高嶺の花屋さんは悪役令嬢になっても逆ハーレムの溺愛をうけてます

花野りら

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第一部 春

40 ルナの昼食はパンの耳

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 校舎から出る前に、購買部に立ち寄って昼食を調達した。

 ぐるるる。

 なんの音かと思って振り返ると、ベニーがお腹をさすっていた。朝いっぱい食べたはずなのにもう腹ぺこ? お腹がぐるぐる鳴っている。つられて、わたしとルナのお腹も鳴った。ぐるるる。

 赤面したわたしたちは、すぐに噴水がある広場のベンチに腰を下ろし、祈りを捧げた。


「いただきます、アーメン」

 にっこり笑顔で昼食を摂る。
 お口を開けて、おにぎりをあ~ん? わたしは違和感を覚えた。ルナの食べているものが質素すぎるからだ。貧乏な設定だってことは知っていたけど、まさかここまでとは。

 ルナはどうやら節約しているようで、無料でもらえるパンの耳を食べていた。でも、それだけじゃあ、さすがにお腹が空くだろうと思い、わたしはおにぎりをあげた。最初は断ってきたルナだったけど、わたしはルナを説得した。貧血で倒れてもらっては困る。
 
「ルナ、友達に遠慮はいらないわ。今回はわたしが食べ物をあげるけど、いつかわたしが逆の立場になっていたら助けてほしい、わかった?」

 ルナはこくりとうなずく。

 受け取ったおにぎりを泣きながら食べた。もぐもぐ、ぴえんと、涙をこぼしながら。

 すると、ベニーも便乗してわたしのおにぎりに手を伸ばしてきた。

「ベニーは食べ過ぎだから、めっ」わたしは叱る。
「チェッ……」

 なんて舌打ち、しょぼくれるベニー、だけど。

「ディナーはリオンさんの手料理が待ってるよ」

 とフォローしてあげると、

「おお、そうだぞぉ!」

 と叫んで踊りだした。
 なんとも、シンプルな思考回路で動くベニーは、まるで、おもちゃみたいに面白い。コマのように踊って喜ぶ。
 
 塩っけが強いおにぎりは、余計に涙を誘うのか、ルナは、

「こんな美味しいおにぎりを食べたのは初めて」

 と嗚咽を漏らした。
 
 ルナの潤んだ瞳から流れる涙を見たわたしは、ふとシナリオを思い出した。貧乏なルナのために料理長のリオンさんがお昼の弁当をルナに作ってあげる。

 そんなイベントが用意されているのだ。

 それさえ発生させれば、ルナが昼食に困ることはない。しかし、このイベントを発生させるためには、ルナの演劇部の入部が不可欠だ。ここはベニーの勧誘に期待するしかない。
 
 果たしてルナは、演劇部に入部するだろうか? 
 
 しかし、わたしがルナの人生を決めるべきではない。よし、ここは成り行きを見守ろう、そう心に決めた。

 やがて、おにぎりを完食したルナは、満面の笑みを浮かべて、
 
「マリ、ありがとう」

 と優しい声で感謝する。
 どういたしまして、とわたしは答えた。
 昼食を終えたわたしたちは、中央広場を横切っていた。その道すがら、すれ違う生徒たちからよく見られた。どうやら、わたしたちが一緒に歩くと目立つらしい。

 やはり、モブたちにも自我あるようだ。

 ときめいたり、悲しんだり、という感情がきちんとあるように思う。よくできた乙女ゲームの世界だと、感心した。

 そのとき、ふと風が吹き荒れ、わたしの髪を乱し、杞憂される。

 もし仮に、どうでもいいその辺のモブ男子がルナを襲ったら、この乙女ゲーの世界はどうなるのだろうか? 隣で歩く、かわいいヒロインのルナが、どうでもいいモブに犯されでもしたら……ああ、ヤバい。

 わたしは想像しただけで、ぞっとした。

「男は狼になって女を襲うときがある」

 そんな言葉が、高嶺真理恵の記憶から飛び出してきた。父親の言葉。高嶺家は割と英才教育なほうで、文武両道を目標に育てられた。父親から柔術を教えてもらっているとき、男には気をつけろ、特に痴漢にはな、と伝えられていた。女子中学生の頃の話だ。

「そんな男ども蹴散らす力を、真理絵、おまえに授ける」

 父親の厚い唇の動きが脳裏に浮かび、はっとしたわたしは、ぶんっと首を横に振って、なんとか不安をかき消した。

 とはいえ、この乙女ゲームの難易度はイージーだ。そんな痴漢野郎は、おそらくいないだろう。すべて杞憂だ。よけいなことを考えちゃダメよ、マリ。そんなおぞましいことを。

 そもそも、パルテール学園はゆるい。

 午前の授業が終わったら、午後からは自由。しかも、年中ずっと。ちなみに、卒業式は十月の秋にひかえている。今は四月の春だから、実質的にわたしたちの学園生活は、泣いても笑っても、あと半年しかない。
 
 例えば、もしルナが恋愛を放棄したらどうなるか?

 ああ、またか。また杞憂してしまう、わたし……。

 結局のところ、高嶺真理絵の思考回路は論理的にものごとを考えるタイプなので、最低なシナリオも想定してしまう。公式ファンブックを読破しているから、よけいにだ。

 ルナが恋愛放棄したら、退廃的なルート。

 つまり、バッドエンドを迎えることになる。正確に言うと、イケメン攻略対象者たちは、なんと革命によって殺されてしまう。そんな残酷なシナリオが、彼ら、いや、だけじゃない。彼らとヒロインのルナに用意されているわけだ。
 
 しかし、安心できる、こともある。

 ヒロインのルナが活躍すれば、バッドエンドを回避できるから大丈夫。ちなみに、バッドエンドというのは悲劇が好きな人向けの結末。簡単に言うと、サイコちゃんのことね。

 まあ、わたしとしては……。

 みんなでにっこり笑って、やったねって感じのハッピーエンドが好きなので、ルナにはぜひぜひ、大団円EDを迎えてほしい。そう思っている。っていうか、地味に誘導している、うふふ。
 
 また、一番ポピュラーなのは、イケメンを一人だけ選んで結婚する。そんな普通のEDもある。

 こっちのほうが簡単だ。

 ひたすらイケメンにへばりついてストーキングすればいいだけ。それでも、セリフの選択を間違うとイケメンが死ぬこともあるし、イケメン同士で殺し合うこともあるけど。まあ、分岐ルートの前でセーブすればいい、もっとも、わたしみたいに攻略本さえあれば楽勝……なのだけどねって……あれ? ちょっと待って……。
 
「セーブってどうやってするの?」

 わたしは立ち止まって腕を組んだ。そして、黙考。わたしに不審に思ったのか、ベニーが、

「マリリン、考えすぎると顔が怖いぞぉ」

 と言った。その言葉に反応したルナは、

「でも、マリは笑っているときのギャプがいいよね」

 なんて言って笑う。
 
 そんな二人は、じゃあね~、と手を振って、体育館のほうに身体を向けると去って行った。ふう、わたしは一人で歩く。一人のほうが、考えごとをするにはいい。
 
 パルテール学園の校庭のど真ん中にある噴水。蒸発する水しぶきを眺めながら、ぼっちになったわたしは、こんな結論に至った。
 
 まあ、いずれにしても、こんな陳腐な乙女ゲーの世界で、まったりスローライフなんてやってられない。

 どうにかして元の現実世界に帰る方法を見つけないと……じゃあ、そのために、まずなにをしたらいいか? 

 その答えは、簡単だ。

 わたしをこの乙女ゲーの世界に入れた存在を探索して発見する。それしかない!
 
 根拠もある。

 ひとつ思い当たることがあった。昨日、花壇でルナが妖精を目撃したらしい。

 マジか! わたしは希望の光りだと思った。

 この乙女ゲーには魔法はない。貴族のイケメンとイチャラブするだけの舞台だ。公式ファンブックには、妖精のよの字もない。したがって、妖精の存在はまちがいなく怪しい。
 
「よーし! 妖精を見つけ出すぞー!」

 心の声がただ漏れになっているわたしは、ぶっちゃけ楽しんでいた。

 この逆境を。

 大股で歩いて足を早める。花壇に向かって、軽快なリズムで。
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