陽キャを滅する 〜ロックの歌声編〜

花野りら

文字の大きさ
20 / 42
第四章 りゅ先生

6 4月6日 13:20──

しおりを挟む
 
 りゅ先生と陸奥教頭は、中央監視室から出た。
 
「じゃあ、信用できる生徒を連れてきますよ」

 りゅ先生は、廊下を歩きはじめる陸奥に告げた。
 陸奥は振り返ることなく、ジャケットのポケットに手をつっこんでいる。湾曲した猫背をさらに丸め、皮肉たっぷりに、くくく、と笑う。
 
「はい、それが手っ取り早いでしょう。生徒が見れば、怪しい少女が誰かわかるかもしれない」
「はあ、なんかすいません。自分から監視カメラの視聴をお願いしたのに……」
「あはは、そうですよ。先生が生徒を見てもわからないなんて、情けない」
「すいません。まだ赴任して一ヶ月も経っていなくて……」
「まあ、しょうがないじゃないですか? 髪の毛で顔が見えなかったし、おそらく警察だって人物を特定するのは難しいと思いますよ」

 ですよね~、とりゅ先生はいって胸をなでおろした。
 
「じゃあ、また連絡ください」
「わかりました」

 二人は別れた。
 陸奥は、エレベーターに乗って下に降りていく。掃除ロボットの整備にいくのだろう。手には工具箱を持っていた。
 かたや、しばらくぼうと立っていたりゅ先生だったが、ふと顔をあげて歩きだした。向かったさきは屋上への階段。しかし、違和感を抱いたのか、はっと目を丸くした。
 
「なんだこれ?」

 一台のロボットが階段の下で移動していた。
 シュシュシュシュ、と吸引する音を立てて床を磨いている。掃除ロボットは、接近してくるりゅ先生をセンサーで感知するなり、緑色の目を、キュインと赤く点滅させた。
 
「ソウジチュウ! ソウジチュウ! ユカガ、スベリヤスイデス」

 え? いぶかしむりゅ先生は、腕を伸ばし、ロボットに触れようとした。
 
「サワラナイデ! ハナレテクダサイ! ユカガ、スベリヤスイデス」

 なんだよ、といったりゅ先生は不機嫌そうに、チッ、と舌打ちした。
 
「子どもの生徒ならロボットのいうことを聞くだろうが、あいにく俺は大人なんだよっ!」
 
 さっと走りだすりゅ先生は、掃除ロボットを長い足でまたぐと、トントンと駆け足で階段を上がっていく。
 踊り場にさしかかった。王子が倒れていた場所だ。
 その瞬間、ああんっ! と、女のあえぎ声が響いてきたので、はっとしたりゅ先生は、さらに階段の上を見あげた。
 
「な、なにやってる?」

 そこには、抱き合う男女の姿があった。
 男の髪の色は、くすんだピンク色で、群青のスカートのなかに手を入れてまさぐっている。純白の下着が、ちらりと見えていた。脱がせようとしているようだが、突然、りゅ先生から声をかけられ、ピタリと手の動きがとまった。
 かたや、女のほうは感じすぎており、顔を真っ赤にしたまま、ガクブルに震え、立っているのがやっとのもよう。
 
「りゅ先生? なんでここに……」

 男子生徒はロックだった。
 ふぅとため息を真上に吐き出し、目にかかる灰桜色の前髪を払う。
 きゃっー! と女子生徒は叫んだ。
 と同時に、さっと制服の乱れを整えて走りだす。ワイシャツの上のボタンが外され、ぷるんと揺れるおっぱいと、その柔らかさを包み込む白いレースのブラが、チラッと見えた。
 りゅ先生の顔が、赤く染まった。
 女子生徒は、ずっと下を向いて掛けていくから、顔がよく見えなかった。すっとりゅ先生の横を通りすぎたとき、
 
「滑りやすいからな~気をつけろよ~」
 
 と、ロックの声が響いた。
 二人は校内で、交尾、するつもりだったのだろう。やれやれ、人間のオスとメスは場所も選ばず交尾する。いや逆に、刺激を求めていろいろな場所をあえて選んで、せっせとやっているかもしれない。
 ちなみに、動物や昆虫は外敵がいない場所を選んで交尾をすることが常識。たとえば、トンボは水面の上で浮遊しながら交尾をするほどだというのに、まったく。
 
「神楽、ダメじゃないか……学校で……その……」

 りゅ先生は、ロックに注意した。
 ロックでいいっすよ、といった少年はマッシュボブをかきあげ、乱れたワイシャツを整えはじめた。厚い胸板が男らしい。
 
──やだ……不覚にも少しだけドキドキしてしまう。

 かたや、りゅ先生は、首を振ってあたりを見まわしていた。
 
「ふぅん、なるほどな……」
「なに? りゅ先生、僕を退学にするのかい?」
「いや、校長の息子を退学させる力は俺にはない。感心していたのさ」
「え?」
「死角エリアと掃除ロボットの通行止めを利用したわけね、考えたなロック」
「……まあね」
「ロック、おまえはいつもこんなことをしてるのかい?」
「いつもってわけじゃない。女が欲情したときだけだよ」

 おいおい、とりゅ先生は後頭部をかいた。
 
「イケメンのセリフは格が違うな。一度でもいいから言ってみたいもんだ」
「ちゃかさないでよ、りゅ先生だってモテるくせに」
「なんだと?」
「りゅ先生のことが好きな女子たちいるよ。知らないの?」

 し、知るわけないだろ! りゅ先生は怒鳴った。
 あはは、とロックは笑いながら階段を降りてきた。
 
「王子はここで倒れていたらしいね」
「ああ、それについて俺は調査しにきたんだけど……ロック、何か知らないか?」

 犯人はあいつだろ、とロックは答えた。
 だれだ? とりゅ先生が訊くと、ロックは最後の段を大きく飛んだ。
 
「ぬこだよ」
「ぬこ?」
「ああ、温水幸太しか考えられない」

 え? まさか、といってりゅ先生が目を丸くしていると、キンコーンと鐘の音が校舎のなかに響いた。午後からの授業をはじめる合図だ。
 
「──授業にいきなさい、神楽六輔」

 りゅ先生に指示されて、「はーい」と答えるロックは階段を降りていく。残されたりゅ先生は、天井にある監視カメラを見あげた。
 
「王子を落とした犯人は、おそらく死角エリアを知っているやつだな……とても温水とは思えないが……」

 魚眼レンズは、鈍い光を放っていた。
 りゅ先生は、じっと監視カメラを見つめたまま、なにやら思考していた。
 
──りゅ先生は、何を考えているのだろう?

 おそらく、女子生徒の姿を思い出している可能性が高い。
 昨日、ぬこくんとともに探偵ごっこをしていた可愛らしく笑う女。
 突然、現れたどこか大人っぽい転校生。
 どこにも根拠はないが、どこか心惹かれるものがあるのだろう。
 やおら、りゅ先生は口を開く。
 
「あの子なら信用できそうだな、たまちゃん……」

 探偵の名前をつぶやいた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。

甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。 平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは── 学園一の美少女・黒瀬葵。 なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。 冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。 最初はただの勘違いだったはずの関係。 けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。 ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、 焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...