいで、蜘蛛の子を散らすように教室を出ていく。はやっ!
生徒たちの午後は、部活や研究をすることにあてている。
すると、ソレイユのところに、風のように駆け寄ってくる黒い影。現れたのは黒執事、その人だった。午後の日程を打ち合わせをしているみたい。
「ランチのあとは晩餐会の衣装を決めましょう。そのあとは……」
ソレイユは浮かない顔。内心では、くそ、黒執事に捕まった、とでも思っているのだろう。
んもう、しっかりしてよね。
花壇になんか来ないで、次期国王として公務をしっかりとやって欲しい。
ロックは、授業をフケたまま結局、教室に戻ってこなかった。もともとロックは荷物なんか持っていないから、そのまま部活、つまり拳闘部に向かったのだろう。拳闘部とは、武器を使用しない格闘技のことだ。
簡単にいうとプロレスって感じかな?
ロックはわたしに、観にこい、観にこい、としつこく誘ってくる。たしかに、中等部のころはよく観戦に行っていたなあ……たしか、あの頃は。
わたしは教室の窓を閉めながら、蒼穹のなかを飛びかう数羽の鳥を眺めた。
ふと、昔のことを思い出す。
ソレイユとシエルと一緒に、ロックの応援に闘技場に行ったときのこと、中等部の頃の話だ……。
わたしたちはまだ子どもだった。
男と女を意識することもなく。わたしたちは、男たちの鬼気迫る拳闘を、身体を寄せ合って観戦していた。
まだ初等部のシエルは、すぐにわたしに甘えて抱きついてくる。男たちの死闘に、ビビっていた。ソレイユは、「いけー! そこだー!」なんて応援しながら白熱して見ていた。
自分よりも体格が大きい相手を打ち負かすロックは大活躍。やがて、試合が終わりロックがわたしたちの席までやって来た。そして、こんなことを言ったのを思い出す。
「戦う相手をリスペクトする、それが拳闘だぜ」
そんなふうに豪語していた。
だけどわたしは、あら、すごいわね、と受け流していた。そうしたら、隣に座っていたソレイユが、ロックに向かって言った。
「戦場において兵士に個性は必要ない。数字と戦略がすべてだ」
それでも、とロックは反発する。
「俺は百人でも千人でもぶっ飛ばせる兵士になりたいぜ!」
「戦場においては勝手な行動は命取りだ、ロック。戦場は万単位の人間が動く、その力は個人では到底勝てない」
「でもな、ソレイユ、俺は仲間が死ぬのをほっとけないぜ」
「……たしかに」
わたしは、やれやれとかぶりを振って、
「あんたたちバカ? 戦争が起きないようにすることがもっとも大事なのよ。兵力、つまり武力に頼らず世界を平和にする。頭を使ってね」
と諭してやった。
雷に打たれたように放心するソレイユとロックは目が点になっていた。シエルは相変わらずわたしの腕にすがりつきながら、
「拳闘ってすげぇぇ、戦うってすげぇぇ」
と震えながら観戦していた。殴り合っている拳闘士たちの口から血が吐き出ると、ひぃっ、とビビってわたしの胸に顔をうずめてくる。さらに、ドサクサに紛れて。
もみもみ……。
おっぱいを揉んでいたところ、ロックがシエルの首ねっこをつかんで持ちあげ、
「このエロガキは、拳闘士の見習いとして鍛える」
とか言って連れて行ってしまった。手足をジタバタして逃げ出そうとするシエルの滑稽なこと。わたしは二人のことを笑って見ていた。
「うわぁぁぁ! まだ、いい、僕はまだ観ているだけでいいっ!」
「うるせーなぁ小僧は、戦ってれば身体はできあがんだよ」
「そうなのか? 傷ついたら父に叱られるんだぞ、ロックわかってるか?」
「はいはい、そんときは一緒に叱られてやるよ」
「わぁぁぁぁ! 離せぇぇぇ!」
そんな光景を苦笑して見つめるソレイユは、
「愉快な仲間だ」
とつぶやいていた。わたしは、「バカで呆れちゃう」と返した。
「私のこともバカかい? マリ」
「うーん、あなたはバカになれないバカだと思うわ」
「どういうことだ?」
「一生懸命じゃないからよ」
「……え?」
「何かに夢中になれること、探してみたら?」
「……」
それから沈黙してしまったソレイユは、拳闘の試合を見ているのか見ていないのか判断がつかない様子だった。それはまるで、幼女が置き忘れた人形のように、ただ黙って座っていた。
そんな記憶が、わたしの頭のなかで蘇る。
マリエンヌの記憶。
いろいろと再生していると、気づいたことがある。
シナリオには載っていないけど、彼らは幼い頃からひょっとして……わたし、つまり、マリエンヌ・フローレンスのことが……。
好きなのでは?
そのときだった。わたしの横でベニーが快活に笑い声をあげた。
「演劇部に遊びにこない?」
ルナを誘っていた。
ルナも歌に興味があるらしく、いく! と快く了承した。二人は仲良く肩を並べて歩きだす。
「待って、わたしも花壇に行くわ」
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