高嶺の花屋さんは悪役令嬢になっても逆ハーレムの溺愛をうけてます

花野りら

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第一部 春

51 ベニーの乙女心

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 ララララ~♪
 
 ルナルナの歌声は美しい。

 体育館だけじゃなく、学園じゅうに響いているみたいだぞ。
 気づけば、体育館をのぞきにくる生徒たちが増えているようにも感じるし、おお、すごい、これが歌姫パワーってやつか!
 
 でもなんだか、ベニーは複雑な気持ち……たぞ。

 今までベニーの踊りを観に来てくれていた生徒たちは、いつのまにやらルナルナの歌声のほうを聴きに来ている。うん、きっと、そうなんだぞ。きっと……。
 
 まあ、ベニーは踊ることしかできないから、仕方ないんだけどなっ、きゃはは。
 
 はあぁ……なんて落ちこんでいるのはベニーには似合わない。がんばっていこっと。
 
「おつかれっした~」

 演劇の朝練が終わり、みんな解散していく。
 ふと、気になって、ルナルナを見てみる。
 おお、もうファンがいるみたいだぞ。
 男子から声をかけられている。
 はにかんでいるルナルナって、かっわいい。
 男子たちの頭からハートマークが飛んでいる幻覚が見えちゃった。きゃはは、ベニーにだってわかる。ルナルナがモテるってことくらい。
 
 昨日なんてすごかった。
 
 キラキラ王子のソレイユが自分で購買部にいって文房具を買って、ルナルナにプレゼントるんだから、もうびっくり。おまけにソレイユは、金髪ドリルのいじめから救うヒーローっぷり。
 
 どんだけルナルナのことが好きなんだ、ソレイユ。
 ベニーは、てっきりソレイユはマリリンのことが好きだと思っていたけど、マリリンは高嶺の花だからなあ。もうあきらめてルナルナにいったか? でも……。
 
「おつかれ~、ベニー」

 駆け寄ってくるルナルナの、このまぶしい笑顔。
 この笑顔にやられる男子生徒は多いはずだぞ、ソレイユ。
 うかうかしてると、ルナルナに彼氏がすぐできちゃうかも。
 
「おつかれ~、ルナルナ」
「えっへへ、いっぱい歌ってお腹すいちゃった」
「それな~、シャワー浴びて食堂にいこっか」
「うん」

 軽快にうなずくルナルナは、鼻歌を口ずさみながら歩いた。じゃあ、ベニーはスキップしながらお風呂場にいっちゃうぅぅ!
 
 おや? 

 脱衣室に入ると、ちょうどマリリンが制服に着替えていた。シャワーを浴びたところだったみたい。

 ちっ、タイミングがずれた~。

 あと少し早かったら、三人でワイワイできたのにな、残念。
 
「あら、二人ともおつかれ」
「マリリン、おつかれ、花壇の手入れしてたのか?」
「ええ、もうすぐ夏だからね、ひまわりを植える準備してたわ」
「おお! ベニーひまわり大好きだぞ!」

 知ってるわ、と言って微笑を浮かべるマリリンは、濡れた髪をタオルドライすると鏡の前に立った。自分の顔をのぞいて睨みつけている。気に入らないみたい。あんなに美しい顔なのになぜ?
 
「ベニー、あたしたちもシャワー浴びよっか」
「おお、そうだったぞ」

 裸になったルナルナは、飛び跳ねるようにシャワーを浴びていた。

「気持ちいい?」

 ルナルナにそう訊くと、住んでいた村にはシャワーはなくて、お風呂も一週間に一回くらい。しかも、湯船にも浸かったことがなかったみたいで、学園のお風呂が大好きになった、と答えた。
 
 おっと……。
 
 ルナルナは、ベニーより貧乏でびっくりしたぞ。
 ベニーの家は一応は貴族だけど、そんなに名門じゃなくてありきたりな凡人家庭。ベニーはたまたま踊りのセンスが良かったから特待生でパルテール学園に入学できたラッキーガール。勉強だってできないし、マジで体力っていうか、踊ることしか能がない。
 
 うーん、さっぱり。シャワーからあがると、制服に着替えた。

 その足で食堂に向かう、いつもと変わらないルーティン。厨房にはイケメン料理長のリオンさんがいて、一生懸命に包丁で肉をさばいて仕事をしている。ベニーたちは学生でお気楽だけど、リオンさんは働いているのだ。気楽に、おはよ~、なんて挨拶できない。

 ちょっと、悲しいな。

 でも、おやおや? 今日のリオンさんは様子がおかしいぞ。ベニーのほうを見ているような気がする。
 
 え? なになに? 
 
 ちゃんと汗はシャワーで流したはず。なんか変なものでも、ベニーの顔についているのかな? ヤダぁぁ、リオンさんなんでこっち見るんだ?
 
 思いついたように、リオンさんは包丁をテーブルに置くと、手を洗った。バックヤードに入っていく。

 どうしたのかな?

 すると、リオンさんは、なにやらおどけた足取りでこっちに来た。しかも、紙袋を持っている。

 なんだろ、あれ?
 
 ええええ! もしかして、ベニーにプレゼント? ドキドキしちゃうぅぅ!
 
 リオンさんは紙袋を差しだすと、ほら、と小声でささやく。
 
「ありがとうございます」
「袋は捨てていいから」
「え? でも、もったいないです」
「じゃあ、何かに使ってよ」
「わかりました」

 ふぇ? んんんん! 

 ルナルナの弁当かよぉぉぉぉぉ! 

 なんで? なんで? 

 いつの間にそういう関係に? 

 おいおいおい、転校してきたばかりだよね、ルナルナって?
 
 あっれ~? なんだこれ? なんだこれ? 一気に力が抜けてきたぞ……しょぼん……。
 
 ふと、ルナルナの横顔を見ると、恋する乙女っぽく、紙袋を胸のまえで、ぎゅっと抱きしめている。
 
 ああ、そういうことか、そうだよねえ。

 ベニーみたいな男みたいな女なんか恋愛対象じゃないもんね、リオンさんはベニーのことなんか、これっぽちも女として見てないことくらい、知ってる。

 絶対に叶わない恋だということも、わかる。

 だけど、それでも、よりにもよって、リオンさんはルナルナのことを好きになったのか……。
 
 あはは、今更ながらに気づいたぞ。
 
 ベニーはリオンさんのまえだけは、女っぽくしようって思ったから、あんなふうにぎこちなくなってしまったわけか。

 そうか、そうか、そういうことか。

 女として見て欲しかったのか……ベニーはバカだぞ……はぁぁ、でも、もう女っぽくする必要はなくなった。
 
 なんだか、食欲もなくなった。

 スプーンの動きがどうも悪い。メルから、

「大丈夫ですか?」

 と心配され、マリリンから、

「熱でもあるのでは?」

 と診察された。マリリンの冷たい手が額に当てられた。
 
「熱はなさそうね」
 
 大丈夫、あはは、と苦笑いして返すと、食事を終えたルナルナが、ナプキンで口をふいてから言った。
 
「ベニー、ひょっとしてあれじゃない。ニコル先生の授業で好きな人とペアを組むから、そのことを考えているんでしょ?」

 ちがーう! そうじゃない!
 
 その好きな人がルナルナのことが好きだから落ち込んでいるんだぞ。んもう、天然キャラは困っちゃうぅぅぅ。
 
 どうしよう……ベニー、人生最大級に落ちこでるぅぅぅ。
 
 はぁぁ……。
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